表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

1日目/シーズン1/ゲームスタート

Tips1:『勇者オンライン』内において、人間・亜人等にプレイヤーが入っている(操作している)かどうかは、初見では確認出来ない。そのNPCの操作を行っているのがCPUかプレイヤーであるかの区別については、本人がプレイヤーであることを自ら明かすか、あるいは専用の職業スキルを用いて確認する以外に方法はない。判明以降はプレイヤーアイコンが表示される。

 アバターを選択、決定すると、ゲームがスタートする。

 VRヘッドセットに付属されている動画配信システムを用いて、アバター選択からここまでのゲームプレイは録画し、既に問題なく配信されているようだ。編集は設定しておけば、システムが勝手に行ってくれるという。またに至れり尽くせりの仕様だが、はたしてここから何を喋っていけばいいのだろうか……。


 とりあえずは、プレイに集中していこう。

 現在、ゲームプレイと並行して同ゲーム内で運営中のコミュニティサイトやソーシャル、またネットの攻略サイト等を閲覧しながら進めているのだが、色々な体験談やシステムの仕様に関する話や情報が随時更新されていく。横目で確認するのが難しくなるような、膨大な情報が流れてきて収集がつかない。


 それだけやれる事が多く、複雑なゲームなのだろう。

 まだアバターを決定して、ようやくという所なので早く進めていきたいものだ。


 そうこうしている内に、ロード画面が終了する。


 次に流れてきたのが、自身のアバター″大工見習いの青年ケント″の生い立ちだった。誕生から幼少期、思春期、そして現在の職業に従事する経緯や理由が描かれている。


 青年ケントは″第3の町″――考察によると、どうやら勇者が3番目に到着するであろう部分からそういう名称らしいが――の出身。父親は熟練の大工、母親は農民らしい。ケントは父親の背を見て育ち、将来は自身も一人前の大工となることを夢見て努力してきたようだ。

 アビリティの持久力が″72″と他より高かったのは、その夢が由来しているらしい。父から『大工になりたければ体力を付けろ』などと言われ、自己流の鍛錬を続けてきたのだとか。残念ながら筋力はついていないが、まぁそれは仕方あるまい。


 回想が終了し、画面が切り替わる。

 

 ゲーム内時刻は午前6時。鶏の甲高い鳴き声が部屋に響いている。

 俺は身を起こし、水汲み場に向かった。木製の桶に水を溜めて、豪快に顔を突っ込む。水の冷たさに驚いたのか、ケントはびっくりしたように顔を上げる動作を見せた。

 このゲームでは、アバターはプレイヤーが完全にコントロールしているわけだが、各操作では癖や人間らしい挙動も反映されている。なので殴られれば痛がるし、疲れれば息を切らす。ゲームをプレイする上ではあまり必要のない仕様だが、ユーザーの中には″ロールプレイング″を堪能したい人もいるようなので、その声を反映させた結果なのだろう。


 閑話休題。顔を洗い、身嗜みを整えた所で勢いよく家を飛び出した。

 一応必要だと思い、俺はアバターの″バイタル″を確認する。バイタルとはそのアバターの生死を確認するアイコンで、ホログラム式のUIの一機能として搭載されていた。

 最初に表示されているバイタルは、生死を確認するだけだ。しかし更にアイコンをタッチすると、体温・心拍数・血圧・呼吸の有無・尿意/便意・意識の有無・栄養状態を確認することが出来る。外的・内的理由による身体状況の変化により、それぞれの数値が変動する。最終的には死亡したりするらしいので、注意が必要になってくるだろう。


 まぁ一日寝ないだけとか、一食飯抜きぐらいなら問題無いはずだ。などと俺は考え、朝食も摂らずに家を飛び出していた。

 実際、それは問題にならなかったようだ。生命機能に影響はない。


 「ケントー! ケントったらー!」


 ふと誰かが後ろから呼んでいるのに気付いて、俺は足を止めた。

 振り返ると、茜色のサイドテールが特徴的な、小柄の少女が息を切らせて駆け寄ってきた。


 「あー。アリアちゃん、ね」


 俺はケントの回想を思い出した。彼女は幼少期からの幼馴染で、名前をアリアレットという。ケントは″アリア″の愛称で呼んでいるらしいので、彼になりきってそう呼んであげることにした。


 「ば、ばかっ! あ、あ、アリアちゃんって!」


 アリアは顔を赤くして、恥ずかしがるように言った。

 何というか、可愛いなぁ。


 「ごめんね、アリア。それで何の用?」


 「え? う、うん。これ忘れていったでしょ? あなたのお母さん、心配してたよ」


 そう言い、彼女はバスケットを渡してくれた。

 どうやらケントの母親が用意してくれた昼食らしい。中身を見ると、麦パンとリンゴ、チーズ、そしてサラミのようなものが入っていた。


 「チーズかぁ……。いまいち好きじゃないんだよね」


 ケントの食べ物の好き好みは回想から理解している。独特の匂いが苦手らしい。


 「せっかくお母さんが用意してくれたものなのに、そんなこと言っちゃダメだよ!」


 「そうは言ってもなぁ……。あの匂いが苦手なんだ」


 俺はケントになりきってRPしている。何というか、彼には親近感を覚えるのだ。まぁ、こんな可愛い幼馴染はいないし、剣と魔法の世界出身の大工でもないのだが……。


 「うーん……。じゃあこういうのはどうかな?」

 

 そう言うとアリアは、道端の草むらへと向かい、しゃがみ込んで何かを採取し始めた。さてさて、何をやってくれるのだろうか等と考えている内に、彼女は戻ってくる。


 「それは?」


 「香草だよ、バスケットに入れておいて。食事の時にチーズに添えたら、少しは匂いもとれるんじゃないかなって。本当はこれと山トマトを炒めると、匂いが完全に取れていいんだけどね」


 「炒めるのか。仕事先に調理場があるかな……」


 俺はアリアから香草を貰い、バスケットに収納した。


 「わざわざありがとうアリア。本当に助かったよ」


 「ちゃんと好き嫌いせずに食べるのよ。あ、あと朝食もね! 大工は身体が資本なんだから!」


 そう言い放つと、彼女は急ぐように去ってしまった。


 

 うん、しかし何だ……。

 俺はММОRPGをしていたつもりだったんだが、いつの間にか恋愛シミュレーションもささやかながら体験していたらしい。




 面白いゲームだなぁ等と思いつつ、俺は仕事場に向かうのを急ぐことにした。


 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