第36話 マリアは各部署を視察する!③
アシナガバチにお尻の下(右裏腿)を刺されました!!
はい! 言い訳です!!
でもホントなんですよ……!
いつもお読み下さり、ありがとうございます!
遅くなりましたが、お楽しみください!
ムスタファ、アンタって人は……!!
マジ最っ高の料理だったよおおおおおおおッ!!!
あたしは食後のお茶を飲みながら深くソファに座って、能力“A+”、潜在力“SS”という規格外の【料理職人】の昼食の余韻に浸っていた。
ああ……このままこの多幸感に包まれて眠りたい……!
午後を丸々怠惰に寝潰したい……ッ!
「コレもう仕事したくなぁーいなぁー!」
「解ります、お嬢様……! この料理は……この味を知ってしまったら、他では満足できませんね……!」
「あふぅ……! 会長……わたし生きてて……会長の奴隷になってよかったです……っ!」
「マリア会長、お仕事はキチンとなさって下さいませ。ミリアーナの意見には賛成ですね。これから【調理部】として独立しムスタファが指揮を執るとなると、後々には商会の食事があの水準となる訳ですね。それからルーチェ、マリア会長の前であまりだらしない格好をしないように。」
ダイニングで独り寂しくご飯なんて嫌なので、あたしは大好きな三人と良く食事を摂る。
で、今日のお昼ご飯は午前中に視察をした【侍従部】の中の“調理部門”で話をした、後に創立予定の【調理部】の部長候補筆頭料理人、【ムスタファ】の料理をメインに食べたのよ。
もう四人で夢中になって食べてたよね!
評価をする関係で普段から食べているであろう【侍従部】部長のバネッサですらも、黙々とナイフとフォークを動かし続けてたんだもの。
で、今はあたしの執務室兼自室で、ソファに腰を下ろして一服中って感じだね。
「もしかしたらムスタファなら……日本の料理も再現出来るかも……」
「お嬢様? ニホンの料理とは、いったい……?」
あ、まずっ!?
思わず口を衝いて声に出しちゃってた!?
「ニホン……何処かで聞いたことがあるような……?」
待ってルーチェ、お願いだから深堀りしないで!?
「御伽噺では? 確か過去にこの世界に舞い降りた聖女様が、“ニホンの民だ”と話していたとか、書物に記述があったと記憶していますが。」
「ああ! それですっ!」
え、そうなの?
え、過去に日本人来てたのこの世界!?
いやまあ、あたしなんていう転生者が居るワケだから、過去に例が有っても不思議は無いんだけどさ!
「確か……【聖女セツコの建国記】でしたねっ。」
セツコオオオオオオオオッッ!!??
なんなのその薄幸そうな聖女さんはああああッ!?
あたしは思わず口に含んだ紅茶を噴き出しそうになりながらもなんとか耐えて、動揺を抑え込んで話の続きに耳を攲てる。
ここで“知らない何それ”は悪手!
全力で知ったかぶりして、さっきの失言を挽回しつつ節k……ゲフンッ! 聖女セツコの情報ゲットだよッ!!
「語り出しは……『宙に浮かぶ無数の光を、わたしは空から見下ろしていた。光は火の粉のようで、炎を上げるわたしの身体の傍らの兄を照らし、まるであの日見せてくれた沢山のホタルのよう……』」
アカァーーーーーーーンンンッッ!!??
これアカンやつやあああああああッ!!??
え? ええ!?
待って!? 創作だったよね!? フィクションだったよねぇッ!!??
あたしの手に持つティーカップが、カタカタとソーサーに当たり音を立てる。
「お嬢様? どうかしましたか?」
「え!? う、ううん! なんでもないよ!! そ、それで……聖女セツコの好物は何だったっけ!? あたしも記憶が曖昧でさあ!!」
た、頼むぞ……! 間違っても“ドロップ”なんて言ってくれるなよぉ……!!
「確か……晩年に繰り返し『カレーが食べたい、オスシが食べたい、ママが作ったハンバーグが食べたい……』と、病の床で仰っていたと。」
よ、良かったあああああああああッッ!!!
そうだよね!? 別人だよねセツコ!!??
あたしは頭の中では必死に手を交差して水平に開く動作を繰り返しつつ、表では平静を装って、カップをテーブルに置いた。
「な、なんだかあたし、また読みたくなっちゃったなぁ! バネッサ。時間がある時で良いから、その本、手に入らないかな?」
「安価な写本でしたら、そう難しくないかと。手配致しますか?」
「うん、お願いね。」
件の節〇とは別人だという事は嗜好品から判ったけど、ここに来て貴重な異世界人の、恐らくは日本人の転生者のお話だもんね。
いや、決して冒頭のワンシーンが気になる訳では断じて…………ごめんなさい気になりますぅ!!
どーしたらあんなに酷似したシーンが産まれるワケ!?
聖女セツコ、アンタいったい“向こう”でどんな生活してたのよッ!?
