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第47話 アンドレとアニータ

やっと書けましたー!

遅くなってすみません!!


いつもお読み下さりありがとうございます!

 

 俺の名はアンドレ。

 しがない元盗賊で、情報収集が得意ってんで重宝がられて幹部の席に収まってた。


 最初はこじんまりした盗賊団だったんだ。

 オヤジと俺を入れてもたったの八人で、狙うのはもっぱら街道を行く弱そうな少人数の集団だった。


 運良く森でデカい洞窟を見付けたからそこを拠点にして、獲物が居なけりゃ森で狩りをして、肉は食糧に、皮や牙なんかの素材は一番若い俺が街に持ち込んで売って、小金を稼いじゃ酒に変えていた。


 俺は当時14歳で、オヤジとは別の盗賊に襲われた家族の唯一の生き残りだったんだ。

 命からがら逃げ延びて、そんでも生きる知識も術も持たなかった俺は餓死寸前で街道脇の樹に寄り掛かってるところを、オヤジに拾われた。


 オヤジは元冒険者の戦士だった。

 仲間達にパーティーの資金をくすねたって有らぬ疑いを掛けられ追放されたそうだ。

 当然仲間達の告発で冒険者資格も剥奪され、何もしてねぇオヤジは一転して犯罪者となり、街から逃げてきたんだと話した。


『だったらやってやらぁ。アイツらがオレを盗人だって言うんなら、その通りになってやんよぉ。』


 そう話すオヤジはどこか寂しそうだったが、街を出る際に素行の悪い何人かの冒険者達にも声を掛けて来たらしい。

 そうして集まった俺達八人が、盗賊団【隠形ヤモリ】の始まりだった。


 俺は生きる術をソイツらに教わった。

 身の隠し方、気配の殺し方に探り方、獲物の探し方や仕留め方、捌き方だのと、冒険者のイロハだな。

 特に斥候系の技能に長けてる事が判ってからは、ソッチを中心に自分でも腕を磨いて、オヤジに救われた恩を返そうと努力した。


 “盗賊”としての初仕事は……今でもハッキリ憶えている。


 狩りの合間に、街道を若い男女が歩いているのが見えた。

 俺はすぐさまオヤジに報告して、仲間達と一緒に待ち伏せたんだ。


 男は殺し、女は犯した。

 オヤジの命令でもなけりゃ、俺がそれに参加した訳でもない。

 オヤジが街で集めてきた冒険者崩れの仲間達がやった事だ。


 恐怖と絶望に染まった男の眼と、嬲られ弄ばれ続けて生気を失っていく女の眼は、未だに俺のことをいつも見詰めている――――




「師匠、コレ美味しい。一個あげる。」


 柄にもなく回想に耽っちまってた俺を現実に引き戻したのは、お嬢の商会で俺が預かっている【情報部】の最精鋭(エース)、アニータだった。


 甘い菓子には目が無いアニータが、近くの露店で買った揚げリングケーキを俺に差し出している。

 俺は苦笑しながらそれを受け取った。


「アニータが甘味を分けてくれるたぁなぁ。明日は雨になりそうだな。」


「ん。その前に師匠も柄じゃなく暗いこと考えてた。ただの雨じゃなくて槍の雨かも。」


 決して口数の多くないこの弟子にまで気を使わせるたぁな。

 らしくねぇわ、ホント。


「悪りぃ。ちーと昔の事を思い出してたもんでな。」


「師匠がまだ盗賊だった頃のこと?」


「ああ。初仕事の相手も、あんな感じの若い男女二人組だったもんでつい……な。」


「ふぅーん。」


 訊いといて興味ナシかよ!?

 ったく、お嬢やミリアーナ達と仲良くなってから急に態度がデカくなってねぇか?


「でも、今はもう盗賊じゃない。自分の手で団を潰して、奴隷として働いて(あがな)った。」


「おい待て、ソレ誰に聞いたんだよ? 俺はそこまで詳しくお前にゃ話してねぇぞ?」


「ん。ミリアーナから。」


 ミリアーナ……っ! 勝手に他人(ひと)の過去をバラすなよ……!


