美少女には裏がある。
――――12月――――
雪が降りしきる中、最後の追い込みのため俺は黙々と過去問を解いていた。そう、来月は入試なのだ。
…が、もうすぐ将来のことが決まるというのに、周りのやつらには危機感が全くない。
「おいナオ~!お前また勉強してんの?ちょっとまじめ過ぎねーかー?アハハハッ!」
隣で騒いでいた男子Aが話しかけてくる。
勉強してんだ、黙ってくれ。
「ほんとな~、付き合いわりぃぞ~ナオ~!」
こればっかりは俺は悪くないだろ、男子B。お前らバカたちとは違うんだよ…。
今日こそはガツンと言ってやる。
「お前らなぁっ…!」
「……あ?」
っっ・・・・・!!!!ムリムリムリムリ!!!!怖い怖い怖い怖い!!!!やっぱりクラスの中の一群と呼ばれている存在は威圧感が違うな…。怖すぎて何も言えない。
「今度遊びに行ってやるから…今はちょっと静かに……な?」
俺はヘラッとした笑顔を男子たちに向けて出来るだけ機嫌を損ねさせないように言った。
「………っっんだよ~!その上から目線!!やっぱ面白れぇなナオ!いいよいつ遊ぶかー?」
ふぅ~~~っっ…!!!!!!GJ俺っ…!!!
一瞬流れた険悪な空気を一瞬にして明るくさせる俺天才…!
男子たちを適当にあしらったあと、俺はまた席に着く。
…………少し、考え事をしてみた。
この世の中には上には上がいる。
弱肉強食とまではいわないが、弱者は強者に従わなければならない。
この学校という小さな世界にもその格差が生まれてしまう。
その枠に収まりきれなかった奴がどんどん劣っていく世の中なのだ。
ヘラヘラしているだけでこの世界を生き延びられるなら俺は喜んでそうする。
だが、少し違和感を感じるようになっていた。
俺は成績は悪くないほうだと思う。むしろ良いといっても過言ではない。
そんな俺が、俺より劣っている奴にヘコヘコする必要などあるのだろうか?
.....いや、ない。将来就職したら、能力の高い奴が上に立っていく。
学校もそういうふうになればいいのに。少し不服だ。
でも、そんな言い訳はこの小さな世界では通用しない。
発言力の強い奴が上に立つのだ。
俺は、そんな世界に少し違和感を感じていた。
まあ、今はそんなことは関係ないのである。
ひたすら解いて解いて解きまくることに意味があるのだ。
だがしかし、教室の暖房がいい感じの温度を放出しているため、毎日徹夜気味の俺に眠気が襲ってきた。
ちょっとぐらい………
いいよな……………………!
「ナオくん、お勉強してるの?私も一緒に…いいかな?」
「んぁ…?」
つい気の抜けた声が出てしまった。いかんいかん…。
「っっ…!」
そこには、学年一と言っていいほど美人な笹倉が立っていた。
綺麗でツヤツヤな黒髪ロングを少し耳に掛けながら、パッチリっとした大きく綺麗な紫眼がこちらの顔を覗き込んでいる。
あぁ、すごいなんて言うか……
「………綺麗だ。」
「え?」
「…え?」
え、俺今何を…
「何が…綺麗なの?」
笹倉は、少し恥ずかしそうな表情でこちらを見ながら聞いてくる。なんて可愛いんだ。
っっってそうじゃないだろ!?俺は何を口走ったんだ!?!?
「へぁっ…あの、この図形がすごくきれいだなぁーと!思って!ハハッ…あはは…」
くっっ……!ぎこちない!ぎこちなさすぎる…………!!
「そっか…図形、好きなの?」
一瞬残念そうな顔をした気がしたが、それは気のせいだろう。
まあ本当だったら期待してしまうところだな…。
「いや、う、まぁ…それなりに。」
別に好きじゃないけど。好きじゃないけど…!!
「そっか、私も好きだよ、台形とか!」
これは合わせてくれているのか、はたまた本当に好きなのか。まぁそんなことはどうでもよく思えるくらいに、彼女の笑顔はとても可愛い。
「あぁ、それで、なんだって?」
「あ!そうそう、ここわかんなくてね、教えてほしいなぁ~…って、ダメかな?」
そんなお願いのされ方したら断われないだろ普通。可愛すぎかよ!
「おっおふっ…おぅ…」
「へへ、ありがとう。」
今めっちゃキモイ声が出たが、そこはスルーしてくれた。いろんなとこで女神だな笹倉は。
俺と笹倉はもともと小学校が同じだったため少し親しいのだが、幼馴染とかそういう親密な関係ではない。
簡単に言うと、友達だけどあんまり話さない人ってところか。
そんな事を考えていると、笹倉がいきなり立ちだし
「ナオくん!」
「はっはい。」
「ナオくん、今日さ…いっ、一緒に…」
笹倉は顔を赤らめ、モジモジしだした。
…え、なに。フラグですか?放課後デートですか??
「一緒にね…………ついてきてほしいところがあるの。」
さっきまでほんのりと赤くなっていた顔が、急に真剣な目に変わっていた。
どこへ行くのかは分からない。が、なんだかついて行ってはいけないような気がした。
「あ、あぁ、今日はちょっと、な……」
断ろうとしたその時だった。
「ついてきて、くれないの?」
少し不安げなような、でもそれでいて冷たい目をした表情だった。
正直ゾッとした。そして確信した。
――――ついて行ってはいけないと。
でも、断りきれない俺は渋々承諾した。
これから何が起きるかは未来の俺に任せよう。