第24話 客人を迎える少女・マリア
昨日投稿予定でしたが、書ききれませんでした……!
遅くなりましたが、お楽しみください!
「それでは行って参ります、お嬢様。」
「行って参ります!」
「うん。2人とも、気を付けてね。無茶しちゃダメだよ?」
「お二人共、お嬢様がご心配なさらぬよう、くれぐれもお気を付けて。」
「安心しろバネッサ。ルーチェも久し振りの現場なのだから、様子を観ながらやるさ。」
「わ、わたしもミリィお姉様の足を引っ張らないように、頑張りますっ!」
今日はミリアーナの冒険者活動の日。
今回の依頼は何を受けるのか、今から報告を聞くのが楽しみなの。
ただし、今回はいつもと違う点がいくつかあるの。
一つは、あたしが保護して奴隷としたルーチェの、冒険者としての復帰戦だということ。
もう一つが、普段ソロ冒険者であるミリアーナが、正式にパーティーを組むということ。
もちろん相手はルーチェだけどね。
職業適性が【魔法戦士】のミリアーナに、【賢者(偽ってるけど)】のルーチェが組んで、連携を確かめる目的もあるんだよ。
まあ適性の組み合わせだけなら、相性は良いはずだ。
現場を知らない素人の机上の空論且つゲーム知識だけどね。
ちなみにルーチェの【賢者】の適性については、今のところ知っているのは家の家族とミリアーナとバネッサ、あとはこの街アズファランの冒険者ギルドのギルマスのハボックさんだけ。
あたしはルーチェを手放すつもりも国に渡すつもりも無いし、本人もそれは望んでいない。
両親やギルマスさんも、一度保護したルーチェの適性を今更国に報告するつもりも無いとのことで、満場一致で秘密にすることと決まったの。
そのことを改めてルーチェに伝えたら、また泣いちゃったんだけどね。
なんでも、【鑑定の儀】が近付いたある日、両親が希少な適性が出れば高く買い取ってもらえると話しているのを聴いてしまったらしい。
確かに国にとって【賢者】や【勇者】、【聖女】などの希少な適性持ちは、喉から手が出るほど求めているし、親に支払われる雇い賃とも支度金ともとれる報奨金は莫大で、さぞかし魅力的だろう。
だからって、最初からそれを当て込んで皮算用とか、呆れる他無いよね。それも、実の子供なのに。
ルーチェもそれを聴いて改めて隠し通すことを決心して、成人を迎えるまでに特訓を積み重ねて、さっさと家を出たらしい。
うんうん。
そんな親のことは忘れて、あたしたちと楽しく暮らそうね。
通りに消えて行くミリアーナとルーチェをバネッサと一緒に見送ってから、踵を返して家に入る。
それにしても……
「なんか、今日は朝からバタバタしてるよね? みんなも心做しかピリピリしてるし……」
「申し訳ございません。本日は夕方頃に、お客様をお迎えする予定がございますので。」
「お客様……?」
あたしは仕事の予定をざっと頭の中で思い返す。
変だなぁ? 買い取りも販売も、特に何処とも取り引きの予定は無かった筈だけど……
「お嬢様、お部屋でお話致しましょう。」
そんな訝しむあたしに気付いたのか、バネッサが少し声を低くして促してくる。
なんだかワケありっぽいね?
じゃあ教えてもらおっかな。
バネッサが話しても良いって判断したなら、あたしに否やは無いよ。
そうしてあたしは先に自室へと戻って行った。
バネッサはお茶を淹れてきてくれるってさ。
自室に戻ると、あたしは未だに慣れない部屋の新しい間取りや調度品に戸惑いながら、お茶が楽しめるようにソファとテーブルを片付ける。
あ、クマどんはソファに居て良いからね。
一緒にバネッサのお話を聞こうね。
そうこうしている内に、バネッサがお茶の支度をして戻って来たのだろう。
ノックの音が、部屋に舞い込んできた。
「どうぞ〜。」
「失礼致します。お嬢様、お待たせ致しました。」
「ううん、大丈夫だよ。さ、バネッサも座って。ゆっくり聞かせてね。」
「では、先にお茶をお淹れ致しますね。本日のお茶菓子は、北部より取り寄せたリンゴを使用したパイでございます。」
「おお、美味しそうっ♪ ありがとね、バネッサ。」
「どうかお気になさらず。」
鼻歌交じりに紅茶を受け取って、切り分けられるリンゴのパイ(アップルとは言わないのよ)をウキウキしながら眺める。
女の子になって得した点と言えば、こうしてスイーツが遠慮せずに食べられるって事よね!
