第12話:発病
「優ちゃん。双葉が、双葉が」
そんな電話がかかってきたのは土曜日だった。
見舞いに行った日から3日が経っていた。
「おばさん、今どこにいるの?」
「・・・総合病院」
病院・・・
その言葉を聞いた瞬間寒気がした。
「双葉は、双葉は大丈夫なんだよね?」
「分からない。分からないの・・・」
「おばさん、切るね」
俺はそう言って電話を切って家を飛び出した。
一生の中で一番早く走った時だった。
20分してやっと病院についた。
受付でいろいろ聞いて、走り出す。
双葉は集中治療室らしい。
その前まで行くとおばさんとおじさんがいた。
おばさんは泣いていて、おじさんが背中をさすっている。
「おじさん、おばさん」
俺はそう言いながら二人に近付く。
「優斗君か」
「双葉は大丈夫ですか?」
「私達にも分からないんだ。結果を待つ事しか」
おじさんはさすっている逆の手で握りこぶしを作っている。
俺は初めて自分の無力さを痛いほどに感じた。
大切な人が苦しんでるのに出来るのは待つだけ。
息切れしているのもあったからかは分からない。
胸が苦しかった。今までの何よりも胸が苦しかった。
苦しくて苦しくて涙が出る。
でも、出来るのは祈る事だけだった。
俺達、3人は無言だった。
20分ほどして俺の両親がやってきた。
「双葉ちゃんは大丈夫なの?」
俺と同じ質問をする。
答えを聞いた母は泣き出し父が背中をさする。
集中治療室のランプが消えた。
俺がここに来てどれぐらいの時間がたっただろう。
主治医らしき人が出てくる。
おばさんが駆け寄り、
「双葉は、双葉はどうなんですか?」
「ひとまず、大丈夫です」
その答えに全員が胸を撫で下ろす。
「しかし・・・」
全員が一斉に険しい顔になる。
「いいにくい事ですが、明日をむかえられるかどうか」
「・・・・・」
誰も言葉を発せない。そんな勇気が出ない。
「双葉さんは、今までにない病気にかかっています」
「それって・・・」
「医学界に今までなかった病気です。」
「・・・・・・・」
「私達にはどうしようもありません」
「・・・・・・・」
何も言えない。出てくるのは言葉じゃなくて涙。
双葉があと一週間。そんなはずはないだろ。
必死に否定しても、涙が止まらなかった。
医者が嘘と言うのを心のどこかで期待していた。
でも、そんな事ないのは分かってた。
だから涙は止まらなかった。
手術が終わって、双葉は目を覚ました。
時間はちょうど8時ごろだった。
今は部屋でおばさんとおじさんが話していた。
20分ほどして二人が出てきた。
「優ちゃん。双葉が話したいって」
俺は部屋に入った。
そこには横たわったままこっちに笑顔を見せる双葉がいた。
俺は涙を堪えるのに必死だった。