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ここは人類最前線3 ~リアンカ嬢の観光案内~  作者: 小林晴幸
旅行も終わりに近づいたようです
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6日目 竜の谷4 ~叩き割れビスケット~

 勇者様の最初の対戦相手は、光竜の若者でした。

 これが間の悪いことに、ナシェレットさんの信奉者だそうです。

 やってることはストーカーちっくだけど、アレはアレで里ではまともらしいし。

 光竜には意外なことに、将来の氏族長を慕う若者が多いそーです。

 色々とまぁちゃんの地雷を踏み抜く、お間抜けさんなのになあ。


 さて、まぁちゃんです。

 試合の行く末を賭のネタにして小銭稼ぎを実行中の、まぁちゃんです。

 ある意味、私達の仲の誰よりも試合の行方に関心があります。

 まぁちゃんは第一の対戦相手として姿を現した光竜の若者を暫くじっと見ていたんですけど…何とな~く、気難しげなお顔。

「あれ? 魔王(まぁちゃん)がそんな難しい顔するくらい、あの人強いの?」

「いや、そう言う訳でもねーんだけど…」

「え? そう言うわけでもない? じゃ、なんでそんな難しい顔してるの」

「あー…アレ、興奮してんなって。あんなんじゃ頭に血が上って、引き際だとか加減だとか、そこらへんのが一切合切頭から吹っ飛んでんじゃねーか? うっかりやりすぎんじゃねぇかなーっと」

「とゆー疑惑が、あるんだね?」

「ああー、あるある。どうしたもんかね。負傷が酷くて勇者が一試合目で既に試合続行不可能、なんてことになっちまったら」

「なっちまったら、どうなるの? どんな酷い怪我でも、再起不能になっても、りっちゃんあたりに回復魔法かけてもらって何日かかければ完全回復すると思うけど」

「そこは心配してねーよ。それより勇者が試合続けられなくなったら賭けも無効で賭けに投じた軍資金、胴元に回収されちまうじゃねーか。大損だろ」

「まぁちゃんがどんなルールの賭けに参加してるのか知らないし、魔境一財宝を蓄えてる魔王城の主が何をみみっちいことと思わなくもないけど、確かにソレは業腹だね」

「だろ? チッ………ここは一つ、賭の続行に支障出ねーよう、保険かけとくか」

「保険? あれ、賭け事で保険って、なんか変じゃない?」

 本当に一体、どんなルールの下に賭け事やってるのか知らないけどね?

 保険という堅実そうな言葉と賭け事というふわふわした言葉。

 なんか、その2つは何をどうあっても相容れない気がするんだけど…

 え、それって私の気のせい?


「勇者ー、勇者ー? ちょいとこっちこーい♪」

 私が考え込む隣で、勇者様を手招くまぁちゃん。

 とっても気安い様子で、まるで犬でも呼ぶみたい。

「まぁ殿、これから忙しいんだけど」

「んー、やっぱ近くで見ると、ますます際だつな」

「何がだ、何が。まぁ殿、主語が抜けてる」

「何って防具だよ、防具。相変わらず紙みたいな装備じゃねーか」

「か、紙っ? 紙はないだろう。確かに軽装だが、コレは白陽鉄の…」

「何の魔法もかかってねぇし、人間の作だろ? 魔境の基準じゃペラペラだっての」

 まぁちゃんに素気なくこき下ろされて、勇者様沈黙。

 肩をがっくり落とし、気落ちした様子で胸元で光る金属を撫でる。


 勇者様の上着の合わせからチラ見できる金属。

 身軽さを重視する勇者様はあまり重量のある武装を好まないそうだけど。

 何があるか分からない魔境、用心の為に常日頃、最低限の用意をしているそうで。

 今も服の下、ブレストプレート?に似た部分鎧を着用しているそうですが。

 まず、ブレストプレートが何か分からない…。

 私、非戦闘員だから武器とか防具とかよく知らないんだよねー…。

 身近な戦闘好きさん…魔族の人達はみんな、いつも驚くほど身軽で軽装だし。

 魔法に頼った防具が主流だから、なんか必要以上に武装する必要がないって言ってた。

 それはまぁちゃんも勿論で、いつも貴重な魔法具2つ3つ着けてお終いみたい。

 それに比べたら、勇者様のが武装って点では頑丈そうな気がするんだけど…。

 なんか、着込めば良いってものでもないみたいー?


