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こル・ココる  作者:
第七章 『悲』
47/62

連れ出した、そして思い知った。

 



 ◆




「代、ちょっと話がある」


「あ? なんだよいきなり」


「誰にも聞かれない場所にいくぞ」

 僕は半ば強引に代を『ココロ相談室』に連れて行った。

 どうも最近、ここを私的利用しているが他に思い当たる場所がなかった。


「ちっ、放課後が終わった途端にこんなところに連れてきてどういうつもりだよ」


「話があるって言っただろ」


「教室でもできるだろうが」


「一応、こっちとしてはお前たちを気遣ってやってるつもりなんだけどな」


「は? 俺たちって……俺の他に誰のことを言ってんだよ」


「アスカだよ」


「ッ!?」

 明らかに驚いている。

 代は無愛想な分、感情が出るとわかりやすいくらいに顔に出てしまう。


「ごめん、最初に謝っておく。僕は一昨日の文化祭のときに実は二人の話を聞いてたんだ」


「聞いてたって………」


「はっきり言うよ。僕はお前がアスカに告白してるところに出くわしたんだ」


「な………!?」

 この件に関して僕ははっきりとして真実が知りたかった。

 なぜかわからない。

 なぜかわからないが、なんだか胸の鼓動が今ものすごく速くなってる。

 自分が自分じゃないみたいだ。


 率直に言って、苦しい。

 早く終わらせたい。

 その一心で僕は代を問い詰めた。


「………………はぁ」

 自分を落ち着かせるために代は時間をかけてため息をした。

 こんな簡単に落ち着きを取り戻す姿は流石スポーツマンと言ったところか。


「そうだよ」

 短く代は肯定する。


「俺と祀梨は付き合うことになった」


「………………」

 改めて聞くと。

 こんなにも心に―――。


「そっか」

 僕は『受け入れた』。


「おめでとう」

 そして、祝福した。

 してしまった。


「それで?」


「あ?」


「二人が付き合ってるってみんなには隠すつもりなの?」


「なんでそう思う?」


「いや、あんまりにも今日は二人ともいつも通りだったからさ」


「別に………」

 代は武道場の方向に視線を移す。

 今頃、部活の練習の準備でもしているだろうアスカを想うように。


「……そんなつもりはない。だが、わざわざ報告とかするつもりもない。冷やかされちゃ敵わんし」


「そうか……、なら僕も人に言わないよ。二人のことは―――――」

 ついに僕は言ってしまう。


「―――応援するよ」


 口に出した瞬間、『何か』が僕の心から無くなった気がした。

 それはきっとかけがえの無いものだ。

 それを取り戻すことは絶対にできない。


 心に穴が空いた。


 とても苦しい。

 苦しいよ……。


「コウ……ありがとな」


「………………」


「じゃあ、俺は教室に戻る。なにせ、荷物も何も持たないままに連れてこられたからな」

 お礼を言った照れ隠しに嫌味を呟きながら代は『ココロ相談室』から出て行った。


「ははっ………」

 ありがとう、か。


「先輩………」


「ああ、医月」

 代とほぼ入れ違いになるみたいに今度は彼女が相談室にやってきた。


「今日は図書委員の仕事はないの?」


「そんなことより……」


「なに?」


「泣いてませんか?」

 医月は突然そんなことを言った。

 おかしなことを言う。

 その昔木から落ちたハルを受け止めて怪我して以来泣いたことなんてなかった僕が文化祭のとき美嬉ちゃんの前で涙を流したけれどそんな立て続けに泣くもんか。


「あっははは、泣いてないよ? 医月。見ればわかるだろう?」


「………そう、ですね」

 今日の医月はあまり憎まれ口を叩かないなぁ。

 珍しいこともあるもんだ。


「私の見間違いでした」



 ◇



 見間違いなものか。

 私は心の中でそう呟いた。


 先輩は泣いていた。

 笑いながら泣いていた。


 原因はわかっている。

 先輩は好きだったのだ、飛鳥田先輩のことが。

 その好きな人を倉河先輩に取られたから、泣いていたんだ。


 私はただ今日は図書委員で部活に来れないことを先輩に伝えに来ただけなのに、二人の会話を盗み聞きしてしまった。

 最低だ。

 そして、笑いながら涙を流す先輩を見ていられなくて逃げてしまった私はさらに最低だ。


 でも。


「どんな言葉をかければいいのか」


 わからなかった。

 ただ私には衝撃だった。


 あの。

 あの一円先輩がまさか。


 恋をしていて、失恋して泣いてしまうだなんて。


 信じられなかった。


「悔しいって思ってる……歯痒いって………」


 なぜ、自分がこんな気持ちになるのかもわからなかった。

 多分これは誰に聞いてもわからないのだろう。

 そういうやつだ。


 私は図書室に向かった。


 悲しむ先輩を一人残して。


「最低だ」





 ◆





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