第十五話 あなたのための物語
ここからしばらくは、完膚なきまでの自己満足回です。
読み進めるのは苦痛かもしれませんが、しばしおつきあいいただければ幸いです。
四号室の扉を、僕ではなくフィアリスが開ける。
よほど急いているらしく、彼女の赤い目は忙しく左右に動き、僕の部屋中を見回していた。
僕は後ろ手に扉を閉め、本棚の一角へと向かいながらフィアリスに声をかける。
「フィアリス、『スペリオルシリーズ』は、こっちの本棚にひとまとめにしてあるよ」
というか誰だって、小説はシリーズごとに、そして著者名ごとに並べるだろう。もちろん、買ってきたばかりのものは床に置きっぱなしにしてしまうこともあるけれど。
「ほら、ここから……ここまで」
「……多いな。一体、何冊あるんじゃ?」
「ええと……『ザ・スペリオル』が全五巻で、『スペリオル』は第一部が七巻構成の、第二部が五巻構成だから……全十二巻。最近になってようやく完結した『ロスト・スペリオル』が全五巻だから……。……うん、既刊は全部で二十二冊になるね」
「多すぎるわっ! 一息に読める量ではないぞっ!?」
「そんなこと、僕に言われても……」
僕に怒るのは筋違いだということくらい、フィアリスにもわかっているのだろう。
ひとつ嘆息し、彼女は床に敷いてある座布団の上に腰を下ろした。
「まあ、大まかな流れはわしも識っておるしの。確認程度に、お主の口から内容を聞かせてもらえばそれでよい、か」
「え? フィアリス、このシリーズを読んだことがあるの? とてもそうは見えな――」
「読んだことはない。そも、その存在自体、わしもいま初めて知ったからの。じゃが、識ってはおる。というより、識らぬはずがない。……むろん、わしの記憶にあるものと、その本に書かれている内容とが、まったく同じであるのなら、という但し書きが頭につくがの」
正直、彼女の言いたいことは、僕にはさっぱりだった。
それでも、いつになく真剣な表情のフィアリスに半ば気圧されて、僕も座布団を敷いてから、彼女の対面に座ることに。
「それで、どのあたりから説明しようか? やっぱり、この『スペリオル』の第一巻、『希望の目覚め』から?」
だとすると、なんとも長くなりそうだなあ。
しかし、彼女は首を横に振り、
「いや、微に入り細を穿つような説明は要らぬ。わしの知識や認識とズレがないかを確認する程度でよい。……ズレがあった場合は、その限りではないがな」
「了解。といっても僕には、フィアリスがこのシリーズについてどのくらい知っているのかが、全然わからないんだけど?」
「ふむ、確かにそれはそうじゃな。ならば、わしから質問させてもらうとするか。まずは……やはり、その本には何時の出来事が記されておるのか、じゃな」
「いつって……西暦とか、そういう意味だよね? それなら蒼き惑星歴1902年の出来事ってことになるけど。ちょうど1902年を迎えたその日に、主役のひとりである青年――アスロックがスペリオル聖王国を訪れてるから。あ、それが第一巻のプロローグ部分にあたるね」
僕のその返答に、フィアリスは少しだけ苦い表情になって、
「1902年か。魔族どもが表立って動き出したのが、ちょうどその年からじゃったな。聖蒼の剣が人間の手に渡り、『真理体得者』のひとりが不完全ながらも目覚め、魔王――漆黒の王ダーク・リッパーが復活して倒され、スペリオル聖王国が共和国に変わり……なにより、ミーティアが旅に出たのがその年じゃった」
「うん、そうだね。……やっぱり、読んだことあるんでしょ? フィアリス」
「じゃから、ないと言うておろうに。……続けるぞ? 『聖蒼の王の力の一部』であることを自覚したミーティアは、アスロックとドローア、そしてセレナと共に旅に出た。目的は、リューシャー大陸に存在する四つの『神の聖地』を巡ることじゃったな。そう、大陸の各地に住まう神族四天王に認められるために」
……うん? ちょっと待った。
