第43話 マリアは冒険者ギルドに報告する!
昨日は更新できず申し訳ありません!
わたくし、完全に寝落ちしておりました……!
(´;ω;`)
日曜日ですが、なんとか書き上がったのでどうぞお楽しみ下さい!
ガタガタと。
そこいらのよりは余程揺れないけど、それでも日本のように整地された道ではないため多少は揺れる、ウチの商会の馬車。
小刻みに揺れる馬車の目的地は、勿論我が家の在る街アズファランだ。
あの後。
リベンジとして向かった二回目のピクニックも台無しにされたあたし達は、襲って来たオークジェネラルの群れの魔石と討伐証明になる部位だけを回収して、早々に帰路に着いた。
予期せぬモンスターの出現を、ギルドに報告しないといけないからだ。
『この湖の近辺は比較的弱い獣系のモンスターの分布地だった筈です。一度調査隊を送った方が良いかもしれません。』
と、我が商会の【戦闘部】部長であり、現役のAランク冒険者でもあるミリアーナが進言してきたからね。
あたしみたいな素人は、現場を知るミリアーナがそう判断する以上は従うより他は無い。
それでこうして街に向けて馬車を走らせてるんだけど……
「ご主人、やっぱりアテも外で護衛する。」
「待ってよぉアニータ! まだ……もうちょっとぉぉおお……!」
「ご主人、目が怖い。人が変わってる。」
「だって、だってぇ……!」
「もうダメ。もふもふ終了。」
「あああぁぁ〜っ! あたしのもふもふがぁああ〜っ!」
あたしの豹の尻尾と耳が遠ざけられたぁあああっ!!
イイじゃんアニータぁ! 減るもんじゃないんだしさぁ〜!
「また今度。ありがとうご主人、馬車で休ませてくれて。」
「うっ、やっぱバレてたかぁ……」
「当たり前。でも、嬉しかった。」
あのオーク達との戦闘の後、撤収作業をしていた奴隷達の中で、明らかにアニータの様子がおかしかったのだ。
聞いてみれば当然の事で。
アニータはモンスターとの真面な戦闘は、アレが初めてだったと言うのだ。
気丈に振る舞ってはいたものの、明らかに精神を擦り減らして見えたアニータに、帰り道は馬車に同乗するよう命令したの。
対面式の座席の片方に座らせて、激しい戦闘の余韻が抜けるまではと思い、渋るアニータを誤魔化し誤魔化し休ませてたんだけど……
『ご主人……尻尾、触りたいの?』
はい、あたしの興味や欲望は筒抜けだったようでした。
『尻尾も、耳も触りたい!』
バレちゃあしょうがないと、開き直って素直に要求を伝えたところ、なんとアニータが許可してくれたってワケよ。
で、今に至る。
あたしの膝に頭を乗せてもらって、その真っ白なちょっと丸っこい耳を。
猫みたいに身体を丸めてもらって、もう片方の手で長いフワフワの尻尾を。
不快感を与えないように気を付けながら、優しくもふもふして堪能してたのね。
触ってる間ヤケに静かで、ほんのり頬を染めて息を吐いていたのが妙に艶めかしく色っぽくて、変な気分になりそうだったけど。
「もう充分休ませてもらった。これからアテも護衛に戻る。」
「そっか……ホントに無理してない?」
「ん、大丈夫。もう気持ちは落ち着いた。」
「分かった。御者さんに声を掛けてみてね。」
微かに笑顔を浮かべたように見えたアニータは、御者とやり取りをするための窓を叩く。
向こうから開けてもらうとすぐに潜って、御者席へと移動した。
ああ……あたしのもふもふが行ってしまわれたぁ…………!
◇
「ゲッ……!」
「嬢ちゃん、会うなり『ゲッ!』はないだろう? この間は済まなかったよ。」
アズファランの街の入場口の検問へと辿り着いたあたし達。
時刻はまだ午後の3時過ぎ。中途半端な時間なだけあって、入場待ちの列はそこまで並んでなかったのね。
そして、ヤツと再会したのよ。
「これは失礼しました、【グリード警備隊長】殿。何時ぞやはお世話になりましたね。」
「やめてくれや。嬢ちゃんに“殿”なんて呼ばれるとケツがムズ痒くてしょうがねぇよ。グリードでいい。それより親御さんの事、残念だったな……」
この警備隊長、ちょうど前回のピクニックの帰りにも一悶着有ったのよね。
あの時はコイツの部下に捕まえた盗賊達を“違法な奴隷狩り”とイチャモン付けられて、場を仲裁するために出張って来たんだっけ。
まあキレて“俺モード”になったあたしが、散々に責め立てて撃退したんだけどね。
…………その後の両親+バネッサのお説教は、正直思い出したくないね……!
