第45話 伯爵とマリア
いつもお読み下さり、ありがとうございます!
昨日は急な夜勤が入って【ダンジョン】の方が書けませんでした(´;ω;`)
もしそちらも楽しみにして下さっている方が居ましたら、毎度申し訳ございません!!
_:( _´ཫ`):_
若干スランプ気味ですが今日は頑張って書きましたので、どうぞお楽しみください!
「やれやれ。此度で三度目なのだから、そう緊張することもあるまいに。」
いえ、そうは仰いますがねぇ……!?
この人コッチは平民だってこと、忘れてないかな!?
あたし、マリア。
奴隷商である【ワーグナー商会】の会長の、12歳の女の子。
あたしは現在、住んでいる街の領主である伯爵閣下から再びの召喚命令を受けて、領都【ハル・ムッツァート】の領城の応接室に居るの。
目の前には広大な領地を支配する大貴族【クオルーン・ヨウル・キャスター・ムッツァート】伯爵閣下と、その腹心である【ザムド・オイラス】子爵様。
対するはあたしを先頭に我が商会の部長達。
ミリアーナ、バネッサ、ルーチェ、アンドレ、そして先の防衛戦で偵察に伝令にと大活躍したアニータ。
両陣営の間を取り持つように横に立つのは、カトレア・ストークス男爵令嬢。
伯爵の直属の部下としての商会の監督官、そしてあたしの部下としての部長という、二つの顔を持つ女性だ。
ムスタファ? 彼……彼女はお留守番だよ。
流石に部長級以上が、全員一度に留守にする訳にはいかないからね。
「閣下、お見苦しい様をお見せして申し訳ございません。ワーグナー商会のマリア、御身の前に罷り越しました。」
「よせ、堅苦しい。非公式の面談である故、楽にせよ。」
そ う は 仰 い ま す が ね っ !?
はぁぁ……! もういいや。
「では、お言葉に甘えます。それで閣下、此度はどのようなご用向きでしょうか? スタンピード鎮圧の論功行賞にはまだ日がある筈ですが……?」
息を一つ吐いて。
来たる論功行賞のために領都に滞在していたあたし達を、事前に呼び出した、その真意を問う。
「奴隷商のマリアよ、流石に砕け過ぎではないかね?」
「よい、ザムド。堅苦しい装飾過多な謙譲語など、公式行事だけで充分である。」
急に態度を改めたあたしに狸なザムド子爵が苦言を呈するが、それを止めたのは、呼び出した張本人であるクオルーン伯爵だった。
「まずは、先のアズファランの街を襲ったスタンピード鎮圧に於いての、お主とお主の商会員達の働き、誠に大義であった。街への被害も一切無く鎮圧できたのは、偏にお主の機転と、お主の配下達の獅子奮迅の活躍に拠るところが大きい。
皇帝陛下から民を預かる身として、非公式ながら感謝を述べさせてもらう。我が領民を守ったその機転と、勇気ある行動に敬意を表する。」
「勿体ないお言葉、ありがとう存じます。我が身の程を弁えぬ横暴なる行動への寛大なるご処置にも、深く感謝申し上げます。」
感謝してくれるのは正直ありがたいね。
実際あたしがあの時取った行動は、越権どころか不敬以外の何ものでもないもんね。
伯爵が街に配備した警備隊の長を顎で使い、中立の立場であるギルド支部のマスターを唆し、更には伯爵の代理身分である街の代官の頭を飛び越えて直接伯爵に情報を伝えた。
形としては商会に派遣されている監督官からの報告というスタンスを取ったものの、中身は完全に伯爵に対処を求める尊大極まりない内容だ。
この謁見が処刑台の上だったとしてもなんらおかしくない案件なのよねー、コレ。
街を、商会を守りたい一心と勢いだったとはいえ、我ながら大胆に過ぎる一手を打ったもんだよね、ホント。
「あの街は隣接領への中継地としても要衝なのだ。そこが落ちては隣りの侯爵派の者共の増長を招きかねん。お主の今回の策は、型破りではあったが最善手であったと。それが、我等の総意である。」
「恐悦至極に存じます。」
ここまで褒められるとは夢にも思わなかったわー。
アレ? コレってやっぱり伯爵に気に入られたのかな……?
