第32話 マリアは伯爵から御褒美を賜わる!
遅くなりましたー!
毎度の事ながら、夜勤中に投稿でございますっ(汗)
なんでコレの更新日ばっかり、夜勤に当たるかなー?
お楽しみください!
ちょいちょいちょいちょーい!?
なんだか物騒な展開になってきたけど、ホントに大丈夫だよね!?
「ああ……! ミリィお姉様、ステキ過ぎますっ……!」
うんルーチェ、それには全面的に同意する……じゃなくてッ!!
「バネッサ、ミリアーナは大丈夫って言ってたけど、ホントに平気なのかな……?」
「さて、それは直接対峙した事のある、アンドレに訊ねた方がよろしいのではないでしょうか?」
「え!? アンドレ、あのアレクセイって騎士様と戦った事があるの!?」
「あーいや、俺が剣を交えたってワケじゃねぇんですけどね。俺が入っていた盗賊団の討伐部隊に、当時15歳だったアイツ……【アレクセイ・コールマン】卿が参加していたんですよ。当時ですら部隊長を任されていた程の、所謂“神童”ってヤツっすね。」
「神童……」
あたしはちょっと遠いけど、そのやたらカッコイイ名前のイケメン騎士に職業技能[人物鑑定]を行使する。
「げ……ッ!?」
名前:アレクセイ・コールマン 年齢:30 性別:男
職業:騎士団長 適性:大将軍 魔法:水・土
体調:興奮状態 能力:A 潜在力:S
「マリア会長、はしたのうございます。」
「うっ……! ごめんなさい……」
じゃなくて! 【能力】Aってミリアーナと互角じゃん!? 【潜在力】では彼女の方が勝っているけど、魔法の適性は真逆だし、何より職業適性が【大将軍】って……!?
なんでそんな人が伯爵の部下やってんのよーッ!!??
「これは面白い勝負になりそうですね。」
「だな。“ワーグナー商会最強”対“ムッツァート騎士団最強”か。とてもこんな伯爵領なんかじゃ拝める試合じゃねぇわな。」
ちょっ!? バネッサもアンドレもなんでそんなに落ち着いてるのよーッ!?
これヤバイって! ルーチェからも何か言ってよ!!
「ああ……ミリィお姉様ぁ……!」
ダメだコイツ……! 早く何とかしないと……!
ちょ、ヘレナぁーッ!!
「“【赤光】のミリアーナ”と“【竜槍】のアレクセイ・コールマン”の戦いがこの目で観られるなんて……! 会長の奴隷になって良かった……!!」
コッチもダメだったぁーッ!?
そうだよね!! アンタはミリアーナに指導してもらえるって理由で商会に来たんだったね!?
ちなみにヘレナの鑑定結果はコレね!
名前:ヘレナ 年齢:19 性別:女
職業:マリアの奴隷 適性:重戦士 魔法:土
体調:興奮状態 能力:C+ 潜在力:A+
まだまだ発展途上って感じかな?
ミリアーナに憧れて冒険者になったは良いけど、背伸びして難しい依頼を受けて失敗。借金が返せずに奴隷落ちってパターンだったね。
適性と元々の戦闘スタイルが噛み合ってなかったから、ミリアーナに助言をさせて現在重戦士目指して教育中なのよ。
多分ソレも、依頼失敗の一因だったと思う。
って、そんな事回想してる場合じゃないのーッ!!
「ね、ねぇアンドレ。あのアレクセイって人、二つ名まで持ってるの? 【竜槍】って……?」
「ああ、そうっすね。なんでも伯爵領の隅っこにある街を“魔物の暴走”が襲って、そこに彼を含む救援部隊が送られたそうっすね。
そのスタンピードの原因になっていたのが、一匹の歳経た“翼竜”だったそうで。街の外壁を取り囲むモンスター達を部下に任せて、少数の手勢だけ連れてそのワイバーンを討伐に向かったそうなんすよ。
で、ワイバーンと対峙して、これをほぼ単独で撃破。住処を追われていたモンスター達も、ワイバーンの気配が無くなり程なくして沈静化。街は既の所で救われたって話っす。
その褒美として先代伯爵閣下から、“竜を討った者”って意味を込めて【竜槍】の二つ名を与えられたんだそうで。」
ほぇー! そんな事があったんだぁ……!
って、尚更ヤバイじゃんッ!?
ワイバーンって、冒険者ランクで言えば討伐適性パーティーランクならBランク、単独ならAランクだったよね!?
ってことは対モンスター戦闘でも、騎士アレクセイはミリアーナと互角って事になるよね!?
ミリアーナ、ホントに大丈夫なのッ!?
