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第三話 これ、夢だよな? マジで異世界?? 

「ちょっと唐突過ぎたよね、ごめん」


 ラディウス王子は本当にすまなそうに黄金色の眉尻を下げた。眉毛も面長で彫の深い顔立ちに合うように上品に整えられてるなぁ……。鼻もただ高いだけじゃなくて、なんだろ……気品溢れる高さと形っていうのかな。あれ? 瞳の色、何だか不思議な色合いになってる。全体的には青紫で、虹彩の部分が薄紫だ。瞳の中に菫の花が咲いたみたいだ……あぁ、これも神秘的で素敵だ……じゃねーよ俺! しっかりしろって!


「いいえ、とんでもないです。身に余る光栄です。ただ……」

「あ! そのまま。そのまま寝ていてね。病み上がりなんだから」


 寝たまま話すのは失礼だよな、と体を起こそうとすると、王子は右手を俺の前に翳すようにして制してから話を続けた。


「そうだよね。まずは君の状況をしっかりと聞いてから、こちらの希望を述べるべきだった。早く、君に近づきたくて焦ってしまったよ」


 トクン、鼓動が跳ねた。微かに頬を桃色に染め、眩しそうに目を細めて俺を見つめる王子の姿にくすぐったい感じがする。もしかして、俺の事……なんて期待してしまうじゃないか。て、うん? 何考えてるんだ? 俺。なんだか釣られて頬が熱いや。そんな事より、きちんと返事しないと。


「あ、いいえ。とんでもないです。ただ、よく状況が掴み切れていなくて……」

「無理もないよ。何だか迷いこんだみたいに見えたもの、君、名前は?」

「申し遅れました。高月惟光と申します」

「たかつきこれみつ……」


 王子は一言一句噛みしめるようにゆっくりと言った。何だか照れくさいけど、名前を覚えて貰えたら嬉しいな。


「素敵な名前だ」


 恍惚とした眼差しで俺を見つめる王子。彼に言われると、今まであまり好んではいなかった名前も『なんか良いかも』なんて思えてしまう不思議。ここは素直に礼を言おう。


「有難うございます」

「あとで、どんな字を書くのか教えてね」

「勿論です」

「君は何処から……」

「失礼致します、殿下。恐れながらここからはわたくしが説明を。この者は己の状況もよく呑み込めていないようですので、まずは素性を確かめる事が先かと。何処の誰とも知れない者に、私の跡を継がせるつもりはございません故」


 王子が何かを言いかけたけれど、それを銀縁眼鏡野郎が遮った。それも、かなり強い口調で。何となく氷を連想させる冷たい声だ。何だよ? あからさまに俺の事不審者扱いしてるし。コイツ随分と偉そうだな。つーかコイツ、やっぱり俺の事睨みつけてねーか?


「そうか。そうだな、宜しく頼む」


 王子はほんの少しだけ寂しそうな表情を浮かべたのを、俺はしかと見たぞ。だけどすぐに、元の花のような笑みを浮かべて穏やかな表情に戻った。何だろう? なんだか凄く気になる……。え? えっ? 王子、行っちゃうの? この部屋から立ち去ろうとする王子に、もの凄く不安になる俺。何で、こんな気持ちになるんだろう? やけにリアルな夢だなぁ。しかもやたら長い。まだ目が覚めない……。


 パタン、とドアが閉まる音。残されたのは俺と、この眼鏡野郎だけ……。カチコチカチコチ、この部屋の何処かに掛けられていると思わせる時計の、時を刻む音がやけに大きく響く。気マズイ……すこぶる気マズイ。しかもコイツ、やっぱり俺の事睨んでるし。目が合っちまった、反らすのは癪だ。こっちは何も悪い事はしていないんだ!

 その視線を真っすぐに受け止め、ここは冷静に見つめ返す事で余裕がある事を見せつけよう。眼鏡野郎のハシバミ色の双眸に映る俺自身を、不思議な思いで見つめた。


 しばらく無言で互いを見つめ合った。やがて眼鏡野郎は、右人差し指を眼鏡のエッジ(※①)にあて、軽く動かすと、ゆっくりと口を開いた。


「どうやらあなたは、こことは異なる世界からやって来たようですね。まずはこの世界の事を簡単に説明致しましょう」


 あまりにも普通に言うもんだから、一瞬思考が追いつかなかった。異なる世界って言ったよな? てまさか異世界?? いやいやいや……夢だろ? これ。本当の俺の体は、渋谷の公園か路地裏で爆睡している筈……だよなぁ。


「ここは物質界と『幽世(かくりよ)』のちょうど中間に位置している世界です」

「……はい?」


 訳が分からず、淡々と説明する眼鏡野郎に、素っ頓狂な声をあげる間抜けな俺。もしかして、マジで異世界……なのか?






(※①…左右のレンズを繋ぐ部分。鼻にかかる部分)




 

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