 私が首を傾げる前で、まぁちゃんが悪い笑みを浮かべる。

 その指をすっと上げると、すぅー…っと。

 すぅぅーっと。

 その指先、鋭い爪を勇者様の胸元に滑らせた。

「あ。そんなことしたら」

 私も、ぽかんとしちゃったよ。

「………っ!!?」

 勇者様が声を失った。当然だよね?

 勇者様の胸元は、するするっと滑らせたまぁちゃんの爪によって。


 …うん。


 服も、服の下にあった部分鎧も、その下の肌着も。

 爪の走った後にそって、すっぱりぱっかり、裂かれて割れちゃった。

 ごとっと。

 壊れた鎧の板金が、勇者様の足下に落ちて転がった。

 

「ほ~ら、ペラペラじゃねーか」

 得意そうに言うけど、まぁちゃん…。

 他人の持ち物を確信犯で勝手に壊すのは、流石にちょーっと、どうだろう?

 予告も無しでやっちゃうのは、止めた方が良いと思う。


 斜めに両断されて、ずれると言うより落ちる諸々。

 勇者様の、白い胸板が白日の下に晒された。

「わぁ露出狂☆」

「酷いなっ! 俺の意思じゃないってわかってて言うのか!?」

「わー露出狂が出たぞー」

「棒読みで乗っからないでくれないか!? そも、まぁ殿が元凶じゃっ」

「まあまあ、んな怒鳴るなよ。そんなお前に良ーもん貸してやっから」

「勝手に人の私物壊しておいて、恩着せがましくないか!?」

 まぁちゃんってば、勇者様の物言いに全く取り合わない。

 顔を真っ赤にして怒る勇者様の肩をぽんぽんしながら、自分の好きに振る舞ってる。


 まぁちゃんは、両の腕から黒い金属で作られた手甲を、

 首からは銀色の金属でできた首飾り…頸環(トルク)を外した。

 手甲は肘から手首までを、頸環は首全体を覆うような、幅広の物。

 どっからどう見ても装身具にしか見えないソレは、宝石や彫刻で飾られている。


 金属のとろりとした光沢が、宝石の輝きを引き立てる。

 まぁちゃん曰く首切り防止の首飾りだそーだけど。にしては、豪華すぎるよーな。

 色々な意味(主に値打ち)で重そう…。


「これ貸してやっから」

 まぁちゃんはそう言って、勇者様の腕にどちゃっと押しつけた。

「は? 渡されても困るんだが…」

 怪訝な顔で、腕の仲の物品を見下ろす勇者様。

 その顔は、何だか本気で困り果てている。

「こんな…こんな、価値のある物をどうしろと」

「気にすんなよ。どーせ魔王城には腐るほどに持て余して唸ってるから」

「だけどこれ、故国(ウチ)じゃ宝物庫に納めて特別な時にしか使わないくらいのレベル…。そう、国宝にするくらいの歴史と価値を感じるんだが」

「歴代魔王のお下がりだから、まあ歴史はあるな」

「…そんな、歴代魔王の伝統を、なんで勇者(オレ)に」

「伝統っつっても、これ所詮は防具だし。使える機会に使った方が良ーだろ?」

「………魔王の装備を、勇者に貸すのは問題だろう」

 わぁお、勇者様。何を今更。

 目をふいっと逸らしているのは、後ろめたさのせいですか?

