第十八話 スペリオル第一部(前編)
「ミーティアを始めとした『魔道学会の魔道士たち』は、竜王アッシュに加勢するため、『神の聖地』のひとつである『竜の谷』を目指して進軍。その地で、『高位魔族』の火将軍と戦うことになった」
そう説明を再開した僕に、フィアリスが問いを浴びせてきた。
「その間、火竜王はどうしておった?」
「火竜王は竜王が食いとめる形になってるよ。手下である中級魔族たちは、リースリットたち三人と、魔道学会の魔道士たちがなんとかしたし」
そこに割り込んでくる力也の声。
「ほお。つーことは、ミーティアたちは火将軍と真っ正面から勝負って感じになるのか?」
「うん。そして彼女たちはその戦いに勝利し、火将軍を滅ぼすことに成功する。それだけで魔族は劣勢に立たされた。おまけにそこに――」
「界王の端末のひとつ、ニーナ・ナイトメアが現れた、じゃろう?」
「……本当、よく把握してるね、フィアリス。……そう、そのとおり。『スペリオル』においての、ニーナ初登場の場面だよ。ここでようやく、ニーネとニーナがイコールの存在ではないっていうことが、読者に確かな形で示されたんだ」
「そんなことはどうでもよい。わしの記憶のとおりなら、界王の端末が二体揃っていては敵わぬと、火竜王は撤退を選んでおる。……相違ないか?」
「うん、ちゃんと合ってるよ。――そのあと、ミーティアは『火竜王の軍団を退けた』ことで竜王に認められ、『聖竜の宝石』をもらうことになる。それで、めでたしめでたし」
「実際は、『高位魔族』を一体倒しただけじゃがな。根本的な解決には、ほど遠い」
「それはまあ、そうなんだけどね……」
あまりにあんまりなフィアリスの言葉に、僕は苦笑を返すことしかできなかった。
不満の声をあげたのは力也だ。
「いいじゃねえかよ。一回の戦いで倒せる幹部は一体だけ。少しずつ、確実に数を減らしていく。これだって王道だぜ?」
「だよね。なにより、とりあえずの解決にはなったんだから。――そのあと、リースリットたちはシュヴァルツラント領にある実家に戻り、ミーティアたちは『刻の扉』でケレサス・シティへと戻ることにする」
「やっと旅が再開できるってわけだな」
「うん。でもファルカスが、ガルス帝国には絶対に戻りたくないって言いだしてね。サーラを伴って、再びミーティアたちと別行動をとっちゃうんだ」
「おいおいおいおい!」
思わず、といった感じで身を乗りだしてくる力也。
僕はフィアリスにしたときと同じように苦笑を浮かべて、
「仕方がないんだよ。ファルカスは家出同然にガルス帝国の首都から飛びだしてきちゃってるからさ。ミーティアたちもそう割りきって、四人でケレサス・シティに戻ることにしたんだ」
「四人っつーと、ミーティアとアスロック、ドローア、それとニーネか?」
「うん、そう。基本、パーティーのメインメンバーはこの四人で固定といっていいだろうね。そして、ようやくミーティアたちは当初の目的地であるガルス帝国の首都、ガルス・シティに辿りつく。アスロックとファルカスが生まれ育った地に、ね」
「つーことは、あれか? ここでアスロックはパーティーから離脱しちまうのか?」
「普通なら、そうなるんだろうね。ミーティアたちは三人で旅を再開して、『宝石』を手に入れるために、ガルス帝国に存在する『神の聖地』を目指す、というふうに」
「その口ぶりからすると、そうはならなかったわけだな?」
「うん。ここまで一緒に来てくれたことへの恩返しって理由で、アスロックは引き続き旅についていくことを申し出てくれるんだ。傭兵だからね、ミーティアたちの護衛っていう名目で」
なんせ、アスロックは極度の方向音痴。
第一巻『希望の目覚め』の最初のほうでは、スペリオル・シティまで辿りつくのに、普通なら一年で到着できるところを約三年かかったと彼の口から語られているのだ。
