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料理の腕前

時間は5日目、光竜討伐の夜となります。

みんなの料理の腕前に関して。

 みんなで火を囲む、ほっと一息の着ける時間。

 リフォームされていた魔王家別邸は、みんなが躊躇いなく暴れ込んだので。

 ええ、無惨にも見る影なく、大破しておりました。

 お陰で大分隙間風も強いし、涼しいけれど。

 それでも夜露は充分しのげますから。

 私達は一夜、ここで夜を明かすことに致しました。

 明日の朝一で、竜の谷へと向かうことにして。


 家の中だって言うのに。

 そんな気を遣う必要も感じられないレベルなので。

 厨房が遠いという理由の元、私達は広間で焚き火をかましていました。

 1人、勇者様が微妙そうな、罪悪感一杯の顔をしています。

 お行儀のよろしい彼には、多分「室内で焚き火」という有り得ない事態が心苦しいのでしょう。

 ですが、甘いです。

 本来の所有者である魔王のまぁちゃん自身が、率先して焚き火に薪をくべています。

「はははっ 燃えろ燃えろ」

 それはそれは、ええ、本当にそれはもう。

 楽しそうに楽しそうに楽しそ~うに。

 火に、駄竜(ナシェレットさん)のコレクション(…)をくべていました。

 わあ、良く燃えるね…せっちゃんの肖像画…(どうやらナシェレットさん自筆)。

 どっから手に入れたんだろ…あれ、見覚えあるな~…。

 ああ、5年位前にせっちゃんが着ていたドレスかー…。

 見た瞬間、ぞわっとしました。

「…くっ これは火によって浄化しないと」

「まぁ坊、焚き火の大きさはこの位で?」

「もうちょっと火力を上げてくれ」

 そう言ってまぁちゃんが火にくべだしたのを、止める人は誰もいませんでした。 

 (たま)にせっちゃんが、

「あ、これお気に入りだったカメオですの。あに様、あに様、無くしたと思ってたカメオですの」

 なんて言い出しましたけど、まぁちゃんは慌てず騒がず。

 優しくせっちゃんの手から品物をそっと取り上げて、優しく微笑みます。

「駄目だ、せっちゃん。これは穢れてしまったんだ。火で浄化しないと、気持ち悪いだろう?」

「でも…」

「今度、俺がもっと似合う物を贈るからな?」

「…わかりましたの。とびきり素敵な物を見立てて下さいませね?」

「お任せー」

 この兄妹は、基本兄妹喧嘩なんかとは無縁で微笑ましい限りです。


 浄化の炎(笑)を囲みつつ。

 暴れまくった面々は空腹を抱えている様子。

 さあ、晩ご飯です!


 料理の一切できない、せっちゃんと勇者様、ロロイとリリフ。

 リリフとロロイは言うまでもないですね。

 この2人は、食べるだけなら生でもいける野生の寵児ですから。

 まだまだ子供で腹が満ちるなら味は二の次、三の次。

 竜の姿で丸飲み一気にするのは消化に悪いと思う。

 折角、生まれた時から美味しい食事に慣れさせたって言うのに。

 成長期という魔法の言葉の下、面倒がって料理の腕ではなく、狩りの腕を磨いています。


 せっちゃんは時々まぁちゃんがお料理する時にお手伝いするって言ってましたけど。

 聞いてみたところ、簡単なナイフ捌きしか会得していないとのこと。

 …さり気なく、物騒な気が。

 勇者様は身分と立場上、調理器具に触ったことすらないそうです。 

 そうですね、大国の王子様ですものね。

「それじゃあ、魔境まで旅してきた時はどうしてたんですか?」

「携帯食料ばかりだ。味気なかったから、なるべく人里に立ち寄っていたが」

「へえ…あんなに狩りの腕は凄いのに」

「…そこは自分でも、ちょっと虚しいけどな」

 ちなみに今夜の晩ご飯の材料も、勇者様が確保して下さいました。

 まぁちゃんが虫篭に向かって笑顔で、

「こいつ食らってやろうか? だが食っても変態の味がして不味そうだよな」

 とか言ってナシェレットさんを虐めている間に、外の森で魔獣を狩ってきてくれました。

 食欲旺盛な竜の子達の腹も満たせる様な、充分な大きさの獣。

 ベースはどうやら鶏ですかね。あと、鹿。

 魔獣になってもお肉の味はむしろ魔力を帯びて美味しくなるのが魔境の常識です。

 …まあ、魔力の扱いに長けた、魔法の得意な方が調理しないと途端に不味くなりますけど。

 調理しながら魔力操作でお肉の味を高めるんですって。

 この場でソレができるのは、まぁちゃんとりっちゃんだけですが。

 でも勇者様も、調理法覚えたら魔獣を美味しく調理できるんじゃないかな?

