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第31話 マリアは御前試合を観戦する!

いつもお読み下さり、ありがとうございます!

 

 またまた待機ということで、領都【ハル・ムッツァート】に追加滞在すること二日。


 そろそろ観光する所も無くなってきた、そんなあたし達の滞在する宿に領城から遣いの人が来て、再び領主様である伯爵閣下に呼び出しを受けた。


 今回の目的は、あたしの部下と伯爵の部下の親善試合。

 まあ伯爵本人も観戦するから、御前試合と言った方が良いかもしれないね。


 あたしの部下であり仲間のAランク冒険者、“【赤光(しゃっこう)】のミリアーナ”に興味を持った伯爵が、是非腕前を見てみたいと言ったのがキッカケだよ。


 所詮平民のあたしが貴族様の……それも大貴族たる伯爵閣下の頼みを断れるワケがないじゃないか!

 あたしは早く帰りたかったのにぃーーッ!!


 そんなワケで領城に辿り着いたあたし達。


 三度目という事である程度の信用を得られたのか、今回はなんと馬車と馬に警護を付けてもらえた。

【戦闘部】の奴隷として研修中のヘレナには、今回はミリアーナの試合を見せてあげたかったから、正直とても助かった。


 もし警護が無かったら代わりにアンドレに見張りを頼んでたところだね。アンドレとしても観戦したかったらしく、非常に喜んでいたよ。


「伯爵閣下所有の騎士団は、その勇名が響き渡っていますからねぇ。他の騎士団が魔導士を毛嫌いしている中で、ムッツァート騎士団だけは魔導士を組み込み、連携を密にしているんすよ。」


「へぇー! 凄く先進的に思えるんだけど、それは誰が発案したの? いつからそうしてきたの?」


「構想自体は、初代ムッツァート伯爵閣下……ヨウル閣下が既に提唱していたらしいっすね。それを周囲を説得し、長い時間を掛けて訓練して、先々代でしたかね? 先々代様の時代に遂には完成に至ったらしいっす。」


「初代様って事は、五代も前……120年もの昔に、そんな新しい戦法を提唱したって事!? ヨウル閣下って、本当に何者? ただの騎士上がりとはとても思えないよ……!」


「ホントっすよねぇ。なんでも敵国には“【死神】ヨウル”の二つ名で恐れられていたみたいっすね。まあこの【魔導騎士団】の構想は、晩年に語られた事だそうっすけどね。」


 それでも本当に凄い。

 騎士団は言うなれば騎士の寄せ集めだ。突撃(チャージ)からの槍攻撃が主な戦法で、後は一騎打ちの決闘とか、物理戦闘をしているイメージしかない。


 そこに魔導士が、協調者ではなく真に仲間として組み込まれる。


 素人考えだけど、突撃の際に敵陣に魔法をぶち込んで援護したり、近くでバフやデバフで支援したり、後方で固定砲台に成り果てている他所(よそ)の魔導士に比べれば、比較にもならないくらい活躍できるだろうね。


 更に言ってしまえば、当代の伯爵閣下であるクオルーン・ヨウル・“キャスター”・ムッツァート様だ。

 文武両道で、皇帝陛下自らが与えた【キャスター】の称号が示す通り、帝国きっての実戦で活躍した魔導士である。


 自身も魔法研究に余念が無いらしいし、我が居住地である伯爵領は、今後も安泰だろうね。


 と、控え室でまったり会話を楽しんでいると、ノックの音が舞い込んできた。


「失礼する。マリア会長、本日は足労を感謝するよ。」


 断りと共に入室してきたのは、伯爵閣下の側近であるザムド・オイラス子爵様。

 何を隠そうこのザムド子爵こそが、今回の御前試合の発案者だというのだ。


 ぐぬぬぬ……! 本当なら今頃はお家で、継承のお祝いパーティーとでも洒落込んでたところなのにぃ!


「どうかお気になさらず。わたくしとしましても、我が部下の有能さを伯爵閣下にご覧いただけるまたとない好機であると、そう愚考いたしておりますので。」


「ふむ。やはり君は優秀だ。どうかね、私の15になる下の息子に、嫁ぐ気は無いかね?」


「お気持ちだけありがたく。わたくしは商会の立て直しと改革で精一杯で、とてもお貴族様方とお付き合いをさせていただく器量はございません。あまりに不相応というものです。」


 この狸めぇ……! シレッとあたし達を取り込もうとするんじゃないよ!


