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こル・ココる  作者:
第四章 『愛』
24/65

話し合った、そして気に入られた。

 



 ◆




「こりゃ大変だ」

 そう独りごちる僕。


 今は昼休み。

 僕は早々に昼食を済ませある作業をしていた。

 それは昨日、事務員の澤田さんに頼まれた花壇の肥料を播くことだった。

 何年も放置されたこの花壇は荒れに荒れていて、最近になってようやく澤田さんと僕の手によってすべての除草が終わり、今度は土を整えようということになった。

 しかし、この作業はなかなか辛い。

 慣れない姿勢で重い土を持つので腰に負担がくる。

 代とかに協力を仰げば良かったなと思い始めたころに僕の背後から声がした。


「何やってんの、アンタ」

 これも昨日、『ココロ相談室』に相談してきた華村茜音さんだった。


「うおわっ。な、なんで茜音さんがこんなところに?」


「なによ、ワタシがここにいたら悪いわけ?………ってそうじゃなくて。何やってんのかって聞いてんのよ」

 手を腰にあて、不機嫌そうに口をへの字に曲げて捲し立ててくる。

 なんとも高圧的だ。


「僕はここでこの花壇を復活させようと頑張ってるんだよ。せっかくこんな広いのに花がないと寂しいでしょ?」


「ふ~ん」

 うわぁ、興味無さそう……。

 自分で聞いておいてそれはないよ。


「なにを育てる気?」


「さぁ?」

 そういえばここまで手伝ってきてなんだけど何を植えるのか全然聞いてなかった。

 こういうところに気がいかないのが僕らしいが、実際問題どうするつもりなんだろう澤田さんは。

 僕に耕すだけ耕させてそれで終わりだったら、さすがの僕も絶望するぞ。


「茜音さんはどんな花がいいかな。ほら名前に『華』ってあるしさ」


「なにが、『ほら』よ。意味分かんない。…………でも、そうね。桜かしら」

 参考にならない。


「春が好きだったりする?」


「そうね……。春は出会いの季節だから………」

 ん?

