第28話 マリアは組織改革する!
いつもお読み下さり、ありがとうございます!
今話より、新章スタートでございます!
マリアは何を成していくのか。
是非お楽しみくださいませ!!
あたしマリア。
12歳の女の子で、奴隷商会【ワーグナー商会】の新会長。
両親が謎の襲撃事件に遭って亡くなってから、既に一ヶ月。
寂しさと悲しさは拭えないけれど、我が商会は、徐々に落ち着きを取り戻してきているよ。
「スマンな、お嬢さん。やはりコレという証拠は、何も見付からなかった。力になれなくて本当に申し訳ない。」
「気にしないでください、ハボックさん。ハボックさんには、僧侶の冒険者の方を探していただいたり、色々と助けてもらってますから。それに結局のところ、怪しい人物は最初から限られてますし。あとは、あたし達が独自に動きます。」
「……本当に、やるのか?」
「ええ。ですが今はまだ。何よりも、父が遺した商会を護らなければいけませんから。次に狙われるとしたら、商会そのものでしょうからね。」
あたしの住む街、アズファランの冒険者ギルドのギルドマスター、ハボックさんと、我が家の応接間で話し合う。
「新しい経営体制に、それに見合った人事案、雇用の見直しに賃金の再設定……正直、やる事は山積してますから。そんな時に、いつまでも犯人探しに拘らっている暇は、ありません。」
「だが……っ! いや、済まない。しかし商会を継ぐ……しかも奴隷商を継ぐとなると、領主家の承認が必要になるんだぞ? その辺りは大丈夫なのか? ワシが間に立っても良いんだぞ?」
「そこまでハボックさんに甘えられませんよ。ギルドはあくまでも中立なんですし。大丈夫です。あたしには、頼りになる仲間が居ますから。」
ミリアーナにバネッサ、そしてルーチェ。
両親亡き後、公私共にあたしを常に支えてくれていた大好きな人達。
彼女達が居てくれれば、あたしに怖いものなんか無い。
領主家――伯爵家に継承の報告に行くのだって、平気だもん。
「そうか……だが無茶だけはするんじゃないぞ? ワシで力になれる事があるなら、いつでも頼っていいんだからな?」
「はい。その時は、お願いします。頼りにさせていただきます。」
そうして、しばしお茶を楽しんでから、ハボックさんはギルドへと帰って行った。
あたしは手元の資料を眺めながら、茶器を片付けてくれているバネッサへと、声を掛ける。
「バネッサ。このリストに載っている人達を、手が空いたらここに集めてくれる? あたしは集まるまで書斎で、書類整理してるから。」
「かしこまりました、マリア会長。最優先でよろしいのですか?」
「うん。大事な話があるの。よろしくね。」
あたしはそうバネッサにお願いして、応接間を後にした。
◇
「マリア会長。全ての者が揃いました。応接間へとお越し願います。」
「ありがと、バネッサ。今行くね。」
書類仕事を片付けているところへ、バネッサから声が掛かった。
あたしはキリの良い所まで急いでペンを走らせて、待っていてくれたバネッサと2人で応接間へと向かう。
応接間に入ると、集めてもらったみんなに一斉に礼をされる。
あ、ミリアーナにルーチェだ。やっほー。
あたしは人を集めるために広くした応接間のソファに腰掛け、テーブルに資料を広げてから、みんなと向き合う。
「みんな、忙しい中で集まってくれて、どうもありがとう。みんなも座ってください。」
あたしが促すと、みんなはそれぞれに用意された椅子へと腰を下ろす。
これでもしパイプ椅子だったら、完全に会社とかのオリエンテーションみたいだったよね。
ほら、会議室に集められてさ。
「今日集まってもらったのは、これから我がワーグナー商会が取るべき方針に、貴方達の力が是非必要だからです。」
あたしがここに集めたのは、いずれも我が商会に登録されて、尚且つそれぞれに独自の仕事を割り振られていた、特別な奴隷達。
前会長……父スティーブの手足となって、商会の経営を支えてきてくれていた、彼の個人的な奴隷達だ。
「前会長スティーブは個人的な奴隷として、貴方達を使役してきました。けどあたしは、これから貴方達に、ある提案をします。」
前列に座るあたし個人の奴隷である、ミリアーナとバネッサ、そしてルーチェには、もう相談し、納得してもらっている。
あたしはその内容を、父スティーブを支えてきた有能な奴隷達に伝える。
「みんなには、どうかこれからも、我がワーグナー商会を支えてもらいたいの。そこで、あたしはここに集められたみんなを、奴隷の身分から解放しようと思っています。」
「「「は…………??」」」
前列のミリアーナ達以外は、鳩が豆鉄砲を喰らったみたいな顔をして戸惑っている。
ざわざわと、十数人の奴隷達がお互いの顔を見合わせる。
「静粛に。まだマリア会長のお話が終わっておりませんよ。」
空かさずバレッタがどよめく室内を一喝。すぐさま治められた。
「いきなりじゃ混乱すると思うけど、ここに居るみんなはそのほとんどが、前会長がその能力を認めて、専属奴隷になった人達でしょ?
