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ここは人類最前線3 ~リアンカ嬢の観光案内~  作者: 小林晴幸
旅行も終わりに近づいたようです
54/65

6日目 竜の谷7 ~虫篭にはドラゴン~

8/26 誤字の訂正いたしました。

 勇者様が心にまた一つ重傷を負い、再起不能になって暫し。

 勇者様と私とは、忘れたい記憶に溜息をつく。

 武士の情けで副団長さんが渡した毛布にくるまり、勇者様は茫然自失。 

 こりゃ戦闘続行は不可能だろうと、勇者様の余興試合は中途半端に終わりを迎えた。

 まさか一試合だけ、しかも自爆という結果で幕を閉じるとは…

 現在は竜の若手戦士の皆さんが、当初の予定通り総当たり戦を演じています。

 彼等は勇者様に興味津々で、手合わせできないことに不満たらたらでしたが。

 でも到底勇者様が戦える状況じゃないので、同情と温い笑みと共に、引いてくれました。

 それでも再チャレンジ希望とのことで、勇者様が落ち着いたらまた連れてこよーかな。


 ん? なんですか、勇者様?

 え? もう二度とこの里には来たくない?

 

 その気持ちは、分からないでもありません。

 予想以上に深い傷を負ってしまった勇者様。

 彼の心に整理が付くのは、まだまだ先のことみたいです。


「てめぇ勇者…嫁入り前の娘になんて物を見せやがる…っ」

「落ち着けよ、まぁの旦那! 不可抗力だ!」

 気の荒ぶるまぁちゃんが、勇者様の心に追い打ちの一撃!

 ぐったりと倒れ込み、今にも地面に沈んでいきそうな勇者様を、サルファが庇う。

 …まあ、サルファにも原因の一端はあるし、罪悪感からの行動っぽいかな。

 地面にひたすら懐きまくる勇者様は、でもサルファのことには気付かないみたい。

 彼はただもう、呻きながら頭を抱えていて。


 そして興味津々に勇者様を触りまくり、調べまくる竜のされるがままになっていました。


 光の砲撃を食らって、無傷なのが有り得ない。信じられないと。

 光の氏族長(リリフの祖父で、ナシェレットさんの父)が、調べなきゃ気が済まないと。

 そう言って、勇者様の全身をぺたぺた触っていました。

 絵ヅラ的には、なんだかとっても気持ち悪いです。

 興奮で目を爛々と輝かせるおじさんに、良い様に全身を触られる清廉な美青年…。

 え、これ誰が喜ぶの?

 なんだかとっても、光の氏族長さんが変態爺に見える。

 実の孫に当たるリリが、ものすご~く氷点下の瞳で、祖父に蔑む視線を送っていた。

 孫の視線に気づけ、爺さん。


 やがてほくほく顔で満足そうな光竜の爺さんも、勇者様を解放し。

 きらっきらの目で嬉しそうに言うことは。

「大変に興味深い。人間の身で、斯様に強い光の加護を持つ者がいようとは」

 良いもん見たと、その口調が言っていた。


 ああ、そう言えば…勇者様、光の神のご加護もお持ちでしたね。

 色んなモノに好かれている勇者様ですが、神様からも好かれているんですね。

 どうやら神様からのご寵愛も一方ならぬものがあるようで。

 竜の皆さんから、勇者様に与えられた光の加護は最高級との太鼓判が押されました。

 その証明と引き替えに、勇者様は大事な何か(主に名誉とか)を無くした訳ですね…。

 それのお陰で助かったと、ご自身でも理解されているみたいですが。

 ぽつり「光の、かみ…」と呟いた勇者様。

 彼の言葉には、全然有難味も感謝も籠もっていませんでした。



 そしてそんな勇者様の類い希な資質が、また一つ厄介事を運び込む。

 もう止めてあげて! 勘弁してあげて!

 ただでさえ苦労性なのに、もう勇者様は一杯一杯なんですよ!?

 …まあ、ハテノ村に滞在して以来の、彼の苦労の七割くらいには私が関与していますが。

 私に言えたことではないかもしれません。

 ですが、ええ。

 これは本気で勇者様の身が心配という、大きな厄介事だったのです。


 それは、竜のお偉方のひそひそこっそりな合議の末、勇者様に突きつけられました。

 哀れ、勇者様はまだ我を失った状態でぼんやりしていたんですけど。

 そんな個人的な事情は、斟酌して貰えなかった…

 斟酌するだけの余裕が、竜達にも無かったんです。

 

 勇者様の前に、捧げ差し出された物。

 それは小さくとも頑丈な、金属製の虫篭でした。 

 中には、未だに解放されぬナシェレットさん。

 まぁちゃんの魔法で縮められた竜が、更に身を小さく丸めて拗ねた様に収まっています。

 え、竜の皆さん虫籠(ソレ)をどうしろと?