「それは残念な事だ。君のその教養であれば、社交の場に出ても十二分に通用するだろうに。」


「過分なるお言葉、ありがとう存じます。」


 やーめーてーよー!

 貴族なんて利権と(しがらみ)だらけで何も面白い事なさそうじゃない!

 むしろ面倒事の方が多いと思う、絶対!


「まあ嫌われて他の領地に移られても敵わんからな。今はこのくらいにしておこう。」


 ()()じゃなくてこの先ずっとでお願いします。

 ていうかあたしは男に興味無いんだってば! ええ、なにしろ中身は男ですからねぇ!!


「では、練武場へ案内する。ついて来たまえ。」


「はい。よろしくお願い致します。」


 とまあ、そんな疲れるやり取りがあったけど、あたし達はザムド子爵様に案内されて、領城の練武場へと移動したのだ。




 ◇




「それではこれより! 奴隷商ワーグナー商会有する【赤光】のミリアーナと、我が領の騎士団所属の騎士との、御前試合を執り行う! 伯爵閣下よりお言葉を(たまわ)られる。心して傾聴せよ!」


 おおー! 思ってたより本格的に開催するんだね!


 石造りの塀に囲まれた広い練武場には、選りすぐりの精鋭なのかな? 十五人程の騎士が、甲冑に兜を脇に抱えて整然と並んでいる。


 彼等が注目するのは、舞台の上座となる観覧席に居る我等がご領主様、クオルーン・ヨウル・“キャスター”・ムッツァート伯爵閣下だ。


 全員の注目が集まったのを確認して、伯爵が観覧席から立ち上がり、口上を述べ始める。


「皆の者、良くぞこの場に集った。本日はこれより、ワーグナー商会に所属するAランク冒険者、【赤光】のミリアーナの腕前を披露してもらう場である。


 聞くところによれば彼女は、対モンスターのみならず、対人戦闘にも相当精通しているとか。我が騎士達には、この機会に在野の戦士がどのように戦うものか、良く学び取ってもらいたい。


 またミリアーナにも、我が騎士達と戦いを通して親睦を深めてもらいたい。同じ領に所属する以上、有事の際には(くつわ)を並べる事も、あるやもしれぬからな。」


 一度言葉を切り、練武場の面々を見回す伯爵。


 うっ……! そんなバッチリ目を合わせなくて良いですから!

 依頼と見合った報酬さえ頂ければ、協力しますから!


「冒険者ミリアーナは、剣だけでなく魔法も得意と聞き及んでおる。故に休息を挟みながら、三番勝負を行ってもらう事とした。一本目は剣のみで、二本目は魔法のみ。そして三本目には、双方織り交ぜて戦ってもらう。異存はあるか?」


 再びあたしに視線を寄越す伯爵。

 はいはい。主人はあたしだから、あたしが答えろって事でしょ?


「問題ございません、伯爵閣下。三試合もの名誉を賜り、我が部下ミリアーナも、意気軒昂にございます。」


 あたしはスカートの裾を摘んで礼を取りながら返答する。

 まあ実際、ミリアーナも実力者と戦えるって喜んでたしね。


「ならば結構。それではザムドよ、試合を始めよ。良き戦いを期待している。」


「はっ!」


 伯爵の訓示が終わると、全員で一斉に頭を下げる。

 その間上目遣いで見遣ると、伯爵はまた観覧席に腰を下ろし、侍従さんに差し出された飲み物――ワインかな?――を一口(あお)っていた。


「一本目は剣術による試合である! 武器は互いに木剣を使用し、降参するか戦闘不能になるまでとする。多少の負傷に関しては、治癒術士により治療を行うが、故意に重傷を負わせしめる事、殺害せしめる事は堅く禁ずるものとする! それでは、【赤光】のミリアーナ、騎士団よりグリース! 両者中央へ!」


 ザムド子爵が試合のルール説明の後、ミリアーナと騎士団の代表を呼ぶ。


「ミリアーナ、頑張ってね! 無理はダメだよ?」


「はい、お嬢様。行って参ります!」


 戦いに赴くからなのか、いつもの五割増しくらい凛々しく美しい微笑みをあたしに向けて、ミリアーナが練武場中央へ歩いていく。


 審判役の人から木剣を受け取り、相手の騎士様……グリースさんと向かい合う。


「かの高名な【赤光】のミリアーナ殿と果たし合えるとは。存分に胸をお借りしますぞ。」


「こちらこそ。勇名を馳せるムッツァート騎士団の雄と手合わせなど、心が踊る。」


 互いに握手を交わし、距離を取って木剣を構えた。


「それでは! 試合……はじめッ!!」


 ここからは、バネッサとアンドレの解説でお送りします。

 だってあたしじゃ目で追えないもんっ!