帰りもひとりでガルス・シティまで旅をさせようものなら、一体何年かかったことやら。
「そして、旅立ちの前日。ミーティアたちはシルフィードと名乗る女性の僧侶に、とある依頼をされることになる」
「僧侶か。サーラが抜けたから、その穴埋めにって感じだな」
「そんな単純な理由で抜擢されたわけでもないんだけどね。実際、ミーティアは第一巻で彼女の姿を見かけていて、同一人物なんじゃないかって訝しんでいるし。……まあ、それはいまは置いておこうか。
シルフィードの依頼の内容はね、『神の聖地』のひとつである『霊山』に行くミーティアたちに同行させてほしい、というものだった」
「それだけか? 簡単っつーか、ずいぶんと手間のかからない依頼だな」
「シルフィードにも、それなりの事情があるんだよ。『霊山』には『魔獣』っていう、『高位魔族』と同等くらいの力を持つ存在も生息しているし」
「『魔獣』? モンスターみたいなもんか?」
当然の疑問に、僕は首を横に振る。
「ううん、モンスターはもっと弱い存在だよ。この世界では『魔界獣』って呼ばれることもあるね。
で、『魔獣』っていうのはモンスターよりも遥かに強くてね。かつてリューシャー大陸にいた『聖獣』と対を成す存在なんだ。だから『魔獣』は大陸に一匹しかいない。
ちなみに『聖獣』リューシャーのほうは、ミーティアたちが旅を始める遥か昔に、魔族によって滅ぼされちゃってるんだ。このあたりのことは、『ロスト・スペリオル』のほうで言及されることになるね」
「色々あるんだな……」
「あー……、まあ、『魔獣』はモンスターよりもずっと強い存在なんだってことだけを憶えておいてくれれば、それで充分だよ」
「オーケー。それなら憶えていられるぜ」
安堵したようにこぼす力也に、少しばかりの疲労感を覚えながら僕は続けた。
「ともあれ、ミーティアたち四人は、シルフィードを仲間に加えて『霊山』を目指すことにした。そして、そこで神族四天王の一柱、霊王アキシオンと面会することになるんだ。……霊王は、魔族の力を借りて発動させる魔界術に偏見を持っていてね。このとき、ミーティアとそのことで口論になるんだ。『魔界術を行使する存在は悪なのか否か』って」
「どっちでもよくね? そんなん」
「そういうことにこだわるのが霊王なんだよ。実際、ミーティアは魔界術で危うく世界を滅ぼしかけてもいるし……」
「……あれ? そんなことやったっけか? 記憶にねえぞ?」
「ああ、それをやっちゃうのは第一巻でのことだから。そうと判明するのは、二巻でになるけど。……で、その口論がどう決着したかだけど、結局、ミーティアたちは人間で、神族四天王である霊王は神さま。『宝石』を授ける者と受けとる者という関係性が崩れない以上、ミーティアのほうが折れるしかないわけで」
と、そこでフィアリスが「ふん、しょせんは第五階層存在のくせに、なにを偉そうなことやっておるかの、霊王のやつは」なんてぼやいていたけど、意味がよくわからなかったこともあり、僕は力也相手に話を先に進めることにした。
「そして、ミーティアたちは霊王に認めてもらうため、彼に『魔獣』退治を請け負わされることになるんだ」
「『高位魔族』ってのと同じくらいの強さなんだっけか? 『魔獣』ってのは。なら、勝てない相手じゃねえな。ミーティアたちは『高位魔族』をこれまでに二体倒してきてんだから」
「もっとも、そのどちらのときにも、ファルカスとサーラがいてくれたわけなんだけどね。特に、サーラの回復呪文があるとないとじゃ大違いだし」
「だからこそ、シルフィードってのが仲間になってんだろ?」
「うん、まあ、そうなんだけどね……。けれどこの戦いの最中、『魔獣』に加勢するように『魔王の翼』の火竜王サラマンと海王ウンディネスが姿を現すんだ。ミーティアたちはそれになんとか対抗しようとするんだけど……」