「村に戻ったら、うちの母さんに簡単な料理でも習ってみます?」

「いや、いい。新しい趣味を覚えたら、修行の時間も減りそうだ」

「うちの母さん、料理上手ですよ」

「それはもう、日々の食事でよく知っている」

「おー? 舌の肥えた勇者に旨いと言わせるなんて伯母さん流石。あ、ちなみに俺に料理を教えてくれたのも伯母さんだからな?」

「何時の間に…」

 勇者様の狩ってきた魔獣(鶏)の血抜きをしながら、まぁちゃん。

 …そういえば、お城で覚えたにしては家庭料理ばっかりだったね。まぁちゃんの料理。

 暖かみある料理は美味しいけれど、魔王が振る舞うにしては意外性充分でした。

 家庭的な魔王とか、特殊すぎる。

「リアンカは料理は? 時々作っているみたいだが、本格的な物は見ていない気がする」

「あー…私ですか? レパートリー、少ないんですよ…」

「リアンカは香草や薬草多用の癖持ちだ。ほぼ高確率で薬膳料理化するのは職業病か?」

「職業病です…」

 作れる数は多くないんだけど、料理している内に、ついアレもコレもと手をかけて…

 工夫している内に一品一品に手をかけすぎて、時間かかっちゃうんですよね。

 ついつい薬効がどうのと考えてしまうのは、確実に職業病です…。

「リアンカ独自の味って感じで特徴あるし、面白いと思うぜ?」

「ああ、そう言えば確かに。旅行初日に振る舞って貰った弁当も、風味が独特だったな」

「2人とも、それ暗に個性的って言ってる?」

「独特の味だが、オリジナリティがあって旨いって言ってんだよ」

「少し物珍しいが、悪くないと思う」

「む…っ 良いわよ。家に帰ったら私も母さんに修行つけて貰うんだから」

「拗ねるな、拗ねるな」

 適当な口調で宥めてくるまぁちゃん。

「いたっ」

 その頭をまな板で一殴りして、私は頬を膨らませて摘んできた香草を刻みました。

「お前なあ…」

「ふふんっ その手(血塗れ)じゃ反撃もできないでしょ」

 魔獣の血抜きで血塗れの手を、まぁちゃんが悔しそうに見遣ります。

 手と私を見比べて、溜息一つ。

 それで私への反撃を諦めたみたいですね。

「お前、俺が手を出せないの分かっててやっただろ」

 ええ、分かっていてやりましたが、何か?