「それでは、双方準備はよろしいか!?」
ああああっ!! は、始まっちゃううう!?
ザムド子爵の号令に愛剣を抜き放ち構えるミリアーナと、漆黒の柄に金の装飾が美しい槍を回転させてから、ピタリと構えを取る騎士アレクセイが対峙する。
って、【竜槍】って二つ名だもんね! そりゃ当然武器は槍だよね!!
ただでさえ実力は互角なのに、槍対剣だなんて、戦いの素人であるあたしにだって剣が不利なのは知っている。
その理由はリーチの長さ。
剣の間合いに踏み込むよりも早く、槍なら攻撃できるんだもん。
ますます心配だよぉ……!!
「それでは、真剣を用いた魔法有りの第三試合、始めッ!!」
あぁーんッ!! 怖いけど頑張ってミリアーナ!!
あとみんな!
解説よろしくお願いします!!
「お、開幕早々【竜槍】が仕掛けたか。【水刃】を弾幕にして距離を詰めてるな。」
「恐らくあの槍も、魔法媒体のひとつなんでしょうね。魔力の“練り上げ”もスムーズで、質も量も申し分ありませんっ。」
「ミリアーナは……なるほど。不利な火属性ではなく、風属性の【風鎧】を纏って躱しながら間合いを詰めていますね。」
遂に始まった第三試合。
アンドレ、ルーチェ、バネッサの解説でなんとか状況を把握しながら、舞台中央で動き出した二人の動きを追う。
「流石ミリアーナ。あの密度の【水刃】を躱し切るか。当たりそうなのは風を纏わせた剣で斬り落としてたな。」
「すでに槍の間合いですが……あっ!? ミリィお姉様が石畳に仕込んでいた【炎柱】が躱されましたっ!」
「【竜槍】は勘も鋭いようですね。開幕早々にミリアーナが仕込んだ罠を見抜きましたか。」
「だがその回避のせいで間合いを掴み損ねたな。既にミリアーナの剣の間合いだ。」
「ですね。お姉様は【風鎧】と並列して【炎剣】も発動しましたっ。剣が纏っていた風に炎が組み合わさって、剣の間合いも伸びていますっ。」
「上手いですね。斜め下からのミリアーナの斬り上げを槍の柄を滑らせて去なしました。槍を返して石突きの打ち上げです。」
「素手の掌で逸らしやがったな。一瞬柄を掴んで槍の動きを鈍らせて、翻した剣で今度は斬り下ろしか。お、堪らず【竜槍】が後ろに下がりやがった。」
「恐らく打ち上げで彼女が後退すると踏んでいたのでしょう。ですが即座に突きの連撃を放っています。」
「お姉様が【炎壁】を発動しましたっ。その陰で同時に【疾風】も発動していますっ。」
「速度を一気に上げて回り込んだな。って、ありゃあ【石槍】か!? 空中に生成して放つんじゃなく、石畳から直接突き出して進路を塞ぎやがった!」
「二の足を踏んだ所に今度は【竜槍】が切り込みました。袈裟の打ち下ろしをミリアーナが剣で去なしますが、槍を回転させて柄での打撃の連撃です。」
「まだ残る【風鎧】を纏った腕で防ぎましたねっ。その間に【風刃】で邪魔な【石槍】を斬り飛ばしていますっ。」
「決め手がお互い無ぇな。お、ミリアーナが更に【炎壁】を放ったな。」
「それだけじゃありませんっ! 同時に【竜巻】を発動……! 先に出した【炎壁】も巻き込んで……【竜槍】さんを炎の竜巻が囲みましたっ!」
お、おおーッ!?
正直目まぐるし過ぎて全然ついていけていないけど、これが【魔法剣士】の戦いなのか……!
舞台に生み出された炎の竜巻が、【竜槍】のアレクセイを取り囲んで燃やそうと猛り狂っている。
「ミリィお姉様が【炎ノ加護】の詠唱を終えましたっ。これでお姉様の膂力や耐久力、更に速度まで上昇しますっ。【赤光】の本領発揮ですねっ!」
「炎の竜巻じゃ決まらねぇって事だろうが。お、案の定【竜槍】が竜巻を突破しやがった! ありゃあ【水鎧】か!?」
うっそーん!?
いくら水の鎧を纏っているとしても、直接炎の竜巻を突き破るとか頭おかしいんじゃないの!?
それを見詰めるミリアーナは……笑っている……?
「マリア会長、これからです。【炎ノ加護】を発動させたミリアーナは、全身に火の粉を纏ってこれまで以上に速く動きます。その舞い踊る火の粉の輝きが、彼女の二つ名【赤光】の所以なのですよ。」
バネッサが丁寧に教えてくれる。
つまりこれから見せるのがミリアーナの……真の姿……!
