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第4話 成長〜親父を泣かす乳幼児・マリア〜

 

 あたし……俺は、1歳とちょっとになった。


 もう1年以上か。


 最初は夢かもって、そんなことも思ってたけど、そんなこともないわけで。


 今ではすっかり、女の子扱いにも慣れてしまった。


 ママンの素敵なおっぱいに誑かされて、はいはいをマスターしてからも、俺は精力的に筋トレに励んで脚を鍛え、早々に掴まり立ちを会得した。


 父親のスティーブと、母親のジョアーナの喜びようったら、凄かったな。

 やれ『天才だ!』だの、『神童よ!』だのと、右へ左への大騒ぎだった。


 それに気を良くした俺は、調子に乗って次なる試練、掴まり歩きにも挑戦したんだ。


 結果は、惨敗。


 頭が重たいの。

 バランス取るのが難しいの。


 見事にバランスを崩してすっ転んだ俺は、小さな――それでも俺と同じくらいの大きさだったけど――足台に頭をぶつけてギャン泣き。


 慌てふためく両親。


 そして次の日から、俺の周囲には掴まれる手頃な物が置かれなくなった。


 リベンジできないじゃねーか!!


 泣いたのは本能からであって、俺の内心は『ふおおおおっ!? 頭がっ! 頭痛が痛いっ!!』くらいだったのに。


『マリアの周りにこんな危険な物を置いとくなんて!! ヨナ、君が居ながら何故気付かなかったんだ!?』


『何よ!? アナタだって、マリアが掴まり立ちした時には泣いて喜んでたじゃないの!!』


 両親の喧嘩を観たのは、この時が初めてだった。


 流石に、俺のせいで2人が喧嘩するのは、悲しかったな。


 だから俺は、先ずは2人を止めなきゃって、必死に声を張り上げたんだ。


『ほぎゃああ! あだああううああおおっ!!!(やめてよ! 喧嘩しないでくれよおおっ!!!)』


 まあ、泣き声にしかならなかったけれども。


 いや、結果としては喧嘩は治まったよ。


 どうも、喧嘩をしたせいで、俺が余計に泣いてしまったと思ったらしい。


 2人も俺の前では喧嘩しない、って約束を交わしたみたいだ。


 いや、常に仲良くいてほしい。

 切実に。


 まあそんなこんなで。

 俺の気侭なウォーキングオブザベイビー計画は、俺のドジのせいでお預けとなってしまったのだ。


 かくなる上は、だ。


「あえんおああいああいうえおー。」


 滑舌の訓練だ!


 いつまでも「おぎゃー」だの「ほぎゃー」だの「ホワッチャアアッ!」だのじゃあ、何時まで経っても快適なベイビーライフには辿り着けない。


 何故かは知らないが、俺は両親の言葉がハッキリと解る。

 明らかに外人の見た目の、両親の言葉をだ。


 それなら、日々の筋トレと並行して、言語の習熟も目指してしまおうと、思い立ったのだ。


「ちゃちおちくいおちちゃちくえこー。」


 ……くっそ!

 か行が上手く発音できねえ!?


 柿の木栗の木かきくけこって言いたいのに!


 あと地味にな行もむずくね?!


「しゃしゃげいしゅおちゃえしゃししゅしぇしょー。(ささげに巣をかけさしすせそー。)」


 って、ちょっと待て。

 日本語の練習してどうすんだ俺。


 両親が話してるのって、絶対日本語じゃねーだろ!

 2人とも金髪だし、親父は明らかに外国人顔の、彫りの深いイケメンだし!


 あんなのが日本人であってたまるか!


 と、いうことはだ。


 俺は物の名前から、全部憶え直さないといけないわけか。


「あらあら。マリア、何をお喋りしてるのかなー?」


 おっと、我が母君のご降臨だ。


 絨毯に横座りして、俺においでおいでと手招きをしてくる。


 今日はおっぱいは出さない……はい、すいません。

 今行きます。


「あーうー、あ、あ、ま……まんま……」


 おお!

 はいはいして向かいながらママって練習してたら、それっぽく言えたぞ!


