第39話 マリアは懐かしの和の味を堪能する!
いつもお読み下さり、ありがとうございます!
昨日は処女作の方の【ダンジョンだからって】の方の更新日でしたが、急用が入り書けませんでした。
明日は書きますので!
今作と併せて読んで下さっている皆様には、お詫び申し上げます。
決算報告、任務報告、調査報告、人事考課報告、備品稟議書、消耗品発注書、手当申請書、遠征費請求書、etc、etc……
「書類が……減らない……!」
あたしマリア。
12歳の女の子だけど、本当の海でなくて書類の海でダイビング中。
「マリア会長。こちらは来月度の勤務表の草案です。確認をお願いします。」
「おっふ。カトレアさぁーん、ちょこーっと書類仕事手伝ってかない?」
「マリア会長。残念ながらそれらの書類は全て、会長の最終確認のみとなった物です。わたくしに手伝える事はありませんよ。」
「マジかー。」
「マジです。優先度の高い物はこちらの山に纏めてありますので、そちらから確認をお願いしますね。」
「あーい、ガンバリマース。ねえ、今日のお夕飯は何か聞いてるる?」
「確か、マリア会長のリクエストだとムスタファが言っていましたよ? 何なのかは出してからのお楽しみだとも。」
「ホントっ!? 遂にやったのねムスタファ! 流石は【料理職人】!」
「それはわたくしも認めるところですが、一体何を注文したのですか?」
「え? 内緒に決まってるじゃんっ。書類を半分減らしてくれたら教えてあげないこともないけど?」
「では結構です。夕食までの楽しみとしておきますね。」
「取り付く島もない!?」
最後に『頑張ってくださいね』と微笑みながら言い残し、カトレアさんはにべも無くあたしの部屋を後にしていった。
おのれカトレアめーっ!
いたいけな12歳の女の子に任せる量じゃないでしょー!?
「はぁ……! まあ、カトレアが【総務部】の方でだいぶ減らしてくれてるのも、分かっちゃいるんだけどねぇ……」
一通り無意味な抵抗をしてみたものの、やはり書類の山は消えてはくれないわけで。
「今は……もう夕方の四時前か……! 優先度の高いのだけでも終わらせなきゃ、夕飯が遅くなっちゃう……っ!」
壁に吊るされた時計で時刻を確認し、焦りを覚える。
今日の夕飯には、待ちに待ったアレが出されるらしいんだもん。
出来たて熱々を食べられなきゃ、頑張って作ってくれたムスタファに申し訳が立たないよっ!
「よし! やるぞあたし! あたしはやれば出来ないこともない子っ!!」
袖を捲って気合いを入れ直し、あたしは再び書類の海にダイブしたのだった。
◇
「みんなぁ……おつかれさまぁ……!」
「お、お嬢様……!? お嬢様の方がお疲れに見えますが……!」
「会長!? だ、大丈夫ですかっ!?」
夕食の時間ギリギリになってようやく、あたしは最低限の書類を確認し終えたよ。
うぅ……手首と指が痛ぁい……! 首と肩と腰とお尻が凝り固まってクキクキ言うよぉ……!
あたしまだ12歳なのに、12歳なのに……っ!
「だいぶ疲労が溜まっていらっしゃるようでございますね。本日はお早めに休まれた方がよろしいかと。」
「うん……そうするよぉ……」
家族三人が使っていたダイニングに顔を出したあたしに対して、ミリアーナ、ルーチェ、バネッサが口々に心配する声を掛けてくれる。
「失礼します。マリア会長、お仕事お疲れ様でした。」
「あい〜……カトレアもねぇ〜……」
「……申し訳ありません、マリア会長。月度の締めが近かったもので、どうしても書類が増えてしまい……」
「分かってるから大丈夫だよぉカトレアぁ……」
あたしの後にダイニングに入って来たのは、夕方に別れて自分の仕事に戻ったカトレアだ。
先日に休暇態勢の話し合いをしてから少しは仲良くなれた気がしたので、カトレアも一緒に食事を摂らないか誘ってみたのだ。
結果はご覧の通りだね。
それからは、あたしとミリアーナ、バネッサ、ルーチェ、カトレアの五人で一緒にご飯を食べるようになったの。
アンドレとムスタファ?
アンドレは『女ばっかの中じゃあ気が休まりませんよ』って言って逃げたよ。
ムスタファは食堂の厨房で従業員や奴隷達の相手をしてるからね。
トップの責任感からなのか、最後の一人が食事を終えるまでは、絶対に厨房から動かないの。
「マリア会長、お食事前の薬膳茶でございます。少しでも疲労を解せればと調達致しました。」
「ありがとバネッサぁ……」
夕食が運ばれて来るまで、バネッサが淹れてくれた食前茶で会話を楽しむ。
はあ〜っ! こうしてると、一日良く働いたなぁーって思うね!