 流石に勇者様も訝しく思ったのか、我を取り戻して怪訝顔だよ。


「………何の、つもりですか」

 

 勇者様はひとまず己の羞恥と情けなさを封じることにした様で。

 するりと毛布の中から勇者様が立ち上がる。


 鞄の中から取りだした着替えを着用済みの、勇者様。

 …ちょっと過剰に着込んで、厚着過ぎるけど。

 でも、誰もそのことには敢えて触れませんでした。

 心の傷は、そっとしておいてあげたいよね…。


 勇者様の厚着という些細な物事を全く気にせず、真竜王さんが代表として口火を切る。

「実は、勇者殿の光耐性の強さを見込んで一つ、頼みたいことがある」

「…いきなりの頼みに、嫌な予感がしてならないんだが」

 今までの災難っぷりのお陰か、勇者様の勘は大分磨かれている様で。

 多分、その悪い予感は間違いじゃない。

 証拠に、真竜王さんがずいっと。

 ナシェレットさん入りの虫篭を、差し伸べる様に掲げてきた。

「………何のつもりか?」

「うむ。頼みたいこととは、他でもない…」

 真竜王さんの手の先。

 虫篭が、中にいるナシェレットさんの身じろぎに合わせて、からんと揺れた。


「実は勇者殿の下に、このナシェレットを預け、監督してもらいたいのだ」


 はい、厄介事きました。

 ちょっとちょっと、あまりのことに勇者様が固まってるよ!

 誰か、解凍してあげてぇ!?

 まぁちゃんも呆れ眼で、不機嫌そうに真竜王さんを睨み付ける。

「おい、そこの駄竜に関しちゃアンタが責任持って指導・監督するってことで話が纏まったんじゃなかったか? ソレを放り出すってのかよ。相手は当事者とは言えない勇者だぞ?」

「ソレを言われると、此方も胸が痛むのだが。しかし、いい年した男の躾け直しは面d…ではなく、やはり広い物の見方と幅のある交流の中で磨いてこその更生ではないかと。考え方と身元のしっかりした方に躾をお任せし、より不利であり、低い立場に身を置くことで、己というモノを弁えさせるのも良かろう?」

「そんなさも考え込んだ結果です…みてぇな言い様で語んなや、こじつけだろ。勇者は今まで人間の領域でしっかり育った真人間だぞ? 魔境の摩訶不思議に耐性のない勇者に、あまり無理難題ふっかけんじゃねぇよ。しかも勇者の滞在地、ハテノ村じゃねぇか。せっちゃんに近いっての」

「こじつけであろうと、実際によい案ではないかと我等一同の話し合いで結論づいてな。そこを誰に任せるかと言えば渡りに船、そこの勇者殿は正に適任。何しろご本人は真人間の上、光に依存するナシェレットの攻撃をほぼ無効化する体質とあれば、のう…?」

 なんということでしょう。

 本人そっちのけで語られる、勇者様の今後に大きく関わる大問題。

 2人とも、議論が白熱してるところ悪いけどね?

 そこは当事者の勇者様ご本人からも、ちゃんと意見を聞いてあげてくれないかなぁ…?


 魔王と真竜王の白熱する議論。 

 その、蚊帳の外から。

 頭痛を堪えてか頭を押さえる勇者様が、そろりと手を挙げた。


「2人とも、待ってくれ。それは、ちょっと、俺には荷が勝ちすぎると思うんだが…」


 何という、ぬるい拒否

 もっとしっかりはっきり言いたいことを主張しないと、意見食われて飲まれるよ?

