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第13話 台無しにされて怒る少女・マリア

お久しぶりでございます!


更新が滞ってしまい、楽しみにして下さっていた読者様には、大変申し訳ありませんでした。


どうぞお楽しみくださいませ……!

 

 あたしの名前はマリア。

 奴隷商人の娘で、ついこの間11歳になったばかり。


 年齢は11歳だけど、お父さんの奴隷商会【ワーグナー商会】のお仕事を手伝っている。


 7歳の頃に見習いとしてお父さんに仕事を教えてもらい始めてから、既に4年が経とうとしている。


 任せてもらえる仕事も増えて、今ではお父さんの右腕的な立ち位置に居ると、そんな自負も持っている。


 そんなあたしには、誰にも言っていない秘密がある。


 実はあたしは、【異世界からの転生者】なのだ。


 あたしの前世は、地球生まれの日本人。


 名前は【八城要(やしろかなめ)】といって、実は男だったの。

 いわゆるブラック企業の社畜というやつで、恐らくだけど死因は過労死だね。


 で、何故かその前世の記憶を持ったままマリアに転生したから、俗に言う知識チートってやつが効いているんだよね。


 だからこうして、若干11歳でもお父さんの仕事をちゃんと手伝えるってわけ。


「お嬢様。あと10分ほどで目的地に到着いたします。」


 あたしが乗っている馬車の御者をしてくれている、あたし専属のメイド奴隷であるバネッサが、声を掛けてくれる。


「分かったー。楽しみだねぇ。」


「ええ、本当に。ミリアーナのお手柄ですね。」


「いえそんな、滅相もないです。私は、お嬢様が喜んでくだされば何より嬉しいですから。」


 護衛として御者台に同乗している、これまたあたし専属の戦闘奴隷の、ミリアーナが謙遜する。


 そんなことないって。

 街じゃ落ち着ける場所は無いし、初めて街の外に出るのがピクニックだなんて、すっごく楽しみなんだから。


 現在あたしたちは、ミリアーナが冒険者として活動している時に見付けた、美しい湖を目指して、馬車で移動中だ。


 あたしの資金作りとミリアーナ自身の借金返済のために、奴隷であるミリアーナには、冒険者に復帰してもらっているのだ。


 そんな彼女が、依頼(クエスト)中に見付けたというその美しい湖。


 10歳を超えて、護衛付きでならと外出を許可されたあたしだったけど、街の住人達の奴隷商人を嫌悪する雰囲気が気に入らなくて、結局屋敷に篭っていたのだけど……


『お嬢様。休暇をお取りになって、気晴らしにピクニックでも如何ですか? ミリアーナが、風光明媚な湖を発見したそうですよ。』


 バネッサにそう提案されて、街の外なら視線も気にすることないしってことで、あたしは2人と一緒に、ピクニックに出掛けてきたというわけだ。


 2人のそういった心遣いは素直に嬉しいし、大好きな2人と一緒にお出掛けなんて、土下座してこっちから願い出たいくらいだもん。否やなど無いよ、うん。


「あっ! お嬢様、見えてきましたよ! あそこです!」


 凛々し美人のミリアーナが、顔を綻ばせて指で前方を示す。


 あたしは御者台に上半身を乗り出して、2人の間からその方向を覗き見た。


「わあっ!! 凄く綺麗な場所だねぇっ!!」


 初めての街の外、そして大好きな2人とピクニック。


 あたしのテンションは、天井知らずにアゲアゲになるのだった。




 ◇




 さて、ここでおさらいをしておこうかな。


 もうすっかり女の子として暮らしているけど、あたしマリアこと【八城要】は、本来男の人格である。


 ボロを出すと面倒臭いから、物心ついた時から女の子として振る舞ってきたけど、たまーに、ごく稀に、感情が大きく揺さぶられた時なんかに、地というか本性というか、男の気性が顔を出しちゃうんだよな。


 そう例えば、こんな風に……


「おうオマエら、いい大人の野郎共が雁首揃えて、こんな少人数の女子供を狙って襲い掛かるってのは、どーいう了見だコラ?」


 ()の目の前には、つい先程護衛のミリアーナにボコボコに伸された、如何にも盗賊然とした野郎共。


 その人数、実に10名。


 野性味溢れる不衛生な身形に、粗末な皮の胸当てやら篭手やら、簡単な防具を着けて、碌にメンテナンスもされていないような刃の毀れた長剣や短剣、斧や棍棒を装備して、襲いかかって来たのだ。