大貴族である伯爵閣下に?
帝国屈指の実戦魔法の使い手の“キャスター”様に?
ははは、まっさかぁー。
「このような訳で、お主には褒美を与えたいと考えておる。何ぞ望みが有れば申してみよ。」
いや……まさかね……?
「それは……望みの物を、論功行賞の場で公式に授与して頂けると……?」
「うむ、話が早くて助かる。」
さて、困ったぞ……!
伯爵には既に身に余るほどの優遇をしてもらっている。
具体的には、監督官とはいえカトレアという優秀な財務指導者を貸してくれているし、前回の褒美では領都に店を構える確約も貰った。
そもそもあたしのような少女に奴隷商会を継承させてくれただけでも異例中の異例だ。
これ以上何を求めれば良いのか。
しかし断れば貴族の面子を潰してしまう。
ぬあああ〜〜……っ!
「でしたら……“家名”を頂戴致したく存じます。」
決して出来の良いわけではない頭をフル回転させて、ようやく捻り出した答えが、ソレだった。
「ふむ? それはまあ、容易い願いだ。……その理由を訊ねても?」
「はい。」
まあ当然訝しむよねぇ。
伯爵ともなれば、名誉騎士どころか名誉貴族位――一代限りの貴族だね――の任命権だって持っている。
一平民に家名を与える事なんか、それらに比べれば瑣末事だもんね。
「理由の一つとしては、我が商会の……ひいては奴隷商全体の“社会的地位”の向上があります。」
「ふむ、続けよ。」
「はい。我ら奴隷商は、偉大なるフォーブナイト帝国が定める法律の下、それを遵守し、求められる事を為しています。しかし一部の不心得者によって醜聞を広められ、奴隷商会全体がまるで厄介者のような誹りを受けております。それを、帝国の大貴族たる伯爵閣下に認められたという証の家名にて、雪ぎたく存じます。」
厄介者ってのはだいぶオブラートに包んでるんだけどね、これでも。だからザムド子爵さんよ、そんな険しい顔しなさんなって。
国の奴隷制度を支えるあたし達奴隷商の口から、まさか『犯罪者紛いの扱いを受けて悲しいです!』なーんて、伯爵様に言えるワケなかろうに。
「なるほど。だがお主は『理由の一つ』と申したな。そちらが本命であろう?」
流石は我らがご領主様。お見通しってことね。
「恐れながら。最たる理由は…………公的に本家との縁を切りたいのです。」
「本家……セイラム男爵家か。やはりお主の怒りは、未だ燻っておるようだな……」
「消えるワケ……ッ! 失礼しました。消し留める理由がございません。わたくしの脳裏には、今も尚両親の虚ろな目が映っています……!」
そうだよ。
前回の謁見の時に、伯爵閣下に直々に止められたから我慢はしているけどさ……!
