第3話:冷やかし
双葉とのデートから二日たって俺は勤務二年目の会社で働いていた。
学生の頃がなつかしい。この季節よく思う。学生達は一週間前にせまった夏休みをまだかまだかと心待ちにしている。
「俺も夏休みほしいな」
そんな事を呟いてみる。
「分かる。分かるその気持ち」
同僚の古谷が声をかけてきた。よくあんな声が聞き取れたよな、と感心する。
古谷とは仕事場の中で1番中がいい。よく一緒に飲みにいったりする。
「せめて10日ぐらいはほしいよな」
古谷が話をふってくる。
「確かになぁ。泊まりがけの旅行とか行ってみたいしな」
「なぁ」
ここまで話して上司がこっちを見ているのに気付いてお互い仕事に集中した。
会社からの帰り道で多くの学生とすれ違った。そんな中で双葉と映画を見たことを学校で冷やかされた事を思い出していた。
その日も双葉と一緒に学校へ登校していた。教室に入ると双葉は仲良しの女子グループの中へと入っていった。俺も男子グループの中へと入っていく。すると一人の男子が声をかけてきた。
「みたぜ。神山とデートしてる所」
周りにいたほかの男子がいっせいにこちらを見た。
「違ぇよ。別にデートなんかじゃねえ。ただ一緒に映画を見てただけだ」
「そういうのを世間ではデートって言うんだよ」
そう言われると何も言い返すことができない。
まさか、同級生に見られてるなんてこれっぽっちも思ってなかった。それもよりによって口の軽い事で有名な新沢信吾に。
「信吾。とりあえずもうその話はするな。広がったらこまる」
「どうして。付き合いを隠したいのか?」
「付き合ってるなら別にいいけど。実際付き合ってないしな」
「付き合ってないのに映画行ったのか。幼馴染って思ってたより凄いな」
付き合ってないという言葉が出たとたん周りから多くの声が聞こえた。
「なんだ神山さん付き合ってないのか」
「よかった。よかった。初恋が失恋で終わるところだったぜ」
「まぁ神山さんと優斗じゃつり合わないしな」
つり合わないって言葉に一瞬苛立ったが無視をした。
変なことを思い出しながら歩いてると前から男子高校生のグループが歩いてきた。結構話し声が大きく自然に耳に入ってきてしまう。
「いいなぁ。彼女ができてよ」
「まったく。羨ましいばかりだぜ」
そんな声がする。一人が顔を赤くしながら歩いてるのを見ると冷やかされてるようだ。七年経った今も何も変わらないんだなと思う。
そういえばあの日帰り道でも冷やかしを受けたような気がする。
下校も俺と双葉は一緒だった。俺は軽音部で双葉は吹奏楽部と二人とも部活動をやっていたのでほとんど時間はずれなかった。
いつもの道を歩いていると信吾がいるサッカー部メンバーに会った。
会った瞬間嫌な風が俺の首を吹き抜けて行った。
「お前ら本当は付き合ってんじゃないのか?」
「違ぇよ。別に登下校はいつも一緒だろ」
「そりゃそうだけどさ。あれを見た後だしな」
「いや、だから違うって」
双葉をあまり状況を読み込めず突っ立っていた。
「まぁいいや。とりあえず俺は信じてるから。じゃあな仲良し夫婦」
そう言って信吾たちは歩いていった。
この後俺は双葉にいろいろと説明する羽目になった。双葉は少し顔を赤くしていた。
それをみて俺は素直に可愛いと思った。