「ミリアーナ、怪我は?」


「ちょっとした裂傷だけです。ただ、コイツらの装備だと破傷風が心配ですね。」


「バネッサ。水を精製して綺麗に洗浄してから、ポーションを半分は創部に、半分は飲ませてあげて。傷は清潔な布……お弁当のナプキンで良いかな。それでちゃんと拭ってあげてね。」


「承知致しました、お嬢様。」


 ミリアーナの治療の指示をバネッサに伝えてから、荒縄でふん縛られた盗賊共に向き直る。


「この程度で済んで良かったなオマエら。もしこれでミリアーナに取り返しのつかない傷でも付けてみろ。オマエら全員、犯罪奴隷落ちなんて生温いこと言わずに、この場で全員野獣のエサだぞ。


 生きたまま樹にふん縛って、ワザと血を流させて、放置してやる。意識が途切れるまで、野生の獣に自分の身体が喰われる感覚を教えてやるぞ。」


 とても11歳の可憐な少女に向けるとは思えない、怯えた目で()を見てくる盗賊共。


「まあ幸いにして、今回はミリアーナも無事だし、オマエらは街まで引き摺って帰って、全員犯罪奴隷として売り飛ばしだな。()らの楽しい長閑なピクニックを邪魔しやがったんだ。精々労役に励むんだな。」


 ざっと盗賊共全員を見回して、そう宣言してやる。

 そんなところに、バネッサがやって来た。


「お嬢様、治療が完了致しました。ポーションは2本使用させて頂きました。」


「ん。ポーション代は経費に付けといて。ミリアーナ、問題無さそう?」


「はい。あのような小さな負傷に、ありがとうございます。」


「護衛は仕事の一環でしょ。楽しむためとは言え仕事なんだから、ちゃんと経費で補償しなきゃ。あ、そういえばこの間の依頼(クエスト)の経費報告、まだ挙がってないよ?」


「うっ……! わ、分かりました。帰ったら直ぐに提出します……」


 そんな薮蛇みたいな、バツの悪い顔しないでよね。

 部下の経費を上司が補償するのなんて、当たり前なんだから。


 ミリアーナもそうだけど、この世界の雇用に関する理念は緩過ぎる。


 例えば冒険者なんかは基本的に自己責任なんだけど、中には護衛や護送などの依頼もある。

 けど、そんな中で必要経費を明示している依頼はごく稀で、往復の護衛報酬のみの支払いなんてのもザラにあるのだ。


 最終的には当事者同士の話し合いになるんだけど、飲食物の提供や治療費の補償も無しなんて、本当に護衛を雇う気があるの? って思う。


 良い仕事は良い報酬から。

 掛かる経費は雇用主が払うのが当たり前。


 そう思うんだけどな。


 バネッサは流石の教養を持っているので、そういった雇用の仕組みに関しては柔軟だったけど、ずっと冒険者として活動してきたミリアーナは、ちょっと頭が堅いんだよね。


 冒険者のモットーの、“自己責任”って言葉に囚われ過ぎだ。

 今は冒険者でもあるけど、()の奴隷――部下なんだからね。


「お、お前……いや、アンタもしかして、奴隷商人なのか……?」


 盗賊共の中で一番身形の整った装備を着けていたハゲが、恐る恐る口を挟んできた。盗賊団の頭領的な感じかな?


 ()()()もだいぶ気持ちが収まってきて、幾分か落ち着いた声が、口から出る。


「そうだよ。あたしは奴隷商人。まだ独立はしてないけどね。アンタ達は、このままあたしの奴隷になるんだよ。」


 そう言って、あたしはあるスキルを発動させる。


([人物鑑定]。)


 心の中でスキル名を唱え、頭領らしきハゲを()()



 名前:ハーゲン 年齢:28 性別:男

 職業:犯罪者 適性:軽戦士 魔法:なし

 体調:普通 能力:E 潜在力:D



(いや、名が体を表しすぎじゃね? ハゲだからハーゲンなのか、ハーゲンだからハゲたのか。謎だな……)


