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こル・ココる  作者:
第一章 『憎』
5/62

調べた、そして決意した。

 



 ◆




 昼休みにアスカからのアドバイスによって放課後、僕はネットで調べ物ができる図書室に来ていた。

 するとそこには見知った女の子がいた。

 その子はカウンターに座っていたのだが、僕を見つけるとおもむろに立ち上がり僕の下へとやってきた。


「何しに来たんですか、変態先輩」

 会った瞬間、この台詞。

 先日、僕にとても親切に道案内をしてくれた後輩女子に遭遇してしまった。

 そういえば名前を知らない。


「えっちな本ならここにはありませんよ」


「求めてないよ」


「はぁ。この間にもこの人の頭の中では私はすでに裸に……」


「してないからね?」

 会ってすぐにこれだ。

 僕は一体、彼女に何をしたというのだ。


「というか、あなたと話すほど暇じゃないんですよ」


「君が話しかけてきたんだろ……」


「はやくクロスワードを解きたいんです」


「暇じゃんか」

 そもそも僕に絡んでくること自体、意味が分からない。

 彼女は最初、僕を無視してまで僕を突き離そうとしていた。

 なのに。


「で。本当は何をしに来たんですか?」


「ちょっとパソコンでネットを使わせてもらおうと思って」


「…………サササ」

 分かりやすい効果音をわざわざ言いながら大きく一歩後ろに下がる。


「なぜ僕との距離をとる」


「いやなんでもありません。気にしないでください」


「絶対なにか失礼なことでも考えてるよね」


「パソコンなら自由に使ってもらっても結構なので」


「いやでも、こういうのって図書委員とかの許可とかもらわなくてもいいの?」


「私が図書委員ですから大丈夫です。気にしないでください」

 君がカウンターにいたのはそういうことなのか。

 ならクロスワードなんかするなよ。

 真面目に仕事をしなさいよ。


「あ、そうなんだ。じゃあ遠慮なく……って言っても僕ってパソコン使ったことないしな」


「何しに来たんですか」


「いきなり爆発したりしない?」


「ここはどこのペンギン村ですか」


「君が僕の代わりにパソコンを使ってよ」


「もう一度言いますけど、何しに来たんですか、あなたは」

 呆れたようにわざとらしく溜息をする。

 こういう分かりやすい態度をとるくせに表情はちっとも崩さない。

 よくわからない子だ。


「……強いて言えば人助けだよ」

 昼休みでの忠告もあって、そんな曖昧な答えしか出せない。


「人助けですか」


「そう。とある生徒が誰だか分からない奴らに襲われてるんだ。それの手掛かりとしてネットで調べてみようかなって」

 名前は出してないから大丈夫………だよな。

 アスカの注意に反している気がするけど、まぁいいか。


「随分と物騒な話ですね……。どんな風に襲われているんですか?その人は」

 意外に喰いついたな。


「場所を限らず、下校している時に不特定の見知らぬ人達に襲われるらしい」


「大丈夫なんですか、その人は」


「大丈夫だよ。全部返り討ちにしてるから」

 最近ではうまく逃げているみたいだけど。


「………冗談ですね。あなたはそんなことをしてまで私と話したいんですか?呆れて物も言えません」


「………………。冗談なんかじゃないんだよ、本当さ」


「だとしたら、化け物ですかその人は」


「そんな化け物みたいな人でも困ってるんだよ。この上なく、ね」

 彼はどんなに苦しんでいることだろう。

 こともあろうに彼は学校に迷惑をかけないようにしている。

 それくらいには世知原くんは善良な生徒なんだ。

 そんな人を見捨てるわけにはいかないだろう。

『生徒お悩み相談室』の一員として。


「そう……ですね。わかりました。今回は先輩に協力します。心当たりもありますし」

 しばらく考えたあと、今までにないくらい真っ直ぐに僕に言う。

 信じられない……彼女が協力してくれるとは。


「ありがとう助かるよ。でも心当たりって?」


「そういうサイトがあるのを聞いたことがあります」


「そういうサイト……」


「恨みのある人間をまるで賞金首のように一般人に襲うように、いやす(・)ように募るサイトですよ」


「っ!そんなのがあるのか……。でもなんで君がそのことを?」


「………たまたまです」

 それまで真っ直ぐに僕を見ていたのに、その時だけ目を逸らした。

 何か隠しているな。


「ふーん」

 見逃すけど。


「それでは調べるので少し時間をください」

 そう言って図書室で貸し出しているパソコンの下に行き、起動させてから椅子に座る。

 椅子はひとつだけなので僕は彼女のあとに続いて、側に立っていることにする。

 しばらく彼女は何かを調べたのちに僕に席を譲ってパソコンの画面を見せてきた。


「これです」

 画面に映し出されているのはどす黒いデザインをしたホームページのようだった。


「これは……えーっと『ヘルヘイム』って読むの?これが君が言っていた恨んでる人を晒すサイト?」


「そうです。私もサイトを見るのは初めてなんですが、どうやらこの『ヘルヘイム』というサイトに載せられた人間、いわゆる『賞金首』を、さっきは殺すなんて言いましたがなんらかの形で痛い目に遭わせれば依頼人から報酬をもらえるシステムのようですね」