とまあ、昼食後の穏やかな余韻など全て衝撃にカッ攫われ、そんな不穏なティータイムを経て、あたしは再び商会の部署の視察へと赴いたのだった。
◇
さて、やって来ました【研究部】!
ここではルーチェが部長となって、今は魔法研究と薬学研究を並行して行っているよ。
確か魔法は、ルーチェの魔力増加訓練の“枯渇式”を試してるんだったよね。
それで薬学の方は、安価な新ポーションのレシピの研究だったかな?
「会長、お疲れ様ですっ!」
「「「「……………………ッ!!」」」」
え、あの……ルーチェさんや?
何なの、この死屍累々は……?
「ええぇ……? る、ルーチェ、みんなどうしたの……?」
「ああ、皆さん“枯渇式”で魔力枯渇を起こしてるので、ちょっとご挨拶出来なかったみたいですねっ。あ、でもちゃんと手を挙げたり振ったりしてますよっ!」
「「「「………………ッ!!」」」」
いや、いやいや! そんな無理して挨拶しなくていいからぁ!?
確かに魔力が枯渇すると、すっごいネガティブな感じになって動くのも怠くなっちゃうけどさ!?
「こ、これは……大丈夫なの……?」
「はい、大丈夫ですよっ。最初は一日に一度しか使えなかったんですが、今では午前と午後の二回も“枯渇式”を試せるようになったんです! 皆さん順調に成長してますよっ!」
そ、そうなのね……!
ルーチェってもしかして、結構なスパルタだったりするのかな……?
あたしの授業の時は懇切丁寧って感じだったけど……
あれかな、恩人だから〜とか、そんな感じで手心を加えてたのかな……?
「“枯渇式”で魔力を使い切ったら、魔力の回復量を観察しながら詠唱文の勉強をしてますっ。わたしが課したノルマを越えた人は、その後は術式の改良と新魔法の研究に移るんですっ。」
「新魔法? 新しい魔法を創るの?」
「はいっ! 一流の魔導士とは、必ずと言っていいほど固有の魔法を持ちますっ。それぞれが術式の研究を重ねて、改良し改竄して自分だけの魔法を創るものなんですっ。それを“独自魔法”と呼びますねっ。」
「へぇー! つまり魔導士にとっての“切り札”ってワケね!」
「その通りです。そしてそれと同時に“オリジナルスペル”は、保険にもなるんですっ。」
「保険……?」
「会長はご存知だと思いますが、魔法の研究には結構な資金が必要ですっ。また冒険者として稼ごうにも、魔導士一人では多くの戦果は望めませんよね? そういった時に、“オリジナルスペル”を【魔導士ギルド】に公開して、売却するんですっ。」
「えーと……つまり、独自の魔法の独占権を売るって事?」
「その通りですっ! 魔導士ギルドがその魔法と術式、詠唱文を査定して、それに見合った額を払ってくれますっ。買い取られた“オリジナルスペル”はギルド発行の魔導書に登録されて、世の人の目に触れて誰でも使えるようになる、という仕組みですねっ。」
「うわぁ……なんだか利権の匂いがプンプンするぅ……!」
「(あはは……っ。 そうですね……わたしの適性のように、何かしら事情が有ってギルドに登録できない、所謂野良魔導士なんかは、たとえ優秀な“オリジナルスペル”を売ろうと思っても買い叩かれてしまいますねっ。)」
やっぱり……!
何処へ行っても利権のある所には金の亡者が集まるモンだよね。
小声で裏事情を教えてくれたルーチェに苦笑いを返して、あたしは研究に勤しむ奴隷達を見回す。
「せめてウチで産まれた研究成果は、ちゃんとした形でそれぞれに還元してあげないと……!」
みんなが苦しみながら産み出した新しい魔法なんだからね。
いっそウチ発行の魔導書でも出版する?
名前はそうだね……【ワーグナー魔導研究書】とか?
その魔法を開発した人の名前や素性も、ちゃんと紐付けて紹介して売り出せば……うん。ウチの宣伝にもなるし、情報料はルーチェに査定してもらえば問題なさそう。
あたしはそんな閃きをルーチェに耳打ちで伝える。
「す……素晴らしいです、会長っ! 早速皆さんに伝えてもいいですかっ!?」
「わあああっ!? 待って待って!? まだ構想段階だからっ! 部長会議で提案して問題点とか色々探らないと……! みんなをぬか喜びさせても困るでしょっ!?」
「あっ……! そ、そうですよねっ……! すみません、先走ってしまいました……っ!」
危ない危ない……!
ルーチェってば偶にこうしてズンズン突き進んじゃうから、気を付けてないとね……!