薬膳茶って言ってたけど別に渋くも苦くもないし、なんだかホッとして疲れが溶けていくみたい。
「失礼致します。お夕食をお持ち致しました。」
みんなで和んで一日の事を振り返っていると、我が商会の【侍従部】に所属するメイド奴隷二人が、ワゴンに載ったみんなの夕食を運んで来た。
そのまま静かに、手際良く食卓に料理を並べていく。
「む? コレは……? 見た事の無い料理だな?」
「ホントですねっ。黄色くて四角くて……何の料理でしょうね?」
ミリアーナとルーチェが、各人の前に置かれたソレを観て首を傾げる。
そう、ソレこそが……!
「コレが……マリア会長がムスタファにご依頼なさったというお料理でございますか。」
「何と云うお料理なのですか?」
うふっふっふっ。コレぞ日本の食卓に燦然と輝く、“出汁巻き玉子”よっ!
ムスタファ凄い! 見た目完璧じゃないのっ!
……と得意気に宣う訳にもいかず、あたしは予め用意しておいたシナリオを諳んじるよ。
「“出汁巻き玉子”っていう、ニホンのお料理らしいんだけどね。ジョアーナが聞いた通りに作れないってボヤいてたのを思い出して、それでムスタファに相談してみたの。」
「タマゴ料理ですか。綺麗な黄色でホカホカと湯気が立って、とても食欲を唆りますね、お嬢様!」
「は、早くっ、温かい内に頂きましょうよっ!」
「美しい四角形に焼ける物でございますね。調理器具に工夫があるのでしょうか……?」
「わたくしもこのようにシンプルで、しかし美しく美味しそうなお料理は初めて見ます。」
四人が口々に出汁巻き玉子を観て感想を述べる。
まあ待ちたまえよキミ達。
食事の前に、ちゃんと食材と料理人に感謝の挨拶をしなければね!
「それじゃルーチェの言う通り、冷めない内に食べましょう! いただきます!」
「「「「いただきます!」」」」
早速あたしは玉子焼きのお皿を引き寄せて、お箸が無いので邪道だけどナイフとフォークで一口分を口に運ぶ。
「あふっ、あふっ!? ンン〜〜〜〜ッ♪♪」
た……たまりません……!
たかが出汁巻き玉子だけど、夢にまで見た和食だよぉ……ッ!!
口の中でホロホロと身が崩れて、深味のある出汁がジュワッと玉子から染み出してきてとても美味しい……ッ!!
ああ……これで大根おろしとお醤油も有ればカンペキなのに……ッ!
そして何よりも懐かしいのがこの出汁の味!
カツオ出汁と昆布出汁を思わせるコクのある風味豊かな出汁が、玉子焼きの味を何倍にも何十倍にも昇華してるよ!
ムスタファ、ホントに凄いよ!?
あたしのあの拙い解説で、この料理にピッタリの出汁を探し当てたんだよね!?
流石は潜在力“SS”の【料理職人】様だよぉッ!!
「コレは……! 何とも風味豊かで味わい深いタマゴ料理ですね……! わたくしこんな味は初めて食べました……!」
「美味い……! コレは手が止まらんぞ……っ!」
「美味しい、美味しいぃ〜っ! わたし生きてて良かったですぅ〜っ!」
「オムレツとも茹で玉子とも、ましてや目玉焼きとも全く異なる風味、食感。コレが【聖女セツコ】の故郷、ニホンのお料理なのでございますね……!」
ふっふっふっ。そうだろうそうだろう。
我が故郷日本の和の真髄、それ即ち“出汁”に在りィッ!!
や、あたしは前世では碌に料理はしなかったけどね?
だって仕事があり過ぎて、終わったら一分一秒でも長く寝たかったんだもん。
朝ご飯やお弁当なんかは歩きながら食べられるコンビニのおにぎりとお茶のペットボトルよ。
食事休憩? そんなモン書類とパソコンとご一緒だったよちくしょうっ!!
「マリア会長。奥様が苦心なされたというのは、この四角い形でございましょうか?」
おっと、前世を思い出して居た堪れない気持ちになっている場合じゃないね。
バネッサの鋭い指摘に的確に答えを返さねば!
「そうなの! ウチにあった調理器具じゃ、どうしても聞いた話の四角い形に焼けないって、ずっと悩んでたんだよねー。」
はい、口からデマカセでごめんなさいっ!