「その『賞金首』の性別、年齢、特徴に写真まである。こんな悪趣味なサイトがよく取り締まられずにあるもんだな」


「さぁ?そこらへんは管理人とか運営をしている人がうまくやっているんじゃないんですか。それなりに需要はあるみたいですし。ほら、ここ見てください」

 彼女は画面をスクロールする。


「?って依頼件数五百万件!!?」


「先輩、うるさいです。ここはあくまで図書室なんですから」

 あまり人はいないけどそれなりの注目を集めってしまった。

 少し自重しないとな。

 後輩に注意されては面目ない。


「ああ、ごめん。でもこんなに世の中って恨んだり恨まれたりする人がいるんだな」


「人間関係なんて面倒くさいですからね。こじれやすく、ねじ曲がりやすい。本当に……嫌になりますね」

 そう言う彼女の顔に影が差す。

 初めて表情が変化した気がする。

 彼女も彼女で何かを抱え込んでいるみたいだ。


「ま、とにかくは僕たちの目的を果たそうか」


「『賞金首』は名前で探せるようですね。先輩、被害者の名前を教えてもらえませんか?」

 ここまで来たら彼女も部外者じゃないよな。

 今回は例外として彼女を協力者ということで色々知らせることにするか。

 初めての依頼でいきなりの例外とは、先が思いやられるけれど……。


「君と同じ一年の世知原姓一郎くんっていう男子だよ」


「世知原姓一郎………ですか」


「しってるの?」


「知ってるも何も、学年の間では有名ですし、多分学校単位でも有名だと思いますけど………。先輩って本当にここの生徒なんですか?」

 いつもの無表情で僕を見てくる。


「僕の素性を疑うなよ。でも、彼はなんでそんなに学校に知れ渡るくらい有名なんだ?」


「あくまで噂なんですけど、彼はその昔町中の不良を片っ端からやっつけたとか」


「凄まじいな、それ」

 どこかのゲームか。


「そしてついたあだ名が『狼』ですって。なんでもいつも一人で誰ともつるまずに暴れまわっていることからついたみたいです」

 狼は別に単独行動が得意というわけでもないけれど。

 しかし、ここでやっと納得できる情報が聞けた。

 それくらいの実力があれば、集団での襲撃への対処は難しくとも可能だろう。


「彼は――世知原くんは学校ではどんな感じなの?」


「いつも……一人だと思います」


「………そっか」

 それは彼が望んでそうしているのか、それとも恐くて誰も彼に近づけないだけなのか。

 なんにしても、彼が誰にも頼ることができない状況なのは分かった。

 最終手段が天灯先生に相談することだったことから、世知原くんは僕が思っている以上に限界だった。

 限界を超えて、たった一人で苦しんでいる。

 僕はまだ相談室の部員としての矜持なんて大層なものはまだ持ち合わせていないけれど、苦しむ彼に手を差し伸べることが役目であり、義務だとは思う。


 《『生徒お悩み相談室』。それが私がお前にやらせたい部の名前だ。そこでお前には生徒の悩みを解決していって欲しい》

 と言う天灯先生。


 《私が答えを出すのと、一円くんが答えを出すのは全然違うとも思うんだよ》

 と言うアスカ。


 なんで僕が相談室の部員に選ばれたかは本当の意味では分からない。

『性質』なんて詭弁は抜きにして、だ。

 でもこの依頼も、これからの依頼も、僕のやりたいようにやればいい。

 そういうことだよな。


「先輩、世知原くんの写真が出てきました。彼が襲われる原因はこのサイトだと断言して良いと思います」


「そうか……。ありがとう、ここまでしてくれて。あとは僕が調べるから」


「いえ、先輩。ちょっと待ってください」


「どうした?」

 これ以上は相談室ではない人にやらせるわけにはいけないと思って交代しようと思ったのに。


「この写真……おかしくありませんか?」

 ?

 おかしいってどこが?

 よく見てみても世知原くんが自分の席で窓の外を眺めている写真にしか見えないんだけど………………っ!


「ちょっと待てよ。なんでこの写真、で撮られているんだよ!!」


 僕はようやく手がかりを手に入れた。

 またもや、図書室にいる人の注目を集めながら。


 ◇


 イライラする。

 なんで『ヤツ』はまだここいる。

 手は打ったはずなのに……なんでだ!!


 なんで!!


 世知原姓一朗はまだ生きているんだ!!!


 ふざけるなよ。

 せっかくこっちは大金を賭けてやっているのに。

 役に立たないクズ共だ。

 だったら自分でやってやる。

 誰にもできないなら自分でやる。


 おれが世知原を殺して―――――


「君がろうくんだね?」


 誰だこの人。

 途轍もなく落ち着いていて、不思議な雰囲気をしている。

 こんな人間初めて会った。


「あなたは………?」


「僕は一円向介。『生徒お悩み相談室』だよ」




 ◆




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