「それは違うよ、フィアリス。ミーティアが旅に出た理由は『世界を自分の目で見て、見識を広めるため』と『方向音痴なアスロックを故郷――ガルス帝国の首都まで無事に送り届けるため』、そして『この世界のすべての事柄が記されている書物――『聖本』の解読に必要な、水と風、そして闇の『解読書』を見つけだすため』であって、『神の聖地』や神族四天王のことは一切絡んでこないよ?」
僕のその言葉に、フィアリスは眉をぴくりと跳ね上げて、
「なんじゃと? 世界を自分の目で見て? 『聖本』の解読? ……なるほど、そういうことじゃったか。すまぬな、どうやら『七回目』の蒼き惑星のことと勘違いしておったようじゃ。……そうか、その本に記されておるのは、『六回目』での出来事じゃったか」
「なにさ、その『七回目』とか『六回目』とかいうのは?」
いきなりわけのわからない言葉が出てきたものだから、オウム返しに尋ねてみると、
「む? 『回数世界』のことは、その本に載っておらぬのか? 『階層世界』と合わせて、世界の『核』となる部分であろうに」
もっとわけのわからない答えが返ってきた。
頭の上に疑問符をいくつも浮かべ、僕は問いを重ねる。
「載ってない載ってない。というか、その『回数世界』とか『階層世界』とかってなんなの?」
けれど、それに対する返答はなかった。
「そうか。……誰の仕業かはわからぬが、敢えて伏したということか。しかし、なぜ……?」
どうやら彼女の頭の中にも、僕のそれとは違う疑問が渦巻いているようだ。
事実、うつむき加減になって、ぶつぶつと「なぜ、蒼き惑星のことを明らかにしておきながら、階層世界のことには触れられておらぬのじゃ……?」なんてつぶやいている。
と、それを打ち切るように、ちょっと乱暴な感じのノックの音がした。
「――入るぜ」
僕やフィアリスの返事を待つことなく、扉が開く。
入ってきたのは力也だった。
彼を見てフィアリスは眉をひそめ、
「……なぜ、こちらに来たのじゃ? 力也。劇の練習とやらはどうした?」
「オレは演じる側の人間じゃねえんだよ。それに、あそこにいてもどうせ暇だし。なら、理緒から例の本でも借りて読んどくかって思ってな」
なるほど。それは確かにベストな選択だ。
それに、いまはフィアリスと『スペリオルシリーズ』について話していたところでもある。
この先のこともかいつまんで話すことになるのだろうから、力也にも混じってもらったほうが、ずっと効率がいいはずだ。
そう思い、僕は彼に座布団を勧めて、
「いま、フィアリスと『スペリオルシリーズ』のことを話していたところだったんだよ。力也、『スペリオル』の第一巻はあとで貸すから、大まかなところはここで聞いていかない?」
力也は座布団を受けとると、それの上に腰を下ろし、ニカッと笑顔を向けてくる。
「わかりやすく説明してくれるってのか? そりゃ助かるぜ。正直、読んだあとに熱だして寝込むことになるんじゃねえかって、内心ヒヤヒヤしてたからな」
「うん、でも第一巻は自分で読むんだからね?」
「まあ、一冊くらいなら平気だろうよ、たぶん。……いや、おそらく。……きっと」
「力也、本当に大丈夫なの?」
「あー、まあ、なんだ……。読んだあとのオレ、ちゃんとピンピンしてるといいな……?」
「本当にね……」
思わず嘆息してしまう。
グダグダといつもどおりの会話をしている僕と力也に焦れたのだろうか、フィアリスが少し苛立った声をあげた。
「そのくらいでよかろう。――どうであれ、ミーティアたち四人は旅立った。最初に向かったのは、フロート公国に存在するラット・シティ。それに違いはないな?」
「あ、うん。第二巻の最初のところだね」
僕は彼女にうなずいたのだけれど、そこで早くも力也が首を傾げて、
「なあ、話の腰を折っちまって悪りいんだけどよ。そのミーティアってのはなんなんだ?」
「そこから説明しなきゃダメなんだ!? 一応、部活動のときにも話には出てたよね!?」
「あんなん、右の耳から左の耳に抜けちまうに決まってるじゃねえか。そもそも、あのとき説明されてたのはあすかだったろ?」
「力也も聞いてくれていると思ってたんだよ……。まあ、いいや。いま改めて教えればいいことだしね。