 俺はその衝撃の告白を受けて、思わず頭を抱えた。

 いやまあ、大層な過去でもねぇんだし、別に良いんだけどよ……


「ミリアーナは、ご主人が絡むと途端にポンコツになる。その隙を突いて聞き出した。情報収集の自主訓練。」


「……やめろ。その光景が目に浮かぶ。」


 なるほど。ミリアーナが意図して喋った訳じゃなく、上手くコイツに乗せられたってワケかよ。

 まったく師匠のツラが拝みたいねぇ…………うっせぇ、俺だよ悪りぃかよ?


「まあ、俺の過去の話はどうでもいいんだよ。それよりアニータ、最終確認だ。俺達の任務(クエスト)は?」


「ん。フォーブナイト帝国侯爵である、ファステヴァン派に所属するご主人の家の本家、セイラム男爵家の犯罪の証拠を掴む事。」


「そのために留意する点は?」


「一つ。ファステヴァン派と対立する派閥員である、ムッツァート伯爵の部下との密な情報交換。二つ。隠密行動を旨とする。三つ。告発は伯爵が行うため、アテ達ワーグナー商会は逸らないこと。」


「最重要目標は?」


「スティーブ前会長が所持していた、認可を受けた正規の奴隷商しか所持を許されない魔導具類……特に“魔力筆”と“魔力印”の発見と奪還。」


「上出来だ。」


 目標(ターゲット)を遥か先に視界に収める()()()()で、俺はくしゃりと愛弟子(アニータ)の頭を撫でる。


「師匠、子供扱いはやめて。あと耳に触らないで。」


「おっと、悪りぃな。弟子の成長が嬉しくてよ。」


「弟子は弟子でもアテはもう17歳。子供扱いは不服。」


「悪りぃ悪りぃ。そうムクれんなって。」


 頬を膨らませて俺の手を払うアニータに苦笑しながら、俺は改めて今回のターゲットを眺める。


 職業【斥候】や【工作員】、【暗殺者】が共通して習得できる職業技能(スキル)[千里眼]によって、二区画は離れたココからでも連中の動きは丸見えだ。


「ん、確認した。確かにワーグナー商会の“魔力紋”が押されてる。」


「真っ昼間から娼婦にうつつを抜かしてやがるってこたぁ、隷属の効力は情報漏洩の防止の類いか……?」


「師匠、だとしたら厄介。“魔力紋”は口封じも簡単に出来る。」


「だな。となりゃあ、下手に接触して情報を引き出す訳にもいかねぇな。」


 “魔力紋”とは、スティーブの旦那やお嬢達のような正式な奴隷商人のみが扱える魔導具、“魔力印”によって刻まれる紋章だ。


 それぞれの認可を受けた奴隷商の“紋章(シンボル)”が魔力によって刻まれ、奴隷を契約に縛り付けるってぇ代物だ。


 男女の二人組を監視――正確には男爵が隷属させている男をだが――していると、まだ日も高いというのに全裸になっておっぱじめだした。


「アニータ、別にココは無理して見なくてもいいぞ?」


「ん、平気。生娘でも一応は奴隷。前の商会でそういう教育も受けてるから。」


 ……そういやそうだったな。

 お嬢があまりにも真っ当に“ヒトらしく”扱うもんだから、奴隷身分だって事をつい忘れちまう。

 近々奴隷身分の証である首枷も、別の物に替えようとしてるみたいだしな、お嬢は。


「娼婦の身体には“魔力紋”は見当たらねぇな。ってえとやっぱり男の方には口封じは込められてるだろうし、いざとなれば男爵の命令を聞くような“契約”なんだろうな。」


「師匠、まじまじ見過ぎ。いやらしい。不潔。」


「うるせぇアホ弟子。これが仕事だ。」


 軽口を叩き合いながら監視を続行する。

 おうおうお盛んな事で。

 俺も奴隷じゃなくなったんだし、恋人でも探してみるかなぁ。


「師匠、独り身が寂しくなった?」


「喧しいバカ弟子。」




 ◇




 結局、日の高い内からとっぷりと暮れるまでお楽しみだったよあの野郎は。

 娼婦の姉ちゃんも気の毒になぁ。

 最後の方は碌に身体も動かなくて、されるがままの人形みてぇな扱いだったもんなぁ。


 エラくスッキリした顔で娼館を後にしたその男を、俺とアニータは離れた位置から尾行する。


「ところでアニータ。そのフード付きの上着、どうしたんだ?」


 夜には目立つ白髪を黒い上着のフードを被って隠し、俺と並んで屋根を伝うアニータに訊ねる。

