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第12話 成長〜奴隷たちの主人・マリア〜

いつもお読み下さり、ありがとうございます!


だいぶ遅くなりましたが、どうぞお楽しみください!!

 

「パパ……会長。今半期分のあたしとミリアーナの人頭税と、今月分の返納金です。お納めください。」


 あたしは、9歳になった。


 パパ――スティーブの下で見習いの下働きを始めてから、そして職業適性【社長】を手に入れてから2年が経ち、奴隷達の管理については一通り学ばせてもらった。


 奴隷達は基本、お互いに協力し合って身の回りの事を熟している。


 奴隷部屋の掃除や洗濯、自分達の食事の準備などは、外部の仕事の無い奴隷達で交代で行っているみたい。


 勿論、新入りの奴隷には仕事を覚えてもらうためにも、多めに役割が割り振られているけれど、事実上の奴隷達のトップであるバネッサ――使用人(メイド)の奴隷で、礼儀作法の教官でもあり、あたしの先生でもある――が、あまり新人ばかりに押し付けられないように管理している。


 いつも思うけど、バネッサって優秀過ぎだよね?

 流石は元貴族様にお仕えしていた一門のご令嬢、って感じだ。


 料理等の家事の訓練にもなるからと、彼女がパパ……会長に提案したらしいの。


 本当なら、奴隷達の食事に関しても商会が面倒を見ないといけないんだけど、それを食材の提供に留め、自分達で調理を行うことで、後々独立するか、何処かに仕えることになった際の食材管理の能力も養える、という寸法らしい。


「……マリア。また返納金額を上げたのかい? 前回よりもまた多くなっているんだけど……」


 あたしから受け取った皮袋の中身を検めて、会長(パパ)が溜め息混じりに訊ねてくる。


「心配しないでください、会長。ちゃんと目標額の貯蓄は続けられていますし、余剰分を多少上乗せしているだけですよ。」


 苦笑しながら「これが、多少ねぇ……」と貨幣を袋に戻した会長(パパ)は、書斎の執務机に束になっていた書類を、あたしに渡してくる。


「これが今月の収支報告書だよ。間違いが無いか確認よろしく。」


 現在あたしは、商会の会計関連の仕事にも携わらせてもらっている。


 あの就職試験の折に見せた計算能力――といっても、単純な四則計算だけだったけど――を買われて、試しに手伝わされた結果そのまま継続している形だ。


「かしこまりました、会長。いつまでに提出すれば良いでしょうか?」


「そうだね……2、3日中で良いよ。今月はまだ余裕があるからね。ところでマリア……」


 仕事の納期確認は大事、これ鉄則。


 そんな感じで確認し、退室しようとしたあたしを、会長(パパ)が声を掛けて引き止める。


 どうしたんだろう?


 そう思い首を傾げるあたしに、会長(パパ)は躊躇するように、歯切れ悪く言葉を口にする。


「その……ミリアーナに、昇格おめでとう、と伝えておいてくれないかな? 彼女の君への貢献は素晴らしいものだし、父親としても……君の支えになってもらえていて、その、感謝しているんだ。」


 ミリアーナは元は会長(パパ)の奴隷だ。


 あたしの職業適性のせいで余所余所しくなった両親に激怒し、主人である会長(パパ)に逆らった彼女を、会長(パパ)は処罰しようとした。


 そこをあたしが必死に頼み込んで、当時7歳の身空で借金まで背負って買い取り、あたしの奴隷にしてもらった、という経緯がある。


 一度処罰しようとした、そして既にあたしの奴隷である手前、面と向かって声を掛けるのに躊躇いがあるんだろうね。


 そんな気持ちも分からないでもないからね。


 あたしは会長(パパ)に真っ直ぐ向き直って、安心してもらえるように笑顔を見せる。


「ちゃんと伝えておきます。ミリアーナも喜ぶと思いますよ。」


 ミリアーナはあたしの奴隷という立場ではあるけれど、未だに彼女に仕事を探して来られないあたしのため、そして自身の借金を返すために、その戦いの技能を活かして冒険者として復帰している。


 元々がAランクという高位冒険者であった彼女は、依頼未達成期間のペナルティで資格を取り消されていて、最低のFランクからの再スタートを余儀なくされた。


 けど復帰してから2年の間に、瞬く間に実績を積み上げて、今ではBランク上位の冒険者にまで昇り詰めていた。


 そしてつい先日、とうとう元のAランクという立場にまで、帰り咲いたのだ。


 元々のAランク冒険者としての実績と、品行方正な素行を心掛けていたことが幸いした形だね。


「ですが会長……パパ。」


「うん?」


 報告書の束を持って、扉をに手を掛ける前に、あたしは一度、()()を振り返る。


 仕事中なのに『パパ』と呼んだあたしを咎めるでもなく、パパは不思議そうな顔をして聞き返してきた。


 そんなパパに、あたしは。


「できればパパから、声を掛けてあげてほしいな。元主人っていう立場からじゃなくても良いからさ。ミリアーナも反省してるし、あたしが大好きな2人には、仲良くしていてもらいたいの。」


 正直な気持ちを、口にした。


 パパは大事な父親だし、大事な家族。ミリアーナだって、大切な、あたしにとっては第2の家族みたいなものだから。


 そんな2人に、いつまでも後ろめたい気持ちを抱えていてほしくないの。


 ……いけない。これも、ワガママに入るのかな……?