「勝てっこねえ、んだろうな……」
「うん、どう逆立ちしたって敵うわけない。界王の端末であるニーネ・ナイトメアは、なぜか傍観モードに入っていたしね。……もともと、気まぐれな性格をしているから」
「おいおい……。じゃあ、打つ手なしってことか?」
「ううん、その窮地をシルフィードが救ってくれたんだ。旅の僧侶というのは偽りでね、彼女の正体は魔風神官という『高位魔族』だったんだよ。ちなみにシルフィードは、『魔王の翼』の一翼である魔風王シルフェスの部下ね?」
「それ、別に隠しておく必要なかったんじゃね?」
呆れたような表情を浮かべる力也に、僕は「いやいや」と首を横に振り、
「魔族だって知れば、ミーティアたちは警戒しちゃうでしょ。シルフィードからしてみれば、要らない誤解だって受けかねない。でも、火竜王と海王は彼女のことを知っていたからね。明かさざるを得なくなっちゃったんだ。……人間には到底出せない威力の術を、シルフィードが使っちゃったっていうのもあったしね」
「なるほどな……。でもシルフィードは、しょせん『高位魔族』でしかねえだろ? 『魔王の翼』二体を相手に戦うのは、いくらなんでもキツいんじゃねえか?」
「うん。だからそのあとは、『魔王の翼』が現れたんだから、とミーティアが霊王に協力を要請。おまけにニーネも手助けしてくれて、『魔獣』を倒すことに成功する」
「『魔王の翼』のやつらは?」
彼の問いに、肩をすくめて答える僕。
「『妖かしの森』や『竜の谷』のとき同様、形勢不利を悟って退散しちゃった」
「なんか、根性のねえやつらだな~。強えんだろ?」
「慢心してないってことなんだと思うよ? それに魔族って、本来は手を組んで戦ったりなんてしないしね」
「そんなもんか。どうであれ、このあとは『宝石』をもらって、めでたしめでたしってか?」
「それが、そうあっさりは終わらないんだよ、これが。『魔獣』を倒すことはできたし、しぶる霊王から『霊明の宝石』を得ることもできたんだけどね、さっきの戦いの最中、アスロックが『魔獣』の吐いた毒液を浴びてしまっていたんだ。
この毒はね、これといった自覚症状はないんだけど、だからこそ身体にどのくらい毒が回っているかわからず、いつ命を落とすかわかったものじゃない、という非常に厄介極まりないものなんだ」
「……つまり、どういうことなんだ?」
僕はちょっと考えてから、
「えっと、いつ爆発するかわからない爆弾をとりつけられてしまった、とでも表現すればわかるかな?」
「そ、それは怖えな……。つーかよ、『魔獣』って世界に一匹しかいねえんだろ? なのによく、その毒の効果がわかったな」
「ああ、それはニーネが知っていたんだよ。仮にも界王――『天上存在』の端末だからね。でも、あとどのくらいの時間が残されているのかは、依然として不明なまま。サーラがいてくれれば、あるいはすぐに解毒できたのかもしれないけど、彼女はいま、どこを旅しているのかわからないから、連絡なんてとれるはずもなくて」
「おいおい、マジでヤバいじゃねえか。穴埋めで入った僧侶にはなんとかできねえのかよ」
「それがね、途方に暮れそうになる面々に解決策を教えてくれたのは、他でもない彼女だったんだよ」
僕の言葉に、力也はパンと手を打ち鳴らす。
「さっすが『高位魔族』! 頼りになるじゃねえか! ……って、待てよ? そういえば、どうしてシルフィードはミーティアたちに味方してんだ? 魔族なんだろ? 人間の敵なんだろ?」
「大丈夫。そのあたりの事情は、もう少しあとでちゃんと語られるから。……シルフィードが示したのはね、ガルス帝国の南に位置する町に住んでいる、とある魔法医の存在だった。サーラと同等か、あるいはそれ以上の腕を持つ闇医者。その人物に、アスロックを診せてみたらどうかってね」