「……そういえばお礼を言ってなかったね。ありがとう、お父さん達だって気付いてくれて。グリードが気付いてくれなかったら、両親や奴隷達は身元も知れずに、何処かの共同墓地にでも埋められてただろうね。」
「遇々だよ。あん時の嬢ちゃんの啖呵が印象的で、遇々商会の馬車の特徴が記憶に残ってたんだ。」
両親の遺体が発見された時。
身元の知れる物品も無く、遺体も酷く損壊されていたそれらが家に帰って来れたのは、この男のおかげだ。
この男グリードが、破壊された馬車の特徴から商会の物だと気付き、そうしてあたしに報せが届いたのだ。
「それでも、感謝してるよ。それと……あの時はあたしこそ、好き勝手言ってごめんなさい。」
「良いって。オレに落ち度が有ったのは確かだし、部下共にも良い薬になったしな。減俸処分期間も、もう明けてるしよ。それより、新しい会長さんになったんだってな? 応援してるからよ、頑張んな。」
「うん、ありがとう。警備隊で人が不足したら声掛けてね。ウチで仕込んだ強い人を紹介してあげるから。」
「じゃあそこのミリアーナでも――――」
「彼女はナシに決まってんでしょッ!!」
まったく、この男は……!
相変わらず飄々としてて、良くコレで街の警備隊長が務まるもんだよ!
「おおコワ! まあ冗談はさて置き、どっかでまた一戦やってきたのか?」
「……なんで分かるの?」
「そりゃまあ、こんなんでも一応は戦闘畑の人間だからな。お宅の護衛さん達から、微かに血の匂いがするもんでね。」
「前回盗賊達を捕らえた湖で、オークの群れに襲われたの。これから冒険者ギルドに報告に寄るつもりだよ。」
「……なんだと……? そりゃマジか嬢ちゃん。」
「こんな嘘言って何になるのさ。証明部位も魔石も持ち帰って来てるよ。検める?」
「…………いや、俺もギルドに同行させてもらいたい。あんな街の近くにオークの群れが出たんなら、警備隊もギルドと情報を共有しときたいからな。」
「分かったよ。それじゃ門の向こうで待ってるから。」
「ああ。交代してすぐに行く。」
そうして急に真面目な顔になったグリードと一旦別れて、あたし達は門を潜った。
彼を待つ間に、ミリアーナが護衛の一人を先駆けとして、ギルドに話を通させるために走らせていた。
そして待つこと10分ほど。
「悪りぃ、待たせたな。よろしく頼む。」
「良いよ。それじゃ乗ってちょうだい。」
鎧を脱ぎ軽装となった警備隊長グリードを馬車に同乗させて、あたし達は冒険者ギルドへと向かったのだった。
冒険者ギルド・アズファラン支部の建物は、街の中心部の宿場通りのほど近くに建っている。
門から5分ほど馬車を走らせて辿り着いたその建物の、裏手へと馬車を回して停める。
「おい嬢ちゃん。どうして裏に回したんだ?」
「ウチは奴隷商だからね。世間様の目が厳しいんだよ。」
そんなやり取りをしつつ馬車から降り、裏の職員入口に立つ警備のおじさんに声を掛ける。
「話は通ってる。応接室に上がってくれ。」
何度かお邪魔したおかげであたしを侮ることも無く、扉を開けて中へと入れてくれるおじさん。
あたし達は馬車の見張りに三人を残して、ミリアーナを先頭にして建物内へと入って行く。
最早通い慣れたその応接室の扉を開けて中へと入ると、既に一人の偉丈夫が待ち構えていた。
「久し振りだな、お嬢さん。元気そうで何よりだ。」
「ハボックさん、ご無沙汰してます。ハボックさんも元気そうで良かったです。」
「それと……警備隊の隊長だったな? 確か名は……」
「グリードだ、ギルドマスター。事態を軽視出来ないと判断し、嬢ちゃんに同行させてもらった。」
「おおそうだ。マリアお嬢さんに言い負かされて、減俸処分を喰らったんだったな。」
「勘弁してくれよ……なんでアンタが知ってんだ……!」