「ミリアーナが仕掛けましたね。複雑なステップで、巧妙にフェイントを混じえて間合いを詰めています。」


「相手のグリースって奴はドンと構えて待ちの姿勢だな。対モンスター戦で鳴らしたミリアーナと違って、対ヒトの足を停めて斬り合う構えだ。」


「牽制の横薙ぎをミリアーナが掻い潜りましたね。そこから伸び上がる身体の勢いを乗せて柄頭で顎を狙って打ち上げ、継いで斬り上げの連撃ですか。」


「お、初見で良く躱したな。手甲を上手く使って斬撃を逸らしやがった。だが姿勢が崩れたな。」


「ですね。上体が浮いたところをミリアーナの足払いで転倒、切っ先を突き付けて決着です。」


 え、え? もう終わり!?

 え!? ミリアーナ圧勝じゃん!?


「それまで! 勝者【赤光】のミリアーナ!」


「ええー……ミリアーナ、すごい……!」


「まさか一合も斬り結べないとはなぁ。騎士の質が落ちてるんじゃないっすかねぇ?」


「いえ、単なる相性かと。ミリアーナは対モンスターの専門家で、機動戦を得意とします。定まった場での決闘ばかりの騎士では、動き回る相手は不得手でしょう。」


 ほぇー、そういうものなのねー。

 正直まったく目が追い付かなかったけど、まさに秒殺ってヤツだね。


 ミリアーナは騎士のグリースさんを助け起こして、改めて握手を交わしている。


「次は魔法戦となるが、休息は如何する?」


「問題ない。続けて戦わせ(やらせ)てもらおう。」


「承知した。二本目! 魔法による試合を行う! 騎士団よりサーシャ、前へ!」


「はっ!」


 あれ、休憩ナシでやるの? ミリアーナ大丈夫?


「マリア会長、ご安心を。ミリアーナならば、あの程度は準備運動でございます。」


 そ、そうなの……? てかバネッサ、さっきは相性云々言ってたのに……さては騎士団に気を使ってるね?


「第二試合は魔法のみの戦いである! 双方用意は!?」


 木剣を腰に差して素手となったミリアーナと、短杖を携えた軽鎧の女性――サーシャさんが同時に頷く。


 さて、また二人に解説を頼もうかな?

 あ、魔法戦ならルーチェが適任だね。

 よろしくルーチェ!


「第二試合、はじめ!!」




「お互い詠唱破棄で初動の早い【火球(ファイアボール)】の撃ち合いからですねっ。ミリィお姉様は一発一発は小さいですが、質より量で連射に重きを置いています。対するサーシャさんは、丁寧に“練り上げ”た魔力で火球を強化しています。連射速度こそ劣りますが、弾速が速いですねっ。」


 最初は様子見って事かな?

 お互いが動き合って相手の【火球(ファイアボール)】を躱して、自分のものを当てようと撃ち合っている。


「あ、サーシャさんが魔法を切り替えましたねっ。今度は【火槍(ファイアランス)】ですか。【火球(ファイアボール)】よりも弾速が速く、貫通力のある魔法です。ミリィお姉様は【火球(ファイアボール)】のままですね。いえ、更に連射速度を上げてますっ。」


 目まぐるしく立ち位置を変え、互いの魔法から身を躱し続ける二人。

 二人が放つ火の魔法の着弾により、練武場は砂埃が巻き上げられ、視界が通り辛くなる。


「ミリィお姉様が【竜巻(トルネード)】を放ちましたっ。サーシャさんは、土にも適性が有ったんですね。【石壁(ストーンウォール)】で防ぐつもりのようですっ。あっ!?」


 ルーチェが声を上げる。

 先程の剣の試合と違い、魔法戦ではまだあたしでも状況が分かった。

 風魔法の【竜巻(トルネード)】を放ったミリアーナが、サーシャさんが【石壁(ストーンウォール)】を出した途端、勢い良く走り出したのだ。


「ミリィお姉様が【風鎧(ウィンドスケイル)】を纏って……うそっ!? 【竜巻(トルネード)】を利用して跳躍!? そのまま壁を飛び越えて……決着ですっ。【風刃(ウィンドエッジ)】でサーシャさんの杖を破壊しましたっ。」


「それまで! サーシャの降参によりこの試合、【赤光】のミリアーナの勝利!!」


 おおー、ミリアーナかっこいい!!