 もうワガママは言わないって、約束したのに。


 若干不安に襲われたあたしだったけど、そんなあたしにパパが返してくれたのは、笑顔だった。


「そうだね……マリアの言う通りだね。うん。お祝いの言葉は、僕から直接伝えるよ。ありがとう。優しい僕の、天使様。」


 その言葉に、胸が温かくなる。


 そう言ってもらえて、自然と顔に笑顔が浮かぶ。


「ありがとう、パパ。それじゃあ、あたしもお仕事頑張るねっ!」


 パパの書斎から自室へ戻る廊下。


 そこに響いた足音が、普段より軽く聴こえた気がしたのは、きっと気の所為ではないはずだ。




「新しい奴隷……?」


 夕飯の席で、パパから告げられたその言葉に首を傾げる。


「そう。マリアの借用金だけど、実はこの2年で、すっかり返し終わっているんだ。マリア。君さ、商会からの賃金のこと、すっかり忘れていたんじゃないかな?」


 …………まったく眼中にございませんでした。


 いやだってさ、ミリアーナみたいな腕も立ってその上美人な奴隷なんて、正直目玉が飛び出るほどの値段だったし、犯罪奴隷になるところを無理を通して譲ってもらったんだし、商会への就職だって半ば無理矢理だったから……


 自力で――とは言っても奴隷(ミリアーナ)に手伝ってもらってだけど――返済するまでは、無報酬の完全見習いのつもりでした、はい。


「駄目だよ。商人たる者、自身の収益にはもっと敏感にならないと。それに僕が、いくら身内だからって、無償で扱き使うような人間だとでも思っていたのかな?」


 はい。全くもって返す言葉もございませぬ……!


「ご、ごめんなさい……無理を言った自覚があったから、お(うち)の仕事はご奉仕のつもりでした……」


 素直に謝るんだあたし……!

 あのパパの顔は、割と傷付いてショックを受けている顔だよ……!


「はははっ、賢いマリアらしくもないなぁ。僕はマリアの言葉を受けて、賃金を払うことを決めたというのにねぇ。」


「え……?」


 どういうこと?

 あたしそんな賃金交渉なんて、した憶え無いんだけど……?


「憶えていないのかい? 君がミリアーナを欲したあの時に、こう言ったんだよ。『足りない分はこの先お仕事を手伝って絶対に返す』ってさ。


 君を働かせることを決めるその以前から、僕は君に賃金を支払う約束を、ちゃんと交わされていたってわけさ。我が娘ながら、実に末恐ろしい交渉術だったねぇ、あれは。」


 そ、そんな、子供が勢いで言った言葉を真に受けたの……!?

 いや勿論返す意思は確固として持ってたけどさぁ!?


「さて、ここで問題がひとつ。君が商会(ウチ)でせっせと働いて稼いだお金と、君とミリアーナが協力して商会(ウチ)に納めた返納金。


 まさかミリアーナが、たった2年でAランクに帰り咲くとは思ってもみてなかったからさ、実は想像以上の金額になっているんだよ。それこそ、問題を起こして価値が下落したミリアーナを、もう1人買えてしまうくらいにはね。」


 パパの話の意図が掴めない。


 真正直に受け取れば、その余剰金でもう1人奴隷を購入するように勧めているとしか考えられない。


 けれど、自惚れかもしれないけど、あたしを溺愛してくれているパパが、そんな身内から搾取するような、阿漕なことを言い出すだろうか……?


 困惑してずっと静かにしているママ――ジョアーナの顔を窺い見れば、何故だか困ったような、苦笑しているような顔。

 止めるでもなく、やれやれ、と溜め息でもつきそうな表情で、事の推移を見守っている感じだ。


 ますます困惑を深めたあたしは、「どういうこと?」と素直に訊ねることにした。


 あたし9歳だからわかんなーい!(テヘペロっ♪)


 うん、どゆこと!?


「1人、マリアにお勧めの奴隷が居るんだ。歳は26歳で、女性奴隷としてはそのせいで、価格がやや落ちてしまってね。本人は是非とも君の下で働きたいと言っているんだよ。彼女はさる貴族様の家に仕えていた門人で、家事全般に教養にも秀でていてね……」


 待って。

 ち、ちょっと待って!?


 それって……も、もしかして……!?


「その女性奴隷の名前は、バネッサっていうんだけど……どうかな? 君の下で、働かせる気はあるかい?」


 気が付くとあたしは、椅子から飛び降りてパパに飛び付いていた。


 ミリアーナに続き、同じくらい大好きなバネッサを……あの超絶優秀なパーフェクトメイド様を、あたしに譲ってくれると言うのだ。


「ありがとうパパ!! 大好きっ♪♪」


 ああ、どうしよう!

 これからは、ミリアーナとバネッサと、好きなだけ一緒に居られる!


 どうしようもなく胸が高鳴って、ポカポカ温かくなってくる!




 あたし、奴隷商の娘マリア。


 歳はまだ9歳だけど、奴隷を2人も持っているの。


 奴隷だからって、イジメたりしないよ。

 だってあたし、その2人のことが、大好きなんだもの。


 明日2人に会いに行くのが、今からとっても楽しみなの!




「おおぉ〜〜んっ!! マリアあああっ!! 久しぶりにハグしてくれて、パパは嬉しいよおおおおおおおおおっ!!!」


「ちょっ! いた、痛いっ!? パパっ!! お髭は嫌って言ってるでしょっっ!!!」


 おいスティーブこら!?


 せっかくいい話だったのに、全部台無しだよもうっ!!!




なんとミリアーナさんに続き、バネッサさんまで手に入れました!


スティーブめ……なかなか粋なことするじゃねぇか……


「面白い!」、「続きが気になる!」と思われましたら、ページ下部の☆から高評価をお願いします!!


感想やブクマ、レビューも励みになりますので、ドシドシお寄せくださいませ!


もうひとつの(ほぼ)毎日更新している拙作、【ダンジョンだからって戦わなきゃいけない決まりはないと思う】も、応援よろしくお願いしますっ!!


m(*_ _)m


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