1日目/シーズン1/アバターリセマラ
「クソッ……。またかよ、おい……」
この『勇者オンライン』を始めてから30分……。まだキャラクターエディットにも到達していない。理由は、アバターとなる人間あるいは亜人をランダム抽選で選択するのだが、気に入ったアバターが出ないのだ。
ゲームはまず、アバター選択から始まる。アバターはオンライン上の王国で″暮らしている″人間・亜人の男性・女性から選出される。年齢についてだが、下限はどうやら16歳らしい。上限はまだ分かっていない。それらのアバターはゲーム内においてNPCによる操作でまず生活しており、ユーザーはそれらNPCの中から抽選で当たった人間・亜人をアバターにすることが出来るようだ。
アバターはまず居住地、出身、性別、名前、職業、各アビリティのパロメーター、所有スキルが表示される。スキルについては複数種類あって、今の段階ではよく分からない。そもそも俺はスキルについてはそこまでこだわっておらず、狙っているのは″職業″だ。
運営から告知されている話では、『勇者オンライン』の職業は相当数あるが、大きくいくつかの分類に区分けされている。以下のようなものだ。
=============職業分類===============
★生産者/食物の生産に関わる職業
主に農民、漁師、酪農家等
★戦士/魔物・動物の討伐を生業とする職業
主に剣士、ハンター等
★職人/人々の暮らしに欠かせない道具や建物を造る職業
主に大工、鍛冶師等
★商人/品物の売買により経済を支える職業
主に各売買店の店主等
★運送屋/物品の流通を担い、経済を支える職業
主に運び屋等
★魔術師/魔法を用いた職業
主に魔法使い、魔女等
★兵士/王国や各町々で組織された軍隊の一員。階級システムが存在。
他にもいくつかの分類があるものの、現在解禁されているのはこれらの職業になる。
また職業にもそれぞれ特殊なシステムがあり、″兼業″と呼ばれる複数の職業に就くことの出来る仕組みもあるようだが、そんなことを言ってても始まらないものだ。
「はぁ……。これで何回目だよ農民」
アバター選択画面にむなしく映るテキスト文を読み上げた後、ホログラム式のコンソールパネルに手を添えて、『再抽選』の項目を選択・実行する。
再抽選が始まる。画面上にはこの人間世界を加護するという″女神様″の姿があった。白いドレスを着た金髪の少女が佇んでいて、その周りにはいくつかの本が浮遊していた。本は、まるで土星の輪のように円を作りながら、少女の外周を回っていた。
やがてその少女がこちらに顔を向ける。少女の表情は心ここにあらず、といった様子。光の無い翠色の瞳は、見た人間の生気を吸い取ってしまいそうな錯覚を覚えさせる。
そんな折、宙を舞っていた本が回転を止め、床に散乱する。深い意味はない、演出だ。それから少女が本を一冊拾い上げるように頭の中に囁きかけてくる。奇妙な感覚だな。
俺は散乱する本の中から一冊、拾い上げて中身を開いた。
============アバター抽選結果=============
●居住地:第3の町
●出身:第3の町
●性別:男性
●名前:ケント
●種族:人間
●職業:大工(見習い/Lv.1)
★アビリティ(各上限/99)
●筋力:51
●知性:52
●敏捷性:63
●持久力:72
●運:48
●カリスマ:40
●才能:44
「うぉしッ!」
ようやく引けた大工。俺が狙っていたのはこの職業だった。
何故この職業を狙っていたかというと、ゲームの第1シーズンが″建築″と″開拓″を目標としているからだ。より詳しい話は後々にまとめていきたいのだが、運営によるとこのゲームでは、各シーズン毎に″職業の転生″と、そのシーズンに達成した内容に合わせて″スキルボーナス″が約束されている。簡単に言うと、このシーズンでそれなりの結果を出せれば、次のシーズンを有利に進めるためのスキルが得られるわけだ。
今シーズンの場合、建築と開拓が目標なので、それに特化した職業――つまり俺が今さっき抽選で当てた″大工″としてゲームを進めていけば、その褒賞を得られる可能性も上がるだろうという算段だ。
無論、このシーズンでゲーム終了となれば意味はなくなる。だが誰もがスタートラインに立ったばかりだし、現在は魔王・勇者ともにゲーム上に存在していないらしいので、その点については問題ないだろう。
目下の問題は、職業レベルとアビリティの低さだろう。妥協したとはいえ、全体的にアビリティが低い気がする。一番高いのが″持久力:72″だが、ユーザーコミュニティや攻略サイトを覗いた所、どうやら80以上はないと目に見えた成果を出せないらしい。
まぁ、アビリティは経験を積むことで上昇させることが出来るらしいので大丈夫だろう。
さてアバターリセマラも終えた所で、ゲーム本編にリンクすることにしよう。