そもそもジョアーナは出汁巻き玉子の存在も知らないし、出来ないのなんて当たり前だよ。
だってこの世界、玉子焼き用の玉子焼き器が無いんだもん!
先日ムスタファに銅製の調理器具の存在を入れ知恵した時に、玉子焼き専用の焼き器の事も教えておいたのだよ。
四角いフライパンなんてムスタファを以てしても見た事も聞いた事も無かったらしく、偉く感激してたよね!
ついでに出汁巻き玉子だけでなく、普通の玉子焼きや甘い玉子焼き、中に色々な具材を混ぜ込む玉子焼きなど、色んなバリエーションも教えておいたよ!
うん。
和食に於いて魚料理と双璧を成すと言っても過言ではない玉子焼きが有れば、あたしの和食シックも少しはマシになるでしょうよ。
そうしてあたかもムスタファとあたしが協力して、画期的な発明をしたかのように振る舞いながら。
あたしは本当に久し振りに味わう和の心を、ゆっくりと噛み締めていたのだった。
「あふぅ……! 幸せぇ〜っ。ごちそうさまでした!」
「「「「ごちそうさまでした。」」」」
正直洋の食卓に一品だけ和食の玉子焼きというのも異色だったけれど、あたしもみんなも、それは大満足なお夕飯でした♪
本音を言えばお米が食べたいけどね!
お米に関してはアンドレにも頼んで、目下のところ捜索中だよ!
ニッポン人ならやっぱりお米が食べたいよね!!
こんなに美味しい出汁巻き玉子食べちゃったら、益々お米への欲求が高まっちゃうよ!!
やっぱり子供だからか、食べるのが遅いあたしを待っていたみんなと一緒に、食後の挨拶をする。
そうすると部屋の隅に控えていたメイド奴隷が音も無く食卓に近寄って来て、無言で空いた食器を下げ始める。
もう慣れたけど、これも【侍従部】の研修科目の一つなのよね。
貴族などの上流階級の晩餐の支度や作法などを学ぶのも、彼女達にとっては立派なお仕事なのよ。
「失礼致します。食後のお茶とデザートをお持ち致しました。」
下げた食器をワゴンに載せて、僅かにカチャカチャと音を鳴らしながら退室するメイド奴隷二人。
それと入れ替わりに、一人のまた別のメイド奴隷がティーセットをワゴンに載せて入って来る。
ちなみにだけど、ミリアーナ達は子供のあたしに遠慮してか、食事の時も食後にも、一切お酒を飲まないの。
みんな成人してるんだし、気にしないで飲んで良いよって言ったら、なんて返してきたと思う?
ミリアーナが代表してね。
『お嬢様が15歳の成人を迎えられましたら、その時にご相伴に与ります。一緒に祝杯を挙げるのを、楽しみにしています。』
だって。
もう照れ臭いやら何やらで、あたしゃ何も言えなかったよ……!
あたしだって楽しみだよくそーっ!
早く大人になりたぁいっ!!
と一人で悶々としていると、いつの間にやらお茶とデザートが全員に行き渡っていた。
今日のデザートはヨーグルトシャーベットだね!
ムスタファが【調理部】部長兼、商会の料理長になってからというもの、毎日の夕食にはデザートが付くようになったのよ!
なんなのもうっ!
あたしってば、あの漢女にマジで胃袋掴まれたよね!
ほんのりとしたヨーグルトの酸味が、食後の口の中をサッパリさせてくれるね。
甘さも強過ぎずシャーベットの硬さもちょうど良くて、口に入れた瞬間に溶けて甘味と酸味が広がっていく。
幸せアゲインだよぉ〜♪
「はぁ〜っ。今日のご飯も美味しかったね! なんか最近、この時のために生きてるかも。」
「分かりますよ会長っ! わたしなんて外出が長引いてムスタファさんのご飯が食べられないとなると、もう何処で食べたら良いのか分からなくなっちゃいましたもんっ!」
「この味を知ってしまうとどうしてもですね。酒場などの料理は美味しいは美味しいのですが、どうも大味に感じてしまうようになってしまいましたね。」
「うんうん。それだけムスタファの料理は繊細で、手間暇と思いが込もってるってことだね!」
こうしてあたしはいつも通りの、仲良しのみんなと過ごす食後のひと時の幸せを噛み締めて、お茶と一緒に大切にお腹に仕舞い込んだのであった。
カンペキなほのぼの回でしたね!
如何でしたか?
「面白い」
「ほのぼのも良いね」
「出汁巻き玉子食べたい」
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