前世でも好きだったけど、有名なお店には男一人じゃ入り辛いし、そもそも食べに行く暇も無いほど酷使されてたからねぇ……!
「どうぞ、お召し上がりください。」
「ありがと♪ いただきまーすっ♪」
涙ぐましい(前世の)思い出を振り返っている間に、あたしとバネッサのお茶の支度が整った。
あ、ちなみにこの『いただきます』も別にこの世界の習慣じゃないよ?
あたしが現地語で言い始めたら、家族やミリアーナ、バネッサにルーチェも真似をし始めたの。
“生命を頂いて感謝します”って意味だと教えたら、エラく感心してたね。
まあそんな事は今は良いのさ。
リンゴパイ、リンゴパイ〜っ♪
食感が残る程度にしっかりと火を通されたリンゴは、甘みが凝縮されてとても美味しい。
パイ生地のサクサク感も、クリームのトロっとした食感も、三位一体となってお口の中で暴れてるっ。
「美味しいぃ〜♪」
「それは良うございました。流石は北部の特産の品でございますね。これからも贔屓に致しましょうか。」
「うん、コレは当たりだねっ♪」
バネッサと2人、リンゴパイに舌鼓を打ちながら紅茶を味わう。
残ったパイは取っておいて、ミリアーナとルーチェにお裾分けしなきゃね。
「それで、バネッサ。お客様について、聞かせてくれるんだよね?」
「はい。お茶のお代わりはもうよろしかったですか?」
「うん。どうしてみんながピリピリしてるのか、教えてちょうだい。」
「かしこまりました。」
バネッサが自分のカップを脇に退かして、揃えた脚の上に両手を置く。相変わらず惚れ惚れする所作だよね。
自然とあたしも居住まいを正して、傾聴する姿勢になっちゃった。
「恐らくは、旦那様より昼食時にお話があるとは存じますが……本日いらっしゃるお客様は、旦那様の叔父上様御一家でございます。」
「叔父上……叔父さん? つまりお爺様の、ご兄弟の?」
「はい。旦那様のお父上の先代会長のワーグナー様、その兄上様でございます。」
そんな人が、わざわざどうして……?
「その……お嬢様のご親戚筋のお方ではございますが、こう申し上げては何なのですが……少々、身勝手なお方でございまして……」
ええぇぇ…………使用人に言われるとか、相当じゃない?
しかも、これでも言葉を選んでる感じがヒシヒシと……!
「普段はお付き合いは全くございませんが、御本家……先代様のご実家で何かが有りますと、こうして突然訪問なさるのです。」
なんだそれ……
金の無心とか、厄介事の類いを持ち込むつもり?
ん……?
「御本家……? 先代会長――お爺様のご実家って……?」
「はい……ご察しの通り、貴族様にございます。御本家は【セイラム男爵家】。ムッツァート伯爵領の隣りの領主であられる、【ファステヴァン侯爵】閣下の部下の方です。」
うげぇ……!? 家の本家が男爵家ぇ!?
しかも侯爵様の部下とか、明らかに虎の威を借りて威張り散らすパターンじゃん!?
