第8話:転勤?
「明日から二学期だよ。初日から寝坊したりしないでよ」
「分かってるって。少しは信用しろって」
「はぃはぃ。じゃあ明日ね」
「おぅ」
「はぁ」
明日から学校だと考えると溜息が漏れる。
今年の夏休みはいろいろありすぎて宿題どころではなかった。
毎年全て終わるわけではなかったが、過去最高をマークした。
「もういい。寝る」
半分以上残った宿題をそのままにして俺は眠った。
「お〜い。秋月」
会社の前で古谷が声をかけてくる。
「昨日はどうだった?」
「成功って言っていいかな。いい感じだったし」
「それはよかったな」
「まぁな」
古谷は昨日と同じぐらいの笑顔だ。
「それよりさ、秋月、お前部長の噂聞いた?」
「何だそれ?」
「部長さ、違う部署に転勤だってさ」
「本当かよ」
「あぁ。まだ決まってないけど可能性は高いってさ」
「早く決まってどっか言ってほしいぜ」
俺は素直な思いを口にした。
俺と古谷の部長は本当に最低な奴だった。
男には厳しく女には優しくといった、気持ち悪い奴だ。
勿論、仕事場では凄い嫌われている。
本人は気付いてる様子がないから余計にたちが悪い。
「行った方があの人の為にもなるだろ」
古谷がそんな事を言う。
確かに俺もそう思う。
部長の影でセクハラ親父と言われている。
ストレートすぎる所が本当に嫌われてる証拠だろう。
「じゃあ行こうぜ、秋月」
「あぁ」
俺達二人は揃って会社に入っていく。
会社の中では同じ話題で持ちきりだった。
一人の女性社員が俺に声をかけてくる。
「秋月君、聞いた?部長の話」
確か名前は、後藤天音で俺と同い年だった。
「ついさっき、古谷から聞いたよ」
「秋月君はどっちがいい?」
「どっちがいいって?」
「ほら、その部長が残るか、残らないか?」
「もちろん残らないで欲しいけど」
俺は躊躇いもなくはっきり口にする。
「やっぱり皆同じ意見だね。ありがとう」
「別に構わないよ」
俺がそう言うと彼女は友達の所へ行った。
「よかったね、秋月と話せて」
そんな声が聞こえた気がしたが聞き間違いだと思い気にしなかった。
部長の転勤かぁ。本当に早くしてくれればいいのに。
ふと、俺の彼女が転入してきた事を思い出した。
あの時はまだ俺は幼馴染の双葉と付き合っていたし、
あんな事がおこるなんて少しも考えてなかった。
「もう、優斗、少しぐらい急いでよ」
「大丈夫だって、間に合うから」
「もう、まぁいいわ」
俺達は二人歩き出した。
長い夏休みを終えて二学期が始まる。
俺はまだ夏休みの感覚が強かった。
毎年のように夏休みボケをしていたようだ。
歩いていると、多くの学生とすれ違う。
当然といえば当然だが、夏休みの後は懐かしく感じるものだ。
「久しぶりにこの道一緒に歩くねぇ」
「まぁ夏休みは一度も通ってねぇしな」
そんな会話をしながら歩いて俺達は学校についた。
玄関の方に行くと、クラス替えの掲示板がある。
俺と双葉は自分のクラスを確認する。
「お、俺3組だ」
「私も、私も3組」
俺達二人はまたクラスになった。
俺達はそれは素直に喜んだ。
俺は他のクラスメイトを確認する為に自分のクラスの所に目をやった。
そこには俺だけが知っている名前があった。
柳 双葉
まさか同じクラスになるなんて。
俺は今までにないぐらい嫌な予感がした。
「大丈夫だ、双葉には説明してあるんだ」
俺は誰にも聞き取れないような声で呟いて双葉の元へ戻った。
「秋月、秋月」
古谷が俺を読んでいるようだ。
「何だ?」
「部長の転勤、ガセネタらしい」
「・・・・・」
言葉が出てこなかった。
「お前も俺と同じ反応だな」
「・・・・・」
「期待がでかい分こうなるよなぁ」
「あぁ」
やっとのことで出た声がそれだった。
本当に本当にがっかりだ。