 今行使したのは、【職業技能(スキル)】と云われるものだ。


 この世界の人間には、生まれ持った職業への適性というものが存在する。


 よっぽどの極貧民のような一部の例外を除いて、7歳になった子供は例外なく、教会に集められて【鑑定の儀】を受ける。


 そこで各々の職業の適性を調べられるのだ。


 まあ一般的な家庭の子供だと、適性もだいたい【平民】や【農民】など、一般的なものが出るんだけどね。


 それでも極めて稀に、そういった平民の子供から、【勇者】や【聖女】、【賢者】などの、超希少な適性持ちが現れることがあるんだね。


 そういった希少適性持ちを取り溢さないために、【鑑定の儀】が義務化されてるってわけ。


 で、そんな【鑑定の儀】を受けたあたしが賜ったのは、【社長】という職業適性だった。


 なんじゃそりゃ!? と思ったのは、あたしは勿論なんだけど、家族も同様で。


 まあ家族――お父さんとお母さんの場合は、見た事も聞いた事もない謎の適性が出たから、困惑していただけなんだけどね。


 この世界には“会社”なんて概念はまだ芽生えていないんだから、当然と言えば当然だ。


 あたしとしては、家業である奴隷商を継ぐ気満々だったから、【社長】なんて適性は渡りに船だと思っているんだけど。


 でだ。

 職業適性には、それぞれの職業に合わせた【職業技能(スキル)】というものが存在するのだ。


 適性が【使用人】だったら、[料理]とか[清掃]とかね。

 あとは【剣士】だと、[切り払い(スラッシュ)]とか[刺突]とか。


 あたしが使った[人物鑑定]は、対象者の情報を読み取るスキルだ。

 その人物の名前から年齢から、適性から現在の職業まで、全てを視ることができるんだよね。


 適性が【商人】とかだと、[物品鑑定]っていうスキルが発現するんだけど、それは物品限定で、人を鑑定することはできない。


 お父さんは奴隷商人だけど、あくまで適性は【商人】だったから、[人物鑑定]は使えない。


 こんなスキルが手に入ったよとお父さんに報告したら、危険だから他言しないように、釘を刺された。


 教会の存在意義を覆しかねないと言われたよ。


 確かに、あたしが【鑑定の儀】を受けた街の教会の守銭奴デブ司祭は、随分と贅沢しているっぽかったよね。


 そういった、人材発掘という国の一大事業を担っている教会に目を付けられるのは御免だったので、あたしは言われた通りに、自身のスキルのことは秘密にしている。


(『能力:E』に『潜在力:D』か……賞金首ならラッキーだけど、手元に置いといても期待はできないかな。)


 そして【鑑定の儀】と決定的に違う点。


 それは、その人物の現在の能力と潜在力を見抜けるという事だ。


 試しにミリアーナとハゲ――ハーゲンを比較して視る。



 名前:ミリアーナ 年齢:26 性別:女

 職業:マリアの奴隷 適性:魔法剣士 魔法:火・風

 体調:良好 能力:A 潜在力:S+



 うん、色々おかしい。


 まず職業『マリアの奴隷』ってのはまだいい。

 主人としてあたしが登録したし、他の奴隷たちも調べたら、ちゃんと登録者であるお父さんの、『スティーブの奴隷』って出たからね。


 問題は潜在力だよ。


 『S+』ってなにさ!? どんだけ高いの!?

 仮にこれが冒険者のランクなら、最高ランク超えてるよ!?


 隣りの【能力】が現状だとすると、【潜在力】は、その人物の伸び代を表していると考えられる。

 つまりミリアーナは、まだまだ強くなるってことだよね? まだ20代半ばだしね!


 いやはや、比較対象が悪かったね。


 気を取り直して、今度はバネッサを視てみよう。



 名前:バネッサ 年齢:28 性別:女

 職業:マリアの奴隷 適性:斥候 魔法:水・無

 体調:月経中 能力:B+ 潜在力:A+



 ……そういやこっちもおかしかったよ……!!


 なんなん!?

 2人ともスペック高過ぎじゃない!?

 お父さんも、良くこんな2人をあたしにくれたよね!?


 あとバネッサ、生理中なの……!?


 表情も仕草も変わんないから気付かなかったよ、ゴメン!

 帰ったらゆっくり休んでね! 道中も無理させないようにするからね!