「ミリアーナが動いた! 一気に間合いを詰めて懐に入り込んだな。そのまま逆袈裟に斬り上げ、返して斬り下ろし、更に蹴り飛ばしやがった。」
「速度と膂力が上がったことで、【竜槍】は槍で防ぐ事しかできていませんね。蹴りもなんとか柄で防ぎましたが、後退させられ上体が浮いています。」
「ミリアーナが更に加速!? 【疾風】を重ね掛けしやがったか! 一瞬で【竜槍】の背後に回り込んで首筋に剣を当てて、終わり……だな!」
「それまで!! 勝者、【赤光】のミリアーナ!!」
おおおおおおおッッ!!!
あまりに凄まじい戦いに、練武場には拍手と歓声が巻き起こる。
うん、あたしにはほとんどまったく見えなかったけど!
だけど、ミリアーナが纏っていた火の粉がユラユラ線を引いて、紅い線が舞台に描かれるように見えて、凄く綺麗だったよ!!
「双方共、見事な戦いであった! 【赤光】の名に違わぬ目にも止まらぬ動きと輝き、確と見届けた。我が騎士達も、此度は良き刺激になったであろう。斯様な素晴らしい時間を持てた事、私は非常に嬉しく思う。皆の者、大義であった!」
伯爵閣下の総評を締め括りとして、練武場での御前試合は幕を下ろした。
あたし達はザムド子爵の指示により、もう一度控え室で待機だってさ。
もぉー、早くアズファランのお家に帰りたいよぉーッ!
あ、そういえば練武場を出る時に、ちょっとした波乱があったの。なんと先程ミリアーナと試合をした【竜槍】アレクセイ・コールマン卿が、呼び止めてきたのね。
で、何があったかと言うと……
◆
『【赤光】のミリアーナ殿。噂に違わぬ剣と魔法の冴え、感服したぞ!』
『お褒めに与り光栄です、【竜槍】アレクセイ殿。ですがまだまだ修行中の身にて、恐れ多い事です。』
『あれだけの力を持ちながら慢心も無しか。益々気に入ったぞ。ああそれと、オレに敬語は不要だ。ただの一武人として扱ってくれ。』
『……承知した。それで、褒め言葉を伝えるためだけに呼び止めた訳ではないだろう? 用向きは何だ?』
『ああ。【赤光】のミリアーナ殿、貴姉には是非、我が妻となってもらいたい!』
『『『『………………は?』』』』
『む? 聴こえなかったか? ではもう一度言うが、オレと結婚して欲しいのだ!』
『『『『はああああッッ!!??』』』』
いやあ、見事に全員ビックリ仰天だよね!
いや、ふざけんなッ!?
『……お言葉有り難く頂戴する。しかし私には、既に命を捧げた愛しい主が居る。その求婚はお断りする。』
いいぞミリアーナ! もっとこっぴどく振ってやっていいんだよ!!
ていうかアレクセイこのヤロー! 主を差し置いてヒトの大事な奴隷を勝手に口説いてんじゃないわよ!? しかもいきなり求婚とか頭湧いてんのかコラ!?
『む。主というのは、この娘か。聞けば奴隷商会の会長だと御館様が認めたとか。この娘がそれほどの器量を持つ、と?』
『当然だ。我が誇りと心を救ってくれたお嬢様に、私は身も心も捧げると誓いを立てている。愛しきお嬢様は、いずれこの帝国中に、否大陸中に、ワーグナー商会の名を轟かせる事となるだろう。』
あ、いや、そんな……!
み、ミリアーナさん? そこまでベタ褒めされちゃうと、なんと言うかすっごく居心地が……お尻がムズムズするよぉ!?
『ほぉ、大陸中とは大きく出たな。だが一度袖にされた程度ではオレは諦めんぞ? これからも貴姉を求めさせてもらう。』
『……勝手にすれば良い。何度迫られても、私の答えは変わらんがな。』
『うむ、そうさせてもらおう! 時に、ミリアーナ殿のご主人の娘よ、名は何という?』
一度振られたら潔く諦めろやコラ!? ってかコッチに水を向けるな! なんなんだよコイツはぁ!?
『ミリアーナの主、ワーグナー商会会長のマリアと申します。騎士アレクセイ・コールマン卿。』
『……小さいな。歳はいくつだ?』
『12になりました。』
『12だと!? それで一体どうやって、ミリアーナ殿を傘下に加えたというのだ!? よもや妖しの術や洗脳でも施したのではあるまいな!?』
『なっ……!?』
この野郎……! 疑うのは無理もないが、言うに事欠いて俺がミリアーナを洗脳しただと……!?