えっとね、ミーティアっていうのは『スペリオル』の主人公のことだよ。年齢は第一巻の時点では十五歳。もともとはスペリオル聖王国っていう国の第二王女だったんだけどね、スペリオル聖王国が共和国に変わっちゃって、王位継承権も失っちゃうんだ。まあ、民衆からの支持は厚いほうだったから、協和国制に移行しても、引き続き国をまとめる立場でもいられたんだろうけどね。……彼女さえ、その気になっていれば」
だからなのか、作中でミーティアは『スペリオル共和国の第二王女』とちょくちょく呼ばれたりもするし。
「難しいことはよくわからねえが、要するにミーティアってのが、『スペリオル』って物語の主人公なんだな?」
「その一言で流されると、僕としてはちょっと悲しいものがあるね……。でもまあ、そういうこと。
ついでに言っておくと、一緒に旅立ったアスロックは、ガルス帝国出身の方向音痴な傭兵の青年で、ドローアはミーティアより二つ年上の、ミーティアの臣下であり、幼い頃からの親友でもある女魔道士。セレナは巫女のエルフで、ミーティアの血の繋がらない姉だね。年齢は一応、十九歳」
「ふむふむ、ガルス帝国の傭兵であるアスロックに、主人公の親友であるドローア、そして主人公の姉であるエルフのセレナか。……なあ、なんで『一応』なんてつけたんだ? セレナってやつの年齢」
「ああ、記憶喪失なんだよ、セレナは」
「記憶喪失だあ?」
「そんな訝しげな声をださなくても……。えっとね、六歳になるまでの記憶がまったくないんだよ、セレナには。リバティニアっていう薬草を過去に使われたせいで。だから彼女の精神年齢は大体、十三歳くらい。ミーティアよりも年下だとすらいえるんだ」
その捕捉に、力也は軽く腕を組み、
「ほう。そりゃ難儀な話だな。それで、ミーティアってやつの仲間は、その三人で全部か?」
「うん、いまのところは。第二巻から次々と増えるけど」
「……ふう、危ねえ。オレが読むのは一巻だけでよかったぜ」
「あ、ちなみにスペリオル共和国をまとめることになったのは、ドローアのお父さんだからね? ゼノヴァ・デベロップっていう人」
「なあ理緒、その情報はいまのオレに必要なものだったのか……?」
「ううん、全然」
「なら、なんで言ったんだよ……」
なんとなくからかってみたくなっただけ、と口にだしたら怒るかな?
まあ、それはともかく。
「そろそろ話を先に進めようか。じゃないと、またフィアリスが痺れを切らしそうだ。――ミーティアたちはスペリオル・シティから北上し、アイ・シティを経由してフロート公国に入る。国境のすぐ近くにある町がラット・シティ。力也、ここまではいい?」
「な、なんとか耐えられそうだ……」
なんか、すごいしかめっ面になっていた!
「ちょっとちょっと、まだ第二巻の冒頭だよ? まあ、耐えられるみたいだから続けるね? このラット・シティで、ミーティアたちは『高位魔族』である海魔道士と出会うことになる」
「『高位魔族』? なんか響きが格好いいじゃねえか! 燃えてきたぜぇぇぇぇぇっ!!」
「力也の判断基準って……。まあ、いいや。海魔道士はね、魔族でありながら、ミーティアたちに『神の聖地』のひとつである『妖かしの森』のことを教えてくれるんだ」
「『神の聖地』?」
きょとんと首を傾げる力也に、僕はがくんと肩を落としてしまう。
「それも部活動のとき、話に出てたんだけどなあ……」
「おいおい理緒さんよ、だからあんなん、右の耳から左の耳に抜けちま――」
「はいはい。わかったよ、僕が悪かった。部活動で話したっていうのは、今後言わないようにするから」
「おう、そうしてくれ」
「なんでそんな不敵な態度とってるのさ! 憶えてなかったのは力也のほうなんだよ!?」
「そう言われると辛えな……。わかった、態度を改めよう。……部活動でのことはなかったことにしてくれ! 頼む!」
「ちょっと土下座までしないでよ! ああもう、まったく……。いい? 『神の聖地』っていうのはね……」
そこまで言いかけて止まってしまった。
……『神の聖地』って、どう説明すればいいんだろう?
『神の聖地』は『神』の『聖地』だよ、くらいしか言いようがないような……?