「ま、マリア!? 今、私のことを、ママって言ったの!?」


 うむ、その通りだとも。

 仕方ない、もう一度披露してやろう。


 ジョアーナの膝に辿り着き、横抱きに抱き上げられた俺は、寄せられたジョアーナ――俺の母親の顔を見ながら、言葉を発する。


「まんま、まーま、ままー、ママ!」


 うむ。

 我ながら可愛いママが言えた気がする。


「凄いわ! マリアは本当に賢い子ね!! もっと言ってみて!!」


 おいおい、おねだりかい?

 しょうがないなぁ、この欲しがりさんめ!


「ママぁ。じ……じょ……じょーじ………じょあー!」


 俺の小さな手は、ママの……ジョアーナの頬に触れている。


 広げた掌に、優しいお母さんの温もりが伝わってくる。


「じょあーあ……じょあーにゃ…………じょあーな! ママ! ジョアーナ!」


 よしっ!

 やっとまともに、ジョアーナって名前が言えたぞ!


 俺は内心で思いっきりガッツポーズを取りながら、ジョアーナの顔を見上げる。


 ふと、その頬に触れていた俺の手が、何かで濡れた。


 その正体は、ママが、ジョアーナが流した涙だった。


 うええっ!?

 なんで泣くんだよ!?


 俺名前言っただけだよな!?

 途中でちょっと、火星産のゴキブリみたいになっちゃったけど、ちゃんと言えてたよな!?


「ママ……?」


 慌てふためき声を掛けるが、ジョアーナは何を思ったか、俺を抱いたまま突然立ち上がり、駆け出した。


「アナタ! スティーブ!? 何処に居るの!? マリアが!! スティーブ!!??」


 これは、あれか?

 この子喋ったわよ!! って、報告するイベントだな?


 いやうん、百歩譲ってそれは良いとしよう。


 でもママ、もうちょいゆっくり移動してほしい。

 めっちゃ全速力で走らないでほしい。


 うん、超怖いの。

 おしっこ漏れそう。


 だがそこは俺。

 愛する母親の腕の中で漏らすなど、死んでも御免蒙る!


 耐えろ、俺の膀胱!!


「どうしたんだ、ヨナ。そんな大声を出して、はしたないよ?」


 父親のスティーブが、廊下に並ぶ内の一室から、扉を開けて顔を出てきた。


 そこは、スティーブの書斎だ。

 一度、彼に抱かれて入ったことがある。


 その部屋のには、大量の本が棚にビッシリと収められていて、シックな木の机と、物語の登場人物が座っていそうな、クッションの効いた椅子が置いてあり、印象に残っている。


 そこから出て来たスティーブの手には、インクを付けるタイプの、所謂羽根ペンが握られていた。


 書き物のお仕事中だったのかな?


「スティーブ、聞いて! マリアが喋ったの!! 私のこと、『ママ』って、『ジョアーナ』って呼んだのよ!!」


 ポロリ、と。


 スティーブの手から、羽根ペンが床に落ちる。


 ああ!

 床のクロスにインクの染みが!?


 しかし、そんな俺の心配を余所に、2人は一気に盛り上がる。


「ほ、本当なのかい、ヨナ!? 本当に、マリアが君の名を喋ったのかい!!??」


「ええ! 何度か練習するみたいに言ってたけど、最後にはハッキリと、『ジョアーナ』って言ったわ!!」


 おおーい、インク……ダメだこりゃ。

 そんなことは気にならないくらい、興奮しちゃってるよ。


「凄いじゃないか!! 是非僕にも聴かせておくれよ!!」


 おっと、これは俺を見世物にするつもりだな?


 だが良かろう!

 俺は今、とても機嫌が良いのだ!


 ……床のインクの染みは気になるけど。


「ねえ、マリア。もう1回、ママって呼んで? ママのお名前、言ってみて?」


 ふっふっふっ。

 しょおおがないなあああっ!!


 いいかスティーブよ! 親父よ!!

 耳クソかっぽじってよぉーく聴いとけよ!!


「あぅ……まんま、ママ。じ……ジョアーナ、ママ!」


 あーっはっはっはっはっ!!

 サイッコーの気分だ!!


 親父殿め、目ん玉が落っこちそうなほど見開いてるよ!


