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こル・ココる  作者:
第六章 『怒』
45/65

談後ななつめ 不十分で不必要。

 



 ◆




 これは文化祭で出すメニューを決めるために放課後にアスカと教室で話し合ったときの記録だ。


 アスカは家電に精通しているため、どんな料理が調理可能かを聞くには参考になる。

 本当なら白城さんもここにいるはずだったが、どうも外せない用事があったようだ。


 故に二人っきり。

 彼女に告白する絶好のチャンスだが、愚鈍なる僕はそんなことには逆立ちをしようとも気づかない。


「やっぱり輪花ちゃんがいないとダメだったね。私も一円くんもお菓子とか作ったことないしさ」


「まぁ、お菓子が調理室でも作れるってことがわかっただけでも良かったよ」


「お菓子の他にも軽食も作るの? 一応喫茶店だし」


「ああ、うん。卵サンドとか、うまく作れたら人気呼びそうだからね」

 ここで昨日白城さんと喫茶店に視察に行ったことを伝えた。


「へぇー。そんなところに喫茶店ってあったんだぁ、知らなかった」


「確かに穴場スポットではあったかな」


「一円くんって輪花ちゃんと仲良いよね」

 そういえば、仮にも好きな人に他の女の子と休日に会っていることを言って良かったのかな。

 割とやっちゃいけないことだよなあ。

 いや、そういう姿をほのめかすことで『もうっ、他の女とイチャイチャして! 私にもカマってよ!』ってな感じで嫉妬を誘えるかもしれない。

 まぁそんな恋の駆け引き的なことができるような僕ではないことは周知だと思うが。


「ありがたいことにね」

 だから、余計なことを考えずに普通に返す。

 アスカのニュアンスだと嫉妬の欠片も見受けられないしな。


「彼女って変に男子と壁を作ってたりしてたからね。一円くんとちゃんとした関係を築けているなら心配ないね」

 男子に壁を作っている原因を知っているだけに僕はただうなずく他なかった。


「やっぱり一円くんはすごいよ」


「すごい……の、かな?」


「すごいよ」


「あんまりそういう自覚ないけどなぁ。むしろすごくないとよく言われる毎日だよ」

 主に後輩に。


「それ、言ってるの医月ちゃんでしょ?」


「よくわかるね」


「あの子くらいだからね、一円くんにそういう物言いするの。ああ、あと照れ隠しするときの代くんも言うかな」


「……代の話はいいよ」

 アスカの口から代の名前が出ると複雑な気分になる。

 僕の方が嫉妬してしまっているではないか。


「アスカくらいだよ、僕をそんなに褒める人って。珍しいって言っていいくらい」


「珍しいは言い過ぎだよ。渡葉……じゃなかった曜さんとか天灯先生とかもっといるでしょ?」


「曜さんはわかるけどあの先生が褒める?」

 ははっ、あり得ない。

 もしそんなことがあれば今度は階段から落ちるだけでは済まないだろう。


「私なんかよりもずっと先生が一円くんのことを評価してると思うけどなぁ。じゃないと生徒のお悩み相談なんてさせないんじゃない?」


「ま、まぁ確かに……」

 普段、貶されている手前十分に納得できないのが痛いところだ。


「私的にはもっと一円くんには自己肯定感を高く持ってほしいけどね」


「自己肯定感?」


「自分には価値があるって認めることだよ。そうすれば一円くんのすごさに磨きがかかるのにねぇ?」


「そう言われても……」

 困る。

 しかし、アスカの言っていることはわかった。

 自分に価値を見出せていないから、周りの人間がどんなに心配しているか気づけない。

 と、そう思った。


「ま、今回の文化祭で少しでも認めてくれればいいけどね」


「ん? なにか言った?」


「うふふっ、なんでも」

 なんだろう。

 何かを企むかのような意地悪なその顔が素直にかわいいと思ってしまった。


「でも信じられないな」


「え、なにが?」


「僕がすごいってことがさ。失敗ばっかりやっている気がするし」


「失敗を数えても仕方ないけどね」


「お、良い言葉だね」


「問題はそこじゃなくて、一円くんは全くブレることがないのがすごいんだよ」


「自分を保ってるってこと?」

 確かに文化祭の実行委員になるまでクラスメイトとまともに話をしないくらいには我ながらマイペースだと思う。

 だがアスカが感じていることは、


「買いかぶりだよ」

 それもかなり重度の。


「一円くんがそう思うのなら今はそれでもいいけどね、私」

 そう言うアスカの顔は今まで見たどの顔とも違った。

 そこにある感情はなんだったのか。

 僕はアスカじゃないからわからなかった。


「私は羨ましいんだよ。そんなに自分を自分としていられる一円くんのことが、心底羨ましくってついつい………」


「? どうしたんだよ、アスカ」


「………あはは、なんでもないよ」


 わかっていても聞けるはずもない。

 僕はただ『受け入れる』だけだった。


 この時の笑顔を。


 好きな人の誤魔化しを。


 それが唯一、僕が自分に自信を持ってできることだった、





 ◆





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