第41話 マリアはまた台無しにされる!
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
先週土曜日は体調不良のため、更新をお休みさせていただきました。
遅くなりましたが、改めてお詫び申し上げます。
更新頻度はこれまで通りを予定しておりますので、どうぞこれからもよろしくご愛読くださいませ。
あたしマリア。
12歳の女の子で、奴隷商である【ワーグナー商会】の会長をやってるの。
でもまあ、やっぱり子供だからか体力も無くて、多忙な日々に疲れが溜まってたのかもね。
そこに来てまた“女の子週間”が始まっちゃったものだから、強制的にレフェリーストップが掛かって急遽お休みになったの。
それで今日は朝からアズファランの街を出て、護衛の奴隷達といつかの盗賊を討伐した湖に遊びに来てるの!
午前中はずーっとミリアーナの膝枕(あたしのだからね!?)で本を読んだり、お喋りをしたりして、お昼ご飯のムスタファ印のお弁当を食べたよ♪
この世界、“お弁当”っていう概念も無かったみたいでね。
ムスタファに説明したら傷みにくい料理を沢山持たせてくれたの!
同行したみんなも感動してたよ♪
それで今は、食後から一時間くらい経ってるんだけど……
「それでそれでっ? アニータは他には、どんなお菓子が好きなの!?」
「……この前アンドレ師匠と行った街の、カップケーキ。あれは至高。」
「あー! あのお土産で買ってきてくれたヤツね! うん、アレは美味しかったねぇ!」
「アンドレ師匠は意外と甘味好き。色んなお店、教えてもらった。」
「そ、そうだったのね……!? 初めて知ったよ……!」
あたしはミリアーナにちょっと我儘を言って、アニータと交代してもらったの。
ミリアーナは護衛の責任者だし、【戦闘部】の部長だから最初は渋ってたんだけど、あたしがアニータと仲良くしたいと伝えたのと、配置をあたしから一番近くにするってことで見事交渉成立。
今はこうして黒豹の獣人のアニータと、仲良くお喋りしてるの。
最初は違和感バリバリな丁寧語を頑張って使ってたアニータ。
けどあたしが気にしないと伝えたのと、商会の奴隷の中では17歳という一番の若手で、【情報部】でもちょっと孤立気味だったせいか、あたしに対しては今は砕けた話し方をしてくれている。
基本的に、自分を認めてくれる人には素で接するみたいだね。
ミリアーナにも丁寧語は使ってなかったし。
「ねえアニータ。アニータは商会で技術を学んで、成長できたらどうしたい? 誰かに仕えたい?」
だいぶ肩の力が抜けてきたと判断したあたしは、思い切ってアニータに訊ねてみる。
アニータは前会長であるスティーブが、オークションで買い取った奴隷だ。
競売は主に二つ在る。
一つは、あたし達奴隷商が寄り合い開催する、それぞれの自慢の奴隷を売り出すもの。
そしてもう一つは、経営不振で潰れた商会や、国が奴隷身分に落とした人物を出品するもの。
取り潰しになった貴族家縁りの人材達や、国の預かりとなった奴隷達を、奴隷商人相手に競売に掛けるのだ。
アニータは、後者のオークションでスティーブが競り落とした奴隷だ。元々彼女を所有していた商会が不正を行い、取り潰しとなったためにオークションに掛けられたらしい。
“白変種”の黒豹族ということで大変な希少価値が付き、その日は彼女以外の奴隷を買えなかったほどだという。
そんなべらぼうな金額でウチの奴隷となったアニータの売値は、当時14歳だった三年前から今までも、右肩上がりに上昇している。
それは単に彼女の希少価値だけでなく、やはり女性奴隷という点がある。
女性としての価値(勿論ソッチの意味ね)を考えると、14歳から18歳までが最も価値が高いと言われていて、19歳から22歳までは横這い、23歳からその価値が下がり始めるのが、この世界の通例だ。
うん、胸糞悪いけどさ?
だけど奴隷で女性だったら、当然そういうところに価値を求める人が居るのは解るよね……?
