第23話 天国を味わう少女・マリア
いつもお読み下さり、ありがとうございます!
何かに触れられたような気がして、意識が浮上する。
あたしは、ゆっくりと重たい瞼を上げて、目を開く。
「ん……ここは……?」
知らない天j……ゲフンッ。
よし、脳味噌は覚醒してきたね。
「お嬢様! 気が付かれましたか!?」
驚いたような、それでいて安堵したような声が響いて、声の方へと顔を動かすと。
「ルーチェ? それにミリアーナにバネッサも……?」
目に涙を溜めて心配そうにあたしを見るルーチェに、安心したように胸を撫で下ろすミリアーナ、そして困ったような微笑みを浮かべるバネッサが、ベッドに横になっているあたしの傍らに控えて居た。
「あれ? あたしは……ここは……?」
3人が揃って居る事も珍しいのだけど、それよりもあまり見慣れない部屋の内装が気になって、あたしは声を漏らす。
「お嬢様、憶えていらっしゃいませんか? お嬢様は、ルーチェとの魔法の授業の際にお倒れになったのです。」
バネッサがあたしの状況を説明してくれる。
あー、そういえば魔法を使おうとして、なんでか気持ち良くなったと思ったら、急に……
「お嬢様、申し訳ありません! 魔力量の制御の事をお伝えしなかったわたしのせいです……!」
ルーチェが勢い良く頭を下げて、大声で謝ってくる。
「魔力量の制御?」
「魔法を使うには、放出する魔力の量を調節する必要があるんですよ。お嬢様はその行程を飛ばしてしまったので、一度に魔力を使い過ぎて、魔力に酔ってしまったんです……! 慣れてもいなかったので、余計に……」
ルーチェが目を潤ませて説明してくれる。
「うーん? つまりあたしは、自分の魔力で酔っ払って、倒れちゃったってこと?」
「はい……!」
なるほどね。それでまだ明るい内なのに、あたしは寝ていたわけか。と、納得したのは良いんだけど……
「それで、このお部屋は? ここって客間だよね? あんまり使ってるところ見た事ないけど。なんであたしこの部屋に居るの?」
産まれてこの方12年、来客なんて奴隷の売買の関係者ばかりだし、そういう人達は基本的にお父さんが対応する。
じゃあ何のための客間なのと言われても、在るんだからしょうがないじゃない。
あたしが設計した訳じゃないし。
「お嬢様のお部屋は、今清掃と換気中――――」
「ミリアーナ!」
ほえ? 換気? 清掃??
あたしは疑問符を頭一杯に浮かべて、バネッサに言葉を遮られたミリアーナを窺う。
「えーと……あの、憶えてなかったのですか? その……」
「倒れた事自体は憶えてないね……急に記憶が白紙になったみたいでさ。もしかしてあたし……何かやっちゃった……?」
困り顔で、今度はミリアーナがバネッサを窺う。
あ、ルーチェもなんだか伝えるか迷っているみたい? なら……やっぱり彼女しか居ないよね。
「バネッサ、教えて?」
あたしは、恐らく何らかの失態を仕出かしたんだろう。
意を決して、バネッサに事の次第を訊ねる。
「…………はい。お嬢様が魔力酔いの状態に陥られてすぐの事です。お嬢様は……その、嘔吐いたしまして、お部屋の中が……その……」
「……あたし、吐いたの?」
力無く頷く、ルーチェ。
「え、部屋を移されるほど、派手に?」
気まずそうな顔で頷く、ミリアーナ。
「…………マジで?」
「マジでございます、お嬢様。ちなみに現在は、お嬢様がお倒れになってから、凡そ3時間といったところでございます。」
マジか。え、魔力でラリった挙句盛大に嘔吐してぶっ倒れて、それから3時間も寝てたってこと?
「えーと、あたしの着替えとかは……?」
「私とルーチェとでお清めとお召し替えをさせていただきました。ミリアーナから旦那様と奥様には事情は説明済みでございます。」
「仕事の書類とか、書棚に被害は?」
「ソファセットで起こった事ですので、お仕事の書類や御本等は無事でございます。」
「調度品の被害状況は……?」
「ソファとお召し物、それと床のクロスが最も甚大でございましたが、清掃と修復が可能な範囲でございました。しかし……」
「しかし?」
「……奥様が丁度いいと全て下取りに出されてしまいまして。お部屋の壁紙から調度品から、全てを現在のお嬢様に合わせて模様替えされるそうです。」
何やってんのお母さん!?