 何今の!? 竜巻に乗って飛んだあと、体操選手みたいに空中で身体を捻って、そのまま風魔法を撃ったの!? 杖を狙って!?


 スゴすぎるよミリアーナ!!

 あたし惚れちゃう! もうとっくの前に惚れてるけど!!


「凄いねぇ! あたし魔法の撃ち合いって、初めて観たよ! 迫力満点だね!」


「多分ミリィお姉様は、最初から狙っていたんだと思いますっ。普段と違って自前の剣が使えないですから、短期決戦で隙を突く作戦だったみたいですねっ。」


「え? なんで?」


「ミリィお姉様の剣は特別な物で、魔法の発動媒体……つまり、杖の役割も果たしているんです。それが使えないので、杖無しで手数を重視しているように見せ掛けて、あの一連の流れに相手を誘い込んだんだと思いますっ。素敵ですミリィお姉様!」


「ちょ!? ミリアーナはあたしのだから! いくらルーチェでも、こればっかりは譲らないからね!?」


「会長ぉ、そんなぁ〜っ!?」


 うん。薄々勘着いていたけど、ルーチェってばやっぱそっちのケがかるよね?

 美女と美少女の百合は大変素晴らしいけど、あたしを除け者にするのは許さないよ!?

 百合カップルに男が挟まるのは極刑モノだけど、あたしは今は女の子だからモーマンタイなのよ!!


「第三試合は、剣と魔法双方用いて行う!」


 おっと、ザムド子爵が次の試合の案内を始めたね。

 ミリアーナってば、余裕そうには見えるけど、大丈夫かな……?


「ザムド子爵様!」


 三試合目に出る騎士かな?

 一人のイケメンな騎士が歩み出て、何事かザムド子爵に訴えている。


「むぅ……! 第三試合に出場する、騎士アレクセイより提案があった! この試合、互いに真剣にて執り行いたいとの申し出である!」


 えええっ!?

 ちょ、たかが上覧試合で真剣勝負とか、頭おかしいんじゃないの!?


 アレクセイというイケメン騎士は、爛々とした好戦的な目でミリアーナを見詰めている。


「お嬢様、よろしいですか?」


 ミリアーナがあたしの元に戻って来て、訊ねてくる。

 ああも大々的に宣言されちゃ、断り辛いじゃんかー!?


「大丈夫なの……?」


 心配のあまりミリアーナを窺うと、彼女は一点の曇りもない綺麗な微笑みで。


「私の愛剣を使えるならば、何も心配はありませんよ、お嬢様。安心して観戦していてください。」


「わ、分かったよ。気を付けてね!」


 彼女には、自信しか無かった。

 あたしはそんな彼女に圧倒されて、思わず背中を押してしまっていた。


「はい。私の愛するお嬢様へ、勝利を。」


 ミリアーナは、いつもの彼女の愛剣を腰に佩くと、颯爽と中央へと戻って行った。




さて、一番二番と圧勝したミリアーナです!

今作では珍しく、戦闘シーンをお送りしておりますね。


残すは剣アリ魔法アリの真剣勝負!

どうなるのか!?


「面白い」「ミリアーナ素敵!」と思われましたら、ページ下部の☆から高評価や、ブックマークをお願いします!


励みになりますので、感想やレビューもお待ちしております!




第九回ネット小説大賞(旧なろうコン)が重複応募不可だったため、HJ文庫大賞の方は取り下げました(´;ω;`)


なろうコンの方にはこのままエントリーしておりますので、どうぞ応援よろしくお願いいたします!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます [一言] 人材派遣って、こちらの世界だと結構黒いんですよねえ‥(・・;) せめてラノベの中だけでも、ホワイトというアルカディアを見せて下さい(笑)
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