1日目 檜武人の廟 オマケ
オマケ → 崖を降りる時のアレコレ。
リアンカが崖を行き来する時の手段。
そして道の悪路振りを気にしないワケ。
さて、次の目的地目指して移動しましょーかね。
「…また、今度はあの崖を下るのか」
「大丈夫か、勇者殿」
「………転落、しないかな」
どうやら勇者様、崖を降りるにも不安がある様子。
午前中の崖登りの段階で、どうやら肉体酷使は限界に近いようですね。
今まで気付きませんでしたけど、まだ若干手足に痺れが残ってるようですよ。
わあ、大変。 ← 他人事
「リアンカよ」
「ん、なんですか? 副団長さん」
「勇者殿もお疲れの様だ。この調子で崖を降りるのは危険だろう」
「あー、注意力も低下してるみたいだし、確かに危険ですね」
「だからな、リアンカ」
「はい、副団長さん」
「お前、手伝ってやれ」
おっと、副団長さんから言い出すとは…。
ドクターストップならぬ副団長ストップがかかりましたよ。
これは、要請に素直にお答えすべきですかね。
「副団長殿!? 手伝いだなんて…」
「勇者殿、どうした。気が進まない様子だが、問題でも?」
「リアンカの様な乙女に、過酷なことはさせられないし、できないだろう」
「…ッ乙女(笑)」
「ちょっと副団長さん! 腹を抱えてマジ笑いしないでくださいよ!」
失礼な…。
私は17歳の、立派な乙女(笑)ですよ。
って、駄目だ。自分でも笑っちゃうや。
「気にする必要はないし、杞憂だ。勇者殿」
「何が? リアンカのようなか弱い女性に、男が頼るべきではないだろう」
「ああ、だからそう言う意味ではなくてだな?」
「勇者様、副団長さんはただ、私に勇者様と一緒に降りてやれってだけですよ?」
「いや、だから…」
「リアンカ」
「なんですか、副団長さん」
「見せてやれ。その方が話も早い」
「それもそうですね。仕方ないなー」
尚も渋り、言いつのる勇者様。
話をさくさく進める為に、私は首に掛かっていた鎖を引き上げます。
襟元から、服の下に隠れていたペンダントトップがお目見えです。
私が服の下にかけていた首飾り。
それは銀色の、小さな笛の形をしていた。
思いっきり息を吸い、口にくわえて。
私は力一杯、全力酷使で笛を音高らかに鳴らしました。
谷間に、山沿いに、崖の下に。
この見晴るかす、広大な景色に。
崖の上から音が響きます。
私の吹いた、笛の音が響きわたります。
特徴的な笛の音は、遠く魔王城まで届いた事でしょう。
いいえ、魔王城も越えて。
あの遙かに遠い、空の果てまで。
「…それで?」
「勇者様、せっかち」
「もうちょっと待て」
私が笛を鳴らしてから、10分くらいが過ぎました。
勇者様は笛を吹いた後も何も起きない現状にやきもきしてます。
でも、そろそろだと思うんですよねー。
そろそろ、来ますよ。
「…っ!?」
「あ、来た来た」
「ああ、久しぶりに見るな」
「副団長さん、滅多に此処でかち合わないもんね」
「な、な、ななななん、なんだアレ!?」
「勇者様、落ち着いて」
「落ち着け、勇者殿」
「いやだって、何あれ!?」
「「鳥」」
「それは見りゃわかるよ!!」
「鳥です」
「鳥だな」
「物の見事に鳥ですよ」
「ああ、どう見ても鳥だろう」
「だから、そう言う事じゃなくて…!」
ばっさばっさ。
ばっさばっさばっさばっさ。
羽音凄まじく、突風の様な風を巻き起こし。
逆巻き、渦巻き、身体を持って行かれそう。
「俺が言いたいのは! あの大きさはどういう事かってことだよ!!」
人間の身体を吹き飛ばしそうな羽ばたきの向こうに、現れたソレ。
鳥です。
ずばり鳥です。
誰が何と言おうと、どう見ようと鳥です。
ちょっと、外見…サイズがアレですけど。
「勇者様にご紹介します!」
「是非、そうしてくれ…もう、現実離れしたアレコレに驚き疲れた」
「…勇者殿、この位で疲れていては生きていけないぞ」
「不安を煽る様なことは言わないでくれないか!?」
「勇者様、紹介始めていい?」
「あ、ああ。頼む」
「ではこちら! うちの御先祖様が拾って育てた…」
「またか! また先祖ネタなのか!!」
「今日はそう言う日ですから。ええ、今日は御先祖を讃える日です」
「ネタが多すぎるぞ、フラン・アルディーク…」
「そうですよねー。あのネタの多さには、子孫として負けます」
「…いや、お前も大概だよ」
勇者様がげんなり疲れて何事か言ってますが、気にしません。
もう良いから続けてしまいましょ。
私は大きく大きな鳥さんに、力一杯抱きつきました。
やわらかー! 温かー! 気持ちいー!!