 今、茜音さんの顔に憂いが浮かんで見えた気がする。

 だけど、それも一瞬のことであくまでも気がするレベルだが。


「興味ないけど、アンタの好きな季節は?」

 興味ないけどって………もはや隠してすらいない。

 質問するにあたって一番してはならないことだ。


「特にないけど……、そういえば代も春が好きだって言っていたような………」


「えっ、ホントっ!?」

 わかりやすいぐらいに食いついてきたな。

 いつもの不機嫌な顔じゃなくこれくらい愛想が良ければ世の男が黙ってないのに………もったいない。


「君が僕のところに来たのは代のことだよね?」


「はっ。それ以外にないでしょ?アンタみたいな冴えない奴を探す理由なんて探すまでもなくそれしかない。アンタはそのためだけに存在しているの!」


「代の情報を提供するだけに生きているのか、僕って」

 さながらRPGの村人Aってところか。


 確かにそうだろう。

 いかに僕と代は互いに親友と思っていても茜音さんにとっての僕は単なる村人Aもとい友人Aだ。

 よく恋愛小説で登場する主人公の恋をアシストする脇役でしかない。

 大げさに卑下し過ぎかもしれない。

 でも。

 僕が今置かれている状況はまさにそれだ。

 今のところ一方的に好意を向けている状態の彼女をどうにかして助けなければならない。

 恋を成就させなければならない。

 それを念頭に置いて意識しておかないと、今回は難しいのだ。

 だって。

 僕は恋愛についてまだよくわかっていないのだから―――――


「いーい?今日の放課後にまた相談室に来るから、そこで今後の具体的なことを決めるわよ」


「具体的なことって?」


「だーかーら。それを話し合うんでしょ!それくらいわかって!」


「…………りょうかい」


 そこまで話して予鈴が鳴る。

 昼休みが終わり、残り五分で午後の授業が始まる。


 結局、僕は暑い中肥料を半分も播けなかった。



 ◇


 それからあっという間に放課後。

 球技大会も終わりあとは期末テストが乗り越えれば夏休みである。

 変わらぬ日常の中に淡い期待が孕む七月を間近に控えた今日この頃。

 実を言うと僕の周りでは変化が起きていた。

 原因を表す前に回りくどく一人ひとり説明させてもらうと、まずクラスメイトの中で特に僕が交流しているのは四人だ。

 代は今更変わるわけもなく無愛想の通常運転。

 白城さんは球技大会での足の怪我が良くなったらしい。

 それが変化といえば変化だが彼女ではない。

 曜さんはまだ来ていない。

 となると残るあと一人は………アスカだ。


 ここ数日僕はアスカと言葉を交わしていない。

 たまにはそういう日もあるかもしれないが、依然として隣の席だしいつもは大体向こうから話題を振ってくることが多い。

 やれこのパソコンが良いだの、やれこの洗濯機が良いだの。

 彼女は和風美人のくせにして(めちゃくちゃ失礼)家電や機械が無類の好物なのだ。

 ある日、蛍光灯の持続時間について語られた時は相当に困ったものだった。

 話は逸れたがそんな彼女が数日間家電の話をしてこないのは異常なのだ。

 別に家電情報が知りたいわけでもないが、少し寂しさというか物足りなさを感じている僕である。


「ちょっと!!話聞いてんの!!?」


「ん?ああ、ごめん。聞いてないよ」


「ケンカ売ってんでしょ、アンタ」

 約束通り僕は部室で昨日と同じように茜音さんと一緒に今後のことで話し合いをしていた。


「代くんのことは粗方わかってきたけど、なんか決定的な何かに欠ける気がしてならないわね………」


「そりゃあ、普通こういうことって本人に聞いて知ることじゃないのかと思うんだけど……、というか聞いてなかったけどさ。代は君のこと知ってるんだよね?」


「知ってるわけないじゃない。お互いに知り合ってたらわざわざアンタなんかを頼んないわよ」

 それもそうか。


「?なんか順序間違ってない?」


「はぁ?」


「ある程度代のことは教えたつもりだよ?好みとか色々。でも肝心の代が君のことを知らないんじゃあ、好感度の上げようがない。まずはアイツと仲を深めることが重要だと思うんだよ」

 ぶっきらぼうな奴だけど誰とも仲良くないわけじゃない。

 現に同じ部活のマネージャーであるアスカとはよく話をしている。

 そういうところからこつこつと外堀を埋めるようにやっていかないと、あの難攻不落は落とせない。


「―――――駄目よ」


「えっ?」


「始まりが友達じゃあ、駄目なのよ。いくつかの段階をスキップしていきなり恋人じゃないと意味がないの。………だから、ワタシはこうやってアンタに相談し情報を集め準備しているの。代くんに最初から好きになってもらえるように」

