1日目/シーズン1/幽霊屋敷
Tips2:『勇者オンライン』では、各アビリティの数値が職業Lvの上昇と、スキル獲得に影響する。各アビリティ値のアップには、『経験』や『ゲーム内目標の達成』が必要となる。また稀にアビリティ値を増減させるアイテムも存在する。『ゲーム内目標(シーズン目標、ウィークリー目標、デイリー目標の3つに分かれる)』はUIの機能の一つとして搭載されており、いつでも確認可能。目標をマークし、道順を視界に表示して教える″ナビゲーションシステム″や、キャラクターアビリティに合わせた手頃・適正なサブクエストを検索、表示する″サブクエストシステム″も搭載しているので、上手く利用してアビリティアップに励もう!
大工見習いの青年ケント。第3の町を往く。
並木の続く舗装された街路を進むと、やがて町の一角に佇む寂れた屋敷が視界に映り込んできた。おどろおどろしい外観のそれは、幽霊屋敷を彷彿とさせる。と、その屋敷の前に着いてみると、既に何人かの人間・亜人の姿があり、話し合っていた。
「こんにちは、良いお天気で。どうしたんです?」
俺はそう愛想よく話し掛けた。
次に話し合っていた集団の内、大柄の男が振り返った。
「アンタ、プレイヤーか?」
この大柄の男、近くで見ると迫力を感じる。
右目に大きな鍵爪傷、半袖の両腕にも無数の傷。頭はスキンヘッドで、強面の大顔。そして筋肉――パワーイズジャスティス、パワーイズナンバーワンなんて考えていそうな、強靭な肉体だった。
「ええ、そうですよ」
「そうか。俺もだよ。名前はアウトローだ、よろしく」
ミスターマッスル――もといアウトローは、思っていたよりも優しいプレイヤーさんらしい。若干怖い気もするが、努めて気さくに答えてくれた。
そしてどうやら、彼もプレイヤーだったらしい。挨拶が終わると同時に、アウトローの頭上に『PLAYER』のアイコンが表示された。
「彼らもプレイヤーですか?」
「いや残念ながら違うよ。プレイヤーは俺達だけさ」
アウトローはそう言い、後ろを振り返った。
「この屋敷をどうにかしろとのお達しだ。一ヶ月以内に宿屋に造りかえるのが目標」
「宿屋? 勇者のためですか?」
俺の問いに対し、アウトローは被りを振った。
「分からんね、理由は聞いてないからな。ただ一言、町の発展計画の一つだと告げられただけ」
「うーん……。見た所、気味の悪い屋敷ですが」
「取り壊すなり、改装するなりして宿屋を建てるんだ。ただ一つ問題があってな」
アウトローはそう言い、屋敷を指差した。
「この屋敷には幽霊がいる。正確には、″幽霊型″の魔物が……」
彼の話をまとめるとこうだ。屋敷は数年前から無人で、手が付けられていなかったが、その内に幽霊型の魔物が棲みついたと。現在、第3の町では王国主導の町開発計画が進行しており、この屋敷も対象となったのだが、魔物の存在もあってその対応を話し合っていたらしい。
屋敷の開発に集まったのは12名。内、プレイヤーは俺とアウトローの2名。他はNPCという形になるが、手伝ってくれるのだろうか……。
「そういえばアウトローさん。職業は大工ですか? それとも魔物を討伐する剣士とか――」
「″魔法使い″だ」
「えっ?」
「だから″魔法使い″だ」
彼の言葉を聞いて、思わず唖然とした。魔法使いは基本的には″知性″というアビリティと、各魔法スキルに依存する職業だ。その風貌からして″筋力″方面にアビリティが整っている気がするのだが、人は見た目によらないということなのだろうか?