前会長は貴方達を奴隷として使役してきたけれど、あたしは貴方達を正式な従業員として、我がワーグナー商会に迎えたいと思っています。」
あたしが考える商会の運営。
確かに有能な奴隷であれば、運用コストも安上がりだし、裏切られる心配も無い。
けれど、彼等だって人間だ。
お給金だって支給されているけど、それはあくまでも奴隷としての給料で。
彼等がこれまでに積み重ねてきた信用や実績に見合う額だとは、とても思えないのだ。奴隷商人の特権だと言えば、それまでだけどさ。
「今日集まってもらった貴方達は、その能力も人柄も、信頼に値するとても優秀な奴隷達だった。これからは優秀な従業員として、あたしを、ワーグナー商会を支えてほしいの。何か質問はあるかな?」
あたしは言葉を切って、みんなを見回す。
みんなはみんなで、隣り合う人と何やら囁き合ったり、腕を組んで黙考したりと、十人十色の反応を示しているね。
まあ無理もないかな。
今までずっと奴隷として働いてきていきなり解放すると言われたんじゃ、戸惑うのは当たり前だ。
ミリアーナなんてこの話をしたら、『私が要らなくなったのですか!?』って凄く悲しそうな顔で迫ってきたもん。
当然あたしにはミリアーナを手放す気なんて、コレっぽっちも無いけどね! ずっと一緒だよ!
「お嬢……マリア会長、良いかい?」
一人の男性が手を挙げて、発言の許可を求めてきた。
彼は、【アンドレ】だね。
お父さんの専属奴隷で、元々はそれなりの規模の盗賊団に所属していた、元犯罪奴隷だ。
神出鬼没で恐れられていたその盗賊団だったけど、ある時遂に年貢の納め時がきた。
内部からの情報漏洩により、待ち構えていた騎士団に一斉検挙されたのだ。
父スティーブは、それを成したのがこのアンドレだと目敏く見抜き、犯罪奴隷として鉱山送りとなる寸前で、抱え込んだらしい。
聞けば、かの盗賊団が目覚ましい戦果を挙げていたのも、実はこのアンドレの諜報活動のおかげだったの。
増長し野蛮に、苛烈になっていく団の盗賊達に嫌気が差して、足を洗うのと同時に、せめてもの償いとして盗賊団を破滅へと導いたのだ。
そんなアンドレには、先のルーチェを狙う男爵の排除の際にも、その腕を大いに揮ってもらったね。
あれだけスムーズに事が成せたのも、彼が確実な情報を集め、先を見越して準備を整えてくれていたからだって、バネッサからも聞いているよ。
さて、何かな?