 …今度は、まぁちゃんが拗ねる番でした。


 さてさて、手持ちぶさたな勇者様は今夜の寝床をどうにかしようと思った様で。

 いつしか暇そうにしていたサルファと副団長さんを引き摺り、瓦礫の撤去を始めました。

 サルファも簡単な料理はできるそうですが、今この場には料理上手もいますからね。

 私、まぁちゃん、一番料理上手なりっちゃんと3人がかりです。

 手伝いは幾らいても助かりますが、後は仕上げだけなので。

 お手伝いの終わったみんなには、寝床の確保に移って貰いました。

 副団長さんも、料理よりは肉体労働の方が得意だそうなので。

 むしろ、あの3人の中では一番瓦礫撤去に向いた人材なので。

 どうせなので男手には頑張って室内を綺麗にして貰いましょう。

 副団長さんも料理はできますが、その腕前は…

 ………美味しいんですよ? 美味しいけれど、どこか野趣に溢れるというか。

 男料理、むしろ野戦料理1級って感じの腕前です。

 美味しいけれど、毎日は厭きました。

 連日、食事の手伝いをして貰って言うことではありませんが、正直厭きました。

 流石に連日連夜、同じ味付けばっかりだったので代わり映えしなくって。

 やっぱり、食事は工夫も大事だと思います。


 もうすぐ料理も出来上がり、美味しい晩餐を囲むことができるでしょう。

 りっちゃんが大きなお鍋を掻き回し、とろりと乳白色のシチューの味を見ます。

「………上出来ですね。食材が豊富で助かりました」

「副団長さんに、村から物資もついでに持ってきて貰ってたしね」

「いえ、一番決め手になったのは、リアンカ様が摘んできて下さった香草ですよ」

「りっちゃん持ち上げすぎ」

 でも、満更じゃありません。

 お手柄お手柄と、まぁちゃんが頭を撫でてくれてテンションも上がります。

 そんな私達に、せっちゃんが混ぜて混ぜてと飛び込んできます。

 勢い押し倒されて、まるで子犬の様にじゃれ合う兄妹の巻き添えを食らいました。


「まぁちゃんまぁちゃん 髪の毛絡むって!」

「ええいっ 三つ編みにしてくれる!」

「うふふっ あに様の髪はツインテールにしてさしあげますの」

「うぉっ 何時の間に!?」

「ついでに一部お団子にしてさしあげましょう」

「わあ! リャン姉様すてきですの」

「せっちゃん、飾りピンと花飾り貸してー」

「やめろ、可愛らしくすんな!」

「ふっふっふっふっふ…可愛いよ、まぁちゃん(キリッ☆)」

「陛下、似合いますよーお可愛らしいですねー」

「リーヴィルっ 見てないで助けろよ! 主君が…魔王が愛らしくなっても良いのか!?」

「私の方へ二次災害が起きなければ構いません」

「薄情者ー!」


 久しぶりに、全力でいい汗をかきました。

 関わり合いになりたくないのか、巻き添えを恐れたのか。

 全力で私達から顔を逸らし、勇者様達が私達を遠巻きにしていました。



 ようやっと夕飯にありついた私達。

 おさんどんを買って出たりっちゃんが、私達にシチューをよそってくれます。

 ふと、似合いすぎるその姿に疑問が湧きました。

「そう言えば、りっちゃんは何処で料理を習得したの?」

「は? 今更どうしたんですか?」

「いや、純粋に疑問。だってりっちゃん、魔族の中でも名家の出でしょ?」

「そうなのか?」

 それにしては腰の低い態度だと疑問に思ったのか?

 こっくりと首を傾げて勇者様もりっちゃんを見つめます。

「確か、りっちゃんのお父さんやお爺さんも代々の魔王に直接使えた由緒あるお家だよね?」

「まーな。ほら、うちの宰相知ってるだろ? アレがリーヴィルの親父だって知ってたよな?」

「うん。(たま)に会うとミカンとかくれるよ。あとお菓子とか」

「お前、何処ででも誰にでも色々貰ってんな。菓子とか」

「リアンカ様…不安になりますから、余所でお菓子を簡単に貰ったりしないで下さいね?」

「あれ、私なんか子供扱いされてる?」

 成人はまだとはいえ、一応はもう大人扱いされて然るべき年齢なんですけど。

 ついでに言うと、もう一丁前に仕事もしてて、しっかりしてるつもりなんですけど。

「ひょいひょいほいほい、人から物貰ってくるんなら確かに不安だな」

「ッ 勇者様まで!?」

 …なんか、裏切られた気分がする。

 この魔境じゃ私の方がずっと色々知っているし、処世術も振る舞いも心得てるのに。

 勇者様まで、私のこと5歳児か何かと勘違いしていませんか?

 はぐはぐはぐはぐ、それまで私の隣で食べるのに夢中だったロロがふと顔を上げました。

「リャン姉、誘拐されたらすぐに呼べよ? ちゃんと助けに行くから」

「ろ、ロロイにまで…」

 どうしよう…育てた弟分にまで子供扱いされた。

 ああ、自分の口許が引きつるのが分かる。

 駄目だ、この話題はマズイ。

 私は色々と苦い物を呑み込んで、急いで話題の軌道修正を試みた。

「もうっ その話は良いでしょ。それより私は、りっちゃんの料理について聞いてたのに」

「ああ、そういえばそうでしたね。私の何が不思議と?」

「だから、名門名家の御曹司様が、なんで料理できるの? 半分村育ちみたいなまぁちゃんはともかく、りっちゃんは実家の領地で育ったんでしょ? 普通は勇者様みたいに料理できないんじゃ」