 そのフードには、アニータの豹の耳が嵌るのにピッタリな耳が付いている。

 こんな物は確か持ってなかった筈なんだが。


「ん、出発前にご主人がくれた。『普通のフードじゃ耳が窮屈でしょ』って。バネッサに作ってもらったんだって。かわいい?」


「かわっ……!?」


「ご主人はかわいいって言ってくれた。アテもなんだか普通の黒豹族になれたみたいで嬉しい。師匠はどう思う?」


 フードの縁を両手で摘んで上目遣いで見詰めてくるアニータ。

 黒い耳の付いたフードから白い顔と髪が覗き、月明かりを紅い瞳が反射する。


「アホ弟子。お前は弟子で、娘みたいなモンだ。普通の女に対する言葉を求めるんなら人選間違いだ。」


「……師匠は唐変木。そんなことだからその歳で未だ独身。」


「喧しい、俺ぁまだ29だ。ガキだってまだまだ作れる……って、それは関係ねえだろが!? 折角似合ってるって褒めてやろうと思ったのによ。」


「ん、似合ってるなら良い。師匠、恋人探し頑張って。ムスタファ部長に女心を教えてもらうといい。」


「ンっとに生意気になりやがって……! お嬢の影響だな……ッ!」


 俺達は特に気負うことなく、しかし気配はしっかり断ち足音も殺して、“魔力紋”を刻まれた男の後を尾行し続けた。




 男が豪邸の裏門から中へと入って行く。

 見張りを立てたその豪邸は、案の定セイラム男爵家所有の物件だった。


「さて、此処に有りゃあ楽で良いんだけどな。」


「それは楽観視が過ぎる。でも、無い事を確かめるのも重要。」


「だな。内部の人間との接触はナシだ。夜更けまで此処で交代で休んで、一晩で洗いざらい調べるぞ。魔導具が無くても証文の類いは有るかもしれねえしな。」


「ん、分かった。それじゃあ師匠が先に見張り。アテは先に寝る。お腹一杯で眠い。」


「尾行中に買い食いし過ぎなんだよお前は。甘味と見ればすぐに食い付きやがって。」


「しょうがない。ご主人が奴隷価格だけど、真っ当な賃金をちゃんと払ってくれるから買えてしまう。奴隷だって甘味が食べたいもの。」


「お前が好きなだけだろうが。分かったからさっさと寝ろ。二時間ずつだからな。四時間後に侵入開始する。」


「ん、おやすみ師匠。」


 まったく。

 日頃の訓練のお陰で俺達はすぐに寝付くことができるし、少しの睡眠で体力をかなり回復できる。


 即座に眠りに落ちたアニータの寝顔を横目にし、邸宅に動きがあった場合は見逃さないよう監視する。


「……いくら師とはいえ、恋仲でもない男の前でそんな寝顔を晒すようじゃあ、まだまだガキんちょだ。アホ弟子め。」


 15で成人し現在17歳とはいえ、まだまだ少女の面影を残しているあどけない寝顔の愛弟子に苦笑を漏らしながら。


 お嬢や俺らの仇討ちの一番槍を飾る舞台となるその屋敷を見据えていた。




 俺はアンドレ。

 元盗賊で、捕まって犯罪奴隷になるところをお嬢の父親……スティーブの旦那に救い上げてもらった。


 そんな大恩ある旦那や奥方を殺し、お二人の宝であるお嬢を孤独の淵に追い込んだセイラム男爵家を、ワーグナー商会の奴隷達は絶対に許しやしねぇぞ。


 現役の頃は【ヤモリの耳目】と呼ばれた俺の全ての技や術を以て、必ず報いは受けさせてやらぁ。




謎多き諜報工作員、アンドレを少し掘り下げてみました。

如何でしたか?


「面白い」

「仲良し師弟w」

「活躍に期待!」


そう思っていただけましたら、ページ下部の☆から評価や、ブックマークをして下さると嬉しいです!


感想やレビューも励みになりますので、いつでもお寄せくださいね!


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m(*_ _)m

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[一言] ちょっとアンドレがかっこよすぎません!? いや、最初からかっこよかったかw
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