「まあ、それはまた次の機会だね。みんなには引き続き頑張ってもらってね。あ、でもあんまり無理はさせないようにね……?」
「はいっ! “成果は褒める”、“一度の失敗は怒らずに次に活かす”、ですねっ!」
「うん、よろしくね。」
あたしの前世の知識――“部下への対応マニュアル”の内容を諳んじるルーチェ。
そうそう。叩いて伸びるのは反骨心の強い人だけだからね。気の弱い人をガンガン追い込んでも、ただ潰してしまうから。
あたしも改めて気を付けなきゃね。
……もしかしてこれも、“商会の禁則事項”とやらに載ってるのかなぁ……?
「それでは後は、薬学研究の方ですねっ! ご案内しますっ!」
あたしは張り切るルーチェに案内されながら、その後は薬学研究部門の研究を見学して回った。
魔法研究の成果の保証もだけど、こっちの新レシピの保証も考えなきゃなのよねぇ……!
定時会議でも話題に上がったけど、ポーション等の薬剤の利権は【錬金術士ギルド】が牛耳ってるから……
折角の奴隷達の成果を、利権で私服を肥やす連中には利用されたくないよね、やっぱり。
ちょっと本腰を入れて話し合わないとなぁ……!
◇
「マリア会長、ようこそ【総務部】へ。」
「「「「お疲れ様です! マリア会長!」」」」
……カトレアさん、さては他の部署の真似したな……?
昨日まではこんな“全員起立して礼”なんて無かったもんね!?
視察中真剣に頷いてたのは、コレのせいか……!!
ここ【総務部】では、全部署の情報統括の他には、商会の会計関連、奴隷の取り引きに関する事柄、所属従業員や奴隷達の情報管理など、まさに字の如く総合的な役割を担っている。
我が【ワーグナー商会】の元々の従業員なんかは、その経験を活かして大体がここの所属となる。
そして、それを統括する部長のカトレア。
「前会長のスティーブ様は、経営に関しても優秀で居られたのですね。従業員それぞれが己の役割を理解し、率先して己が職務を全うしています。伯爵領行政府でも見習いたいほどですよ。」
「伯爵家財務次官様に褒められるなんて、あたしも鼻が高いね。まあ、ほとんどは先代……お父さんの功績だけどねぇ。」
「いいえ会長。誰が何と言おうと、現会長は貴女です。伯爵閣下もお認めになられております。そして彼等もそんなマリア会長について行こうと決め、今もこうして務めを果たしているのです。それは紛れも無く貴女の人徳であり、功績です。もっと自信を持って下さい。」
カトレア…………そんな、優しく微笑まないでよぉ……ッ!
あたし……泣きたくなっちゃうじゃんかぁっ!
「あ、ありがとカトレア。ここはみんな一緒に働いてきて知った人ばっかりだし、特に問題も無さそうだね?」
不意打ちの褒め言葉で緩んだ涙腺を誤魔化しつつ、視察本来の役割を果たそうとするあたし。
カトレアはそんなあたしに気を使ったのか、特にツッコミもせずに。
「そうですね。月度決算まではまだ期間が有りますし、遺憾ではありますが特に取り引きの依頼も入っていません。精々が備品の稟議書への対応や、消耗品や食料品の内容精査くらいですね。」
本日の午後もデキる女オーラ全開で、淡々と業務連絡をしてくれた。
ぶっちゃけ素なのか気遣ってくれてるのか分かんないけど、今はそれがありがたいかな……?
「了解だよ。それは改めての報告書で確認するとして、それよりも今日視察した事で色々と改善点と言うか……試してみたい事も見付かったんだよね。ムスタファの面談と【調理部】設立の話し合いまで、少しカトレアの知恵を貸してくれる?」
あたしは日頃最も関わりの深い【総務部】の視察は早々に切り上げ、思い付いた事の相談を持ち掛ける。
そうだよ。
さっき視察した【研究部】の成果の利権問題や、他にも関係各所への働き掛け等、問題は山積みなんだから。
「わたくしで良ければ、微力を尽くします。何なりとご相談下さいませ、マリア会長。」
あたしマリア。
現在、我が【ワーグナー商会】は組織改革の真っ最中。
今日はみんなの希望もあって、組織改編した商会の各部署を視察したの。
奴隷達はみんなそれぞれの適性に合った部署で、伸び伸びと、活き活きと働いてくれてたよ(一部ゾンビみたいになってたけど)。
あたしは前会長とは……スティーブとは違う。
改めて、そう思った一日になりました。
でも、これがあたしが良いと思った商会の形だから。
だから、迷わずに突き進みます。
大丈夫だよ、スティーブ、ジョアーナ。
あたしは楽しく生きてるよ。
奴隷達に囲まれて、従業員達とも仲良く一生懸命に頑張ってるから。
だから、安心してください。
二人が産んでくれたこの命も、二人が遺してくれたこの商会も、奴隷達も。
…………俺が、ちゃんと護るから。
いやお尻の事は良いんですよ!(誰も言ってない)
さて、三回に渡り各部署の紹介をして参りました!
如何でしたか?
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