「まあ、年の功だな。さて、早速報告を聞こうか。」
グリードをイジメてからあたし達に着席を促すハボックさん。
まあねぇ、ハボックさんはスティーブと仲良くしてくれてたからね。
大方、彼からその話を聞かされてたんだろうね。
「それじゃミリアーナ、お願いね。」
「はい、お嬢様。」
ハボックさんは一人掛けの、あたしとグリードは三人掛けのソファに座り、テーブルに広げられたこの街の周辺の地図を囲む。
ミリアーナがその地図を指し示しながら、状況を説明していく。
「そんな場所にオークが……」
「それだけでなく、その群れはオークジェネラルが率いていた。あの規模の群れであれば、もっと北の森の奥に居た筈だ。」
「ジェネラルだと? Cランクのモンスターが下って来たってのか!?」
「あの辺りはFかEの獣系のモンスターばかりだった筈……北の森で何かが起こっているのかもしれんな。」
「ハボックさん、この場合の調査はギルドからの依頼になるんですか?」
「いや、ワシから代官に報告を上げ、必要であれば代官が領兵で調査隊を組むか、依頼する事になるだろう。街全体の問題だからな。」
「領兵から調査隊を派遣するには、領主である伯爵様の許可が必要になる。領都まで早馬で一日……早いと取るか遅いと取るか……微妙なところだな。」
一通りの説明を終えると、今後の動きの確認に移った。
この街の治安を担う冒険者ギルドと警備隊。
二つの組織のトップが揃っている中にあたしが居るのは、なんだか場違いな気がしてならないね……!
「もしこれがスタンピードの兆候だとしたら……悠長に領主様にお伺いを立てている場合では無いかもしれんな。」
ハボックさんが神妙な顔つきで顎を撫でる。
“魔物の暴走”……強力なモンスター等の出現により、本来そこに住んでいたモンスター達が追われ、それが連鎖して起こるモンスターの大移動だ。
人里に迫れば、碌な防備を持たない町や村などはひとたまりもなく飲み込まれ、蹂躙されてしまう。
まさに自然災害並みの大事なのだ。
「仮にそうだとしても、鎮圧のための派兵なんてそれこそ確かな情報が無けりゃ土台無理な話だ。拙速が求められるってのに……くそっ、これだからお役所勤めってのは……!」
グリードは歯噛みし、命令が無ければ動く事もできない己の身を呪うように吐き捨てる。
「……ウチから伝令を出そうか?」
気付くとそんな事を口走っていた。
あたしのその言葉に、ハボックさんとグリードが目を丸くして顔を向けてくる。
「ウチには優秀な諜報員が居る。代官に報告を上げるのと並行して、先に伯爵閣下に報告を上げに行っちゃおう。代官からはギルドに調査依頼を出して貰えば、初動としてはかなりの無駄を省ける筈だよ。」
「だがよ嬢ちゃん、伯爵様の部下でもない嬢ちゃんの奴隷が行ったって、話を聞いてくれるか?」
「それに証文はどうする? 通例では代官からの書簡でなくては、検討すらしてもらえないと思うが……」
「ウチに居るカトレア・ストークス男爵令嬢に報告書を書いてもらう。領城で財務次官まで昇り詰めた彼女からの書状なら、絶対に信じてもらえる筈だよ。」
「だ、男爵家のご令嬢だあッ!? しかも財務次官って、伯爵様の直属って事じゃねえか!? な、なんだってそんなお人が嬢ちゃんの所に居るんだよ!?」
「あたしが奴隷商会を継ぐには幼な過ぎるってね、伯爵閣下から監督官として派遣されてるの。現在はあたしの部下として、商会の財務を管理してくれてるんだよ。」
「初めて会った時からとんでもなかったが……お嬢さんは更にとんでもなくなってるんだな……」
ちょいとハボックさん? その珍獣を観るような目であたしを見ないでくれないかな?
しょうがないじゃん! 財務に明るい女性って頼んだら彼女が来たんだから!!
