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こル・ココる  作者:
第四章 『愛』
25/65

懐かしんだ、そして慰めた。

 



 ◆




 茜音さんが代への告白に向けて準備をしているであろう土日の間、僕はせっせと気温が上昇するなか花壇を耕していた。

 医月は茜音さんが相談してきたあれ以来見ることはなく、僕は園芸部顔負けの活動に勤しんでいた。

 家に帰れば、予選を勝ち抜いて本戦が迫って気合十分のハルと自主練習に付き合う。

 先日、アスカの手伝いをしてからというものたまにハルと一緒に走りこみをしていたのである。

 できれば、曜さんにも貧弱だと思われないくらいには自分を鍛えたかった。

 ということで、日が落ちかける夕方に多少のエネルギーを補給してハルと共に汗を流していた。

 今日は僕の提案で祈梨ちゃんと偶然出会った懐かしき公園を目安に持久走をしている。

 性別の差を引き出すのは近年では憚れるけれど日頃から運動部でしごかれているハルには体力的に敵わずすっかり僕は息も絶え絶えでへろへろな状態で公園にたどり着いたのだった。


「だいじょうぶ?はい、これ水」

 体力が尽きてベンチに座り込む僕に(そこらの自販機で買ったのだろう)飲み物を渡してくるハルは少し汗をかいている程度で全然余裕だった。

 なんとも自分が情けなくなってくる。


「そういえば聞いてなかったけどさ。特に運動をしてこなかったコウがなんでいきなりあたしの自主練に付き合おうとか思ったの?」


「お前も僕のことを貧弱だと言うのか………」


「なんでそうなるの!?」

 僕にとって珍しい動機であるし、説明するにしてもハルが知らない人が登場するから正直話したくない。

 だからここは適当に「最近、太ったから」とかありきたりな理由で逃げるとしよう。


「ふーん。コウでも自分の体形は気になるんだねー。なんだかウソみたい」

 さすが昔馴染みのハルだ、鋭い。


「でも、この公園には久しぶり来たな~。若干遊具がなくなっているのが寂しいけれどね~」

 最近の子供は外で遊ばなくなったり、遊具の危険性とか唱える過保護な親が出てきたりで昔より寂れてしまった感が確かに否めない。

 まぁ、単純に老朽化の問題かもしれないけど。


「砂場でお城つくったり」


「うん」


「ブランコに乗って靴飛ばしたり」


「楽しかったよなー」


「あたしがコウをジャングルジムから落として頭を打ったりしたよね~」


「………記憶にないな……それ………」

 単純な記憶の劣化だと信じたい。


「でもさ、あたしが引っ越してからめっきり来なくなったんだよね。あんなに遊んでて、楽しかったのになぁ」


「中学にあがってからだっけ」

 今ではハルは僕の家に居候しているが、元々はハルが通う白粉女子学園の近くのマンションに住んでいて、しかしその前はこの辺りに住んでいた。

 そういうこともあり、僕たちは幼いころからまるで姉弟のように遊んでいた。


 ハルが七月生まれで僕が三月生まれ。

 だからハルがお姉さんで僕が弟。

 別にそれでお互いそれらしく接したことはないけれど、いつもハルが僕の手を引っ張っていたように思う。

 僕が今の僕のように他人の気持ちを紛いなりにも理解できるのはハルのおかげである。

 もし、ハルがいなければ僕は他人になんて興味を持たずに今日のように『ココロ相談室』なんてやれていないだろう。


『僕』の始まりが『ハル』で。

『ハル』が『僕』をつくった。


 なので感謝してもし足りない。


「ありがとう、ハル」


「いきなりどうしたの?」


「突然、お前に言いたくなったんだ。仕方ない」


「ははっ。仕方ないね。それだったら」

 ハルはいつだって受け入れてくれる。

『すべてを受け入れる』という『性質』を持つ僕を彼女は受け入れてくれる。

 それが、たまらなく嬉しい。


「それで、さ。僕はハルに言っておくことがあるんだ」


「な、なにかな。改まって」

 恩人であるハルに対して僕は取り返しのつかないことをしていると気づいてしまった。


「ハルは代のことが好きなんだよね?」


「……う、………うん」


「実は部活で代と付き合いたいって子が相談に来て、僕は立場上両者の橋渡しをすることになってね………、本っ当にごめん!ハルの気持ち知ってたのにそんなことしちゃって」


「え!?あ、え、えっと、えっと……」

 心持ち怒られるのを覚悟しての謝罪だったのだが、なぜかハルはあたふたしている。

 数キロ走ってもあまり汗をかかなかったのに冷や汗をかいている。

 何をそんなに慌てる必要があるのだろうか……?


