第6話:告白
前に比べると外で遊んでる、子供が減ったいるようだ。
夏休みも残り3日。学生達は宿題を片付けるのに忙しいに違いない。
今日は久しぶりに雨が降っている。小雨程度だがこれから強くなりそうだ。
俺はあまり雨が好きじゃない。15年前とかの小学生の頃は好きだったけど。
考えてみると、双葉とケンカして久しぶりに会ったのも夏休みも終わりかけてた時だったな。
そして・・・
まだ双葉とは仲直りせずにいた。宿題なんて手が付けられるはずがなかった。
電話しようかと悩んだが、やっぱりやめとく事にした。
「はぁ・・・」
また溜息だ。ここ2週間ぐらいでかなり老けた気がする。
「優斗、ご飯よ」
下から、俺を呼ぶ声が聞こえる。
「分かった。すぐ行く」
適当な返事を返して自分の部屋を出て一回に行った。
その日の食事のメニューは今でもしっかり覚えていた。
カレーだった・・・。確か3日連続だったような気もする。
「そういえば、優斗」
母が唐突に話を始めてきた。
「何?」
「あんた最近。双葉ちゃんと会ってないんじゃない」
「別にそんな事ないけど」
「そぅ。なら、いいんだけどね」
間抜けそうな顔して以外に鋭いんだなと素直に思った。
もちろんそんな事自分の親に向かって言える筈がない。
ケンカしてる時だけは普通に言っちゃうが。
ご飯を食べて自分の部屋に戻った。久しぶりにギターを弾いてみる。
自分の覚えている曲を5,6曲やって早めに終わった。
「やっぱり気分が乗らないな」
部屋の中は静かだった。外で泣いている虫の声が良く聞こえた。
少し暑くなってきたので、夜風に当たりながら散歩でもすることにした。
家を出て、適当にブラブラしながら、公園の方へ向かった。
家から5分程度にある公園は、風通りが良くて、結構通っている。
公園はすぐ見えてきた。周りは暗いが蛍光灯の明かりで十分前を確認できる。
初めは気付かなかったが、近付くと人がいるのに気付いた。
どうせ知らない人だろうと思っていたら、それは双葉だった。
「双葉」
俺は名前を読んで駆け寄った。
双葉と会うのは2週間ぶりだった。
今までいろいろケンカはしてきたけど、そんな事はなかった。
双葉は俺が近寄ったのを見ると、逃げ出すように走り出した。
俺はそれを追いかけて手をつかんだ。
「どうして俺を見て逃げるんだ」
「別に逃げてないわよ。とにかくその手を離して」
俺は強く握ってた手を離した。
双葉はもう逃げようとはしなかった。
「双葉。まだ誤解してるのか?」
「もう、うるさいわね」
「俺はお前とぎくしゃくしたままなんて嫌なんだけど」
「別に私はそんなつもりないけど」
「俺はあるんだよ。どうしてシカトしたりするんだよ」
「いつも同じ事を聞かないでくれる。シカトした覚えなんてないの」
「今だって俺を避けるように逃げようとしただろ」
「勝手に勘違いしないで。私はそろそろ帰ろうと思っただけよ」
「分かった。それでいい。とりあえず俺の話を聞け」
「分かったわよ。早くしてよね」
俺は静かに深呼吸した。走って大きい声で喋って少し息切れしていた。
それは双葉も同じで、少し顔が赤くなっていた。
「お前は、俺が女の人と歩いてるのを見ただろ」
「・・・」
双葉は何も答えようとしない。俺は気にせず続けた。
「あれは遊んでた訳じゃない。ただ道案内をしてただけだ」
「・・・」
「あの人、俺達と同い年らしくて二学期から転入してくるらしいんだ」
「・・・」
双葉はまだ何も答えなかった。
俺はそこである一大決心をした。
「それに・・・」
続きの言葉がなかなか出てこなかった。
「それに・・・」
また言い直そうとしたが続きが出てこない。
「それに、何なの?」
双葉が口を開いた。俺は一気に言いたい事を口にした。
「俺が、他の女とデートしたりするわけ、ないだろ」
「そんなの私に分かるわけないじゃない。それに何?その言い訳」
「言い訳なんかじゃない。俺はお前が好きなんだ」
二人の間に沈黙が流れた。俺の顔は真っ赤だっただろう。
「だから、他の女とデートなんかしたりしない」
最初に口を開いたのは俺だった。
緊張の余りに上手く喋れなかったのを今でも覚えている。
「本気で言ってるの?」
双葉を顔を赤くしながら、そんな事を聞いてきた。
「冗談でそんな事は言わない」
また、二人の間に沈黙が流れた。
今度は、双葉が最初に口を開いた。
「私も・・・私もずっと優斗が好きだった」
俺は双葉の言葉に顔を赤くした。
「だから、優斗が知らない人と歩いてるのを見たとき、本当に悲しかった」
俺はただ、だまってその話を聞いていた。
「優斗から彼女とか言われるのが恐くて、それで・・・」
双葉は涙を流し始めた。
「冷たく当たっちゃって。それでどうしたら、いいのか分からなくなって」
「・・・・」
俺はまだ無言でいた。
「ごめんね。私・・・最低だ」
俺は双葉を優しく抱きしめた。双葉は俺の胸の中で泣いた。
「ごめんね。ごめんね」
双葉はそれを繰り返した。
「いいよ、別に。気にしないで」
俺はそう言って双葉の背中をさすっていた。
10分ほど俺達はこうしていた。双葉は泣き止み俺から離れた。
「なぁ。双葉」
「何?」
「俺と付き合ってくれないか?」
少しだけ沈黙が流れて
「うん。いいよ」
双葉は笑顔だった。久しぶりに見た笑顔はとても可愛かった。
「ふぅ」
俺は今までの心配ごとが全部吹っ飛んだ。
「どうしたの。そんな溜息ついて?」
「別に。体が軽くなった感じがしてさ」
俺は久しぶりにぐっすり眠れそうな感じがした。
「ねぇ、優斗」
「何だ?」
「明日さ、久しぶりに遊びに行かない?」
「あぁ。いいぜ俺達の初デートだな」
「そういう事になるね」
「じゃあ、時間とかはどうする?」
「後で、電話で決めよう」
「分かった。じゃあ後でな」
「うん。バイバイ」
俺達はお互い手をふって別れた。
明日が楽しみで今日も眠れそうにないなと俺は思った。
「まぁ、こういうのなら悪くないけど」
そんな独り言を呟いて、俺は家へと歩いた。
あの日、まさか告白するなんて思ってもみなかった。
七年経った今でも、どうして決心したのか良く分かっていない。
結局、あの後俺達にはすぐに別れがやって来た。
そして今の俺の隣には柳双葉がいる。
人生ってものはよく分からないものだ。
永遠に続くと思ってた幸せは簡単に終わりを告げ、隣には違う人がいる。
あの頃の俺がこんな未来を予想していたはずがない。
そんな考えを巡らせた後、俺は仕事に戻った。