「どうよ、スティーブ!? マリアったら、やっぱり神童よ!!」


 よせやい母上様。

 照れるじゃねえかよ――――


「ほああっ!?」


 得意になっていて、対処が遅れた。


 油断した一瞬の隙に、俺は父親であるスティーブに、ママンの腕から強奪されていたのだ。


「マリアあああっ!! 凄いじゃないか!? そうだ! パパって言ってごらん!? 僕はパパだよ! スティーブって、呼んでみて!!」


「あだあああうあおおおっ!?(テメやめろくそこのおっ!?)」


 悪夢のシェケナベイビー再び。


 スティーブの手によって、俺は縦横無尽に振り回される。


 やめっ!?

 ちょっ! こらっ!?


「スティーブ! 乱暴はやめてって何度言ったら――――」


「あああっ!! かわいいマリア!! さあ、お父さんの名前を言ってごらん!!!」


 コイツ……!

 ジョアーナの制止も聴いちゃいやがらねぇ!?


 やめろ!

 髭を擦り付けんな!

 痛えんだよ、それ!!


「あびゃああああっ!! ほあああっ!!」


「あははははっ!! マリアは天才だあああっ!!」


 こんっのヤロウ……!!!


「おあっ……ぱ……ぱーぱ、やああっ!」


「え!? なんだって!? 今、パパって言ったのかい!?」


 振り回されながらも、必死で絞り出した言葉に反応して、その手を止めるスティーブ。


 今だ、今しかない!!

 ハッキリ伝えるんだ、この切なる思いを!!


「ぱ、ぱーぱ、いやああああああああああっ!!!」


 ピシリッ、と。


 そんな音が聴こえそうな感じで固まった、スティーブ。


「パパ、いやああ!! こあいっ! しげ(髭)、いちゃい!! やああああっ!!」


 どうだコノヤロー!

 俺の魂の叫びだ!!

 響いたかコンチクショーッ!!


「ほら見なさいスティーブ! アナタが懲りずに乱暴にするから、マリアに嫌われたわよ!? よーしよーし。マリア、ママの方へいらっしゃいね〜。」


 俺はママンに救い出され、安息の地であるオパーイへと辿り着いた。


 ふぅ……今回は、流石にキツかったぜ……


「ま、マリア……パパ、嫌って……」


「当然でしょ、あんなに乱暴に振り回して! あとお髭! マリアも痛がってたでしょ!? 剃りなさいっ!!」


 うむ、激しく同意だ。


 世の父親達よ。


 髭をカッコつけで伸ばすのはいいさ。


 だが、絶対に赤ん坊に擦り付けるな。


 殺意すら覚える。


 赤ん坊の肌は弱いんだからな!!!


 まあ、相手が喜ぶのならやってやればいい。


「まりあああああっ!!! ごめんっ! ごめんよおおおおお!!! パパを許しておくれえええええ!!」


 ふん!


 謝ったって、今日は絶対に許さないからな!

 何度注意されてると思ってるんだ!


 それに親父、あれ! 羽根ペン!!

 落としたまんまで、シミがエライ事になってんぞ!?


「あらやだ!? アナタ、ペン落としてるじゃない!? あーあ、こんなにシミになって……!」


 やっと気付いてくれたか、ママン。


 そーなんだよ。

 これ、どうすんの?


「まりああああああっ!!」


「ホントにもうっ。――――清めの水よ、清涼たる風よ。【清掃(クリーン)】!」


 …………え?!


 何今の?!

 ジョアーナが一言呟いたら、床のシミがポワアッて光って……消えちゃった!?


 え!?

 待って!?


 まさか…………魔法!?


 え、ちょっと待って!?


 俺って、もしかしてもしかすると…………魔法の在る世界に転生してるのおおおおおおおお!!!???


「まりああああああっ!! パパが悪かったよおおおおおおっ!! 許してええええええええっ!!!」


 ああもう!


 親父、うっさい!!!




さて、遂に異世界だという事に気付きました!


どうするマリアちゃん!?


「面白い!」

「続きはよ!」

「スティーブうるせえ!」


と思いましたら、評価や感想、ブクマをお願いします!


執筆スピードが上がるかもしれません!

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