「ええーあーうぅー、そ、そうだよね………うん……」

 まだまだうめいている。


「な、なんでそんなことするかなーコウは!」

 出来の悪いロボットのようにあちらこちらときょろきょろ動きながらやっとそれらしい反論をする。

 しかし微妙に棒読みだ。


「ちなみにあたしの気持ちを裏切ってるって気づいたのは?」


「ついさっきです……」


「最低だね」

 そこは迫真なんだ……。


「まあ、それはいいとして」

 言いながらハルもベンチに座る。

 隣にいる僕から先ほどもらった水をぶんどり飲み始めた。

 間接キスとか気にしないのかな、運動部では回し飲みなんて当たり前なのかもしれない。


「ぷはっ。で、コウはいつになったらあたしの応援に来てくれるのかな?この前の予選はなんだかんだで来なかったし……、せっかくのあたしの大活躍を見せたかったのにな~」

 そうやってごちりながらいじけたふうに持っているペットボトルを傾けて弄ぶ姿はなんだか幼く見えておもしろかった。

 ハルはバスケ部に入っていて、二年生になってやっとレギュラーになれたらしく日々練習に励んでいたらしい。

 それもハルの通う学校は割と強豪らしくその実力は計り知れるところだ。

 それで以前に僕が応援に行く云々の話をしたとき、チームメイトからからかわれるからと反応が芳しくなかったので僕的にはハルに気を利かせて行かなかったのだが。

 結局のところ来てほしかったようだ。

 うーん。

 ハルとは幼馴染とは言っても、やはり女心はわからないものだ。

 まぁ、僕の知る女性が癖が強い人ってだけかもしれない。

 未だに医月がなにを考えているのか追いつかないし……っと、そういえばなんで医月が茜音さんから逃げたのか聞いてなかった。

 結構重要なことのように思うのだが、なかなか機会が噛み合わないものだ。


「じゃあ今度の試合でハルが八面六臂の大活躍を拝ませてもらおうかな」


「おーどんとこい」

 胸を張るハル。


「再来週の日曜に県大会が近くであるから絶対に応援に来てよ!!」


「うんうん、わかった。でも意外。ハルにも自己顕示欲みたいなものあるんだな」


「そりゃあ、誰かに『すごいなぁ』って思われるとうれしいじゃん?だからコウが来てくれるならあたし頑張れちゃうんだぁ」


「別にいつも思ってるけど?」


「そうじゃなくって!あたしのプレイを見てもらいたいのっ!!」

 肩を掴まれ興奮気味にそう言われた。

 力強く言うのはいいけど、いきなりハルの端正な顔が近付くものだからびっくりする。

 さすがに我に返ったハルは急いで僕を突っぱねてベンチの隅へと距離をとる。


「なんでわかんないかなー」

 その呟きを最後に立ちあがって、


「もう帰ろっか」

 随分時間が過ぎているようで空はもう薄暗くなっていた。


「日が落ちるのが遅くなってきたねー」


「そりゃあ、もう梅雨も明けて六月も終わるからな」


「夏だねー」


「………七月、か」

 ハルの誕生日が近いな。

 中学のときは近所じゃなかったからプレゼントとかやれなかったけれど、今年は一緒に住んでいるわけだし何か考えておくか。

 そんなことを頭に描きながらハルと肩を並べて帰り道を歩く。

 幼いころのように。


 道を辿りながら昔の風景と今の風景の間違い探しをしたり。

 途中ハルが僕と間接キスをしていることに気付き顔を真っ赤にして全速力で先に帰ったり。

 そんなことがあった。


 今日話した応援のこと。

 今日思ったハルへの誕生日プレゼントのこと。


 僕は何一つ成し遂げられなかったことをここで言っておく。



