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1日目 檜武人の廟3 ~埴輪は整ってても埴輪~



 副団長さんから妙な気迫を受け取り、私と勇者様は神妙な顔で食事を終えました。

 …って、私はともかく、なんで勇者様も副団長さんから視線逸らすの。

 さては勇者様もなんか考えたな? 後ろめたくなる様な、気まずくなるナニかを。


 私達は充分な休息を取ったと言うことで腰を上げ、再び歩き始めます。

 目指す第一の観光スポット『檜武人の廟』はもう、すぐそこです。


 具体的に言うと、あと3000mくらい。


 なんで目的地で休憩しなかったという心の声は、いつもどおり黙殺しました。

 だって到着しちゃったら、休憩どころじゃなくなるからさー…

 掃除で。



「そうだ。二つめの疑問だけど」

 目的地が遠く見えてきた頃、勇者様がハッと我に返ったようです。

 よっぽど聞いた話がアレだったのか、それまでぼうっとしてたのに。

 思い出した様に、何故かまじまじ副団長さんを眺め始めました。

「どうした」

「その、副団長殿、は…魔族ではない…よ、な?」

 なんでそんな曖昧に、半信半疑っぽく言うの? 勇者様?

「人を勝手に種族変更させるな」

「副団長さん、ジョブチェンジ?」

「自分は人間を止めたつもりなど、これっぽっちもない」

 面白くなさそうに、副団長さんが鼻を鳴らして顔を顰めました。


 副団長さんは生まれも育ちもハテノ村の、生粋の村人代表組です。

 勿論その外見は人間そのもので、魔族らしさなんて欠片も見当たりません。

 それでも勇者様の視線が疑惑に染まっているのは、人間に見えるのに実は魔王だったまぁちゃんという実例に見事騙された実績があるからでしょうか。

「勇者様、勇者様。一体何でまた、そんなこと言いだしたの?」

「ああ…。元より副団長殿の身体能力その他に思うところはあったが…。武闘大会の話が出てから、副団長殿の出場を口にしていただろう。魔族の大会に、出場するというから」

「それで副団長さんも魔族じゃないかと思った…と」

「その通りなんだが…すまない。違ったのなら、不快な思いをさせた」

「別に構わなくはないが…。時々、魔族にも同じ質問をされることがあるしな」

「副団長さんにそんな面白いことが!?」

「…疑われる方としては、面白くなど」

「あ。拗ねないでよ、副団長さん!」

 それからちょっとの間、副団長さんは拗ねてちっとも歩かなかった。

 大人の癖に、子供っぽい拗ね方しちゃうなんて!

 一度拗ねた副団長さんの機嫌を直すのは、思ったよりも骨折りだった。

 仕方がないので、勇者様の骨を折ろうと思う。

「はっ…殺気!?」

「チッ」

 予想以上に勇者様の勘が鋭かったので、断念した。


「説明が足りなかったね、勇者様。だから勘違いしちゃったんだよね。ごめんね」

「いや…俺も早とちりだったんだ。こっちこそ、ごめん」

「やだ、勇者様が謝らないでよ。勇者様は勘違いして当然だったんだから」

 私はどうやら説明するにも言葉が足りなかったみたい。

 伝え忘れが後から発覚すると、とっても気恥ずかしい。

 そんなことが再度ないよう、私は補足説明に入りました。

「あのねー、勇者様。武闘大会にはね、飛び入り参加ができるの」

「だが予選からやるような大会なんだろう? いきなり飛び入りなんて可能か?」

「元から飛び入り参加を見越して、各部門に3つずつ『枠』があるんだよ」

「枠? なんの…って、飛び入り参加用の枠が最初から用意されてるってことか?」

「そそ。魔族の人はみんな出場は決まってるんだから、もっぱらそれ以外の人用ね」

 例えば妖精とか竜とか獣人とか魚人とか…まあ、ある意味無差別に。

 だけど飛び入り枠の参加者は、大多数で人間が占めるのが恒例、かな?