「………何を仰るのかと思えば」

 あれ? なんか凄く深い溜息吐かれた。

 ふるふると、額に手をやって首を左右に振られる。

 え、何そのジェスチャー。

 何か私、悪いこと聞いたのかな…。

 それにりっちゃんの隣で、まぁちゃんが腹を抱えて笑っているのが、凄く気になる。

 おろおろうろうろ、私は視線を彷徨わせる。

 そんな私に苦笑混じりの微笑みをくれて、りっちゃんは話しだした。

 とっても、疲れた様子だったけど。

「リアンカ様は覚えておいででしょうか。私が陛下にお仕えするようになった頃のこと」

「ああ、なんだか初々しかったのは覚えてる」

「それが、当時4歳児の感想ですか…」

「ええと、13年前で、りっちゃんは私の10年上だから」

「ええ、私が14歳の頃ですね。陛下は8歳でした」

 ふうと、息をついて遠い目のりっちゃん。

 なんだろう。目の中に、並々ならぬ深い疲労が…。

「所詮8歳児。そう高をくくってお仕えしだして直ぐ、私は振り回されていました。ああ、なんて可愛くなくて扱いにくい子供だろうと」

「お前正直すぎだろう。少しは包み隠せ」

「此方のことを見透かすし、得体が知れないし、私のことを的確に翻弄してくるし。既に私より強かったし。しかも普段はいい加減に振る舞っている癖に聡いし。私が何を考え何を思い、どんな不満を持っているのか気付いた上、私が警戒しても何をしようとしても気にも留めない。此方がお仕えする立場だと知っていて、信頼されなくても良いやと放置してくるし。必要とされたこと何て一度もありませんでしたからね。本っっ当に、可愛くありませんでした」

「お前がどんだけ子供の俺に鬱憤溜め込んでいたかは分かったが、本当に正直すぎだろ」

「りっちゃん、開き直ると思ってること全部口から出てくるよね」

「私は陛下には何一つ隠し事はするまいと決めているので」

「それにしたって隠さなすぎだろ。本当に包み隠せ」

「まあ、あの頃、上っ面の対応をされなかっただけマシだと今は思っていますよ。適当に忠義心を満足させつつ猫を被るなんて真似をされなかったお陰で、私は無用な夢から覚めることができましたから」

「む、無用な夢って…?」

「ええ、陛下に「高潔な魔王家の王子」なんて幻想を抱いて押しつけようとしていたんですよ。青くも若かった少年時代ですね。今はもう、陛下はあるがままに陛下なのだと分かっていますから。今更おかしな夢は見ません。私の忠義を捧げる相手は、この扱いにくい陛下お一人です」

「うわー、まぁちゃんまぁちゃん、なんか酷いこと言われてない?」

「もう俺、その辺は気にしてない。それよりシチューが旨い」

「おかわり、よそいましょう」

「頼む」

 シチューを啜るまぁちゃんに、りっちゃんが苦笑混じりでお玉を向けました。

 …まぁちゃん、いきなり食事に専念しだしたのは、照れ隠しですか?

 こんなほのぼの遣り取りをしているけれど、当時は色々あったんだろうなー…

 思い返してみても、あの頃のりっちゃんは怒った顔しか覚えていない。

 もしくは、まぁちゃんに意地悪されて悔し涙に濡れている顔とか。

 これが一体何で今、こんなまぁちゃん忠義に育ったんだろ…。

 ここまで忠義者に仕込んだのが親御さんかまぁちゃんか知らないけれど。

 ちょっぴり、その手腕に戦慄した。


 はっ また話がずれてますよ!

「それよりも、料理の経緯は?」

「ああ、それですね。私は確かに、13年前は料理などできませんでしたよ」

「それじゃあ、まぁちゃんの側仕えになってから覚えたの?」

「覚えたというか、覚えざるを得なかったというか…」

「???」

「お、覚えていませんか…?」

 本気で首を傾げたら、りっちゃんが情けない顔になった。

 口許を歪めて、うーとかむーとか呻いて。

 それから、話しだしたことには。

「…あの頃、姫様はまだ2歳と幼すぎたのでまだお2人とは行動を共にしていませんでしたが、陛下とリアンカ様はそれはもうセット扱いの勢いで、日々一緒に遊ばれていましたね」

「おお。あの頃のリアンカはまぁちゃ、まぁちゃとまるでカルガモの雛だった」

「うっすら記憶にあるけど、確かにまぁちゃんについて歩いていた気がするよ」


「ある日のことです。陛下がハイキングに行くと言って城を出られました」


 いきなり、りっちゃんの語り口調が変わった。

 しみじみと、昔を懐かしむ様な口調が、いきなりキリッと。

 …なんか、真面目な話?


