第15話 論破する少女・マリア
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
……いやあのさぁ。
なんなんだろうね? どうしてこうなるかなぁ……!
「いや、真に申し訳ない。部下には強く言っておくので、どうか怒りを鎮めてもらえないか?」
俺に対して頭を下げる男性。
この男、俺の生家の在る街である、【アズファラン】の警備隊隊長である。
「申し訳ないで済む話かッ!? 同じ街の歴とした住人を差別するどころか、治安維持にご協力下さったお嬢様を、違法奴隷商人扱いするなどッ……!!」
うん。ミリアーナ、もっと言ってやれ!
現在の状況をおさらいしようか。
まずあたしたち。
台無しの盗賊討伐から、犯罪者10人を奴隷として仮登録して引き連れ、街に帰還したの。
街の出入りには身分証の提示が必要で、身分証が無い場合は取り調べを受けて犯罪歴の確認と、保証金の支払いが必要になるよ。
でまあ、あたしたち3人はちゃんと身分証を持ってるから良いとして、問題になったのは奴隷10人の方ね。
◆
『その引き連れている男達は何だ? 見たところ貧しい身形をしているが。それに出立時の記録と人数が一致していないぞ?』
街の入場門の門番さんが、元盗賊で今犯罪奴隷の10人を、訝しげに観察する。
『行楽中に襲いかかってきた盗賊一味だ。返り討ちにし、全員犯罪者であったため奴隷として仮登録をして、警備隊の記録と照合するために連れて来た。賞金首が居れば引き渡すつもりだ。』
護衛として、またAランク冒険者として、一番名が通っているであろうミリアーナが、代表して対応する。
しかし、何ひとつ偽りを言っていない彼女に対して門番は。
『盗賊ぅ? 大の男10人を、お前らたった3人で撃退したってぇ? それも1人はガキだろう? それにその首枷、お前奴隷だろう? 何故たかが奴隷がAランクなんて立場に居るんだ?
おい、こいつら怪しいぞ。犯罪奴隷とか言っているが、近隣の農村でも襲って拉致して来たのかもしれん! 奴隷2人にガキ1人だ。取り押さえて調べろ! そんなガキが正規の奴隷商な訳ないからな、違法な奴隷商人に違いない!』
『なっ、何を言っている!? お嬢様は歴とした【ワーグナー商会】のご令嬢だ!! 無礼は許さんぞ!?』
『はっ! 何がご令嬢だよ。汚らわしい奴隷商人が。人様の命で飯を食ってる卑しい者に、払う礼儀が有るとでも思うのか!? おい早く取り調べだ! 覚悟するんだなお前ら。違法奴隷商人は重罪だぞ。まあ2人の奴隷の面倒くらい、オレが見てやらんこともないがな!』
そう言って、下卑た笑みを浮かべる門番の男。
体格はガッチリしていて、良く鍛えられているのが分かる。
身分というか階級も、他の門番達に比べれば高いみたいで、部下らしき他の警備隊の男達は、困惑しつつも逆らえない様子だ。
とりあえず、この野郎は絶対許さねぇ。
俺が違法奴隷商人だと? 農村を襲ったって、奴隷狩りをして来た疑いを掛けてきやがった。
しかも身分証も偽造だと思ってやがるな。
ミリアーナのAランク冒険者の証も、本物とは思ってないみたいだ。
そして何より……俺を有無を言わさず排除して、俺の大事なミリアーナとバネッサを捕らえて、お楽しみとシケこもうって下心が見え見えだ。
俺がガキだからって甘く見やがって……!
『ミリアーナ。何も疚しい事は無いから、とりあえず聴取に応じよう。』
『暴力はいけませんよ、ミリアーナ。お嬢様に従いなさい。』
『しかしっ……!! ……いえ、分かりました。お見苦しいところをお見せして、申し訳ありません。』
いいって。ミリアーナは何も悪くないから。
それよりも、かなり注目を集めてるしね。入場門の審査待ちの連中も支えてるし、先ずはこの場を離れよう。
そしてこの門番のクズ野郎に、目に物見せてやる……!