「それで、ミーティアたちは南に向かうことにするってわけか。反対する理由なんて、これっぽっちもねえもんな」
「うん。シルフィードをパーティーに加えたままで、一行はガルス・シティの南にあるラクト・タウンへと向かうことになった。……でも、ここで次なる問題が。道中で次々と中級の魔族に襲われるんだ」
「火竜王と海王の手下たちじゃな」
先回って口にしたのは、フィアリスだった。
僕はそれにうなずいて、
「そう。でも感じからして、狙われているのはミーティアだけのようだった。そこで彼女は、ドローアのみを護衛につけて、アスロックを先行させることにする」
「つーことは、理緒。ここからはミーティアとニーネ、シルフィードの三人旅になるってわけか?」
「だね。当然、魔族たちは変わらず襲ってくるわけだけど、戦力的にはこれでも充分。だって界王の端末であるニーネと、『高位魔族』のシルフィードがいるんだから」
「……むしろ、先行したアスロックとドローアのほうが心配じゃね?」
「うん、それは僕も思ったよ。でも、その懸念は杞憂に終わるんだ。そしてこの道中でようやく、シルフィードがミーティアに味方し、自分より上位の存在である『魔王の翼』たちと戦ったのかが明かされる。端的に言ってしまうとね、シルフィードは魔風王から命令されて、ミーティアの護衛をすることになっていたんだ」
「護衛? 魔族が? 敵であるはずの人間を?」
「力也、クエスチョンマーク出すぎだよ。まあ、気持ちはわからなくもないけどさ。――そもそもね、『高位魔族』が『主』として認めているのは、自らを創りだした存在である『魔王の翼』の一翼と、それを生みだした漆黒の王だけなんだ」
「自らを創りだした『魔王の翼』……。シルフィードの場合は、魔風王ってやつになるのか?」
「そうなるね。で、ミーティアたちは第一巻『希望の目覚め』で、異世界から召喚されてしまった――というか、呼び戻されてしまった漆黒の王の『一部』を倒していて、おまけにそのあとも地闘士に火将軍と滅ぼしてきちゃったわけなんだけど、そのことが原因になってね、『魔王の翼』たちの間で、今後の方針について意見が分かれちゃったんだ」
このあたり、魔族のほうも一応は『組織』なんだなあ、と思ってしまう。
「よく、わからねえな……。要するに、ミーティアは魔族に目をつけられたってことなんだろ? なんで意見が分かれるんだ?」
「ミーティアは各国の『神の聖地』を訪れ、『宝石』を手に入れてるでしょ? 下手に手をだしたら、いまは静観を決め込んでる光の戦士ゲイル・ザインや神族四天王が動きだすかもしれないじゃない。
現在の魔族の最優先事項は『異世界に飛ばされた漆黒の王を、完全な形で蒼き惑星に召喚すること』だからね。それを達成する前に、いまはまだ不完全な状態の聖蒼の王スペリオルが完全復活しちゃったり、神族四天王とゲイル・ザインが力を合わせて『高位魔族』を各個撃破するなんて展開になっちゃったら、目も当てられないわけで」
「つまり、神族四天王とかを変に刺激しねえよう、ミーティアのことは放置しようって言いだした魔族がいたってことか?」
「そういうこと。ミーティアの抹殺を唱えているのは火竜王と海王、時を待つべきと訴えているのは地界王と魔風王、というふうにね」
「なるほど。自分の『高位魔族』を倒されてねえやつらは、冷静でいられたってわけか」
「違うよ、力也。海王の部下である海魔道士は健在だし、逆に地闘士は滅ぼされてる」
「あれ? そうだったっけか? 一度ざっと聞いただけじゃ、やっぱり頭にはあまり残らねえもんだな……。けど、あれだな。じゃあかなり冷静なやつなんだな、地界王ってのは」
