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第48話 誕生日とマリア

忙し過ぎて昨日は更新できませんでした……

ウワアアァァ 三三(ノ இωஇ)ノ


一日遅れですが、どうぞお楽しみくださいませ!

 

 アニータが居ない……モフモフが……モフモフが足りないぃ……!


 あたしはマリア。マリア・クオリア。

 突然だけどあたし、今日誕生日なの! 13歳の!


 日本で言えばようやく中学一年生! 小学校をやっと卒業できたよぉー!

 懐かしいなぁ中学校。

 小学校で習っていて得意だった“算数”が“数学”になって、早々に『俺には理数系は合わん』って捨てたっけ。うっ、頭が……! これ以上はいけない……!


 で、そんな記念すべき13歳の誕生日に、アニータが居ないの。

 まあお仕事なんですけどね。

 あたしが頼んだんですけどね!


 アニータには現在、彼女が所属する商会(ウチ)の【情報部】の部長アンドレと一緒に、お隣りの領に潜入してもらっているの。

 目的は、我が家の本家に当たる【セイラム男爵家】の汚点を暴くため。もっと言えば、あたしの両親を殺した証拠を掴むためだ。




 セイラム前男爵……現在は隠居の身分にある大叔父に逆らった後で、大叔父に亡き弟を養子に取られていたお父さん(スティーブ)は、戦死した弟が埋葬された聖堂へ墓参りに行くために家を出た。


 そしてその数日後に、物言わぬ死体となって冒険者達に発見されたのだ。一緒に出掛けたお母さん(ジョアーナ)や、護衛として同行していた奴隷達も共に。


 それからは怒涛の日々だった。


 全ての従業員や奴隷達の前で家業である奴隷商会、【ワーグナー商会】の継承を宣言し、組織改革に乗り出した。


 正式な商会の継承者となるために、領主である【クオルーン・ヨウル・キャスター・ムッツァート】伯爵閣下に謁見し、本家との確執を暴露した上で継承を認めてもらった。


 組織改革が軌道に乗り始めて、商会の各部署共に奴隷達の教育訓練に実績が伴い始めた。


 初めて“女の子の日”を経験……これは良いか。


 各部署の奴隷達とも親交を深めたり、優秀な人材は従業員として取り立てて確保した。

 また、あたしの前世である【八城要(やしろかなめ)】のブラックに塗れた社畜時代を省みて、我が商会はホワイト精神に則る事を決意した。


 あたしが生まれた街アズファランに魔物の暴走(スタンピード)が迫り、あたしは商会の持てる力全てを以てこの鎮圧に協力した。

 誰か死んじゃうんじゃないかって、物凄く怖かったなぁ……


 そして、スタンピード防衛戦での我が商会の功績が領主――ムッツァート伯爵に認められ、褒美として【クオリア】の家名を賜わった。


 それと、水面下で。

 伯爵としては敵対派閥の勢力削減のため、あたしは両親の仇討ちのために、協働して我が本家、セイラム男爵家を追い落とす策に乗り出した。




 いやぁ……濃い一年だったなぁ……!

 トントンと署名・捺印をした書類を束ねながら、激動の一年間を振り返る。


 ちなみに誕生日なんだけど、この世界の暦は日本と一緒だよ。

 呼び名がまたコッチの“種”だの“芽”だのと時刻の呼び名だったから、コレも我が家では数字表記で呼んでるの。


 で、この世界で云う“魚の月の七日”、つまり七月七日があたしの誕生日なのだ!

 七夕だよ! コッチは天の川無いけど! 織姫彦星伝説なんか無いけど!!


 ただ、四季は在るものの季節が逆なんだよね。

 七月と言えば日本では夏だけど、コッチでは冬なのね。

 順番で言えば“春夏秋冬”じゃなくて“秋冬春夏”。大晦日やお正月は夏で、一年の始まりは実りの秋なのよ。


 ……この大陸、仮にこの世界【エウレーカ】を惑星として考えた場合は赤道より南に在るのかもね。大陸以外の地図なんて見た事ないから知らんけど。


「よし、書類仕事終わりっと。」


「お疲れ様でした、マリア会長。」


 未処理の書類の山を突き崩し、処理済みの書類を入れる籠を一杯にしたあたしに、伯爵から引き続き派遣されている監督官でもある【総務部】部長のカトレアが、労いの言葉を掛けてくれる。