大人しく待っている、この鳥さん。
この鳥さんは、アルディーク家代々の使役鳥。
…とか、りっちゃんは言っていましたけれど。
そんな大層なもんじゃないですよ!
御先祖フランが育てた鳥さん。
その子孫で、代々笛の音で慣らした巨大鳥。
何て言ったかな、ロック怪鳥? なんかそんな名前の鳥。
これもこの、魔境特有特産の珍しい鳥だそーです。
「この鳥は御先祖の鳥の子孫、マリエッタちゃんです!」
ちなみにマリエッタちゃんは私とまぁちゃん、せっちゃんの共用です。
三人で生まれた時からせっせと面倒見てきました。
専用の鳥は、生まれた時から育てるのが私達のルールです。
私の笛の音で呼び出されたマリエッタちゃん。
その鳥は、あんぐり口を開けてしまいそうな程に大きい。
私達よりずっと大きく、見上げる大きさ。
全長どのくらいかは知りません。
でも私達3人+山の様な貢ぎ物…
もといお供え品を背中に搭載しても、余裕あるサイズなのは明らかです。
ええ、檜武人の廟を掃除に来る為、あるいは供え物を運ぶ為。
その為だけに代々仲良くしている鳥さんですから。
掃除だなんだで、檜武人の廟には頻繁に来ないといけません。
でも身体を鍛えてる訳でもない私その他には、来るのも難しい難所。
そこで移動&運搬の為、毎回私達は鳥さんに協力頂いているのです!
自慢じゃありませんが、私、自力でこの崖登ったことありませんよ。
崖登りの毎回に、お供頂いている鳥さんには頭も上がりませんね。
さあ、楽するぞー!
私と副団長さんがマリエッタちゃんの背に荷物を積みます。
そうやってせっせと準備を整えてる間。
勇者様はがっくりと膝をつき、絶望するかの様に項垂れていて。
ああ、常識崩壊寸前ですね。
よく見る光景です。
現実逃避に忙しく、鳥さんの存在を受け入れるのも大変そう。
そんな勇者様を置いてきぼりで、私達はマリエッタちゃんに構います。
私達を崖下に下ろした後、村まで荷物を運んで貰わないといけませんし。
これから働いてくれる鳥さんを、私達は精一杯労いました。
好物の果物、とっといて良かった!
可愛い可愛いマリエッタちゃん。
初めて見る大きすぎる鳥を前に、虚ろな勇者様。
彼がハッと我に返った時。
その時には既に崖も下り、マリエッタちゃんとは別れた後でした。
勇者様ってば。
いい加減、色々な物事を受け入れられるようになった方が良いですよー?
心の許容量増やしておかないと、やっていけませんからね。
今後を思い、ちょっとだけ勇者様の許容量が心配になる私でした。
初日『檜武人の廟』
第1の観光完了です!
次からは、まぁちゃん参入予定。
マリエッタちゃん → ビジュアルは某不死鳥