 真剣だった。

 別にこれまで彼女がふざけていたわけじゃないけど、張りつめた雰囲気がそこにはあった。

 鬼気迫るというか必死というか。

 彼女の恋はそこらへんで繰り広げられる浮ついたものではなく、本気なのだと。

 それだけは少なくとも感じ取れた。


「なんで………君はそこまでして代と恋人になりたいの?代のどこが好きなのかな?」


「そ、そんな恥ずかしいこと言えるわけないじゃない!!」

 さきほどの真剣な表情はどこへやら、真っ赤に頬を染めて怒鳴る。

 相手のどこが好きなのかを言うのはそんなに恥ずかしいものなんだ。


「え、えっと、その……、あああの、なんていうか、何事にも無関心そうなところとか?」


「はぁ……」


「顔ももちろんかっこいいし、見た目もあるかもだけど。やっぱりあの自分の価値観だけで生きているようなあの感じが!………す、好き、なのよ」

 カァーーと奇声を発しながら俯く茜音さんはいつもと違いすぎてかわいい気もするけど、そこまで詳しく語ってくれるとは正直思わなかった。

 せいぜい「なんでアンタなんかに言わなきゃならないのよ!!」と一蹴すると思っていたのだが。


「さて、んじゃあ、どうしようか」


「えぇ?」

 いまだに恥ずかしさから立ち直れていない茜音さんはそんな気の弱い聞き返し声をする。


「代の好感度を上げる作業を省くというのであれば、時間はそんなにいらないわけで。どうする?あとはもう茜音さんの準備次第になると思うけど」

 あくまでここは相談室。

 そもそも僕にできることなどほとんどない。

 話を聞いてやったり、情報を提供するくらいしかできないたかが友人Aだ。

 一番肝心なところは本人任せるしかない。


「代に告白する日を決めて。僕はそれに従おう」


 それから僕たちは話し合う。


 今日は金曜日。

 明日、明後日は一応休みということになっている。

 ということで。

 休日を目いっぱいに利用して代の好みに近づけ告白に臨むと彼女は言った。

 よって、運命の日は次の月曜日。

 その日の放課後に代を屋上に連れていくのが僕の今回できる最後の仕事となった。


 ◇


 茜音さんと具体的な方針を決め、解散したあと僕は独り医月のことを待っていたのだが金曜日は図書委員の当番だったことを思い出し、僕はいつもより早く下校することにした。

 花壇のほうは土日で耕すことにして、今は見慣れた通学路を自転車で走っていた。

 なんてことはない道すがら、住宅街のなかに昔よくハルと遊んだ公園がある。

 砂場で砂遊びをしたり、一緒に滑り台を滑ったり、鬼ごっこだってやった。

 割と馴染みのある公園を僕はあまり感慨を持たずただ通り過ぎるだけなのだが、今日は違った。

 自転車を手ごろなところに停め何年か振りに公園へと立ち寄った。

 別に突然懐古趣味にとらわれて今から遊具で遊ぶわけじゃない。

 木陰にあるベンチに思ってもみない知り合いが佇んでいるのを見かけたからだ。


「祈梨ちゃん、こんなところで何してるの?」


「んっ?あぁ、なんだお兄さんか。変態かと思った」

 学校の帰りだと思われるアスカの妹の祈梨ちゃんが座っているのだが、話しかけて早々変態扱いを受けた。

 可愛いというより綺麗な顔立ちをしている祈梨ちゃんだけれども、そんな子供からなじられて喜ぶ性癖は僕にはない。

 医月と初めて会ったときを思い出したりもしたし、彼女にも言ったけれど僕は変態じゃない。決して。


「いやいや、そんな傷ついた顔しないでよ。別にお兄さんが変態って意味じゃなくてね、ボクがよく変態に話しかけられるっていう意味だから」


「僕に対するフォローが聞き捨てならないよ!?」

 どんな生活を送っているんだよ。

 それと落ち着き過ぎだろ、淡々と話していいことではない。


「ちょっと待って、ここらへんってそんなに変質者がいるの!?」

 ここらへんは僕の生活圏でもあるのだ、身近に小学生から変態と呼ばれる人物がいたら物騒でならない。


「前に学生鞄に触らせてくれと頼まれた時はさすがに引いたけどね」


「上級者過ぎる………」


「ずっと無視してたらどっかに行ってしまったけれどね」


「メンタルが弱過ぎる………」

 そもそも通報しようね、そういう人と会ってしまったら。

 医月だったらすぐにでもそうするだろう。


「そんなに変質者に会うんだったら早く家に帰ったほうが良いんじゃない?」


「そうなんだけど、今日はこれをもらっちゃってね」

 そう言って憂鬱そうな感じで手に持っていた手紙のようなものを僕に見せてきた。


「恋文だよ」

 恋文?要はラブレターか。

 言葉のチョイスがいちいち年不相応だな、雰囲気も態度も。

 どんな育ち方をすればこんな風に育つのだろうか。

 僕が言うのもなんだけど。


「へぇやっぱりモテるんだね、祈梨ちゃんって。僕なんてそんなのもらったことないよ」


「もらわなくていいよ、こんなもの」

 これまた小学六年生とは思えないほど辛辣に冷たく祈梨ちゃんは言う。


「困るだけだよ。こんなふうに一方的に想いを伝えられてもさ。ボクには荷が重すぎる。わかるかいお兄さん?人の想いを断るのって心が潰れそうになるんだよね」

