第40話 マリアはお休み(強制)する!
いつもお読み下さり、ありがとうございます!
レッツリベンジピクニーック!!
さあ! 最早懐かしさすら感じる思い出の湖畔にやって来たよ!
初めて来た時はあんのハゲクソのせいでピクニックが台無しにされちゃったからね!
今回こそはという事で、仕切り直しの行楽へとやって参りました!
生 理 二 日 目 だ け ど !!
いや、あのね?
ちょっと言い訳を聞いてくださいよ。
ほい、回想!
◆
時は遡り昨日の事。
あたしはいつも通り朝の会議を終えて、自室(もはや執務室)で相も変わらず書類の山と格闘してたのね。
『マリア会長、先程の会議の議事録が出来上がりました。確認をお願いします。』
『ありがと、カトレア。しかし【情報部】はちょっと遠征……もとい出張が多過ぎるよね。アンドレは平気って言ってたけど、』
『まあ仕事柄仕方の無い部分でもありますが。ですが冒険者活動を行う【戦闘部】と違い、休暇や給与の体制は他と変わりませんからね。』
『現在は良くても、いずれ人が増えてきた時に不満が噴出するかもしれないよねー。』
『そのような先の事まで……』
『甘いねカトレア。人は不満を抱え込み、溜め込む生き物なんだよ? 領地の反乱だって、領主のたった一回の失態で起こる訳じゃないでしょ? 小さな不始末や失態が積み重なって我慢の限界を超えた時に、反乱として燃え上がるの。解るでしょ?』
『……確かに。いけませんねわたくしは。どうしても領地経営と商会とでは、規模が違うせいか別物と考えてしまいます。』
『それも仕方の無い事だけどね。だけど、規模が違えど多数の人が共に生きる組織に、その根底にはそう違いは無いと思うんだ。上は信用と対価を、下は信頼と成果を……ってね。』
『分かりました。わたくしの方でも何か対応策を思案してみます。』
『うん、よろしくねカトレア。』
『はい。ところでマリア会長、そろそろ一度休憩をされては如何ですか?』
『えー、まだキリが着いてないんだけど。え、あたしってそんなに疲れてるように見える……?』
『ええ、まあ。会議の時は兎も角、今は少々お顔色が優れないように見受けられます。他の部長達にも、一番身近で補佐するわたくしがしっかりしろと、会長はご自分から無理をされる性分だと注意を受けていますので。』
そう言ってカトレアは、そのクールな鋭い目で見詰めてきたの。
まあそんな圧力にあたしが抗えるワケないよね?
いや、決して美人とお茶だァー! って浮かれてたワケじゃないよ!?
ほら、他の部長達も心配してくれてるからね! 部下に心配掛けちゃいけないもんね!
そうしてカトレアと食堂に移動する途中で。
『あれ……? か、カトレアさん……?』
『はい。どうしましたか?』
『お腹……痛くなってきたかも……!』
……そうなの。またやって来たのよ、生理が……!!
その後はハジメテの時ほど大騒ぎにはならなかったものの、あたしは頼れるバネッサさんの命令で自室療養。書類も一旦全て取り上げられちゃった。
どうもあたしの症状は中々に重いらしく、二回目でもあるのにその日は動く事が叶わなかったの。
で、翌日ね。
『マリア会長。一度外の空気をお吸いになることを推奨致します。』
『手配はしてありますからねっ、会長!』
『“行楽へ行くご令嬢の護衛”という研修を組みましたから、お嬢様には何がなんでも今日は休んでもらいますよ?』
『商会の事はわたくしに任せて、マリア会長は存分に息抜きをしてきてくださいね。』
うん。
とても断れる雰囲気ではありませんでした。
まあ確かに頭とお腹は痛いし気怠いしで、仕事にも集中出来そうになかったけどさぁ。
特にミリアーナからの圧が凄かったのよ……!
ま、心配してくれてるってのは正直凄く嬉しかったんだけどね。
◆
そんな訳で、あたしは昔――と言ってもたった一年前だけど――ミリアーナとバネッサと共にピクニックに来た、あのキレイな湖へと遊びに来たの。
世の中の女性達は生理中でも働いているというのに、なんとも情けない限りだよ……うぅっ!
「お嬢様、到着しましたよ。身体は大丈夫ですか?」
「お疲れ様ミリアーナ。あたしは大丈夫だよ。」
愛しのミリアーナにエスコートされて、馬車から湖畔の草原へと降り立つ。
うん、やっぱりキレイなトコだよね!