まあ何が言いたいかというと、そんな女性としての価値が最も高い17歳の彼女は、我が商会で最も値が高い女性奴隷である、ということなの。
そんな彼女は現在は【情報部】の諜報員としてもエース扱いだし、ミリアーナからも戦闘技術を教えたいと期待もされている。
①希少なアルビノの黒豹族で、②女性としての全盛期を迎えていて、③優秀な諜報工作員で、④戦闘を熟す資質も有る。
贔屓目無しで観ても、引く手数多になる事間違いなしのまさに目玉商品というワケだ。
彼女が良い所に仕えたいと思っているのなら、あたしは全力でそれを応援して良い買取先を確保し、毟り取れるだけ毟り取って彼女の新しい門出に花を添えるつもりでいる。
勿論彼女が、所謂“女性奴隷に多く求められる勤め”を拒否したいのであれば、全身全霊を懸けて交渉して契約させてみせる。
だけど、そうじゃないのなら。
「……アテは……正直分からない。ココは前の商会と違って、とても居心地がいい。アテに知識を、技術を教えてくれる。まだもうちょっと……ココに居たい。」
「……そっか。なら今はまだ、それでいいよ。アニータがしたい事が見付かったら、いつでも相談してね? 勿論アニータが商会でずっと働いてくれるなら、絶対に雇うからね!」
「お嬢様は……どうしてアテに、奴隷のアテにそんなに親切にしてくれるの?」
「どうしてって…………」
……困ったぞ?
まさかの質問にあたしは必死に頭を巡らせる。
奴隷に親切にする理由……ねぇ。
「これはカトレア部長にも話した事なんだけどね? 奴隷と言っても同じ“ヒト”でしょ? そして奴隷商人であるあたしには、そんな奴隷達を法の下で護る義務がある。そこまでは解るよね?」
あたしの言葉に、真剣な顔で頷きを返すアニータ。
その紅い神秘的な瞳で見詰められると、なんだか心の中まで透かして視られているように感じるから、不思議だよね。
「で、ここからがあたしの考えなんだけどね。法で奴隷を“ヒト”として護るのであれば、ちゃんと“ヒト”として扱わないと、それは嘘だと思うの。アニータが思う世間一般の奴隷のイメージって、どんなものかな?」
「…………扱き使われて、不味い飯を食べ、虐げられるもの。」
「そうだね。それが一般的に考えられている奴隷の姿よね。で、また質問なんだけど……それのどこが、“ヒト”なの?」
「――――ッ!?」
「あたしの持論なんだけどね、“仕事のために生きず、生きるために仕事をする”って。ヒトは誰だって悩みなく、苦しまず、日々平和に笑って生きていたいものでしょう? だけどそうするにはお金が要る。食料が要る。衣服が、住む場所が要る。そのために、それらを得るためにするのが仕事ってものだと、そう思わない?」
「……アテもそう思う。」
「ね? 仕事は生きるための手段なんだよ。生きるための仕事なの。逆なんて、仕事のために生きることなんて、ホントはあっちゃダメなんだよ。」
その傾向が顕著なこの世界。
根本からブラック気質なこの【エウレーカ】の世界にとっては、あたしはきっと、異質な存在なんだろう。
だけどさ、何よりも。
「まあ、色々と理屈はこねたけどさ。だけどあたしが一番言いたいのはね、アニータ。あたしは、奴隷達のことを同じ“ヒト”だと思っているし、何よりもみんなのことが大切なの。大好きなの。お父さんが護ってきたように、あたしもみんなのことを、“ヒト”として護ってあげたいの。」
これが、偽らざるあたしの本心だよ。
どうかな、アニータ。これで説明になったかな?