いや、汚した当人が言うのも何だけどさ、まだ使えるなら使おうよ!?
「か、会長……お父さんは、何て……?」
「とても張り切っておいででございました。といいますか既にお得意先の家具工房に見積もりに向かわれております。奥様もご一緒に。」
「お嬢様の初の魔法行使のお祝いだと、仰っていましたよ。なあルーチェ?」
「は、はい……」
「えぇぇー…………」
なんなのそれぇ……? まだカンカンに怒ってるとか言われた方が気が楽だよぉ!
「あ、それからですが……」
「うん?」
何よバネッサ? これ以上まだあたしを追い詰めるつもり……?
ってかゲロ吐いて部屋を全面改装って……!
あたし嘔吐少女!? マーライオン・マリアとでも名乗ればいいのっ!?
「お嬢様のお気に入りの、【クマどん】様はご無事でございますので、ご安心くださいませ。」
「良かったですね、お嬢様!」
「ああ、あの年季の入った熊のヌイグルミ……え、【クマどん】って名前なんですか?」
もういいよぉ……!! やめてくださいお願いしますぅー!
うう……ミリアーナやバネッサはともかく、ルーチェにはまだヌイグルミを大事にしてること知られてなかったのにぃ!
でもクマどん無事で良かったよぉーっ!!
後でいっぱいハグしてあげるからね! 生き残っててくれたご褒美だよ!
でもそっかぁ、魔力酔いねぇ……
まあ、詳しい事は追々の授業で教えて貰えば良いかな。
うん、今度は通りから見えない裏庭でやろう。
奴隷たちの洗濯場の近くでなら、護衛も必要ないだろうし。
外でやればまた吐いても軽傷で済むでしょ、ハハハ。
「ん? ……吐いて……?」
「如何なさいましたか、お嬢様?」
「まだ気分が悪いですか?」
「うぅ……! 本当にすみません……!」
あー、いや。
ちゃんとキレイにしてくれて、着替えもさせてくれたってのはもう分かってるんだけどね……?
「お風呂……入りたいな……」
◇
――――カッポーン♪
木製の浴槽に木の桶が当たって、耳に心地良い音が反響する。
うん。ごめんね、バネッサ、ルーチェ。
2人がキレイにしてくれたのは分かってるんだけど、やっぱり吐いてしまった後でお風呂に入らないのは気持ち悪いの。
あたし、(魂は)日本人だから!!
と、いうわけで。
あたしは急遽お風呂を沸かしてもらって、まだ夕方に差し掛かる頃合からの優雅な入浴タイムと洒落込んでいるのです!
とりあえず脱ぐ物を脱いで浴室へと駆け込み、バシャバシャと掛け湯をしてからまずは浴槽へ。
「あふぁああああ〜〜〜……」
流石我が家自慢のお風呂だね。
日本の檜風呂とは違う木材なんだけど、それでもお湯の中に木材の柔らかい香りが混じって、凄くリラックスできるの。
ああ、この世界、普通にお風呂の文化は有るよ。
ただ一般家庭に普及はしてなくて、家に風呂が在るのは王侯貴族や裕福な家庭だけかな。
一般の人は入ろうと思ったら、銭湯みたいな公衆浴場に行くみたいだね。
ローマのテルマエみたいなもんかな? 知らんけど。
家は……ねえ? 奴隷商ってことで嫌われ者だからさ。
お金にも余裕はある事だし、お母さんの熱心なお願いで、お父さんが湯殿を建てたんだって。
そんな事を考えつつ、お湯を手で掬ってはパシャパシャと顔に掛けていると、脱衣所から声が掛かった。
「お嬢様。お湯加減は如何でしょうか?」
バネッサの声だね。
ホント、有能なパーフェクトメイドさんで至れり尽くせりだよ、あたしゃあ。
「うん、最高だよぉ〜!」
お世辞抜きに返事を返す。
この気持ち熱めの温度が良いのよね。
身体の芯に熱が染み込んでくるこの感覚……! やっぱりあたしの中身は日本人なんだなぁと、しみじみ思うよ。
「それは良うございました。では、失礼いたしますね。」
「失礼します。」
「し、失礼しますっ!」
………………はい?
