第9話:転入
部長が部屋に入ってきた。
暗くなってた部屋の雰囲気はいっそう暗くなっていた。
部長はいつもの席に行くと皆に集合をかけた。
「皆、この時期珍しいが新入社員の紹介だ」
少しだけざわめきが聞こえた。
「入ってきてくれ。中野君」
ドアを開けて入ってきたのは俺より1つ年下ぐらいの女性だった。
「さぁ。自己紹介をしてくれ」
彼女は少し部長に怯えてるようだった。
もうなんかしたのか?セクハラ親父
俺はそんなことを考えた。もちろん皆もそうだろう。
「中野桃子です。今日からお世話になります。よろしくお願いします」
一斉に拍手が起こった。
男グループから可愛い等と言った声が聞こえる。
その時俺は七年前を思い出していた。
「今日から、この学校に通う事になった柳双葉です」
俺はそっと双葉に目をやった。
明らかに柳さんを見て不機嫌になっているようだった。
やっぱり俺の勘は良く当たるとこの時確信した。
男のグループからは
「可愛いぜ」
「すげぇ。好み」
そんな声が聞こえてくる。
誰か一人が柳さんと付き合ってくれないかと期待した。
自己紹介も終わり、HRも終わった。
柳さんは多くの女生徒に囲まれていた。
その時、双葉が俺の側に寄ってきた。
「どうした?」
俺が聞いてみると
「別に、何でもないわよ」
「本当か?」
「ないって言ってるでしょ」
何故怒っているのかは良く分かってるつもりだった。
確かに心配になるだろうな。
「おい、優斗」
男友達が一人声をかけてくる。
「なぁなぁ。お前って神山さんと仲いいだろう?」
「まぁな。付き合ってるしな」
「え?」
「どうかしたか?」
「だって・・・お前付き合ってないって言ってたじゃん」
「あの時はな。その後付き合い始めたんだし」
俺達がそんな会話をしてくると多くの男子が集まった
「お前、神山さんと付き合ってるのかよ」
その声が大きく女子にも広まったようだった。
「え、双葉。秋月と付き合ってんの?」
双葉の方に目をやると顔を赤くしながらゆっくり頷いてた。
「やっぱりそうなったか」
そう言ったのは信吾だった。
「いいなぁ」
そんな声が多く聞こえる。
改めて双葉はもてるんだなと思う。
その騒ぎは結局、授業開始まで続いた。
一度だけ俺は柳双葉の顔を見た。
何処か悲しげだったのを今でも覚えている。
夏休み明け初日という事もあり今日は午前中だった。
久しぶりに会った友達と会話をして楽しんだあと、双葉と帰る事にした。
二人で帰るときには当然のように冷やかしを受けた。
帰り道まだ双葉は少し不機嫌な様子だった。
「おい、双葉どうしたんだよ?」
「別になんでもないわよ」
「まさか柳さんとの事疑ってるのか?」
「違うわよ。私は優斗を信じてる。でも恐いの」
「恐い?」
「そう。優斗が私から離れていった事を考えると」
俺は立ち止まった。そして
「心配するな。俺はずっと側にいる。だから安心しろ」
「うん。ごめんね・・・私・・・」
「いいって。さぁ行こうぜ」
「うん」
少し強がっていた感じがしたが双葉ははっきりそう言って
俺の隣を歩いた。
俺はパソコンの画面と向き合っている。
仕事している中で一番嫌いな時間だ。
嫌いというよりもパソコンが苦手なのでしょうがない。
パソコンと向き合っていると携帯にメールが入った。
相手は双葉だった。急いで内容を確認してみる。
「今週の日曜日、晴れたらピクニックに行かない?」
俺はスケジュール表を取り出して日曜日をチェックする。
ちょうど予定の入ってない日だった。
「その日、予定がないから大丈夫だよ」
俺はメールにそう書いて送信した。
ピクニックかぁ。これも懐かしい思い出だな。