と、そこに助け舟を出してくれたのはフィアリスだった。
「『神の聖地』というのはじゃな、一言でいってしまえば、神族四天王の各々が物質界に初めて降臨し、その後もなお留まり続けておる場所のことじゃ。むろん、魔族に侵入されぬよう、神族四天王がそれぞれに紡いだ結界も張られておる」
「四天王!? 熱いバトルの予感がするじゃねえか、その響き!」
「聞いておらぬな、こやつは……」
まあ、力也だからなあ……。
……うん、ほっといて話を先に進めよう。
「海魔道士と出会ったのは、とある食堂でのことだったんだけど、そこにはあの界王もいた。そして――」
「待て、理緒。まさかとは思うが、ミーティアたちの出会った界王とやら、『本体』だったりはせぬじゃろうな?」
彼女の問いかけに、僕は「そんなわけないじゃない」と肩をすくめてみせた。
だって、界王の本体は『天上存在』。漆黒の王よりも遥かに強い化け物なのだから。
「ミーティアたちが出会ったのは、界王ナイトメアの端末、ニーネ・ナイトメアっていう魔道士の少女だよ」
「端末? 界王? なんだそりゃ?」
「界王はね、この時点では『漆黒の王よりも遥かに強い、魔王の中の魔王』ってふうに扱われてるんだ。だから、とりあえずはそういう認識でいいよ? 端末っていうのは……『一部』っていえばわかりやすいかな。
あ、漆黒の王っていうのは、魔族たちを束ねる『魔王』のことね? この段階では、光の戦士ゲイル・ザインっていう神族によって、異世界に飛ばされているんだけど」
「……悪りい。説明してもらったってのに、さっぱりわからねえ」
「えっと、とりあえずニーネのことは、界王本体よりも弱い『分身』ってふうに憶えてもらえれば、それでいいよ……」
「オーケー。それなら、なんとなくわかるぜ」
これでも『なんとなく』なのか……。
まあでも、光の戦士のこととかを持ちだして力也を混乱させてしまった僕にも落ち度はある……のかなあ?
「話を戻すね? 旅は道連れ、世は情け。海魔道士とニーネはミーティアたちの仲間に加わり、共に『妖かしの森』を目指すことになった」
捕捉するように、フィアリスがそのあとを継ぐ。
「その『妖かしの森』で、かつて幼なじみであったエルフと出会い、セレナはリバティニアによって失われていた記憶を取り戻すんじゃったな。あれの副作用である『記憶喪失』の実態は、『記憶の封印』であるからして」
「本当によく知ってるね、フィアリス……」
「なに、これくらいはどうということはない。――言っておくが、イリスフィールの『希術』によって封じられた記憶は、そう簡単に意識の表層には出てこぬぞ? リバティニアと違って、あれは強力じゃからな」
『希術』って……。それは、『スペリオルシリーズ』に出てくる『魔術とは力の源が異なる術式』のことだよね?
なんか彼女、創作と現実とを混同し始めているような?
あまりの真剣さに押されてしまっていたけれど、やっぱりフィアリスはフィアリスだったか……。
「まあ、そのことは置いておくとしよう。――のちに『聖戦士』となるファルカスとサーラにも、『妖かしの森』で出会うはずじゃったな。……む? そういえば、ファルカスとサーラの物語は、それに記されておらんのか?」
「ファルカスとサーラの物語? なんだそりゃ?」
首を傾げたのは力也のみ。
僕は「ああ」と得心して、
「主人公がファルカスで、ヒロインがサーラの物語は、主に『ザ・スペリオル』のほうで語られてるよ。『スペリオル』の前日譚的な位置づけの作品っていえるかな。……あ、そっちの話に移ったほうがいい? フィアリス」
「いや、まずはその本に記載されている物語が、わしの記憶と問題なく合致するかを確かめたい。というわけで、続きを頼むぞ」
この本に書かれていることが、まるで現実の世界にも起こったかのような物言い。しかも、その現場にフィアリス自身が居合わせていたかのような……。
まあ、電波な彼女が相手だからなあ。いちいち気にしてたら進まないか。
「じゃあ、続けるよ?」
「いや、ちょっと待った!」
「……なにさ? 力也」
「何度も話を中断させちまって悪りいがよ、ファルカスとサーラってのは誰のことなんだ?」
