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第22話 魔法を学ぶ少女・マリア

いつもお読み下さり、ありがとうございます!

 

 ルーチェの抱える問題が解決してから、更に日は流れて。

 あたしは、12歳になった。


 ルーチェとのなんちゃってカウンセリングも、重ねた回数が功を奏したのか、彼女はしっかりと、自分の意思で日常生活を送れるほどに回復を見せた。


 まだ偶に、亡くなった仲間の事を思い出して落ち込む時も有るけれど、部屋に籠りきりだった生活は改善され、あたしやミリアーナ、バネッサと共に活動する機会も増えてきている。


 特にミリアーナには、同じ冒険者として親近感を覚えたらしくて、『お姉様』なんて呼んで懐いている。


 百合百合しくて実に良いね。眼福でございます。


 で、そんな風にルーチェも回復してきたということで。


「ルーチェ、今日からよろしくね!」


「はい、お嬢様。精一杯、教えさせてもらいますね。」


 いよいよ待ちに待った、魔法の授業が始まったのだ!




「まず魔力とは、この世界に生きる総てのものが有しているモノです。お嬢様は既に、魔力を動かす事と注ぐ事は出来ていますね?」


「うん。魔導具に注いだり、紋章に魔力を翳したりは出来るよ。」


「凄いです。普通の平民の子供は、精々自身の魔力を自覚するくらいしか出来ませんよ。何歳くらいに出来るようになったんですか?」


「んー、お仕事を始めて少ししてからだから、8歳とかそのくらいかなぁ?」


 あたしの部屋のソファで隣り合って座り、ルーチェの質問に答えていく。


 ルーチェの職業適性は、超希少な【賢者】だ。

 魔法への適性がずば抜けて高い職業で、7歳で受けることになる【鑑定の儀】で見付かれば、即座に国からのスカウトが来るような代物である。


 ルーチェがそれに目覚めたのは、7歳を迎える少し前だったらしい。


 ある日突然“そうである”と自覚が芽生え、魔力の扱いを自然に理解する事が出来たのだと言う。


 それは異常な事だと子供心に思ったらしく、必死に隠そうと試行錯誤を繰り返す内に、適性を隠蔽する事に成功したらしい。

職業技能(スキル)】のひとつなのかな?


「魔法を扱うには、まず魔力というものを自覚して、それを元に術式を構築しないと発動しません。お嬢様の魔法適性は、何でしたか?」


「“無属性”と、“浄化”だね。」


「では扱い易い“無属性”からお手本を見せますね。“無属性”の魔法は“生活魔法”とも呼ばれていて、主に生活に根差した効果の魔法が、数多く開発されています。」


 そう説明して、ルーチェが魔力を操作し始める。


「術式を構築するためには、魔力を言葉に乗せて詠唱するか、イメージで具体的な現象を思い描く二通りのやり方があります。今回は【清掃(クリーン)】の魔法を使ってみましょう。」


 予め用意されていた染みの着いたハンカチを、テーブルの上に広げるルーチェ。


 手を翳して、魔力の込もった言葉を紡いでいく。


「――――清めの水よ、清涼たる風よ。【清掃(クリーン)】。」


 これはあたしがこの世界に転生して、初めて見た魔法だね。

 お母さんが床のクロスのインク染みを綺麗にしたヤツだよ。


「ほあぁ〜!」


 綺麗になるモンなんだねぇ〜!

 茶色かったから紅茶の染みかな? それが着いていたハンカチは、淡い光に包まれたかと思うとみるみる内に染みが薄れ、元の真っ白な姿になった。


「コツとしては、詠唱文を覚えるのは勿論ですが、文言に魔力を乗せる事です。これを“言霊(ことだま)”と云います。定まった詠唱を“言霊”を用いて行えば、定められた術式が自然に組み上がるようになってるんですよ。」


 “言霊”ねぇ……?

 前世でも聞いた事はあるね。

 放った言葉が力を持ち、現実に影響を与える現象の事だったかな?