「それで、その男爵……大叔父様は、いったい何のために?」
「これもいつもの事でございますが、目的や理由は告げず、『何時いつ行く』と一方的にお手紙で報せて来られるのでございます。」
「うわー。それでみんなピリピリしてるのね。」
「はい……少しでも歓迎に不備がございますと、延々とご不満を仰り続けられてしまいます。私共としましても、普段良くして下さる旦那様を悪く言われるのは業腹でありますので。」
なるほどねぇ……
というか、そんな面倒臭い親戚が居るなんて、お父さんからもお母さんからも聞いた事ないよ。
「あたしが産まれて12年だけど、その間には一度も来てないよね? いったいどうして……」
「いいえ、お嬢様。実は一度だけ、来られようとなさった時がございました。」
「え……?」
「お嬢様が7歳の時……【鑑定の儀】の時でございます。有能な適性持ちであった場合は、御本家に差し出すようにと。」
「…………は?」
「今でこそ旦那様や奥様、そして私共もお嬢様の適性の有用さを疑ってはおりません。ですが当時は……」
7歳当時。
あたしと両親の間に亀裂ができ、全てに見放されたように思っていた時期だ。
あたしの叩き出した謎の適性、【社長】のせいで。
「あたしが意味不明な適性を出したせいで、本家の人達は来るのをやめた、ってこと?」
「はい……」
「じゃあもしあたしが【大魔導士】とか、国にスカウトされるような適性持ちだったとしたら、本家……そのセイラム男爵家に養子に取られてたってこと……?」
「……仰る通りでございます。お嬢様のお爺様……つまり先代会長様も、ご子息を一度取り上げられております。その方は、【聖騎士】の適性持ちであったと、そう伝え聞いております。」
嘘でしょ……?
先代会長とは、既に亡くなっているので残念ながら会った事が無いけど、現会長とは非常に良好な関係だったと聞いている。
そのお父さんの兄弟が、男爵家に奪われていただなんて……
どんだけ身勝手なんだ、その男爵は……!
っていうか危なかったんだな、あたし。
もし適性が【社長】じゃなかったら、両親や奴隷のみんなから引き離されてたかもしれないのか……
「そんな奴が、今更家に何の用なのかな?」
「申し訳ございません。皆目見当もつきません……」
そうしてあたしは、バネッサからその厄介過ぎる客人の事を教えられた。
◇
そして、あたしが両親と昼食を食べている時。
お父さんは悩ましげに、お母さんは不愉快そうに、あたしに客人が来ることを伝えようとした、その時。
「し、失礼します! 旦那様、奥様! だ、男爵家の方々がご到着なさいました!!」
「なんだって!? 手紙では夕方頃だと書かれていたのに、いったい何故!?」
「わ、分かりません! 正門に、既に先触れのお使いの方が見えていらっしゃいます!」
「くそ! いつもいつも勝手な人達だ……! ヨナ、マリアを頼むよ。僕は応対に行ってくるから、説明をしておいてくれ。」
「分かったわ、アナタ。気を付けてね。」
そうしてお父さんは先触れの使者の応対に、食事も途中で出て行ってしまった。
食堂に残されたあたしは、お母さんから今日来る客人……男爵家についての説明を聞く。
だいたいはバネッサに聞いた通りなので、復習って感じ。
そして。
「相変わらず、みすぼらしい家じゃな、此処は。」
「まったくですね、父上。」
小太りの、背中を丸くした杖を突く老人と、それを支えながら歩く中年の男。
それに続いて、コテコテに飾り立てられたドレスを身に纏った中年の女と、それに手を引かれるこれまたコテコテのドレスを着た女の子が、馬車から庭のアプローチを、玄関に向けて歩いて来る。
あたしは2階の自室の窓から、その様子をコッソリ伺っていた。
あれが……今は亡き先代会長の兄。
爵位は息子――支えている中年男だ――に譲ったそうだが、隠居とはいえ未だに家で一番の発言力を持っているらしい。
はてさて、いったい何の用で、我が家に押し掛けて来たのやら……
とりあえずミリアーナとルーチェが外出中で良かったよ。
2人とも優秀な戦闘奴隷だからね。
寄越せなんて言われたら嫌だもんね。
さて、不穏な展開になって参りました……
男爵家の目的とは、いったい……?
如何でしたか?
「面白い」「これからどうなる!?」と思われましたら、ページ下部の☆から高評価や、ブックマークをお願いします!
励みになりますので、感想やレビューもお待ちしております!
これからも応援よろしくお願いします!
m(*_ _)m