「カトレアもお疲れ様。今日はこれで仕事はお終いかな?」


「ええ、折角のマリア会長のお誕生日ですからね。従業員達や奴隷達も、本日は午前中のみで仕事を終えている筈です。」


「なんかそう改めて言われると照れ臭いねぇ……」


「何を仰るのですか。商会の皆も会長の生誕を祝おうと張り切っているのですから、マリア会長は堂々として、お祝いされて下さいませ。」


「堂々と祝われるってのもなんだか凄い字面だなぁ……」


 そんな事をお喋りしながら、お仕事の後片付けだ。

 まあ執務机を整理して、書類を【総務部】に届けて保管してもらうだけなんだけどね。


 それが済んだら食堂へと二人で移動する。

 今日は我が家のダイニングじゃなくて、従業員や奴隷達が使う大食堂の方だよ。


「そういえばカトレア。」


「何でしょうか、マリア会長?」


 廊下を歩きながらカトレアに……【カトレア・ストークス男爵令嬢】に声を掛ける。

 カトレアはいつも通りの涼やかな切れ長の瞳で、それでも会ったばかりの頃に比べれば格段に柔らかくなった表情で返事をしてくれる。


「今更こんな事聞くのもアレだけどさ。カトレアがウチに来てからもう一年近くになるよね? そもそもカトレアは、どうしてこの監督官の話を請けたの? それに折角領都へ戻れたのに、監督官を継続してまたココに戻って来て。」


 あたしの純粋な疑問だ。

 彼女カトレア・ストークスは、伯爵家の寄子……つまりは部下の男爵家の娘で、れっきとした貴族様だ。

 しかもその執務能力の優秀さから、寄親であるムッツァート伯爵に生え抜かれ、領城では財務次官を務めていたバリバリのエリート様で。


 そんな才色兼備なお嬢様が、一介の平民の、しかも奴隷商会などという一般には敬遠されている場所へと赴任し、あまつさえそこの小娘の部下として働くなど、あたしだったらバカにされてるように感じるだろう。


「理由は……三つほど有ります。」


「良ければ聞かせてくれる?」


「はい。まず一つ目。マリア会長が伯爵閣下に求めた条件、“財務に明るい女性”というのがわたくししか居なかったためです。たかが男爵家の娘が、大貴族たる伯爵閣下に打診され、断れる筈はありません。」


 うっ……! そ、それは申し訳ないね……!

 だけどそうか。前世の仕事の感覚で気軽に女性を求めたけど、この世界は未だに国家間の戦争も絶えない、女性があまり世に出ていない時代なんだよね。


 むしろ彼女のようにバリバリに働いている女性の方が珍しいんだよ。それを雇用している伯爵も含めてね。


「そっかぁ。それは考えから抜けてたなぁ……」


「マリア会長、どうかお気になさらず。そして二つ目の理由ですが、閣下から打診を受けて最初こそ冗談かとは思いましたが、それ以上に興味を持ったのです。あの皇帝陛下に直々に“キャスター”の称号を賜わった伯爵閣下が、『面白い』と評する少女……マリア会長に。」


 それは前にも聞いた話だね。

 どうやらあたしは、あの伯爵様にエラく気に掛けられているみたいだ。

 まあそうでもなければこんなチンチクリンに奴隷商会を継がせたりしないだろうし、わざわざ監督官の希望を訊いたりしてこないだろうけどさ。


「あはは。そのカトレアの興味を満たせられているかは、正直自信が無いけどね。」


「そう卑下なさらずに。それで三つ目の理由は…………此処が気に入ったからです。」


「……は? カトレア、なんて……?」


「わたくしは、この商会でのお仕事や生活に、心地良さとやり甲斐を感じております。働き手の事を第一に考えて下さるマリア会長に、そんな会長を慕い、持てる才能や知識を発揮する従業員達や奴隷達。


 そんな温かな場所で働けて、わたくしの生活は非常に充実していますよ。ですから先日の登城の折に閣下に交代を打診されましたが、わたくしの意思でこの任の継続を願ったのです。」


 ……もうっ! カトレアってばなんでそんな嬉しいこと言うの……!?

 ヤバい、一生懸命頑張ってきただけあって、不意の褒め言葉に涙腺が……!


「マリア・クオリア会長様。どうかあまりご自身を卑下なさらず、むしろ誇ってください。貴女は充分過ぎるほどに、会長の責務を全うなさっておいでです。我が主家たるムッツァート伯爵家に誓って、これはお世辞などではありません。他の従業員や奴隷達も、同じ思いですよ。」


 ちょうど食堂へと辿り着いたあたし達だったけど、待って……!