 ◇


 来てしまった月曜。

 昼休みに茜音さんと打ち合わせたとおり、放課後部活に行こうとしていた代をとっ捕まえて屋上へと連れていく。


「またお前が何してるか知らんが俺を巻き込むんじゃねぇよ。試合だって近いんだ。お前に構ってられるほどもう暇じゃねぇんだよ」

 僕に腕を掴めれやや乱暴に連れてこさせられている代はそう不満を漏らした。

 というか機嫌が悪くなっている。

 このままの状態で茜音さんに受け渡すわけにはいかない。

 なんとかなだめないと。


「随分と部活熱心になったね、代。その調子だと次期部長は決まりだな」


「うるさい」

 取り付く島もないな。

 どうやら回復の見込みがないことが長年の付き合いでわかってしまう。


 ごめんよ、茜音さん。

 心のなかで謝っていたらあっという間に屋上へ出るドアの前まで来てしまった。

 学校の屋上なんて告白の舞台として定番中の定番で、それ以外にも憩いの場としても有名だろう。

 学校によっては危険だからと封鎖しているところもあるみたいだが、幸いというか草高では普通に解放されている。

 ただ、夏に差し掛かっているため日差しが強くなってきている今日では遮るものがないここに来るような物好きはそうはいない。

 先日の白城さんとのことを思い出しそうになる前に僕は代を促した。


「ほら。早く行ってよ」

 代の背中を押す。


「お前は来ないのかよ」


「そんなわけないだろ……、僕は友人Aなんだ。今回の主役はおまえ………、いや"彼女"なんだ。さっさと行きなさい」


「わけわかんねー」

 ぶつぶつ言いながらドアノブに手をかけ眩しく照りつける場所に向かう代を見送る。

 これで僕の役目はほぼ終わった。


 あとは邪魔が入らないように見張っておくだけ。

  僕はその場に座り結果をただ待った。

 祈りながら。


 がんばれ。


 がんばれ。


 がんばれ。


 きっと自分の気持ちを相手に伝えるのは勇気のいることだから。

 祈る片隅で僕は思い出す。


 あの時も屋上で、僕は"あの子"に呼び出された。

 決して茶化せない雰囲気。

 必死で真剣な表情。

 泣きそうに逃げたくなるのを我慢している瞳。

 あの時の言葉は何ひとつ偽りもなく、自分に正直に、想いをこぼしたのだろう。

 人一倍人の心情に疎い僕ですらわかった。

 だから僕も正直に答えた。


『助けてくれて、ありがとう。好きです。恋人になってください』


 要約するとこのようなことを言われた。

 本当はもっと時間がかかって、支離滅裂なことを言われたりしたけれど、不思議と言いたいことだけは伝わって今でも覚えている。


『うん、いいよ』


 要約しなくても僕はこう返事した。

 全然時間なんてかからなくて、簡潔に言い放った。

『すべてのことを受け入れる』。

 当然"あの子"の想いも『受け入れる』。

 どんなに必死になろうと、どんなにおざなりだろうと、僕の前では等しく均され想いは意味を成さない。


 だから傷つける。

 僕は人を傷つける。


 心に目を向けないから。

 想いに気づけないから。


 だったら―――――


 ガチャリ。

 唐突にドアが開く。

 僕はその隣に座っていたから、ドアが壁になって出てきた人物に気づくのは閉まってからだった。


「………………」

 そこにいたのは代だった。

 なんとも気怠い様子で僕を見下ろしては、


「………お前も大変だな」

 と言って僕を置いて自分だけおずおずと立ち去っていった。


 どういうことだ?