「というか、一応はみんな冷静なんだよ。神族四天王やゲイルが動きださなくても、『高位魔族』が人間に倒されることはあると実証されたじゃないかっていう火竜王の主張も、間違ってはいないわけだし」
「実際、魔族のほうからしてみりゃあ、ミーティアたちを生かしておくのは危険すぎるもんな」
「でも、もっと危険な神族四天王が動いちゃったらどうするんだっていうのも、正しいわけで」
「なんてったって四天王だからな! 強いに決まってらあな!」
四天王という単語を口にすると、力也のテンションはグンと上がるなあ……。
「そんなわけで、火竜王と海王は積極的にミーティアを狙ってくるようになり、『魔王の完全復活』を待つ地界王と魔風王は、そんな火竜王と海王の襲撃を防ぐという構図になった。まあ、表立ってミーティアの護衛をしているのは、いまのところシルフィードだけなんだけど。
そうそう、このあたりの会話で、第一巻の事件のときに、シルフィードがスペリオル聖王国で暗躍していたことが判明するんだよね。『緑髪の少女が~』とか、『緑髪の女性が~』とかいうやつ」
「第一巻の事件?」
「まあ、そのあたりのことは、力也が自分で読んで確かめてみて」
「お、おう。頑張るぜ……」
「――さて。アスロックとドローアをラクト・タウンへと先行させ、ミーティアたちもそのあとを追うように南下していく。当然、道中では何度となく中級魔族に襲われるわけだけど、ニーネとシルフィードの助けもあり、彼女はこれを難なく……とまではいかないけど撃退していく。
でもミーティアは人間だからね、肉体的にも精神的にも疲れは溜まってくるわけで。そこを狙って、『魔王の翼』の二体は決着をつけにきた。ラクト・タウンまであと少し、というところでね」
言うまでもないことだけど、この時点ですでに、先行したアスロックは町に辿りついている。
「この戦いばかりは、ニーネとシルフィードの助けがあるとはいっても、さすがに苦戦することになるんだ。でもそこに、アスロックを町に残してきたドローアが駆けつけてくれる」
「それで、ついに『魔王の翼』を倒すことができたのか?」
「ううん、火竜王に深手を負わせることはできたんだけどね、またしても退けるだけで終わっちゃった。まあ、上出来っていえばそのとおりなんだけど」
「いや、オレとしてはそろそろ、一体くらいは倒しちまってほしいところなんだが……。つーかよ、ドローアが加わったくらいで、よく撃退できたもんだな。人間なんだろ? ミーティアと同じで」
「あー、それは当然の疑問かもしれないね。このとき、ドローアが『真理体得者』として覚醒するんだよ」
「『真理体得者』? 覚醒?」
「あ、そっか。そこから説明する必要があるのか。……えっとね、『真理体得者』っていうのは、一言で言ってしまえば『本質の柱』に到達した者のことなんだけど……さすがに、これじゃわからないよね?」
「おう、さっぱりだぜ! ……いや、待てよ? 一周回って――」
「わかるようになるはずがないから。……とりあえず、神さまになる一歩手前の人間とでも憶えてもらえれば」
「神さまになる一歩手前、ねえ……。それになっちまったのか、ドローアは」
「正確には、第一巻の時点で目覚めてはいたんだよ。力を自由に使うことはできなかったけど。あとここで、界王が魔族ではないことも明らかになった。『天上存在』って固有名詞が、ようやく読者に提示されるわけだね」
それがあとあと、紆余曲折あって界王の弱体化に繋がっていくわけなのだけれど、まあ、そのことはいまは置いておくとしよう。
「ミーティアたちは、完治したアスロックとラクト・タウンで再会。魔風王のところに戻るというシルフィードと別れて、三度、ガルス・シティへと向かうことにした」
「これにて一件落着、か?」
「うん。ちなみに次の巻――第六巻『闇の暗殺者』では、視点が移ってファルカスが主人公になるんだ」