 あたし今涙が……っ! 涙腺が崩壊してるから扉開けないでよカトレアさぁんっ!?


「ま、待っ――――」


 あたしの制止の声は一足遅く、カトレアによって食堂の扉が開け放たれてしまった。

 そこには――――


「「「「マリア会長! お誕生日おめでとうございますッ!!」」」」


 豪勢な料理の数々が所狭しと並べられたいくつものテーブルに、声を揃えて一様に笑顔を浮かべてあたしを出迎えてくれている、我が商会の従業員達や奴隷達。


「お嬢様、お仕事お疲れ様です! 13歳のお誕生日おめでとうございます!」


 まるで女騎士のような煌びやかな正装で、腰に愛剣を佩いて微笑むミリアーナや。


「マリア会長、お誕生日おめでとうございます。」


 今日も今日とてお手本のような綺麗なカーテシーを魅せながら、笑顔で言祝いでくれるバネッサや。


「おめでとうございます、会長っ!」


 愛嬌たっぷりの笑顔で、大きな碧い瞳を輝かせてお祝いしてくれるルーチェや。


「会長サマ! たくさん美味しいお料理を用意しましたよ! 楽しんでくださいね!」


 今やトレードマークとなったフリフリの薔薇の花籠の刺繍を施したエプロンを着け、拍手を贈ってくれているムスタファや。


 他にも、アンドレとアニータを除いて全ての商会に所属する人達が一同に会して、口々にあたしの誕生日を祝ってくれている。

 横を見れば、『ほらね』と言いたそうな温かな笑みを浮かべたカトレアが、中に入るよう促してくる。


 あたしは、独りじゃない。両親が居なくても、孤独なんかじゃない。


 何も言われずともそう理解できてしまうほどの温かな光景を目にして、あたしの涙腺は完全に崩壊していた。

 もうね、滝のように涙が流れて止まらないの。


 前世の【八城要】として生きた社畜時代。


 出来ないのは努力が足りてないから。

 定時で帰ろうなんて甘えてる。

 みんなやってるからお前もやって当たり前。

 人に聞かずに自分で考えろ。


 そんな事を……時にはもっと辛辣な言葉を浴び続けて、仕事のためだけに生きて、そして死んで。


 この世界に転生して、それまで(前世)とは一転して愛情に包まれて育ち、両親にも恵まれ、そしてその愛する両親を喪って。


 また独りになってしまった。

 そう思った。


 ただ我武者羅に遺された商会や従業員、奴隷達を護るために駆け回って。

 優秀な仲間達(みんな)に手伝ってもらって商会の在り方を変えて。


 いつの間にか、みんなが助けてくれているのを、みんなが支えてくれているのを、忘れていた。……自分勝手に、独りぼっちだと思い込んでいた。


 だけど違ったんだね。

 確かに、両親を亡くしたのは今でも悲しいし、寂しい。

 だけどあたしには、まだこんなにも沢山の、かけがえの無い人達が居てくれている。


 ミリアーナ、バネッサ、ルーチェ、カトレア、ムスタファらあたしの商会を支えてくれている部長達。


 7歳のあたしが働き出しても、嫌な顔ひとつせずに手取り足取り、仕事を教えてくれて、それからも共に働き続けてくれている従業員達。


 こんな年端もいかない少女を主と仰ぎ、日々努力して勤めを果たしてくれている沢山の奴隷達。


 今も尚あたしの因縁のために遠い地で頑張ってくれている、アンドレやアニータも。


 こんなにも沢山の笑顔に、愛情に、あたしは今も包まれているんだ。




 あたし、マリア・クオリア。

 今日誕生日を迎えたあたしは、13歳になりました。


 前世で社畜として生きて社畜として死に、何の因果かこのエウレーカという世界に転生して、もう13年。


 家族は残念ながら喪ってしまったけれど、家族のように大切な仲間達(みんな)と一緒に、これからも笑顔で一生懸命に生きていきます。


 健全なるホワイト精神に則ってね!!




マリアちゃんが13歳になりました!

沢山の笑顔に囲まれて、これからも日々楽しく過ごしてもらいたいものです。


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これからも応援よろしくお願いします!

m(*_ _)m

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[一言] あれ?今日は日曜の様な… あれ?土曜は…(笑)
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