そういえば力也には、そのあたりのことを一切説明せずに進めてきちゃってたか。
話を振ってきていたのはフィアリスのほうだったから、つい彼のことを置いてきぼりにしてしまっていた。
「ファルカスっていうのは、アスロックの親友の青年のことでね、宝探し屋をやってるんだ。だから色々な魔法の品を持ってるんだけど、一番すごいものはやっぱり、かつて魔族のナンバーツーである漆黒の戦士が使ってたという伝説の魔剣、漆黒の剣っていう魔道武器かな。
あと、これは『ザ・スペリオル』第一巻での話になるんだけど、故郷であるガルス帝国を家出同然の形で出たときに、彼は王宮から『闇の解読書』を盗みだしてもいるんだ」
もっとも、『ザ・スペリオル』の作中には、『闇の解読書』という固有名詞なんて出てこないのだけれど。
僕の説明に、力也の中ではさらに疑問が増えてしまったらしく、
「なあ、その『闇の解読書』ってのは?」
「ああ、ミーティアの旅の目的にはね、『聖本』っていう『この世界のすべての事柄が書かれている書物』を解読するっていうのがあって。その『聖本』の解読に必要となるのが、世界に六種類存在する『解読書』なんだよ。
『光の書』と『土の書』はスペリオル聖王国に、『水の書』と『風の書』はフロート公国に、そして『火の書』と『闇の書』はガルス帝国にそれぞれあったんだけど、ファルカスが『闇の書』を盗みだしちゃったあたりから、均衡が崩れ始めたんだ。アスロックがガルス帝国の王さまに、『火の書』をスペリオル聖王国に届けるようにと命じられたり、ね。
そんな経緯があって、二巻開始の段階でミーティアは、光と土、そして火の『解読書』を手に入れてた。そして『妖かしの森』では、ファルカスから『闇の解読書』をもらうことに成功する」
「ふうん。とりあえず、すげえもんなんだな」
「うん、まあ力也だったら、そういう認識になるよね……。次に、サーラのことだけど。彼女はファルカスの旅の連れの少女。職業は僧侶で、ドローアに『通心波』っていう魔術を教えてあげたりもする」
ちなみに、僧侶という肩書きに似合わず、かなり強かったりもするのだけれど、それは余談か。
「そうそう、『妖かしの森』で出会うことになる人物は、もうひとりいるんだ。それは、かつてサーラの弟子だったという、ヴァルフ・ガンダルシアという名の青年。彼はサーラと一緒に旅をしてたファルカスに、やたらとつっかかるんだ。
あ、名前だけなら一応、ファルカスたちの旅の仲間だっていう『ニーナ』っていう少女のことも出てくるね。ニーネと瓜二つの外見をしているものだから、ファルカスたちがニーネを見て驚くことになるんだ。で、当のニーナ自身はこのとき、行方をくらませていてね。ニーネとニーナは同一人物なんじゃないかって憶測が飛び交ったりもした。
……っと、脱線したね。ともあれ、アスロックとセレナ、そしてサーラを除いた全員は、神族四天王の一柱である妖王ティランクルの開催した『魔道大会』に出場することになるんだけど――」
「魔道大会! 熱くなってきたな!!」
「うん、熱かったよ! すごく熱かった! ドローアとファルカスが戦ったり、ミーティアとヴァルフが戦ったり、ね! 準決勝ではミーティアとファルカスの対戦も描かれたんだ!!」
つい熱くなる僕たちに。
まるで冷水を浴びせるように、「ふん」とフィアリスが鼻を鳴らした。
「しかし、妖王か。あやつはあまり好かんな。迂遠な手段ばかり好むやつじゃ。大会を開いてミーティアたちを争わせたのとて、ミーティアが真に『妖かしの宝石』を渡すのに相応しい人物なのか、それを確かめるためだけに行ったことじゃったし」
「でも、物語としては盛りあがったじゃない」
反論する僕。
それに力也も同調してくれる。
「そうそう! 力と力、技と技とがぶつかりあう熱い戦い! 大会だったんだろ? なら別に争いってほど醜いもんにはならねえだろうよ。……それで、ミーティアとファルカス、決勝戦に進んだのはどっちだったんだ?」
「あー、それがね……」
「決着がつくまえに、魔族が乱入してきおったんじゃったな、確か」