あたしはアンドレの顔を真っ直ぐ見て、質問を促した。
「会長は俺らを奴隷から解放して、改めて雇うって言ってくれたけど、どんな事をさせるつもりなんですかね? それに解放されたら、俺らには会長に従う義務は無くなる。態々そんなリスクを負う理由ってのも、聞かせてくれませんかね?」
「アンドレ、言葉が過ぎるぞ!」
「だってそうだろう、ミリアーナ。前会長……スティーブの旦那は、奴隷商人として俺らを使役してきた。その方が圧倒的に安上がりだし、裏切られる心配だって無いんだぜ? お嬢……マリア会長が何をするつもりなのか、商人として何を考えているのか、気になるじゃねぇか。」
アンドレにとって、父スティーブは雇い主である前に恩人だ。
過酷な労役を課される犯罪奴隷にさせられずに済んだのは、偏にスティーブがその能力を見抜き、欲したからだからね。
だから彼は……ううん、ここに居るスティーブに見出された奴隷達みんなは、それぞれに恩を返そうと、献身的に前会長に仕えてきた。
そう。スティーブに、ね。
「みんなが父への恩を返そうと、奴隷とはいえ文句も言わずに仕えてくれていた事に、あたしは感謝してるの。そしてその、父に向けられた信頼と忠誠を、今度はあたしに注いでもらいたいの。
あたしはまだまだ未熟だし子供だから、みんなの信用への対価を充分に賄う事は難しいわ。あたしはみんなが恩義を感じている、スティーブじゃないしね。だからこその奴隷身分からの解放と、正式な雇用なの。
お金で釣る事は不本意だけれど、奴隷だった頃よりもよほど良い賃金を約束する。商会の経営体制も、それに合わせて見直してる。
だからどうか、あたしにみんなの力を貸してください。これからはあたしに従わされる奴隷としてじゃなく、一人の部下として、あたしを支えてほしいの。」
あたしが彼等の信用に対して確実に払える対価は、今はお金しかない。
両親があたしに内緒でコッソリと貯めてくれていたあたしのお金を準備資金として、彼等優秀な人材を出来るだけ高待遇で迎える。
この商会の将来を見据えて、あたしが打つ第一手だ。
「……今までのやり方でも、商会は上手く回ってきただろう? 何故それを変えるんだ? お嬢。お嬢は、ワーグナー商会をどうするつもりなんだ?」
アンドレが、今までの彼の実績を支えてきたであろう鋭い目をして、あたしに問うてくる。
あたしはその視線に射抜かれ、内心ビビりながらも、それでも目線は外さずに、真っ直ぐに見返す。
「あたしは、我がワーグナー商会を、今よりもっと大きくする。不当に虐げられる奴隷を無くして、彼等が次のステップを笑顔で踏めるような、そんな奴隷達の人権に寄り添えるような商会にしてみせる。
父の真似をすれば安泰でしょう。貴方達のような優秀な奴隷だって居るんだから。だけど、それじゃダメなの。奴隷商人は奴隷を扱う。でもそれだけじゃ、あたしの手の届かない場所で、不当に扱われている奴隷達を護れない。
あたしはね、アンドレ。止むを止まれず奴隷の身分に落ちた、或いは落とされた、そういう人達の助けになりたいの。ミリアーナやルーチェのように、落ち度も無いのに奴隷となった人を救いたい。不当な理不尽や力に泣く人を助け、護りたい。そのために、あたしに力を貸してちょうだい。」
アンドレの目から視線を逸らさずに、全てを言い切る。
彼はしばし、あたしの目を見詰めたまま黙っていた。
きっとガキが青臭い事言ってんなーとか思われてるんだろうなぁ……
「青臭い……理想の話だと思いますがね。」
ほらやっぱりー!
しょうがないじゃん! あたしコレでも、中身は奴隷と縁が無かった日本人なんだから!
7歳から5年間、前会長に付いて奴隷の扱いやその他色々と学んできたけどさ、あたしにとっては奴隷達はみんな、仲間なんだよ。
そりゃどうしようも無い理由で借金背負った奴とか、どうしようも無いほどの悪人だって居るけどさ。
そうじゃない奴隷達が理不尽な目に遭ったり、不当に扱われているのだけは、許せないんだよ。
「でも……嫌いじゃあねぇです。」
え……?