「もう一つのやり方には、明確なイメージが必要です。イメージさえ鮮明に浮かべられれば、“言霊”は必要ありません。それが俗に言う、“詠唱破棄”のことですね。


清掃(クリーン)】の魔法なら、対象が明確に綺麗なところをしっかりとイメージ出来ないと、失敗することも有りますね。」


 なるほどなるほど。

 詠唱文を覚えて言葉に魔力を乗せる“言霊”が使えれば、魔法は行使できる、と。


「ということは具体的なイメージさえ浮かべば、どんな現象でも起こせるって事?」


「理屈の上ではそうなります。ですがここで、当人の“魔力総量”と、行使する魔法に掛かる“消費魔力量”が関わってきます。


 例えば“魔力総量”が10の人は、たとえどんなに鮮明にイメージが出来ても、詠唱文を完璧に覚えても、“消費魔力量”が10を超える魔法は使えません。」


許容量(キャパシティ)必要量(コスト)が存在するんだね。“魔力総量”を増やす手段は在るの?」


「一般的には二通りの方法が在ります。一つは、魔物等の魔力を持つ存在を打ち倒して存在の位階を上げる事。教会では、これを“神の試練を超える”と表現していますね。


 もう一つは、魔力を底上げする効果を持つ魔導具や装備を身に着ける事です。まあそれらの魔導具類は非常に高価なので、大抵は貴族様などの財力を有する人向けの方法です。」


 なるほど〜。

 存在の位階を上げるってのは、要するにモンスターとかを倒してレベルアップするって事だよね。


 魔導具とかの装備品は、高そうだね。

 オークションとかで貴族達が競り合ってそうなイメージだね。


 ……ん? 一般的には?


「『一般的には』ってことは、そうじゃない方法があるの?」


「大々的に公表されている訳ではないんですが、一応は。これはわたしが【賢者】の適性のおかげで発見できた手法なんですが、繰り返し魔力を使い切る、という方法です。」


「意図的に、魔力を枯渇させるってこと?」


「そうです。人間の筋肉が鍛えれば鍛えるほど増えるように、魔力も使えば使うほど絶対量が増えていきます。“試練”を超える事に比べれば微々たる増加量ですが、“銅貨も増えれば財布を破く”とも言いますからね。」


 あー、超回復的なアレか。

 確かにレベルアップに比べれば、地味で地道な印象ではあるね。


 あ、ちなみに“銅貨も増えれば〜”っていうのは、この世界の(ことわざ)だよ。

 日本の諺の、“塵も積もれば山となる”ってのと同じ意味ね。


「そっか。【賢者】の適性を自覚した時に、魔力の扱いも理解したって言ってたもんね。増やし方もそれで判明したって事か。」


「恐らくそうなんでしょうね。ただ、一口に魔力を使い切ると言っても、問題が有ります。」


「え、何? 今のところあたしに一番合ってそうな方法なのに、何が問題なの?」


「魔力が枯渇すると、激しい倦怠感や頭痛、吐き気や気分の落ち込みに襲われるんです。だから一般的には、魔力が無くなると死ぬと言われてるんですよ。」


 おおう……!

 それはまた、なんとも……


「そ、そんなに酷いの……? っていうかルーチェ、もしかして経験済みだったり?」


「わたしは最初は、この手法で密かに訓練しましたからね。適性を偽ってはいても、魔法で身を立てる事に憧れがあったので……あれは、地獄の苦しみですよ。」


「そ、そんなに言うほど……? マ、マジでヤバいの……?」


「マジでヤバいです。魔力の回復量は人によって個人差はありますけど、【賢者】のわたしは回復も早かったんです。おかげで何度も挑戦はできましたけど……一日に何度も枯渇を味わうと、控え目に言って死にたくなります。」


 マジか……! そんなに辛いのか……!