 確かにまぁちゃんが眠っている間のことだけど、ばっちり前科があるのにね。


 勇者様に押しつけられた、素敵な装備3点セット。

 魔王家の家宝:頸環×1 手甲×2

 勇者様はわあわあ言って抵抗していたし、途中からりっちゃんもお説教参戦してたけど。

 賭け事の行方に眼の眩んだまぁちゃんによって、押し切られました。

 お陰で勇者様、色々とアンバランスな感じ。

 まぁちゃんには誂えた様に良く似合ってたんだけど…。

 こんなにも、勇者様には似合わないなんて。

 豪華な宝飾品が似合わない訳じゃない。

 だけど、何というか。

 勇者様って、黒い宝石、似合わないね………。

 一つ一つなら、似合わないことも……いや、似合わないか。

 光り輝く王子様(笑)に、魔王のアクセサリは悪目立ちするくらいにアンバランスでした。

 

 だけどこれで準備は万端とばかり、よーやっと試合は始まった訳ですが。

 始まった、訳ですが。

 

 ざんねんなことに、そっこーでおわりました。


 罰ゲームなどしてたまるかと、意気込みとともに始まった第一試合。

 待ち受ける光竜の牙。そして迫る巨体。

 うねる尻尾の一撃を、跳び退って避ける勇者様。

 竜の若者の狙いは完璧に、勇者様一点集中。

 チビ竜2人には目もくれない。

 その隙にと、勇者様とは離れた位置から回り込むロロイ。

 勇者様の側に付き従い、フォローに努めるリリフ。

 瞬時に役割分担を決めたのかと思うくらい、鮮やかな動きだし。

 その時はまさか、あんな終わりを迎えるとは……


 子供達の役割はあくまでアシストとのことで。

 役目に徹すると決めたのか、死角に潜り込んだロロも決定打になる様な攻撃はしない。

 代わりにちまちまちまちま、小技を駆使して妨害行動…

 竜の注意を逸らす方向に努力を注ぎ込んで居るみたい。

 それがとっても煩わしいのか、竜はしきりと身をくねらせていて。

 きぃきぃと威嚇行動を繰り返し、コバエでも追い払うみたいな。

 …まあ、ちっちゃい人の子供姿だし、竜の巨体を前には似た様なものかな?

 竜も何とか意識を其方にやらず、勇者様に集中しようとするんだけど…

 素敵なまでに絶妙なまでの苛つきレベル。

 なんでそんなに驚くくらい、嫌がらせじみた攻撃が上手なの?

 私ちょっと、お姉ちゃん代わりとしてロロのことが心配になってきたよ。

 とうとう竜がロロのことを無視できなくなったところで、勝負に出ました。

 リリが。


 横合いの、油断している竜の苛つき顔に。

 全く警戒していないだろう方向から、リリが光を炸裂させた。


 …とはいっても、相手も光属性の強い光竜。

 光に類する攻撃は、ほぼスルーできちゃう。

 そんな相手だけど…いきなりの閃光は、やっぱり眩しかった。

 耐性があるとはいっても。

 光に眩しさを感じにくいとはいっても。

 それでも突然の光に、網膜が焼き付いたのか。

 竜が、身を硬直させた後で、苦しむ様に目を庇ってのたうった。

 

 その好機を逃すまいと。

 一気に駆け出し距離を詰め、竜の眉間目がけて勢いを付け………た。


 勇者様と、ロロイの2人が。


 ちょっと待て、アシストに身を徹するという話はどうなったー!?

 そんな叫びが、サルファの口から。

 ああっ 何と言うことでしょう。

 ええ、ええ、これはもう何と言えばいいのか…。

 そりゃ、皆も大爆笑するよね。


 血気に逸った勇者様とロロイの2人。

 うん、目先の勝利に眼が眩んだみたいで。

 2人は真っ向から、正面衝突大激突。

 ありさんとありさんみたいにごっつんこしちゃったのです。

 衝撃で、勇者様の額のビスケットも見事に粉砕。こなごなになりました。


 これ以上はないくらいの、見事な自爆っぷりでした。




 うん、本当に残念ながら。

 司会進行及びレフェリーを務める副団長さんが、腹を抱えて悶絶していました。

 ああ、うん、楽しそーな大爆笑ですね。


 勇者様は、負けてしまいました。

 可哀想に………罰ゲーム(宴会芸披露)が、待ってるよ。






勇者様の罰ゲーム、何やらせるか思案中。

犬耳が良いかな、猫耳が良いかな…?

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