アンドレ、それって……
「サラリと父親であるスティーブの旦那を超えると宣う野心。俺から目を逸らさない胆力。将来に必要になるものを取捨選択する決断力。……お嬢。賢いだけじゃねぇ。強く成られましたね。」
や、いやいや! スティーブを超えるとか、そういうつもりで言った訳じゃ……!
「おうおめぇら! お嬢がこうまで仰って、俺らを買って下すってるんだ。それに応えねぇで、大恩ある前会長の墓前に顔向けできるか!? 俺ぁ、お嬢について行くぞ。お嬢が目指す未来のワーグナー商会ってヤツを、この目で見たくなったからな!!」
「私もついて行きます!」
「オレも!」「アタシも!」「自分もです!」…………
アンドレ……! みんなも……!!
ありがとう、凄く嬉しいよ。
アンドレを皮切りに、集まった全ての奴隷達が、あたしの部下になる事を受け入れてくれた。
「それでお嬢……いや、マリア会長。俺らを従業員として雇うって事ですが、具体的にはどんな仕事を任せてくれるんで?」
みんなの賛同に一役買ってくれたアンドレに、そう訊ねられる。
あたしは、予め考えておいた組織表を取り出して、テーブルに広げてから話し始める。
「具体的な事柄はまだ煮詰める余地があるけど、この商会を抜本的に改革するの。今考えているのは、それぞれの奴隷の特色に合わせた、各種専門分野の確立と強化。“プロフェッショナル化”を推進します!」
「ぷ、ぷろふぇ……?」
「プロフェッショナル。つまりその筋の専門家を育てる、人材育成にも力を入れたいと思ってるの。例えば、戦闘奴隷であればより戦いに特化して、訓練や実地を経てより強くなってもらったりね。」
「私兵を育てるって事ですかい……?」
「ううん、違うよ。あくまでもこの商会は、奴隷として迎えた人達のスキル向上を旨とするの。能力が向上すれば、より良い買い手を見付ける事も、紹介することもできる。買われずに奴隷としての年季が明けても、この商会で培った知識や技術で、新たな人生を歩み出す力になれる。そう考えてるの。」
「そりゃあ……なんとも……」
「既にミリアーナ、バネッサ、ルーチェには、それぞれ異なる分野の指導員としての立場をお願いして、承諾ももらってるよ。
ミリアーナは戦闘術、バネッサは家事奉仕、ルーチェは魔法関連の部署を、それぞれ部長として指導、教育してもらう。アンドレに任せるつもりなのは、諜報工作部だね。どうかな?」
まだまだ細かい部分は詰めないといけないけど、これまでのようにみんながみんな同じように働くのではなく、商会の内部を細分化して、それぞれに独立して動いてもらうつもりだ。
もちろん、需要が有るかは分からないけど、複数部署の掛け持ちなんてのも考えてはいる。
バネッサの家事奉仕部とアンドレの諜報工作部を組み合わせて、“諜報メイド”とかを育成したり、戦闘部と家事奉仕部を合わせて“戦闘執事”とか“戦闘メイド”とかも良いよね!
うん、ロマンロマン♪
「なるほど……こりゃあ確かに、育成に成功すりゃあ奴隷の価値は跳ね上がりますね……!」
「でしょ? なかなか面白い事になると思わない? どうアンドレ、乗る?」
「乗りますよ! こんなにワクワクするのは、随分と久し振りだ。是非ともよろしくお願いしますよ、マリア会長!」
「「「よろしくお願いします!!」」」
こうして乗り気になってくれたアンドレを筆頭に、我がワーグナー商会は、抜本的な組織改革へと舵を切った。
あたし?
あたしはもちろん、会長という名の代表取締役社長だよ!
いよいよ、あたしの職業適性【社長】の真価が問われる時が、やって来たのだ!
スティーブ子飼いの奴隷達を味方に付けたマリア。
これまでのワンマン経営ではなく、部署ごとに独立した業務形態を提案しました!
果たして、これからどうなるの!?
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テケリ・リ