 うーんでもなぁ〜。

 こんな12歳の乙女に、モンスターと戦って倒せる力が有る訳がないし、そもそもそんな度胸も無いしな〜。


 きっとルーチェもそうだったんだろうなぁ。

 10にも満たない女の子で、しかも魔法特化の適性で、単独でモンスター狩りなんか出来るハズがないもんね。


 それでも何とか力を付けようと、苦しみながら鍛えてきたんだろうね。


「ち、ちなみに、あたしの“魔力総量”ってどのくらいとか、ルーチェなら判ったりするの……?」


「【賢者】のスキルに、[魔力鑑定]というものがあります。具体的に数値として見える訳ではないですが、魔力の大きさを測る事は出来ますよ。対象を絞らず放出するように使えば索敵にも流用できるので、結構便利なんです。」


 ふぅん、そりゃまた便利だなぁ。


「じゃあさ、ルーチェから観てあたしって、魔力の大きさってどうなのかなっ? 調べて観てくれる?」


「やってみますね。………………なるほど。お嬢様は、同じ年代の子供に比べれば非常に大きな魔力を持ってますね。普通に暮らしている大人と、同じくらいでしょうか。」


 おお、これは朗報だね!


「普通の大人の人だと、さっきの【清掃(クリーン)】の魔法は何回くらい使えるの?」


 だがしかーし!

 あたし……もとい俺こと【八城要(やしろかなめ)】は、慎重な現代日本人!

 予防線はキッチリ張らせてもらいますよ!


 ヘタレと言うなかれ。

 折角転生して第2の人生が軌道に乗りつつあるのに、誰が好き好んで鬱になるもんかいッ!


「そうですね……何の訓練もしていない男性で、使えて3回くらいでしょうか。すみません、お嬢様。冒険者仲間とばかり付き合っていたので、絶対とは……」


「ううん! それだけ聞ければ充分だよ! ねっ、早速【清掃(クリーン)】の練習しても良い?」


「はい。ではまずは、“言霊”の練習からですね。声に魔力を乗せるという感覚を、覚えてみましょう。わたしと手を繋いでもらって良いですか?」


「うん! お願いね、ルーチェ!」


 あたしはウキウキしながら、差し出されたルーチェの両手を掴む。

 ふわぁ、手ぇ柔かっ!?


「ルーチェの手、小さいのに柔らかいね!」


「そ、そうでしょうか……? 魔法の訓練ばかりで身体をあまり鍛えてこなかったので……」


 確かにルーチェは、ミリアーナやバネッサと比べれば、ちょっとばかし発育が劣っている。


 でもだからと言って、別に貧相という訳じゃないよ?


 ミリアーナやバネッサを“美女”だとか“お姉様”ってカテゴライズするのであれば、ルーチェは“美少女”とか“女の子”って感じだからね。


 モデル系美人とアイドル系美人の違いみたいなものかな?


「今からわたしが魔力を操作して、お嬢様の魔力を誘導します。まずは両手に魔力を集中させてください。」


「うん。……これでいい?」


 あたしは、普段魔導具を使う時の容量で魔力を動かし、手に移動させる。


「とてもスムーズに出来てますよ。そうしたら、今度はそれをわたしに注いでみてください。ちゃんと魔力の動きに注意していてくださいね?」


 言われた通りに、ルーチェの両手に魔力を注いでいく。


 すると、あたしが注いだ魔力が吸い上げられるようにして、ルーチェの手から腕を通っていくのが分かった。


「今お嬢様の魔力は、わたしの心臓の辺りに在ります。感じ取れますか?」


「うーん、腕を通って登っていったのは分かったんだけど……」


「そこまで最初から分かるのも、充分凄いですよ。このままお嬢様の魔力を一塊りにして、わたしたちの身体を巡らせてみますね。わたしの魔力とお嬢様の魔力の違いを感じ取って、動き方を良く感じてみてくださいね。」


 そうルーチェが言うと、ゾワリと、身体の中で何かが蠢いたような、何かが入ってきたような感覚に襲われた。


「うわっ。これ、ルーチェの魔力?」


「そうです。他人の魔力を受け入れるのは、初めてですか?」


「そういえば初めてだね。注ぐ事しかやったこと無いや。」


「そのまま感じていてください。右手から入って、左手から出るように魔力を身体の中で回しますよ。」


 言いながら、ルーチェが魔力に流れを作っていったのが感覚で分かった。


 なんだろう、血管の中を粘度のある液体が流れているような感覚かな?