 茜音さんから告白されたんだろ?

 アイツのあの様子あの口ぶりからすると。


 ここで一瞬考える。

 僕も屋上に向かうべきか、茜音さんが出てくるのを待つべきか。

 時間にして数秒。


「………行くか」

 そう呟いて僕は立ちあがった。



 ◇


 外に出てみると野球部の掛け声、サッカー部のボールを蹴る音、吹奏楽部の楽器の音色、放送部や演劇部の発声があちこちと聞こえてくる。

 それに加え、最近鳴きはじめた夏を知らせる蝉の鳴き声も耳をざわつかせてくる。

 天気も良くて平和な世界の中で僕は見た。

 屋上の真ん中で茜音さんが―――――


「………………」

 なんて言ってあげればいいのかわからない。

 だけど行くと決めた以上、『受け入れた』以上は進むしかない。

 僕は駆け寄らずゆっくりと茜音さんに歩み寄った。


「…………茜音さん………」

 その場に座り込んで自分の顔を腕で覆い隠している茜音さん。

 僕はそんな彼女の隣に腰を下ろす。

 何も言ってやることのできない僕はしばらく真っ青な空を見ているしかなかった。

 心が落ち着いたのか茜音さんが姿勢をそのままにぽつりと言葉を溢した。


「断られちゃった………。ここまで準備したのに………ホントに、バカみたい…………ッ!」

 準備。

 そう、彼女は代のために立派なツインテールをおろしてサラサラとしてそうな綺麗なロングヘアーにしていた。

 昼休みに打ち合わせしたときに見たときにはその変わりように面食らったものだ。

 そして今日の告白のために何を言うのか一生懸命に考えたそうだ。


「どうやったら自分の気持ちがきちんと伝わるのか、頑張って考えたのに………。かんがえたのにっ!!」

 尚も顔を見せないまま茜音さんは、自分の心を誤魔化すためかわからないが彼女は叫ぶ。

 そうすることで彼女が立ち直れるのならいくらでも聞こうと思った。


「ねえ!どうして!?どうしてワタシじゃダメなのよ!!?」


「それは………」

 僕は答えようとして黙る。

 答えてどうしようというのか。

 彼女を後悔させるだけになるというのに。


「どうして友達から始めなかったの?そうすれば少しくらいは………」


「それじゃダメなのよ!!」

 顔を上げたのは良かったがそこに映るのは"怒り"だった。


「もう裏切られるのはイヤなのぉ。あんな思いはもうこりごりなんだから」


「教えてよ。茜音さんに何があったのか」

 不可解だった。

 代のことが好きだなのはわかったけれど、いきなり恋人にならないといけないだなんて段階を飛ばしてる。

 代のことを知っていくのだって本人と接して知っていくほうが仲良くなれるかもだし断然良いに決まっている。


 だから。

 僕はわかっていた。

 代がよく知りもしない相手と付き合うわけがないと。

 茜音さんが失恋すると僕は始めからわかっていた。

 だからさっき祈るのと同時に思い出していたんだんだ。

 僕と『あの子』とのことを。

 あれも間違いなく『失恋』する物語だから―――――。


「八つ当たり代わりに話してあげるわ。ワタシの失恋ってやつ」


 彼女が話すのは中学三年の頃の出来事だった。

 奇しくも僕と『あの子』の失恋と同じ時期ではあった。

 だからなんだというのか。


 当時の彼女には恋人がいた。

 初めての彼氏だった。

 今回とは違って中学に入学してからの男友達だったらしい。

 きっかけはちょうど僕とアスカみたいに席が隣同士だったこと。

 その男友達はとてもリーダーシップがあり、クラスをまとめるポジションにいつも立っていたそうだ。

 そういうこともあり気の強い茜音さんと相性が良かったのだろう。

 さしてケンカもせずにあくまでも"友達"として仲を深めたようだ。


 しかし中学三年になったときだった。

 一、二年とクラスが一緒だったのが初めて別になった。