◆
で、今に至る。
あの後あたしたちは取り調べ室に個別に連行されて、馬車に積んでいた荷物から何から全部取り上げられ、精査された。
で、正規の奴隷商人である証になる、国の認可印の押された許可証――魔法印の所持に関するものだね――が出てきて、『これはどうした!? 何処で盗んだんだ!?』みたいにあたしを尋問してきたクズ野郎。
けど騒ぎ過ぎたんだね。
クズ野郎の横暴に見かね、勇気を振り絞った部下の1人が、責任者である警備隊の隊長を呼びに行って、今目の前に座っているこの男を連れて来た。
まあ、尋問官の交代で別の人が来た時に、あたしが呼ばせたんだけどね。
流石に警備隊の隊長ともなると、この街の正規の奴隷商人であるワーグナー商会のこともちゃんとご存知だし、娘のあたしの事も把握していたね。
哀れクズ野郎は逆に取り押さえられ、あたしたちは警備隊の本部の応接室で、こうして謝罪を受けているって流れよ。
「警備隊の規律は、いったいどうなっているのでしょうか? 身分証を提示したにも関わらず、一方的に疑いを掛けるなんて、有り得ないでしょう? しかもお嬢様は、犯罪者紛いの扱いを受けたのですよ?」
バネッサもミリアーナに援護射撃を飛ばし、糾弾されている隊長は困り顔で、頭を掻いている。
「いや、本当に面目無い。スティーブさんとこのミリアーナ嬢に、バネッサ嬢だね。ご主人には、改めて正式に謝罪に伺わせてもらう――――」
「おい。」
いい加減、こののらりくらりと躱そうとする態度に腹が立ってしょうがねぇ。
尚も食いつこうとするミリアーナとバネッサを手で制して、俺は口を挟んだ。
「ん? なんだい、お嬢ちゃん? 今オジサンは、大人のお話をしているんだけどな。」
「何が大人の話だ。いい加減な対応してるんじゃねぇよ、【グリード】さんよ。」
「っ!?」
俺の言葉に、目を見開いて口を噤む隊長。
名前:グリード 年齢:32 性別:男
職業:警備隊長 適性:騎士 魔法:火
体調:普通 能力:C 潜在力:B
俺の職業技能[人物鑑定]によって、アンタのプロフィールは丸裸なんだよ。
適正が騎士のくせに、潜在力はB止まりなんだな。
これ以上の出世は難しそうだな。
ま、出世なんてさせる気無ぇけどよっ。
「勘違いしてるんじゃねぇよ。この2人の主人はこの俺だ。謝るってんなら、俺に誠意を見せるのが筋だろうが。アンタらが仕出かした失態は5つもあるぞ。
ひとつ、俺らの身分証を偽造だと決め付けたこと。ふたつ、犯罪者を取り得る手段を用いて連行してきたにも関わらず、それを違法な奴隷狩りだと決め付けたこと。
3つ。正規の奴隷商人の証が有るにも関わらず、俺を違法奴隷商だと疑って決め付けたこと。4つ。責任者であるアンタが、重大な失態を仕出かした部下の処分を、注意だけで済ませようとしたこと。
そして5つ目、取り調べの相手を良く知りもせず適当に謝罪に赴き、あろう事か謝罪をする相手を間違えていたことだ。奴隷とガキ相手だからって侮ってな。何か申し開きが有るなら言ってみろよ。」
俺がつらつらと並べ立てた、コイツら警備隊の不手際の数々に、隊長は顔色を青くする。
気の利いた反論も浮かばないみたいだ。
「独立こそしてねぇけど、立派な認可を得た奴隷商人なんだよ、俺は。碌に相手の事を調べもせずに上辺だけの謝罪を並べやがって。舐めてんじゃねぇよ。
名誉毀損による風評被害。犯罪者の引き渡しと、犯罪奴隷の公正な取り扱いを阻んだ営業妨害。更に証拠も無いのに犯罪者扱いした冤罪。全部が全部裁判モノだぞ? 今から代官とこ行くか? あ?