「……よく、分かった。お嬢様は、優しくて強い。アテはもっと勉強して、技術を学んで、戦いを覚えて、お嬢様みたいに強くなりたい。それが望み。」
「そっか。あたしの評価はともかくとして、そういうことなら頑張ってね、アニータ。あたしで良ければいつでも相談に乗るし、あたしもアニータとは仲良くしたいから、これからも色々お話しようね?」
「……ありがとう、お嬢様。アテもお嬢様と、もっと仲良くなりたい。」
白いボブの髪を穏やかな風に揺らして、そう柔らかく笑ってくれたアニータは、大人になりかけの少女のように儚げで、しかしその奥底にしっかりとした芯を持っているように感じた。
と、その時。
「ッ!? お嬢様、風の結界を何かが通り過ぎた!!」
「えっ――――ッ!?」
鋭くそう告げ立ち上がり、侵入者を感知したのであろう方角に身構えるアニータ。
それにあたしが質問を飛ばそうとした矢先、カラカラというけたたましい木の鳴る音が湖畔に響いた。
「鳴子まで……ッ! コッチに来る!」
「お嬢様ご無事ですか!? アニータ、コレは一体!?」
「風の結界と鳴子の結界が立て続けに突破されてる。何かがコッチに来る。アテが見て来るから、お嬢様をお願い!」
「分かった! 無理せずに確認したら戻れよ!?」
「……了解。」
チラリとあたしにその紅い瞳を向けてから、アニータは風のような疾さで湖畔を森に向けて駆け抜けて行った。
「アニータ、凄い……!」
「彼女は風の属性に特化していますからね。風魔法の扱いだけなら、私よりも彼女の方がうえでしょうね。」
ミリアーナにそこまで言わせるなんて……!
ああいう子が、“天才”ってものなんだろうな……
そんな風に、森に消えたアニータの行った方向を眺めていると、周囲に散開して警戒していた護衛達が集まって来る。
すぐさまミリアーナが指示を飛ばす。
「馬と馬車を此処に! お嬢様とメイドは馬車の中に避難してもらう。中はメイドに、外は御者に任せるぞ! 我らはその前で防陣を布く! 全員防具を確認しろ! 少しの緩みが命取りだと思え!」
「「「「はいッ!」」」」
即座に全員が、防具のベルトや金具をしっかりと締め直したり、盾や篭手などを検め始めた。
その様子をミリアーナと共に見守っていると、いつの間に取りに走ったのか、御者さんが馬車に馬を牽引して駆け込んできた。
「お嬢様、早く馬車の中に! 貴重品はお持ちですか!?」
「う、ううん……あ! 貴重品じゃないけど、本は持って行かなきゃ!」
その本とは、【聖女セツコの建国記】だ。
あたしにとっては大切な、同じ日本人の転生者の記録。これは絶対に持ち帰らないと!
「私が取ってきます! ですから先ずは中に避難を!」
「わ、分かった!」
ミリアーナに任せれば安心なので、あたしは素直に馬車の中に飛び込んだ。
戦闘の素人のあたしがチョロチョロしてたら、邪魔にしかならないもんね!
そして馬車の元へ本を持ったミリアーナが戻って来たのと、森から先程偵察に行ったアニータが駆け戻って来たのは、ほぼ同時だった。
「アニータ! 何があった!? 何が来ている!?」
「オークが十匹コッチに来てる! その内の一匹はオークジェネラルだった!」
「チッ! 群れとは面倒な……ッ!」
あたし、マリア。
まだ12歳の女の子だけど、もう立派にお仕事をしているの。
色々あって疲れが溜まって、気分転換にいつかのリベンジとしてピクニックに来たんだけど……
またなの!!
またあたしのピクニックが邪魔されたのッ!!
しかも今度はチャチな盗賊なんかじゃない、モンスターの群れに!!
相手はオークジェネラル率いるオーク十匹の群れ。
対するあたしの護衛達は、馬車の中であたしを守ってくれている【侍従部】のメイド奴隷を含めて六名。
数的不利が否めない中で、あたしは……俺は遂にこの世界に転生して初めて、本物の魔物と遭遇したのだ。
コレってさぁ……!
俺に休むなってコトなのかなッ!?
前世の社畜は今世も社畜らしく、身を粉にして粉骨砕身働いてろ、休んでんじゃねえってコトなのかなッ!!??
ふざッけんじゃねーぞ!?
俺の折角の休みを返しやがれッ!!
ミリアーナさん!!
やっておしまいいいいいいいッッ!!!
はい。
今度はオークの群れにピクニックを邪魔されました(笑)
アニータについても深掘りされてましたが、如何でしたか?
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m(*_ _)m