「アウトローさん、魔法使いだったんですね。羨ましいなぁ……」
俺は本当にそう思っていた。正直ゲームというのは楽しんだ者勝ちだ。特にこういった剣と魔法の世界では、やはり剣士や魔法使いは花形職業。ビルド系のゲームが好きなら大工等でもいいだろうが、俺はどちらかといえばアクションRPGの方が好きなので、剣士系の職業を選びたかった。
「あぁ……。ちゃんと使える魔法はまだ何もないけどな」
「えっ!?」
アウトローさん、ちょっと待って下さい。今何と!?
「ちなみにアビリティの″知性″って、おいくつぐらいなんですか?」
「27だよ?」
え……。27って冗談ですよね?。
先ほども言ったように、魔法使いは″知性″アビリティに依存する。現在の所、まともな攻撃魔法が使えるのはアビリティポイント30からだと推測されており、その検証はいまだ続いている。
今後、必要なアビリティポイントは変わってくるかもしれないが、現時点でははっきり言って、知性30以下の魔法使いという肩書きは役立たずと言わざるを得ないだろう。
俺はその事について、彼に必死になって伝えることにした。
しかし彼は何処吹く風というように、あまり気にしていない様子だった。
「大丈夫だよ。勉強するから」
「勉強って……。″才能″アビリティはちゃんとあるんですか?」
「あるよ。25ね」
これは困ったことになった……。と、俺は思わず頭を抱えた。
才能アビリティは初期職業からの″転職″と、他の職業の″兼業″に影響する重要なアビリティなのだ。これが低いと、他の職業への転職後もまともな能力を発揮出来ない。また兼業した場合も、これが低いと各職業のスキル獲得遅延や、数値の低下に繋がってしまうのだ。
彼が――アウトローが行っているのは、不適性の職業を無理やり続いて才能と力を無駄使いしているようなものだ。何の職業も有していないのと同じことなのだ。職業システムが大きく左右するこのゲームでは、致命的な問題だろう。
「駄目なんですって。それじゃあ……」
「いいじゃんか、かっこいいんだからよぉ」
彼は不満な様子で言った。
「ちなみに初期職業は何なんですか?」
俺が聞くと、彼は顔にしわを寄せて言った。
「剣士だよ。でも魔法使いの方が好きなんだ。だから転職したわけ」
「絶対そっちの方がいいですってば。何で変えちゃったんですか」
「だーかーらー。カッコイイからって――」
「あーもう……。分かりましたよ」
一度やってしまったことは仕方無い。それにプレイヤー同士で言い争っていても、時間を無駄に浪費してしまうだけだ。仕事を進めることにしよう。
「もう一ついいですか? 筋力はいくらぐらいあるんです?」
「89かな。それでごっつい身体してんだよねぇ~。俺さ」
それで剣士の職業補正とスキルがあれば、かなり頼もしかったんだがなぁ……。
「分かりました。じゃあどうします、これから?」
「まずは幽霊共を討伐する必要があるな。俺が魔法で何とかしよう」
アウトローはいかにも自信ありげな様子だが、俺は頭が痛くなるばかりだった。
「いや、さっき魔法使えないって――」
「まぁ見てなって」
言葉を遮るようにアウトローは言うと、近くの地面に置いてあった角材を手に取って見せる。どうやら後ろの大工達が持ってきたものらしいが……。
そしてアウトローは、拙い口調で魔法呪文を唱えていく。所々で舌を噛んだり、口ごもったりと、不安になるような部分も多かったが、彼は最後までやり切ったようだ。次の瞬間、彼の持つ角材が妖しく輝き出して、刻印のようなものが浮き上がった。どうやら″呪文″らしい。妖しいオーラを放つそれを軽々と持ち上げながら、彼はニヤリと笑みを浮かべた。
「これは物質強化魔法だ。攻撃力を10上昇させる」
彼は自慢げに言い、その魔法角材を天に向けて掲げた。
「なるほど。これならやれそうですね」
「おう。じゃあいくか、″2人″で討伐に!」
「えぇ――えッ!?」
大工と魔法使い? による魔物討伐が今、始まろうとしていた。
Tips3:ゲーム内アバターは名前・顔の変更が可能。
また二つ名を付けて普及させることも可能だ!