 そして当然の様に、勇者様の意見は黙殺された。哀れな。

 自分がはっきり言わない限り、意見を通されると気付いたんでしょう。

 勇者様が、今度はきっぱりと言いました。


「竜の生態は詳しくないが、誘拐実行犯の竜とは一緒に生活できると思えない。そもそも俺はリアンカの家に居候の身だ。これ以上無駄に大きい荷物を背負う気はない。頼みは断らせてくれ」

「しかし、勇者殿」


 勇者様が強い色を含めた声音で断っても、真竜王さんはめげない。

 それだけ困っているのか、それとも単純にナシェレットさんを厄介払いしたいのか。


「このような愚かな犯罪を犯す愚か者です。しかし斯様(かよう)な愚者を放置しておいて、再犯しないとも限らない。そこを食い止め、抑止に努めるのも正義に従う『勇者』の仕事ではあるまいか?」

「ぐ…っ」


 おっと、真竜王さんってば勇者様の肩書きから言い伏せる気だ。

 そこをつかれると弱いのか、勇者様も気まずそうな顔。

 何より、これは多分再犯防止の意があるという言葉に引っかかったみたいですね。

 若い女性もそれなりにいるし、誘拐なんてやらかした馬鹿は見張ってないと危ないって。

「真っ当にして欲しいとは言わぬ。ただ、良識的な行動とは如何な物か…それを、この愚か者に教え込んでもらいたいのだ。肉体言語を使って構わぬ。肉体に叩き込んでやって欲しい」

「い、いやにはっきりと言うね…。殴ってでも叩き込めとは、直接的な物の言い様じゃないか。そんなことを言われては、相手は竜だ。手加減の保証もできないっていうのに」

 心がぐらつくのか、義務感か正義感か、責任感か。

 勇者様の額に光るのはどんな意味のある汗なんでしょう。

 冷や汗かな? 脂汗かな?

 なんだか段々、勇者様の言葉にも勢いが無くなってきた…。

 やっぱり、真竜王さんが半分竜の姿に戻って視覚的に威圧しているせいかな…。

 勇者様が真竜王さんに言いくるめられるのは、何だか時間の問題の様な気がした。



 そして勇者様は。

 残念なことに。

 ストーカー駄竜(ナシェレットさん)を、監督役として引き取り、連れて帰ることになった。

 並々ならぬ厄介事を押しつけられた勇者様。

 できれば彼に、どうか幸あれ。


 ただ、おまけとして。

 勇者様に従い、絶対に逆らわぬ様に。

 ナシェレットさんには、一つの処置が施されることとなった。

 それというのも勇者様が人間で、竜種よりも圧倒的に寿命が短かったから…かな?

 竜としての長い生涯、100年や200年の些細な時間、こんな経験積んでも良かろうと。

 真竜王さんの独断によりまして、ナシェレットさんは意に染まぬ契約をすることに。


 その契約とは、『服従』の契約。

 『使役』とは似ているけれど、異なるもの。


 特にその精神支配性と束縛力、強制力に置いては段違いだと耳にします。

 『使役』とは段違いに、対象者への強制力を持つ『服従』。

 昨今では異種族同士でありながら良好な仲を持ち、共にいる手段として『使役』の契約が結ばれることが多いけれど。

 あくまでも対等な関係として『使役』の契約があるのならば、『服従』は全くの別物。

 主従関係そのままの、本来の意味としての『服従』を強いる物。

 その両者の関係は決して対等とは言えず、常に上位者に当る契約者に『服従』を強いられる。

 とはいっても、『主』に当る人の意向次第で束縛の締め付け具合は変えられるそーだけど。


 それでも、絶対に変えられない条件、逆らえない契約。

 『服従者』として契約してしまった者は、主に全く逆らえなくなる。

 命令に必ず従い、生殺与奪の全てを主の手に奪われる。

 今となってはこの魔境でも、知的文化的な生活を送る種族が交わすことは滅多にない。

 それこそ罪人とか、精神異常者とか、その辺のヤバイ人種がたまに強制されるくらい。

 必要と判断されなければ、どこの種族でも余程でなければ禁呪扱いだよ。


 そんな、とんでもない『契約』。

 ある意味では、罪人の証にも近い扱いのソレ。

 ソレを、勇者様を『主』として。

 そしてナシェレットさんを『服従者』として、結ばせようと言うので。


 その提案の必死さに、真竜達の焦りと必死さと、本気が垣間見えました。



 契約による強制で、ナシェレットさんは絶対服従。

 ある意味、とっても安心。

 その必死さに、押し切られる形で。


 時間をかけて説得された後、結局勇者様は駄竜を引き受けることとなったのでした。





取り敢えず、コレで竜の谷は落着。

そろそろ観光旅行もおしまい。

次かそのまた次あたり、リアンカ嬢達はハテノ村に帰る予定です♪

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