 彼女は胸のあたりに色白な手を当て服を掴み苦しそうだった。


「ねぇお兄さん。なんで人って恋をするんだろうね」


「さぁね。みんな寂しいんじゃないの」

 正直、祈梨ちゃんと同じ疑問を僕だって持っている。

 なぜ、人はそんなに他人を求めるのか。

 こんなことを思っているから友達が少ないんだろうが、わかっていても思ってしまう。

 確かに人と一緒にいると楽しい。

 ハルや代や白城さんや医月だって。

 アスカに話しかけられなくて物足りなさを感じている僕である。

 でも、必ずしも僕に彼ら彼女らが必要かって言われたらどうだろう。

 答えられない。

 こう考えてみると僕も随分冷たい人間だ。

 それも今更か。


「お兄さんは誰かと付き合ったことがあるのかい?」

 祈梨ちゃんが自分の隣に座るような素振りをしたので僕はそれに従って腰を落ち着かせて答えた。


「あるよ」

 自分でも驚くほど感情がこもっていなかった。

 いまだに気にしてるのだろうか『あのこと』を。


「意外だねって言ったら失礼かな」


「思った時点で失礼だよ。………でも、そうだね。僕が付き合ったことがあるだなんて何かの間違いではあるよね」

 実際、間違いだった。

 あんなことがなければ良かったのにと後悔する日はなく、『受け入れた』けれど。

 たまに思う。

 "彼女"は今どんな想いなのかとか。

 そんなくだらないことを延々と。


「間違いと言えばボクも間違いだったよ。なんでこんな整った容姿に生まれてしまったのかって。……ふふ、自分で言ってて随分恥ずかしいな」


「とんだナルシストだね」

最後には花になるのかな、と冗談を言った後、


「できるだけ男の子に見えるような服装をしたり、しゃべり方だって女の子からは程遠い。そこまでしてもボクは思うようなボクにはなれなかった」

確かに今日の彼女の装いはこの間と同じようにボーイッシュな感じだ。

まさかそんな思いをしてのファッションだとは思わなかった。


「悩みだよ、もはや。誰からも好かれたくない。ボクは外見ほど綺麗な人間じゃないのに、それを求められているようで生き難いよ。本当に」


「君のお姉ちゃんは君を理解してくれるんじゃないの?アスカは他人を見抜く力みたいなものがあるから」


「見抜く力、ね。ボクは見透かされてる気分になるよ。自分の醜いところまで全部。だから実は姉ちゃんのことはあんまり得意じゃないんだよね。好きだけど」

得意じゃないけど好き。

姉に対する複雑な思いは彼女にしかわからないだろう。

自分を見透かす人間が身近にいれば、おかしくなりそうなものだ。

隠したい感情もなにもかも知られてしまう。

ガラス張りの部屋で生活するようなものだ。

そりゃあ、考え方も普通とは外れるわけだよ。


「あ。その君のお姉ちゃんなんだけどさ、最近僕と口を利いてくれないんだけどなんでかわかる?」


「ああ、それはねぇお兄さんが僕のことを男の子と間違えたからだよ。姉ちゃんってシスコンなところがあるから、それで怒ってるんじゃないかな」

ふふふ、と大変愉快そうに祈梨ちゃんは笑った。

最初に会った時より表情豊かになってくれているのは非常に良いのだが、笑い事じゃない。

代が所属する部活のマネージャーってことで色々相談したいことあったんだから。


「元に戻すにはどうすればいいのやら」


「別に難しいことじゃないよ。ボクと仲良くなっていけば自然と姉ちゃんもお兄さんのことを許すと思うよ?」


「シスコン過ぎる………」

でも、どうやって妹と仲良くなったことがわかるのだろうか。

それも見抜く力だったりして。

それだともはや読心術の領域を超えている気がする。

天灯先生や医月に心を読まれ慣れている僕ならあるいは簡単かもしれない。


「祈梨ちゃんは僕と仲良くなってくれるの?」


「それは姉ちゃんから許されたいから言ってる?」


「もちろん、それを踏まえないでも君とは仲良くしたいけれど」


「うん、そうだね。ボクもそれを踏まえないでお兄さんと仲良くしたいよ」

公園のベンチで隣り合って座っていると、姉のアスカと同じ距離感に思えてくるけどそれとは全く異なる感じがした。

僕と祈梨ちゃんはなんだか似た者同士に思えて親近感が湧いた。

僕としては初めての感情だった。


「なんだか、お兄さんといると落ち着くや。他の人と違って気を遣わなくていいし、家族と違って気を張らなくてもいい。気を抜けるってこういうことなんだろうね」

ずっと互いの顔を見らずに前を向いて鉄棒あたりを見ながら話していた僕たち。

不意に祈梨ちゃんに肩をぽん、と叩かれベンチに座ってから初めて彼女の顔を見た。

自他共に認めるようにやはり端正な顔立ちをしていて、住む世界が違うとさせ思わせる少女は話し方や価値観はらしくないけれど、体だけは年相応でらしかった。

こんな小柄な女の子はこれまで考えにもつかないほどの普通とは違った経験をしてきており、だからかわからないけれど僕と気が合った。

それが幸か不幸か。

どっちなんだろうね。


祈梨ちゃんは僕を見つめて言う。


「ボクはお兄さんを気に入ったんだね」





 ◆





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