 殆ど人間、それも私達の村出身者が腕試しの意味で参加することが多いよ。

 私達の村の男衆は、皆一回は挑戦する。成人の通過儀礼代わりみたいなものかな。

 他の地方からも、わざわざ裏で噂を聞いて参加しに来る人もいるし。

「毎回、結構な大人数が出場枠を巡って争いが激化するよ」

「怪我人が多そうだな…下手したら死人も、出るのか?」

「洒落にならないって判断したら、審判が仲裁に割って入るからギリギリ大丈夫…かな?」

「それじゃ審判も毎回命がけだろう」

「んー…どうかな。審判も猛者揃いだよ? 引退した元四天王とかが道楽でやってるし」

「ただの審判にしちゃいきなり大物だな! それってどうなんだ!?」

 勇者様が頭を抱えました。

 まるで私に食って掛かる様に突っかかってきますが、私は何も悪くありませんよ?

 どんなクレームだろうと、私に言っても仕方ないですからね?

「さり気なく大物がごろごろしてるのは仕様か!? 予想外すぎる。とことん嫌な大会だな!」

 勇者様はそう言って、大袈裟に嘆く素振りを見せるのでした。

 またもやなんかの夢か常識が崩れたんでしょーね。


 先刻から一番喋ってる私の言うことじゃないかもだけど。

 どうでもいいけど、みんなさっさか歩こーよ。

 他に気を散らすにしても、足は動かせばいいのに。

 足さえ動かしてたら、勝手に目的地に着くんだよ?

 目的地はもう目の前なのに、この遅々として進まない進行具合。


 まだ若干拗ね気味の副団長さんと、歩みを完全に止めた勇者様。

 その二人に対して、私も子供っぽく頬を膨らませてしまったのでした。




 