 あたしはそんな見た目も中身もハイスペックな2人を視るのはやめて、他の盗賊達を鑑定してみる。


(だいたいが【能力】がEやFで、【潜在力】はハゲのDが最高か。全員【犯罪者】だし、犯罪奴隷として売却だな。)


 この世界では、職業と職業適性が違う者が多く居る。適性は【農民】でも、職業は【商人】だったりね。


 これは多分、自分の深層意識とか潜在意識とかで鑑定結果に反映されてるんじゃないかと思う。


 心から願って()()であると自覚と行動をしていれば、()()なるんだよ。


 だから、適性はあくまで適性なの。

 最終的にどんな職業に就くかは、その人の心構えと努力次第。


 あたしだって適性は【社長】だけど、職業は【奴隷商人】だからね!

 望んでなったんだから、後悔なんてないよ。


 で、コイツらのように人殺しや窃盗、強盗なんかの罪を犯すと、職業が【犯罪者】に変わるの。

 深層意識とかでは、自分で犯罪者だって自覚してるのかもね。


 相手が【犯罪者】であれば、正当防衛なら殺しても咎められないし、正式な依頼が出ていれば積極的に討伐もされる。


 万引きとかスリとかの、比較的軽い罪でも変わっちゃうから、注意が必要だね。


 で、討伐をギルドや衛兵に報告して、街に近ければ死体は回収される。それを教会に持ち込んで鑑定を受けるって形になって、報告者の供述と照らし合わせるんだよ。


 ただ、監視カメラなんか無いからね。


 取り締まりは基本的に現行犯じゃないと無理だし、街から遠ければ、死体は埋めるなり焼くなりの処理をしてさよならだ。


 教会で鑑定を受けない限りは【犯罪者】ってのもバレない――各ギルドのように、場所によっては看破する道具も在るけど――し、意外と身近に居るかもって思うと、恐怖だよね。


 ま、あたしにはミリアーナとバネッサの2人が付いてるから平気だけどね!


「お嬢様、私はこの頭目を連れて、アジトを探って来ます。コイツらは樹に拘束してありますし、持ち物も全て奪ったので、バネッサだけで監視は充分でしょう。」


「そだね。もし囚われている人が居たら救けなきゃだし、お願いできる? バネッサも、それで良いかな?」


「よろしいかと存じます。お嬢様のことは、私にお任せください。」


 生理中なのにゴメンよ、バネッサ……!

 辛かったら言ってね……?


 そうしていざ行動開始、となる前にだ。


「ミリアーナ、先ずはお弁当食べてからね。お腹が空いてちゃ力が出ないよ。」


「わ、分かりました、お嬢様。」


「では、湖のほとりで召し上がりましょうか。」


 せめてお弁当だけでもピクニック気分を味わおうと、盗賊共から離れた湖のほとりで、あたしたちは地面に布を敷いて、お弁当を味わった。


 アイツら?

 分けてやるわけないじゃん。


 人間1日くらい食べなくても、死にはしないよ。

 前世でちゃんと経験済みです。




お知らせです。


もう一本の拙作、【ダンジョンだからって戦わなきゃいけない決まりはないと思う】の連載ですが、この度、月水金曜日の更新に変更しました。


そして、火木土曜日は、こちらの作品の更新をしたいと思います。


不定期更新にも関わらず、応援してくださっている読者様に、もっとたくさんお届けしていく所存です!


是非、これからもよろしくお願い致します!



「面白い」「続きが気になる」と思われましたら、ページ下部の☆から高評価や、ブックマークをお願いします!


感想もいつでもお待ちしております!


それでは今後とも拙作、【奴隷商異世界を往く〜(略)〜】を応援してくださいませ!


テケリ・リ


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >つまりミリアーナは、まだまだ強くなるってことだ。まだ19歳だしね! 名前:ミリアーナ 年齢:26 性別:女 感想とか見た感じ鑑定結果は直したみたいですけど、地の文が直ってないですよ…
[気になる点] マリアが11歳でミリアーナが19歳ってことは1歳の時、庭に出る時に護衛してたミリアーナは8歳ってことですか?
[気になる点] 久しぶりの更新だからか、設定の説明が多い?(笑) [一言] 週3回更新!ありがたやありがたや‥ 滞らない事を願います!
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