証人なんざ俺らの後ろで列に並んでた奴らから、いくらでも呼べるぞ? どうすんだよ、おい?」
裁判と聞いて更に顔色を悪くする隊長。
この世界での裁判権は、主に国王や皇帝などの国の指導者に任命された、各領地の領主を務める貴族が持つ。
そして複数の街を治める領主には、各街に派遣する代官に、裁判権を持たせることができる。
このアズファランの街には残念ながら領主は居ないが、領主である【ムッツァート伯爵】に任命された代官が、ちゃんと裁判権を与えられているため、代官に申し出れば裁判を開くことができるのだ。
「は、犯罪者を奴隷になどして来るから、要らぬ誤解を招いたのでは――――」
「女がたった3人なんだぞ? しかも1人は俺のようなガキだ。縄で拘束して馬車に引かせている間に、拘束が解かれたらどうする? 俺が人質になったりでもしたら、ミリアーナもバネッサも手出しが出来なくなるだろうが。
それにこちとら奴隷商人なんだぞ? 二束三文の犯罪奴隷だろうが、商売の種なんだ。安全と実利を考慮したら当然の措置だろうが。まだ何か、言い訳あんのか?」
俺の言葉に黙り込む隊長。
無いなら行かせてもらうからな。
「荷物と奴隷共は返してもらう。そして今回の事は、ワーグナー商会として正式に代官に抗議させてもらうからな。あのゲス野郎共々、身辺整理は済ませとくんだな。」
結局ごめんなさいの“ご”の字すら吐かなかった隊長を残して、部屋の警護に付いていた隊員を促して荷を取って来させ、詰所を後にする。
帰ったら早速抗議文書の作成だな。
あ、その前にお父さんとお母さんに話をしなきゃ。
ヤだなぁ……!
きっと心配されて、そんで怒られるんだろうなぁ。
くそっ! 何もかも俺たちのピクニックを邪魔した盗賊共のせいだ!
一等キツい労役所に送ってやるちくしょうめッ!!
「お嬢様、お見事でした! スッキリしましたよ!」
「ありがと、ミリアーナ。あたしも頭に来ちゃったからね、つい熱くなっちゃったよ。」
ミリアーナが清々しい笑顔で褒めてくれる。
これだけでも、アイツらを黙らせた甲斐があったかな。
「確かに、先程の論破はお見事でした、お嬢様。ですが……」
うん? ですがって何さ、バネッサ?
首を傾げるあたしに、バネッサは表情を固くして詰め寄ってくる。
う、うん? な、なんだろうか……?
「そのお言葉遣いは直さなければいけませんね。これまでも時折、あのような粗暴なお言葉遣いをしていましたが、本日のアレは酷すぎますっ! 礼儀作法のお勉強を、やり直しますよっ!」
「うえええええッ!!??」
ちょ、バネッサさん!?
あれは仕方ないというか、アレが本性というか……!
うう、救けてミリアーナっ!!
「…………(フイッ)」
うおいッ!? 顔を背けないでよッ!!?? 救けてっ!?
「さあお嬢様。早く帰宅しましょう。旦那様と奥様にも、叱っていただかなければ……!」
いーやーだーッッ!!
お家帰りたくなぁーーーーいッッ!!!
ちくしょう盗賊共! 警備隊共ッ!!
絶対許さないからなああああああッ!!!
あ、そんな乱暴に引っ張っちゃイヤだよー!
あ、こらミリアーナ!? 裏切ったな!?
やめっ、無理矢理馬車に乗せないでえええええええッ!!??
お説教コース確定!
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