「まだあるのかよ、おい……」
「とりあえず、『スペリオル』の第一部は第七巻で終わりだよ?」
「もし読むことになってたら、オレは死んでたろうな……」
「ああ、かもねえ……」
しみじみとつぶやきあう僕と力也。
かいつまんで彼に説明する機会が得られて、本当によかった。
そこにフィアリスが、「――して」と割り込んできた。
「ファルカスとサーラ、そしてニーナ・ナイトメアは、スペリオル共和国に入国しておったんじゃったか?」
「うん。スペリオル・シティで、ドローアのお父さんと会うことになるんだよ」
そこで何日かは平穏な日々を送るファルカスたち。
けれど、ライトノベルにおいて、そんな毎日が長く続くはずもなくて。
「ある日、ファルカスは謎の暗殺者の襲撃を受けることになる。なんとか撃退はできたんだけど、取り逃がしちゃってね。ドローアのお父さんに迷惑をかけるのも嫌だからって、ファルカスたちはスペリオル・シティを発つことにするんだ」
「向かった先は、南にあるユニオン・シティじゃったか? そこで再び、その暗殺者と相見えることになる」
「だね。しかもユニオン・シティで戦うことになったときには、暗殺者の隣に、海魔道士の姿があった」
「おっ、出たな! 『高位魔族』! でも、どうして暗殺者――人間と協力してやがるんだ? 海魔道士は」
「協力関係っていうのとはちょっと違うんだよ、これは。暗殺者は海魔道士と契約していてね、それによってファルカスたちと互角以上にやりあえる力を得たんだ。しかもその暗殺者は、ファルカスたちと浅からぬ因縁があってね」
「因縁?」
「うん。海魔道士に力を与えられた暗殺者の名前はね……クラフェル。ファルカスは『ザ・スペリオル』の第一巻『夜明けの大地』で、『暗闇の牙』っていう裏組織に身をおいていたんだ。クラフェルはそこでの上司っていうか、同僚っていうか、そういう存在。おまけに、ファルカスにとっては憎い仇でもあった」
そのあたりは、『ザ・スペリオル』の第一巻で語られているわけなのだけれど。
「激闘の末にファルカスたちはクラフェルを倒し、海魔道士を滅ぼす。これで、残る高位魔族は魔風神官のみとなった」
「もっとも、クラフェルに関しては『倒した』だけで、またしても取り逃がしてしもうたがの。いや、そもそも『魔王の翼』は一翼たりとも滅ぼせておらぬではないか。その上には暗黒の戦士デューク・ストライドと、漆黒の王の本体がいるというに……」
……言われてみれば。
フィアリスの言うとおり、状況は全然よくなっていないような気がしてきた。
しかし、それをなんと力也が否定する。
「でもよ、クラフェルってのと契約していた魔族は滅びたわけだし、神さまのほうなんて全員が生きてんだろ? こっちの勝利は見えてきたってなもんじゃねえか」
「じゃが、この時点においても、肝心の聖蒼の王は不完全な状態にあるではないか」
「そ、そうだったっけか? 理緒」
「まあ、確かにそのとおりだけどね……」
頬を掻く僕に、フィアリスはさらに言葉を被せてくる。
「そもそも、海魔道士が滅びた直後から、スペリオル共和国で『とある噂』が流れ始めたはずじゃが?」
「ああ、魔王――漆黒の王が間もなく完全な形で召喚されるっていうやつだね。海王が人間に化けて流した噂」
そう。その噂は、遠くガルス帝国まで届き。
それを耳にしたミーティアたちは、第七巻で、ついにスペリオル共和国へと帰還することになるのだ――。
一見すると長いようですが、実は今回、一万字いってません。
最初にそれを知ったときは、正直驚きましたよ……!
だって、明らかに長いんですもん。会話文主体の小説、恐るべし!
あと、今回から『章管理』の機能を使うことにしてみました。
まだ実験段階なので、章タイトルはコロコロ変わるかも……?