「私は子供の遊びと思い、ついていくのも野暮だと思ったので見送ったのですが…」


 陛下は3日、帰ってきませんでした。


 ……………。

 ……3日。

「ハイキングで、3日は長すぎるだろう」

 本気で心配そうな顔の、勇者様。

 サルファも似た様な顔で、しきりと頷いている。

 当時を知っている副団長さんだけは無言を貫いて、せっせと焙り肉を食べているけれど。

 せっちゃんは「何か問題ですの?」と首を傾げていた。

 …まあ、つまり、そう言うことです。


「お強い陛下はともかく、連れ歩かれているリアンカ様はまだ4歳の人間。それが3日も魔境で行方知れず。これで良いのか大丈夫かと、私が不安に狼狽え騒ぐ中、何故か平然と通常業務を淡々こなす城の者達…。私の責任ですと思い詰めてハテノ村の村長宅の戸を叩けば、「あら大丈夫よ、そのうち帰ってくるわ」と村長夫人の朗らかな笑顔。先代陛下に詫びを入れようと頭を下げれば、「そのうち帰ってくる」とまたもや言われ。陛下が元気な様子のリアンカ様を肩車で戻ってくるまで、私がどんな思いをしたか…」


 つらつらつらつら、川の流れの様に留まるところを知らないりっちゃんの恨み言。

 当時もこんこんとお説教されたのか、言われ慣れているのか。

 まぁちゃんは耳を塞いで食事に逃げている。

 そんなまぁちゃんを、勇者様が心の痛くなる様な眼差しで見ていた。


「帰ってき陛下達を見て、安堵に泣き崩れたあの日が忘れられません。だと言うのに、ほとぼりも冷めぬうちに今度はピクニックに行くと、そう言ったんですよ、この陛下」

「あの時も大丈夫だって、俺は言っただろ?」

「それならせめてお1人で行けばいいものを…やっぱりリアンカ様も連れて行くとか言い出すので散々止めたらこの陛下、一言ですよ」


 --そんなに心配だったら、ついてくればいいだろ。


「ええ、ついていきますと。何が何でも私も同行せねばと、ついてきましたよ」

「りっちゃん、根性あったね」

「根性を必要としている自覚があったんなら、自粛して下さいよ!」

「りっちゃん、当時の私4歳だよ? そんな物考えてないって」

「うぅ…っ 当時の私、頑張りました。ピクニックと高をくくって、どことも知れない場所を連れ回されるとは露とも知らずに…! というか、なんで貴方方はあんな難所で遊んでたんですか!?」

「ほら、子供って好奇心が強いから」

「好奇心で済まされませんよ!? お陰でこっちはサバイバル術を実践で覚える羽目になったんですからね! その流れで、野営中の食事の支度から料理も全部覚えた次第ですよ!! ああ、本当についていかなければ良かった…!!」

「それでもお前、毎回ついてきたけどな」

「いつリタイアするかなって、2人で話してたのにね」

「あの根性だけはすげーと、俺が最初に一目置いた瞬間だったわ」

「そんなところ、認められても状況的に全っ然嬉しくないんですよ!」

「「本当に?」」

「う…っ ………少し、は、嬉しかったですけど、」

「チョロいな、こいつ」

「まぁちゃん、本人目の前に言っちゃ駄目だよ」

「………っ!! 本当に、貴方方ときたら!」

 りっちゃんは怒ってぷいっと顔を背けてしまう。

 そのまま黙々と、一心不乱のひたすらに鍋を掻き混ぜ始めた。

 でも、ちょっとだけ顔が笑っているよ? ほんのわずかにだけど。

 それに気付いたせっちゃんが、満面の笑みでりっちゃんにおかわりを催促していた。






「あ、そういえば」

「こんどはどうした?」

「せっちゃん、この数日の御飯はどうしてたの?」

「気付けば用意されていましたのよ?」

「……状況的に、あの駄竜が用意してたんだろうな」

「腹立たしそうだな、まぁ殿」

「当たり前だろ! チッ…変なもん食わせてたら、尻尾から切り刻む」

「せっちゃん、どんな御飯食べてた?」

「献立ですの?」


「普通に一般的な、コース料理とかですのよ? お肉の焼き加減が絶妙で、他にも牛肉の赤ワイン煮やガトー仕立ての鶏胸肉、カシスソースで饗された鴨肉は特に絶品でしたの」


「「「「「「………………」」」」」」


 もしかしたら。

 認めるのは癪だし、考えたくもないけど。

 もしかしたら、この場で一番の料理上手はナシェレットさんなのかも知れない。

 




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