第4話:出会い
世間では夏休みに入った。俺にはまったくもって関係ないことだが。
今日は仕事が休みなので双葉と一緒に遊びに来ている。といっても散歩しながらとりとめもない話をしているだけだった。
「優斗。私達が初めて出会ったのも夏休みだったよね」
「あぁ。そうだったな。そこらへんの木の陰で双葉が休んでたんだよな」
「正確には覚えてないんだね」
「しょうがないだろ。もう七年も前の事だぜ」
「私はしっかり覚えてるけどね。ほらあそこの木だよ」
そういいながら双葉は一本の木に指を差した。
「そう言われると確かにそんな気もする」
俺達はその木の木陰で休む事にした。
「なんか少し変わっちゃってるね」
「そうだな。でも暑いのだけは何一つ変わってないな」
「だねぇ。あの日も今日みたいに暑かったしね」
「あぁ」
そう言って双葉と初めて出会った日のことを思い出した。
「出かけてくる」
その日は家にいても暇だったので出かけることにした。あてはなかったけどブラブラしてれば何か見つかるだろうと思っていた。
30分ほど歩いて俺はその場所についた。なるべく陰に入りながら歩いているとふと木陰で座って休んでいる女の子を見つけた。
歳は俺と同じぐらいかなと思いながらそのすぐ側を横切ろうとしたが、その時
「あのぉ。すいません」
その女の子は俺に声をかけてきた。
「なんですか?」
俺は穏やかな口調でそう返した。こんな蒸し暑い中良くこんな喋り方ができたと自分で自分を褒めていた。
「そのぉ。桐春高校ってどこだか知っていますか?」
そこは俺の通う学校だった。
「知ってるけど。どうかしました?」
「夏休み明けから通うことになったんですが、その前に見とこうかなって思って探しながら歩いてる内に迷っちゃって途方にくれてたんです」
「ここから15分ぐらいのところだけど案内しようか?」
「いいんですか?ありがとうございます」
「礼はいいよ。どうせ暇だったし」
「本当にありがとうございます」
これが俺達の最初の出会いだった。
そして歩いてる途中で多くのことを知っていく。ていっても名前や俺と同い年って事だけだったけれど。
「帰りは大丈夫なの?」
学校の周りを見た後帰るといいだした彼女に聞いてみた。
「えぇ。母がむかえにきますから。
「そぅ。じゃあ俺は行くね」
「優斗さん本当にありがとうございます」
「じゃあね。柳さん」
この頃はまだお互いさん付けだったり、苗字で呼んでいたりした。
双葉と別れてからは何もすることがなくてブラブラしていたがあまりにも暑かったので、ゲームセンターに入る事にした。
狙い通りクーラーがきいてたので気持ちよかった。
その時携帯電話がなった。急いで名前を確認して出ると
「さっさと、取りなさいよ」
双葉の声が耳に飛び込んできた。
「いきなり、なんなんだよ」
「あんた彼女いるじゃない。それなのに私と映画を見たの?」
俺は唖然とした。何だ彼女って。何を見たんだ?
「よく話がつかめないんだけど・・・」
「さっき歩いてたでしょ。学校の近くを。女の人と仲良さそうに」
そういうことか。俺は納得した。
「双葉、お前それ勘違いだよ」
「何が勘違いよ。最低男」
そう言われて一方的に電話を切られた。
あいつの悪い癖だ。感情的になると一切人の話に耳を傾けない。
「はぁ」
俺は溜息をついた。これからどうしようか考える気になれなかった。一度怒った双葉にいろいろ説明して物事を落ち着けるのはかなり難しい。とりあえず俺はゲームセンターを出た。
「私から声をかけたんだっけ?」
双葉がそう声をかけてくる。
「あぁ。確かそうだったな」
今の彼女の双葉にはあの事を話していない。もう一人の双葉とケンカしたことを。
知ってもどうせ意味ないことだ。それに彼女の前で他の女性の話しはしないべきだろう。
「そろそろ行こうぜ」
そう言って立ち上がると続いて双葉を立ち上がった。
「じゃあ。いこっか」
俺達二人は並んで歩いていった。