あたしは、あの男爵家の隠居ジジィ共をずっと疑っているんだ。
まあ、商会の改革が急務で、そっちに忙しくしていたのもあるけどさ。
「此度お主を事前に呼び出したのもな、実はその事に関係があるのだ。」
「と、申されますと……?」
穏やかだった伯爵の表情に険しいものが浮かび上がる。
その雰囲気に唯ならぬものを感じて、あたしは思わず居住まいを正した。
「お主の部下……“【赤光】のミリアーナ”とそこな諜報員の娘の報告に有ったであろう? 此度の魔物の暴走の原因たる森林火災、それが人の手で為された可能性あり、と。」
「まさか……突き止められたのですか? 確定したと……!?」
だとしたらとんでもない事態だ。
過去にもモンスターを軍事転用する術は研究されていたとは耳にしているし、その尽くが失敗に終わってきた事も知っている。
貴族家に仕える一族の出のバネッサや、純粋な貴族であるカトレアからも話を聞いている。
できるのは精々、モンスターを数匹飼い慣らす事ができる希少な【調教士】の適性持ちを揃えるか、今回のようにただモンスターを暴走させるくらいの事だ。
そしてソレを人為的に行うなんて、モンスターの制御が利かない以上は戦争を仕掛けるのと同義だ。
もしそんな事を仕出かすような者が居れば、“歴史的な大罪人”になるだろう。
そして伯爵は、ソイツを突き止めたのか……!
「私も安穏と暮らしておる訳ではないのでな。四方八方に間者は送り込んでいる。そしてその間者からの報告に拠れば……どうやらお主の願いの末端を、掴んだやもしれぬ。」
「詳しく……っ! 是非とも詳しくお聞かせください!」
思わず身を乗り出してしまう。先程からザムド子爵の視線がチクチク痛いぜ……!
でもしょうがないじゃないか。
伯爵の物言いの通りなら、俺の持つ疑いは信憑性が高いって事なんだから……!
「落ち着くが良い。そのためにお主を読んだのだ。先ずは茶でも飲み、心を平らかにするのだ。」
そう釘を刺してきた伯爵が手を叩き、部屋の外に控えていたメイドがお茶を運んで来る。
流石に俺……あたしは気持ちを落ち着けるために、その滅多に飲む事のできないような超高級な紅茶に、口を着けたのだった。
◇
「良かった……ってぇのは、あんまりにも不謹慎だよなぁ。だけどお嬢、いよいよ仇が討てる機会が来ましたね。」
「お嬢様の心の安寧のためなら、このミリアーナを存分に使ってください!」
「わ、わたしだってスティーブ様やジョアーナ様の仇を討ちたいですっ!」
伯爵の領城を辞して、重苦しい空気で滞在中の宿に戻ったあたしに、同行してくれたみんなが声を掛けてくれる。
「旦那様と奥様には、格別のご配慮を賜りました。何より、マリア会長という素晴らしいご主人様に巡り合わせてくださったこのご恩、私も返したく思います。」
「ん。アテも全力で力になるから。スティーブ会長が居なければ、アテだってご主人に会えなかったから。」
アンドレが、ミリアーナが、ルーチェが、バネッサが、アニータが。みんなが、伯爵の話を聞いてその怒りの炎を再燃させている。
勿論、俺だって。
「聞けば聞くほど、マリア会長のご両親は素晴らしい人物であったようですね。不肖このカトレア・ストークスも、ご両親の墓前に花を添えたく思います。」
「ありがとカトレア。両親を知らない貴女にもそう言ってもらえて、あたしも嬉しいよ。」
「いえ。帝国貴族に有るまじき身勝手さの極み。マリア会長のご両親の件が無くとも、わたくしは怒りに駆られていたと思います。ですが……本当によろしかったのですか?」
「うん? 名誉貴族の事?」
我らがご領主様、クオルーン・ヨウル・キャスター・ムッツァート伯爵閣下擁する間者の報告によれば、スタンピード発生の二週間ほど前に、隣りの敵対派閥の貴族の治める領地から、冒険者達数名が北の森に入ったとの事だ。
敵対派閥の領地っていうのは勿論、我が商会の初代会長であるお祖父様、ワーグナー・セイラムの実家が在る領地。