「護衛のみんなも労ってあげなきゃね。一旦手を止めて集められる?」
「分かりました。少し待っていてくださいね。」
そう言ってミリアーナが御者の奴隷に声を掛けると、その奴隷は素早く馬車に輪止めをした後で、護衛のため周辺を探っている他の奴隷達を呼びに行った。
うん。ミリアーナはあたしの傍を離れるつもりは無いみたいね。
確かに護衛対象を一人にさせるのは阿呆だし、あたしも大歓迎だよ♪
そうして待つ事しばし。
あたしの元に、散らばって周囲の危険を探っていた護衛の奴隷達が集まって来た。
護衛のメンバーの内訳はこうね。
我が商会の誇る【戦闘部】から、ミリアーナを含めて四名(御者さんも【戦闘部】所属だよ)と、【情報部】から斥候役として一名。それとあたしのお世話係として【侍従部】からメイド奴隷が一名ね。
「皆、ご苦労。周囲の状況はどうだった?」
「はい、ミリアーナ部長! 少なくとも見回した周辺に、我々以外の人や獣、モンスターの姿は確認できませんでした!」
「斥候のアニータはどうだ?」
「……同意見。それと念の為に周囲に風魔法と鳴子の結界を張っておいた。何かが近付いてきてもコレですぐに気付ける。」
「上々だ。どうだアニータ? 今度【戦闘部】で戦闘訓練を受けてみないか? 斥候や諜報員としては、ほぼ一人前なんだろう?」
「……アンドレ師匠に聞いてみる。ワタシは興味ある。」
「そうするといい。では皆、ここまでの護衛ご苦労だった! お嬢様よりお言葉を掛けて下さるそうだ。心して聴くように!」
「「「「はいっ!」」」」
状況報告を受けて、今回は監督役兼護衛隊長という立場のミリアーナがそうして、あたしに話を譲ってくれる。
いやミリアーナさん、そんな貴族とかじゃないんだからさ……!
もうちょっとリラックスしても、良いんじゃないかな……?
内心苦笑いを堪えつつ、あたしは護衛に付いてくれている奴隷達に話し掛ける。
「みんな。道中の護衛とここの安全確保、ありがとうね。予定ではこのまま夕方前までここでマッタリ過ごすから、みんなもちゃんと、交代で休憩を取ってね。みんなのこと、頼りにしてるからね。」
「「「「はいっ!」」」」
おおう……!
いや、やる気になってくれるのは良い事だよね。
たとえみんなが順調に軍人のように育っていたとしても……!
ああ……! 監督官さんの伯爵への報告が怖い……!
「それでは、現時刻から一時間毎に交代で一人休むように。散開!」
「「「「はっ!!」」」」
最後にミリアーナの指示が飛び、護衛のみんなは周囲の警戒に戻って行った。
「ありがとね、ミリアーナ。それじゃあノンビリしよっか♪」
「はい、お嬢様!」
いやノンビリって言ってるじゃん!?
肩の力抜いて!?
◇
――――【聖女セツコの建国記】。
――――宙に浮かぶ無数の光を、わたしは空から見下ろしていた。光は火の粉のようで、炎を上げるわたしの身体の傍らの兄を照らし、まるであの日見せてくれた沢山のホタルのようだった。
――――11歳で両親を亡くしたわたしと15歳の兄は親戚の家をたらい回しにされ、一時期身を寄せていた田舎の母方の祖父母の家の近く、流れる小川の傍らで、夏に一度だけ沢山のホタルが飛ぶ様子を眺めたのだ。
――――12歳の頃祖父が亡くなり、祖母は母方の叔母の家に身を寄せる事になった。わたしと兄は再び家々をたらい回しにされ、最後に行き着いたのは、生活保護目当てでわたし達の面倒も碌に見ない、父の妹――小叔母の家だった。
――――家事はわたしが、兄は16になるとすぐにバイトを始めて、二人で必死に家計を支えた。にも関わらず、小叔母は働きもせず、ガラの悪い彼氏を家に連れ込んではわたし達を酷使し、虐げた。
――――小叔母の彼氏に殴られ、蹴られ、そして犯された。小叔母は我関せずで、どころかわたしの身体と引き換えに彼氏に小遣いをせびった。兄はわたしを救けようとして、わたしより更に酷く暴力を振るわれた。辛い。いつか殺される。そう思った。
――――危惧が現実のものとなってしまった。日々エスカレートする小叔母の彼氏の暴行に、わたしは耐えられなかった。行為の最中に首を絞められ、そのまま戻って来られなかった。わたしはその光景を宙に浮かんで見下ろしていた。
――――兄が泣いていた。横たわるわたしの傍らで、痣だらけの動かないわたしの身体を揺すって。小叔母と彼氏は無情に兄に告げた。『燃料と薪を買って来い。街から離れた山の中で燃やす』と。
――――そうして。燃えるわたしの身体を見詰め続ける兄を、わたしは見下ろしていた。この身体では兄の涙を拭ってやることも出来ない。願わくば兄だけは、あの車でイチャイチャしてるクソな小叔母達から離れて生きてほしい。そしてわたしの分も、幸せに生きてほしい。
――――わたしの意識は、まるでホタルのような火の粉達と共に、天へと昇っていった。そして次に気が付いたら、この世界【エウレーカ】の、片田舎の領主の家で、産声を上げていた。
せ、セツコォオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!