「しかし」

 納得はできないまでも自分を誤魔化すことに成功した勇者様。

 そんな勇者様が、再び首を傾げます。

 本当に、メンタル面は弱い癖に回復力は高いね。

「なんか気になることでもあるの? 勇者様」

「あー…と。いや、人間が頻繁に参戦するってことは分かった。でも人間が魔族の武闘大会に参加して、どこまで戦えるものなんだろう…って気になっただけなんだ」

「つまり、人間の武がどこまで魔族に通用するか、気になると」

「それも長閑にのびのびしている辺境村の人間が、どこまでやれるか…と?」


 私と副団長さんは顔を見合わせます。

 勇者様は心底、魔族の群れに飛び込んでいく子羊の安否を案じていました。

 勇者様は、人間が打ち立てた過去の偉業を知りませんからね…。


 普通に考えれば、勇者様の心配も当然なのです。

 なので、私は話さなくてはなりません。

 そう、人間が残した偉業。

 魔族の武闘大会に置ける、その史上最高戦績というヤツを。

 …どうせ、そろそろ話すつもりの話でした。

 なにせ目的地『檜武人の廟』に関係する話なんですから。


「勇者様。勇者様に武闘大会で人間の出した一番の好成績が何か教えてあげる」


 私は幼少の頃から、とある人間の偉業を耳タコになるくらい聞かされてきました。

 憧れ混じりのキラキラお目々でまぁちゃんが熱弁していた話を思い出します。

 そう、それは憧れ。

 私達の村でも、最も誉れ高い武を誇る、とある男の話。


「今から何百年と前のことだそうです」

 当時、まだ武闘大会には飛び入り参加枠なんてなくて。

 他種族の介入、参戦は例外のないこととされていた頃。


 その人は、いきなり武闘大会に乱入した。


 電光石火、瞬く間の活躍で並み居る猛者を打ち倒し、勝利をもぎ取る。

 それが武と勝利とお祭り騒ぎをこよなく尊ぶ魔族に盛大に受けに受けた。


 そうして奪い取ってしまった、優勝の二文字。

 そのまま優勝者に与えられる当然の権利として、魔王と対峙することになる。


 男は強かった。

 だけど魔王もまた、強かった。

 完璧な一対一での、男同士の殴り合い。


 未だかつて無い快挙。

 男は人間の身でありながら魔王と接戦を繰り広げた。

 その結果が勝利か敗北か、そこは伝わっていないのだけど。

 死闘と言っても過言ではない、命がけの殴り合い。

 その結果、種族を越えて呪いの様な絆が芽生えたとか何とか。


「なんだそれ」

 私の話に勇者様、唖然。

「それこそ「…人間?」って感じだよね」

「いや、人間じゃないだろ」

「それが人間なんですよー。でもその武力は魔王折り紙付き」

「絶対に人間じゃないだろ」

 勇者様は頑なとも言える態度です。

 既に根底から、人間という前提を信じていません。 

 固く強張った顔と口調は、絶対に現実と認めてやるもんかって意思を表してます。

 顔に書いてありますよー…「そんな副団長より人間離れした人間は認めない」って。

 でも世の中広いですから。どんなイキモノがどこに生息してるか、断言できないでしょ?

「ついには武力と人間性を認めて魔王が娘を与えたって言うんですからよっぽどだよね」

「魔王も、それで良いのか…? いや、良くないだろ?」

「歴史上唯一、人間の大将軍として魔族の軍勢のトップに君臨。魔王に対して遠慮なく忌憚なく、死ぬまで対等に接したとか何とか」

「それは誇張か作り話か偽りか。何にしろ実話とはとても思えないんだが」

「私達人間よりも魔王城の魔族さんが熱心に語りついでんだから本当ですよー」

「だが! そんな超人じみた人間が事実本当にいたとは到底思えないんだ!」

「まあ、そう思っちゃうのも当然ですよねー」


 何の前触れもなく魔族の武闘大会に乱入して、全員殴り倒して快挙を達成。

 魔王と互角に殴り合い、認められて友情を築いた。

「そんなイキモノ、人間と認めるのも業腹ではあるんですが…」

 まあ、ですが認めないわけにはいきません。

 何しろ『彼』の存在を認めないことには、自分を肯定できませんから。


 ええ、ええ、彼の偉業は凄まじいです。

 史上他に例のないこと。人間で唯一、魔族の大将軍として認められた男。

 その武を魔王に認められ、娘を与えられ、永遠の友情を約束された男。

 どう考えても人間っぽくないけど、生粋の人間だったという男。


 その名はフラン・アルディーク。


 ぶっちゃけ、うちの御先祖です。

 


 私の悪い癖ですが。

 今回も好奇心が疼きました。

 うちの御先祖大物なんですぜ? って告げたら………どうなるだろう(笑)。

「今、説明された人物はハテノ村創始者でもある。ここにいるリアンカの直系の先祖、つまりは我が村の初代村長のことだ。ちなみに職業は『羊飼い』だったとか」

 …ぁ。

 副団長さんに先手取られた…!

 私が言おうと思ったのに。私が、言いたかったのに!!

 副団長さんに台詞奪われた…!!

「返して! 私の好奇心と悪戯心! 過ぎた時間はやり直せないんだから…!」

「誰が言っても同じだろう。そんなに気を荒立たせるな」

「副団長さんの馬鹿ぁ! たわけ者!!」

「待て。色々前科のあるお前に言われる筋合いは無い」

「こーいう時は自分の所業なんて棚上げに決まってるでしょ!?」

「…中々に良い性格だな。質の悪い発言をしている自覚はあるか?」

 副団長さんは怪訝な顔で私を見て、溜息をつきます。失礼な。

 でも私が本気でふて腐れそうな空気を察してか、無言でぴっと指差しました。


 勇者様を。


 そこには真っ白になってポカンとしている埴輪がいました。


 …あー………うん。

 確かに、私が暴露するには至らなかったんですけど…。

 この場合、うん。誰が言っても確かに結果は同じですね。

 うん。結果、大事。何より重要。

 そこには私の予想通り、面白いことになっている勇者様がいました。


 勇者様が良い具合にポカンとしています。立派な埴輪、おめでとう。

 完璧完全なる放心状態です。

 そんな無防備な呆け面でも、やっぱり麗しい顔なのは素直に感心しちゃうなー…。

 どんな間抜け面でも、美形は美形でした。

 でもそれがより一層滑稽さを強調して、余計面白かったんですけど。



 大分自分が酷い自覚はありますが。

 私は怒りも忘れるくらい、笑いを噛み殺すのに腹筋を総動員するのでした。




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