「なにい!? それはあんまりじゃねえか!」
「でも、本当にそうなっちゃったんだよ。試合の最中にね、海魔道士の手引きで『魔王の翼』の一翼――海王ウンディネスが『妖かしの森』に乗り込んできちゃったんだよ」
「突然の襲撃。仲間だと思っていたやつの裏切りか。それはそれで燃えるんだがな……! ところで、『魔王の翼』ってのはなんだ?」
「一言で言っちゃえば、漆黒の王が創りだした四体の魔王のこと。もちろん正確な経緯を考えれば、『漆黒の王が創りだした』というのには語弊がありまくるんだけどね。まあ、そのあたりは『スペリオル』の第一巻、『希望の目覚め』を読んでみて」
「うへえ……」
「で、この世界――『蒼き惑星』ではね、『魔王』って言った場合は、この『魔王の翼』のことを指していることが多いんだ。なにせ、漆黒の王は異世界に飛ばされちゃってるわけだから。
まあ、そのことは別にいいか。――海魔道士は海王の直属の部下なんだけど、『魔王の翼』は全員、そういう『高位魔族』を一体ずつ創ってるんだ。そうそう、このとき海王と一緒に、別の『魔王の翼』――火竜王サラマンが直属の部下である『高位魔族』、火将軍と一緒にやってきてる。海王たちのバックアップのためにね」
ミーティアは、魔道大会の優勝賞品とされていた『妖かしの宝石』を、緊急時だからと妖王から受け取り、ニーネやファルカス、サーラとも力を合わせて、これを撃退する。
といっても、一時的に逃げ帰らせただけだったけれど。
「『宝石』にはね、持ち主の魔力を増幅する効果があるんだ。つまり、『神族四天王に認められた証』として以外にも集める価値があるってこと。そのことを知ったミーティアは、他の『神の聖地』も訪れ、神族四天王全員から『宝石』をもらい受ける必要があると思うようになる」
「魔族に対抗するために、か?」
「戦いのことになると察しがよくなるね、力也は。……でも、そういうこと。ミーティアにとっては、神族四天王すべてに認められることなんて『ついで』にすぎないわけだね。
でも、だからってファルカスたちがそれにつきあう義理はないわけで。二人は『妖かしの森』での事件が収束するやいなや、ミーティアたちに別れを告げて先に旅立っちゃった。残念なことにね」
「おいおい、そこは一緒に旅をするのが自然な流れってもんだろうよ」
「たぶん、読者の予想を裏切りたかったんだろうね。あるいは、期待を煽りたかったのかも。……そうそう、おまけに記憶を取り戻したセレナが『妖かしの森』に残ることにもなっちゃったんだ」
義理とはいえ、ミーティアの姉だったというのに。
僕からすれば、まさかのパーティー離脱だった。
「まあ、その代わりとばかりに、ニーネが正式に旅の仲間に加わったんだけど」
「つまりミーティアの旅の仲間は、変わらず三人ってわけか」
「そう。アスロックとドローア、そしてニーネの三人。――そうして、ミーティアたちは旅を再開。アスロックの故郷に向かうべく、フロート公国とガルス帝国の国境にもなっているケレサス・シティを目指すことになった。……もちろん、そんなあっさりとは辿りつけないわけだけどね」
さて、ここからは第三巻のエピソードだ。
いかがでしたでしょうか、とは敢えて訊きません。
この『フィアリス回』は、僕が『スペリオルシリーズ』を畳むために必要とした、読み手のことをまったく考えていない自己満足の塊なので。
サブタイトルにある『あなた』が指しているのも、表向きはフィアリスということにしてありますが、実際は作者である自分自身であったりします。
要するに、自分のためだけに書いた物語、ということです。
もちろん、それでも理緒の過去を明らかにするための伏線めいたものは入れてあります。
でも、なくてもいいものであることも事実なのです。
『フィアリス回』の次は『あすか回』を予定しています。
一ヶ月以上もお待たせしておきながら、お届けするのがこのような内容というのは、かなり心苦しくもあるのですが、これは(僕の中では)過去を過去にして、前へと進むために必要なパート。
このあとに控える『あすか回』を楽しみに、なんとか詠み進めていただければ、と思います。