伯爵の属する派閥と敵対する【ドナルド・フォンド・ファステヴァン侯爵】が支配する、【ファステヴァン領】のことだ。
間者達は“北の森に入れるような”有力な冒険者や騎士達もマークしており、常に監視していたという。
その監視対象の内の数人に、我が【ワーグナー商会】の奴隷を示す“魔力紋”を確認した、との事だ。
その出処を秘密裏に遡れば、あたしの睨んだ通りに本家――セイラム男爵家にたどり着いたという。
あたしは一も二もなく、真相解明への協力に名乗りを上げた。
そしてあたしがそうするであろう事を見抜いていたように、伯爵は。
『此度与える家名に、名誉貴族としての地位を付随しても良い。さすれば我が伯爵家の寄子としても、公的にもお主と商会を護れるであろう。』
とかなんとか仰いやがった訳ですよ、はい。
だけどそんなの俺にはどうでも良かった。だから。
『お気持ちだけ有り難く頂戴致します。これは我が商会と本家の……セイラム男爵家との古くからの因縁でございますれば。わたくしは初代会長ワーグナーの孫として、そして父であるスティーブの娘として、何より彼等から受け継いだワーグナー商会の会長として、男爵家との因縁を断ち切る……それがわたくしの使命であると、そう存じておりますれば。伯爵閣下より頂ける家名のみで、身に余る光栄と存じます。』
そう言って辞退した。
そりゃあ、貴族位が有ればブランド力も増すだろうし、信頼も信用も勿論右肩上がりだろうさ。
だけどそんなモノが無くたってあたしは……俺は、この【ワーグナー商会】をより大きくして、奴隷達により良い仕事を、生き方を与えてみせるって、そう両親の墓に誓ったんだ。
それに貴族の柵に自分から首を突っ込むなんて、御免だからね!
もうどっぷり両足突っ込んでるって? 喧しいわ!
悪いのは本家! セイラム男爵家なんだよ!!
アイツらさえ居なければ……!
「まあ、マリア会長があのように仰るのは、閣下も想定していたとは思いますが。」
うぐっ!?
カトレアさん、できればそういう呆れた顔はしないでいただけると、精神衛生上大変よろしいのですけど……!
「本当に会長は、時々男性のようなことを言い出しますよねっ。見た目はこんなに愛らしいのに……」
「アテも思った。この前なんか警備隊長相手に毒吐いてたし。」
ちょ、ルーチェさん!?
っていうかアニータッ!? そ、それは言っちゃ……!?
「……アニータ。そのお話、詳しくお聞かせ願えますか?」
あ、ああ、ああああああああああ……ッ!!??
ばばばバネッサさん……!? どどどうしたのですかそんなに恐ろしい微笑を浮かべて……ッ!?
「マリア会長……いえ、マリアお嬢様…………?」
ここここ怖いぃいいいいいいいいッッ!?
「あ! そ、そういえばあたしお花を摘みに行きたかったんだよねぇっ!? そ、それじゃ――――」
「ミリアーナ! 逃がしてはなりませんッ!!」
「へ……あ、ひんっ!? ち、ちょっと、ミリアーナ!?」
「申し訳ありません、お嬢様。しかし私としても、お嬢様にはいつも可愛らしく居てほしいのです……ッ!」
う、うらぎりものぉおおおおおおおおおッ!!
いや、やめてっ!?
アンドレ! アニータ!! ルーチェッ!! お願い助けてぇえええええええーーーーッッ!!!
「さ、さーて、俺は気合いを入れ直すために一杯引っ掛けに行くかな……!」
「アンドレ師匠。この街の美味しい甘味処、教えて。」
「な、なんですかアニータそれは!? ずるいですっ! わたしにも教えてくださいアンドレさんっ!!」
アンタらもかああああああああッ!!??
こうなったらカトレア! たぁすけてぇええええーーッ!!
「わ、わたくしは報告書の作成がありますので、暫し席を離れますね。マリア会長、ご武運とご幸運をお祈りしています……!」
待ってってば逃げんなよぉおおおおおーーーーーーーッッ!!??
伯爵様、だいぶフレンドリーだなぁ……
そして久し振りのお説教ですマリアさん(笑)
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