『テメッ――――』
『貴様、我が主を愚弄したな……?』
――――アレー? 俺ちゃんお口パクパク? キレて怒鳴る前にミリアーナに言葉を遮られちゃったよ?
『たとえ騎士様であろうと、マリア会長に謝罪と賠償を要求します。』
『発言を取り消してくださいっ!』
『騎士様よ、ちぃーっと、今のは聞き捨てならねぇな。』
『会長は素晴らしい主人だっ!』
うええ!? ミリアーナだけじゃないっ!?
バネッサ、ルーチェ、アンドレ、更にヘレナまで、すっごい殺気立って騎士アレクセイからあたしを庇うように立ちはだかった。
『むぅ……! 【赤光】以外にもこれ程の手練を従えるとは。どうやらオレの失言で怒らせてしまったようだ。申し訳なかった。』
両手を上げて降参のポーズを取る騎士アレクセイ。
『これだけの強者達を従えるなど、姑息な手段を用いるような輩には到底無理だな。非礼を詫びよう、ワーグナー商会会長、マリア殿。』
『……どうか、お気になさらず。』
あたしの絞り出した理性の塊のような言葉に、場の殺気が収まった。
うん。良く見たら周りの騎士達も、剣に手を添えて警戒態勢を取ってたね。
これで騒ぎを起こしてたら一大事になるところだったよ。
でも。
みんながあたしのために怒ってくれたのは、不謹慎だけど嬉しかったな。
『これだけの人材を囲う秘訣でも、今度教授を願いたいものだ。では、一先ずはこれで失礼する。』
うっせー! 二度とそのムカつくイケメン面見せんじゃねー!!
と言いたかったけど、我慢した俺偉い!
騎士アレクセイは、仲間の騎士達を宥めて、練武場から出て行ったのだった。
◆
「何やら、我が騎士アレクセイが礼を失した事を申したようであるな。」
「いいえ伯爵閣下、どうかお気になさらず。幼く至らぬわたくしが原因であったと、理解しております。」
ほら見ろアレクセイ! アンタのせいで伯爵が頭下げてるじゃないのーッ!?
もう勘弁してよぉ!?
「懐の深い事だ。それであれば、領城内で殺気を振り撒いた件も不問とせねばなるまいな。」
「……恐れ入ります。寛大なお言葉、感謝致します。」
あ、危なかったぁー!!
もしここであたしが怒ろうものなら、さっき練武場で一触即発にまでなっていた事を咎められてたのか……!
あーもうっ、これだから権力者って怖いんだよーッ!!
「時にマリアよ。此度の試合、引き受けてくれた褒美を取らそうと、私は考えている。勿論、先に触れた監督官とは別件である。」
「身に余る光栄にございます。」
「何ぞ、求める物はあるか?」
あたしが指定するのぉ!?
コレってアレか!? 見合う価値を上手く見定めてみろって試しなのか!?
ううぅ……! もう会長って認めてくれたなら、こういう試験みたいな事やめてほしいよぅ……ッ!!
かと言って断るのも、伯爵の顔を潰す事になるしなぁ……
「それでございましたら、恐れながら。領都【ハル・ムッツァート】での商いを行う許可を、頂戴いたしたく存じます。」
「ほう……? その心は?」
「はい。我がワーグナー商会は、現在執り行っている組織改革の暁には、事業の拡大に乗り出す所存でございます。その第一歩を、閣下のお膝元にて歩み出すその栄誉を、賜わりたく存じます。」
「ふはっ。上手い事を申すものだ。良かろう。遣わせる監督官に、その旨認めた書状を持たせよう。此度は真に大義であった。」
「ありがとう存じます。」
こうして、長くて胃に優しくない、あたしにとって初めての遠出となる領都での滞在が終わったの。
あたしマリア、12歳。
この度正式に領主様であるムッツァート伯爵閣下から、商会を継承する許可を頂きました。
それだけじゃなく、事業拡大の折の領都での商売も、認めてもらえちゃった。
大好きなミリアーナが、頑張ってくれたおかげだね!
これは、ボーナスを弾まなきゃね!!
さあ、予想外に長く掛かっちゃったけど、早くお家に帰ろう!
帰ってお家のみんなと、継承お祝いパーティーでも開催しよう!
みんなへのお土産は足りてるよね?
もう行きたい所は無い?
うん、それじゃあ……帰りましょう!!
ミリアーナと騎士アレクセイの戦い、決着です!
御前試合は実況という形で戦闘描写に挑戦しましたが、如何でしたでしょうか?
そして伯爵様とも良好な関係を築けたようで、何よりです!
マリアちゃんお疲れ様です!
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