表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

その他

スーパーマン

作者: てこ/ひかり

 「道に迷ったんです! お願いです、助けてください!」



 僕の言葉に、彼は向こうを向いたまま、申し訳なさそうに頭を掻いた。


「弱ったな。私は別にヒーローやスーパーマンじゃないし……」

「そんなことない! 僕は貴方をずっと見てきました! 貴方の背中を追ってここまで来たんです! 貴方が、暗闇にいた僕に道を教えてくれたんです」

「私が君に道を教えて上げられたのは、その道を一度通ったことがあるからだ。何も特別な力を持っていた訳じゃない。ただ単に、知っていた道だったからってだけなんだ」


 彼は僕の答えを待たず、また前を向いたまま暗闇の向こうへと歩き出してしまった。



 「待って、待って……お願い!」

 せっかく長いこと歩いてここまでやって来て、ようやく、ようやく会うことができたのに、もう二度と彼を見失いたくない。星の抜け落ちた真っ暗な夜空の下を、僕は涙をにじませ必死になって走った。


 街灯も家の明かりもないこの場所じゃ、彼の背中の、光るマントだけが僕の目印だった。彼が右に曲がったところで、僕も右に曲がった。彼がしゃがんで歩いたあぜ道を、僕もしゃがんで歩いた。



 ところが彼の一歩は僕の三歩くらい違っていたので、一向に追いつく気配がなかった。彼がやすやすと飛び越えて行ったクレバスも、僕は三日かけて渡らなければならなかった。彼がひょいと潜り抜けた洞窟も、僕は始めの方で既に全身傷だらけで半泣きになっていた。本人は否定したけれど、彼こそ正真正銘のスーパーマンだ。僕は舌を巻いた。


 彼に追いすがるたびに、どんどん背中のマントは離れていって、気がついたら夜空に浮かぶ星のように遠くに光っていた。こうなると、あの日彼と出会えたことが、もはや奇跡に近かった。近づけば近づくほど、遠くなっていくその星を見上げ、僕はとうとうその場に膝をついた。



 もうダメだ。もう、限界だ。これ以上、足は一歩だって動いちゃくれない。疲れた頭はもうろうとしていて、楽しいことは何も考えられなかった。僕は泣きじゃくった。こんなに僕が苦しんでいるのに、何でスーパーマンは僕を助けてくれないんだろう。あれほどすがっていた彼の背中が、何だか急に憎らしく思えてきた。



「お願いです……僕に道を教えてよ、スーパーマン……」



 すると突然、その声は僕の後ろから聞こえてきた。驚いて振り向くと、僕の後ろにぴったりと、見知らぬ若い男の子が立っていた。僕は掠れた声で尋ねた。


「え? 僕?」

「はい。僕、道に迷ったんです……真っ暗で、何も見えなくて……。そしたら、ちょうどキラキラ光るものが見えて、それを追ってきたら、貴方がいたんです」

 地面に落ちた僕の涙を指差しながら、彼がそう呟いた。何だか恥ずかしくなって、僕は慌てて涙を拭いた。


「貴方が右に曲がったから、僕も右に曲がりました。貴方がここで立ち止まってくれたから、ようやく僕も追いつけることができたんです。お願いですスーパーマン、僕に道を教えて下さい! 貴方は道を知っているんでしょう!?」



 僕を見上げる彼の潤んだ瞳を、何だか僕はどこかで見覚えがあった。だけどあいにく、僕はスーパーマンじゃない。道なんか知っていないし、遠く星になってしまったあの人みたいに特別な力も、何もない。何なら今だって、迷子の途中だ。何だか申し訳なくなって、僕はそっと彼に背中を向けて逃げるように呟いた。



「弱ったな。僕は別にヒーローやスーパーマンじゃないし……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