 いざ離れてみると辛かった。

 いつでも目に入る位置にいた彼が居なくなり、いつも冗談を言い合って笑い合った頃のことが懐かしく感じるようになった。

 そして彼女は自分が彼に恋をしていることに気づいてしまった。

 それはクラスが別になって二週間が経った頃のことだった。

 早めに自分の想いを伝えないとと思った茜音さんはすぐにも彼を呼び出し告白した。

 彼女が思うよりもあっさり告白は受け入れられ晴れて二人は恋人となった。


「このときのワタシは浮かれたわ。あっちも自分と同じように寂しかったんだと思ってた。………けど、違ってた」


 恋人になってから一ヶ月後茜音さんは信じられない光景を目の当たりにした。

 大切に想っていた恋人が自分の全く知らない女の子に口づけをしていた。

 事故でもなんでもく故意だった。

 それを見た茜音さんは彼氏に問いただした。

 恋人の浮気現場を目撃したのだ当然だろう。

 そのときの彼氏が言ったセリフが、


『ごめん。おまえとは友達としてがよかった』


 それを最後に二人が言葉を交わすことはなかった。

 中学の半分以上は彼と過ごしたというのに、幕切れはあっさりとしていて茜音さんは深く心に傷を負った。


「結局。ワタシの一方的な想いだったのよ。彼は付き合えばワタシのこと好きになれると思っていたみたいだけど、無理だったみたいね」

 ふふ、と茜音さんは自らを嘲笑った。

 今どんな気持ちなのか僕には推し量ることなどできるはずもなかった。


「こう話してみると滑稽ね。振られてばっかりじゃないワタシ。そんなに魅力ないのかしらね」


「少しはすっきりしたかな」


「ええ、まぁそれなりに、ね。慣れてるわよこんな気持ち。アンタに心配されるまでもなかったわ」


「嘘だよ」

 いつもの調子で強気なことを言っているように見える。

 けれど、そんなの嘘なんだ。

 だって。


「茜音さん。泣きそうな顔してる」


「そんな、わけ………ッ!!」

 また強がってみせるけど我慢していたのが不意に意識してしまったせいか、ぽろっと片目から涙が一粒零れ落ちた。


「ほら泣いてる」


「泣いてないって言ってんでしょ?!」

 言いながらも箍が外れたのか次々と目から頬を濡らしていく。

 それを隠すようにまた腕で顔を隠す。


「もう我慢しなくていいよ、というか我慢しちゃいけないんだ。茜音さんは辛い思いをしたんだから。今日泣かないと前に進めないよ」


「ひぐっ、ワタシに、昔のこと話させといて慰めるようなこと、いうなぁ!」

 しゃくりあげながらもまだ我慢するように反論する。


 どこまで強情なのだろう。

 僕が隣にいるから我慢するのかな。

 ならどこかに行っておこうかと立ち上がろうとすると腕を掴まれる。


「どこに、いくのよ……。慰めるなら最後まで慰めなさいよ」

 すると茜音さんは僕の胸に顔をうずめてきた。

 何事だ。


「なぜだか顔が濡れてしょうがないからアンタの服で拭かせなさい」

 どうあがいても自分が泣いてることを認めない茜音さん。

 プライドが強そうな彼女らしいと諦めるしかないかもしれない。


「もちろんどうぞ」


 当然僕は『受け入れる』。

 制服が汚れるだろうが気にしない。

 それで彼女が立ち直れるのならば安いものだ。


 なにはともあれ終わった。

 結末は散々だが茜音さんなら大丈夫だろう。

 怒られるか心配だが頭を撫でてそう願う。


 ◇


 このときの僕は忘れてしまっていた。

 医月がなぜ茜音さんから逃げ出したのか。


 そしてわかっていなかった。

 彼女にはまだまだ心に傷を負っていること。



 相談は終わったけれど、物語はまだ終わってなんかいない。





 ◆




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