 そのまま感じ入っていると、突然ルーチェの魔力とは粘り気の違うものが入ってきた。


「あ、今のがあたしの魔力?」


「良く分かりましたね。お嬢様の魔力も一緒に運んでいます。」


「なんか、ルーチェの魔力よりサラサラしてるみたい。」


「そこまで分かるなら大したものですよ。魔力には“練度”というものがあります。長く訓練を積んで、体内で効率良く練られた魔力は、重たくなるんです。魔力の質が変わるんですよ。」


 そうこう言っている内に、あたしのサラサラした魔力は流されて行き、身体を一周してまた左手から出て行った。


「これが、体内で魔力を循環させる、“練り上げ”と言われる行程です。これをスムーズに滞りなく、尚且つ素早く行うことで、魔法の術式構築がより正確に行えるようになります。」


 グルグルと巡る魔力を感じながら、ルーチェの講義に耳を傾ける。


「なんだろ? ルーチェの魔力って、温かくて安心する感じがするね。眠くなっちゃいそう。」


「魔力の質は、人によって皆違いますからね。そう言って頂けると嬉しいです。お嬢様の魔力は、懇々と湧き出る澄んだ水のような感じがします。」


 そ、そうかな……?

 なんだかか詩的な表現をされちゃったけど、これ褒められてるんだよね? 魔力がキレイって意味だよね?


「今お嬢様は、言葉には何も魔力を乗せていません。わたしがこのまま魔力を操作しますので、ご自分の喉と舌、それから出る声に意識を集中していてください。


 魔力の流れを掴めれば、あとは真似をしてみれば出来るはずです。そうですね、ご両親の事を話してください。旦那様の時は魔力無し、奥様の時は魔力を乗せますので、注意してくださいね?」


 おっけーだよ。やってみよう!


「あたしのお父さんはスティーブ。歳は34歳で、ワーグナー商会の会長さん。真面目な良いお父さんだけど、ちょっとあたしを大袈裟に可愛がるのが照れ臭いかな。あと髭剃ってほしい。ホントに。切実に。」


「は、はい……! で、では次は奥様のことを。魔力を動かしますよ。」


「あたしのお母さんはジョアーナ。歳は30歳で、でもそうは見えないくらい可愛い。あとおっぱいが大きい。羨ましい。あたしもほしい。ずるい。抱き着くと凄く気持ち良くて大好き。あそこで寝ていたい。」


「お、お嬢様……?」


 はっ!? しまった、つい本音が溢れてしまった!?


「ど、どうでしょうか……? 違いが判りましたか? ちょっと感情の入り具合が違って、判り難かったかもしれませんが……」


「う、うん……! 何となくは、判ったと思う。えっと、今のは、そのぉ……」


「ふふっ。解っていますよ。奥様には内緒にしますね。お嬢様がもし照れ臭いのでしたら、奥様ほどじゃないですけど、わたしの胸をお貸ししますよ?」


 マ・ジ・でッ!? と食い付きたいところだけど、待て待てあたし! こら!


「い、今は魔法に集中だよ! 何となく動かし方は分かったような気がするから、ちょっとやってみるね!」


 流石に12歳でおっぱいに抱き着きたいってのは照れ臭くて、あたしは無理矢理頭を切り替えて、ルーチェの真似をして魔力を“練り上げ”る。


「そんなに照れなくても……って、お嬢様!? ちょっと待っ――――」


「――――清めの水よ、清涼たる風よ。【清掃(クリーン)】!」


 どうだっ――――あ、あれ?


「お嬢様!? イキナリは無理です! お嬢様っ!?――――」


 あはははー! ナニコレ気持ちイイー!

 なんかフワフワしてポヤポヤしてグルングルンして…………


 うぅぷッ!?

 き、ぎも゛ぢわ゛るるるろろろろらろろるろろらろろ…………!!




激☆リバースしちゃいましたマリアちゃんwww


お食事時の読者様にはごめんなさい!!(笑)


とうとう魔法を学び始めました!

如何でしたか?


「面白い」「なんで吐いたのwww」と思われましたら、ページ下部の☆から高評価や、ブックマークをお願いします!


励みになりますので、感想やレビューもお待ちしております!


こんなリバース少女ですけど、マリアちゃんを応援よろしくお願いします!

m(*_ _)m


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