「どうかな? もしも最悪スタンピードだとしたら、事態は一刻を争う筈だよ。これ以上モタモタしてて良いの?」
「確かにお嬢さんの言う通りだな。そしてこれ以上ない方策だ。頼んでも良いんだな?」
「ハボックさん、勿論だよ。」
「だがよう……」
あたしの言い分に納得してくれたハボックさん。
しかし警備隊の隊長であるグリードが、そこに待ったを掛けてきた。
「だがよう、それで嬢ちゃんに何の得が有るんだ? ギルドも警備隊も差し置いて率先して働く、その理由が知りてぇ。」
一度あたしと対立したからか、やや疑っているような目付きであたしを見据えるグリード。
あたしは一つ溜め息を吐いてから、グリードに向き直る。
「本音と建前、どっちから聞きたい?」
これは最終試験だよ、グリード。
あたしはぶっちゃけ、アンタを信用していない。
根に持っている訳ではないけれど、相手の見た目に惑わされる警備隊長なんて、危なっかし過ぎるもんね。
だからアンタがあたしを、今日この場でどのように判断するかで、頼れる人かそうじゃないか見定めさせてもらう。
「……建前から聞かせてくれ。」
「いいよ。まあ建前とは言っても理由の一つではあるんだけどね。言ってみれば、“奴隷商の好感度を上げるため”かな。」
「どういうことだ?」
「まあハッキリ言って、世間が奴隷商に向ける目が気に入らないの。あたし達は法律を守って国が求める仕事をしているというのに、やれ“人買い”だの、“人様の命で飯を食ってる”だのと煩わしいのね。ここで大々的に伯爵という大貴族様のお役に立てれば、褒賞は望み過ぎにしても、イメージは多少は良くなるんじゃないかなって。」
「なるほど…………で、本音の方は?」
「あたしの、大事な場所だからだね。」
「…………?」
分からないって顔だねグリード。
まあぶっちゃけ、自分でも青臭いとは思ってるんだけどさ。
「此処は、あたしが生まれた街。あたしが育ち、奴隷達や今は亡き両親達と過ごした、大切な思い出の詰まった場所なの。大事な家である商会もあるし、あたしを信じてついて来てくれている従業員や、奴隷達だって居る。何より、大切な俺の両親の眠る場所でもある。たかがモンスター如きに、土足で踏み荒らさせてやるもんかよ。」
おっといけね。
気が昂って久々に“俺モード”を表に出しちゃったわ。
けどまあ良いかな。
おっかないバネッサは、今此処には居ないんだし。
うん、ハボックさんはちょっと驚いてるけどね。
「…………あん時と同じ顔だなぁ、嬢ちゃん。そんな可愛い顔してるってのによ。随分と男前だよな、ホント。」
「男前とか、花も恥じらう12の乙女に言ってんじゃねぇよ。それでどうなんだ? 納得したのかしてねぇのか、ハッキリ聞かせろよ。」
「乗ったよ。嬢ちゃんの策で行こう。代官にはオレが話を着けに行ってくるから、嬢ちゃんは次官殿に証文を書いてもらってくれ。一刻後にまた此処で落ち合おう。封書にオレとギルマスの署名も有った方が、より緊急性も伝わるだろ。ギルマスはすぐに、冒険者への緊急依頼を発行してくれ。」
「良いだろう。緊急で十五名程の調査隊を募集しておく。」
「その依頼、私も受けよう。よろしいですね、お嬢様?」
「うん。それとアニータも連れて行って。伝令にはアンドレに走ってもらうから。戦闘じゃなくて調査なら、斥候としての彼女は打って付けよね?」
「勿論です。では彼女には早速、冒険者として登録をさせてきます。」
「よろしく。あたしは他のみんなと一度家に戻るから。オーク達の素材と魔石も換金しておいてね。必要な物が有ればそこから出して準備もお願い。」
「はい、お嬢様。」
まったく、とんだ休日になったもんだよね。
あたし、マリア。
12歳の女の子で、奴隷商の【ワーグナー商会】の会長をしているの。
乙女の重大な秘密のせいで一日休暇を取っていたんだけど、何だかキナ臭い事になってきちゃった。
まったく、ホントとんだ日だ。
“女の子の日”だというだけでただでさえ憂鬱なのに、オークに襲われ撃退し、かつて敵対した警備隊長と再会して、街の存亡の懸かった重大案件の片棒を担ぐなんてね。
だけど決めたからにはあたし……俺は、必ずやり遂げてみせる。
愛する両親の眠る我が家も、我が家で一緒に過ごすみんなのことも、俺やみんなが生きるこの街も、絶対に守ってみせる。
マリアちゃん、厄日ですねぇ……!
如何でしたか?
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「続きが気になる」
「久々に本性が……w」
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