何やら不思議な言葉が聴こえた気がしたので、浴槽の枠に背中を預けていたあたしは、振り返る。
すると。
「ルーチェがお嬢様のお背中をお流ししたいと申しまして。私が指導いたします。」
「お、お詫びにもなりませんが、お手伝いさせてください!」
「私も一緒に教授をお願いしました。」
「え、ええええええッ!!??」
あたしの素っ頓狂な声が浴室に反響する。
あたしの目の前には、湯浴み着って言うのかな? 胸当ての布とショートパンツみたいな白い着物に身を包んだ、バネッサ、ルーチェ、ミリアーナの姿があった。
あっれー? あたし、もしかして死んだのかな? ここ天国? 魔力酔いで倒れただけじゃなくて、実は死んでたのかなー?
享年12歳かぁー、若いなぁー。あ、享年は数えで出すから13歳になるのかな? あれ、でもこの世界仏教無いし…………
「お、お嬢様?」
「わああッ!?」
び、ビックリしたぁー!
アレコレ考えてたら、いつの間にかルーチェが目の前にしゃがんで、あたしの顔を覗き込んでいた。
「そ、その……ご迷惑、でしたか……?」
ああああ……っ! そ、そんな泣きそうな顔しないでよぉ!?
「う、ううん! 迷惑じゃないよ! ビックリしただけだからっ!」
「(お嬢様。ルーチェは、授業でちゃんと教えられなかった事を気にしているんです。どうか、気の済むようにさせてあげてください。もちろん私も、精一杯お手伝いしますよ。)」
おおう……!
ミ、ミリアーナさん!? 耳元でそんな優しいお声で囁かないで……!?
へ、変な気分になっちゃいそう……!
「じ、じゃあ……お願いしようかな……?」
「!! は、はいっ! よろしくお願いします、お嬢様!」
「では、僭越ながら私が説明して参りますね。ミリアーナも途中で交代しますからね。ではお嬢様、此方の椅子にお座りくださいませ。」
「う、うん。」
あたしは緊張に鼓動を大きくしながら、浴槽から洗い場へと上がる。
片足を石の床に着いて、もう片方を引き上げようとすると、ツルリンッと――――
「う、ううわっ!!??」
「「「お嬢様ッ!!??」」」
わぷっ――――!?
足を滑らせたあたしは、『あ、やべ』と思いながらもそのまま倒れ…………てない? あれ? 柔らかい?
「お嬢様、大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
ふおおおおおおおおッッ!!??
ミ、ミリアーナに抱っこされてるうううううッ!!??
柔らかいんだけど中身が引き締まったミリアーナの腕に抱き締められ、あたしの後頭部はあろう事か湯浴み着(?)たった一枚越しの、彼女のステキな胸部装甲に……!?
おうふっ! や、やわらかいいいいいいいッッ!!
「お嬢様……?」
「ハッ!? な、なんでもない、何ともないよ! あははっ!」
「なら良かったです。滑り易いので、気を付けてくださいね?」
ああああああああぁぁぁッ! 尊いよおおおおッ!!
凛々し美人な微笑みでそんな事言われたら、あたし逆上せちゃう!!
「ご無事で何よりでございます。それでは、改めて此方のお椅子に、どうぞ。」
「う、うん!」
バネッサの声に名残を惜しむ後頭部をステキな丘から引き離し、後ろ髪を引かれる思いで洗い場の椅子に腰を下ろす。
流石はバネッサ。
冷たくないように予めお湯を掛けて椅子を温めてくれてるよ。
「それではルーチェ。お嬢様のお身体が冷えないよう、手早く且つ丁寧にお手伝い致しましょう。」
「はいっ。よろしくお願いしますっ。」
「ではまず――――」
あたしはそれから、3人に代わる代わる身体を洗ってもらっちゃいました。
あたしの視線は目の前で揺れる大小様々な6つの果実や、ぷりんっ♡としたステキな桃や、魅惑的に蠢く手や腕、脚にととても多忙な時を過ごされた様子でした。
もうね! あたしに掛け湯をする度に濡れて透けちゃう肌とかね! アレとかね!!
あとは身体を優しく這う指先とか、ふとした拍子に密着する色んなトコとか!!!
あたし、やっぱ死んだんじゃないのかなー?
ここって、天国だよね??
ちなみに、どこがとは言わないけど、大きさはミリアーナ、バネッサ、ルーチェの順だったかな。
推定だけど、順番にF、D、Bくらい?
あ、更に余談だけど、何処がとは言わないけど、お母さんは推定Hね。
ああ……! 今だけは女の子に産まれて良かった……ッ!!
20話以上経って初のお風呂回です!
如何でしたか?
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