あんた、あんたマジで苦労してたんやね……ッ!!
もうムリ! 辛い! この本冒頭が重すぎるっ!!
何が辛いって、内容もそうだけど多分コレを複写した人は、現文をそのまま、筆跡まで真似して書き写したんだろうってこと!
うん。
冒頭の一文以外、多分この世界の人には読めない筈の日本語で書かれてるの……!
ミリアーナに確認したら、その日本語の記述部分は、未だに解読が進んでいないとの事。
どうしよう。あたし一瞬で聖女セツコの過去について誰よりも詳しくなっちゃったよぉ……!
うっうっ……!
セツコォ〜、セツコォ〜〜っ!
あたしも大概クソな人生送ってきたけど、あんたあたしよりずっと大変だったんだねぇ……!
その後田舎の領主家でスクスクと育ったセツコ(本名【リリアンヌ=セツコ・クストリフ】)は、両親が推める孤児の救済事業に大いに賛同し、自ら率先してその事業を引き継いでいった。
そして保護している孤児達が違法奴隷商人の手勢に拐かされ、怒りと悲しみによって彼女の【聖女】の適性が目覚める。
単身で後を追い、人攫い組織を壊滅させたセツコは、救い出した子供達を強く育て導くことを決意。
これが後に有名になる史上初のSランク冒険者パーティー、【聖女団】の発足のキッカケだった…………と。
「凄いわぁ聖女セツコ。片田舎の領主の娘から、どんどん出世してくね。」
「私も子供の頃は良く母に寝物語に聞かされましたね。『聖女セツコのように、強く優しい女になりなさい』と、何度言われたか。」
ミリアーナの膝枕(いいだろぉ! しかも縦バージョンだぜぃ!)で彼女に本を持ってもらいながら、内容を読み進めていく。
「でもアレだね。やっぱり奴隷商人は悪っていうイメージも、こういう伝記とかからも来てるんだよね……」
「この伝記……どちらかと言えば手記の類いですが、確かに。ですがお嬢様、この中ではちゃんと“違法”奴隷商人と書かれていますよ!」
「明記してくれてるのはありがたいけどね。でも重要なのはそこじゃないの。違法か合法かはさて置いて、重要なのは奴隷商人が悪事に手を染め、子供達を攫ったという事。こうした記述があると、大抵の人には“奴隷は哀れなモノ”で、“それを扱う奴隷商人は悪人”ってイメージが根付いちゃうんだよ。」
「なるほど……! 確かに人は外側ばかりを見、内面を深く知ろうとまではしませんからね……」
「でしょ? だからあたし達も、できるだけ品行方正に、他人様に悪く言われないような組織運営をしていかないとね。」
本当に、それに尽きる。
他人の考えを変えるなんて、どだい無理難題な話なワケで。
せめて今在る奴隷商人への偏見や蔑視を拭うためには、まずは自分達が変わらねばならない。
聖女セツコの悲しい生い立ちには、深く同情もするし共感もしよう。
彼女がその適性と怒りと悲しみから強く奮起し、やがて一国を興す事ができたように。
同じ故郷で、程度や類いは違えども同じく虐げられて生きていて、そして命を落としたあたし……俺は。
彼女が子供達を護り慈しんでいたように、奴隷達を護り、確固たる信念に則って我が奴隷商会をより良いものに創り変えてみせる。
そう決意を新たにした、微睡みの中のお昼前を。
柔らかくて良いニオイのするミリアーナの膝枕(羨ましいだろぉ!!)の感触を楽しみながら、ゆったりと過ごしたのだった。
まったりほのぼの回(笑)でした!
同時に明らかになる【聖女セツコ】の出生の秘密……!
いや重てぇわ!!←
「面白い」
「セツコォオオオオッ!!」
「ミリアーナの膝枕だと……許せん!」
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次回!
マリア再び怒る!!