5日目 二方真竜3 ~物騒な子竜たち~
7/7 びみょーに加筆修正、しました。特に後書き。
「そうそう、言ってなかったんだけど」
そんな前振りで、私はぶちかましました。
「この2人、人間風に言うと真竜の王族に相当するんだよ」
さらっと吐いた私の言葉で。
勇者様の動きが止まった。
なんでそんな2人が、わざわざ幼い身でこんな所まで?
勇者様の疑問に、ロロはつまらなさそうに答えます。
「先も言っただろ。リリの叔父が暴挙に走ったから、とっちめに行くんだよ」
真竜全体に、とばっちりが及ぶ前にな--と。
冷めた目で言うけれど、ロロの顔には僅かに気まずそうな…怯えが、滲んでいた。
その目が、さりげなくガッチリと、眠ったままのまぁちゃんを見ている。
………うん。
その気持ち、痛いほどよく分かるよ。
抱いている懸念も、全部。
私達の気持ちは、見事なほどに一つだった。
まったく、私も物騒な従兄をもったものです。
子供達の光竜ボコリ宣言に対し、青年達が同時に口を開いた。
「だけど、お前達はそんなに小さいのに…真竜とやらの大人達は止めなかったのか?」
「フッツーに考えて、大人のでっかい竜相手にチビ達差し向けっとか、無謀じゃね?」
本当に同時だったので、互いに互いの台詞が被ってしまい、何を言ったのかよく分からない。
だけど高性能な竜の耳は何を問われたのか、何となく察したらしい。
リリが、青年達に肩を竦めて見せた。
「…まあ、面倒くさいことはぐちぐち言われましたよ。ですが最後には、真竜全体の未来を守る為にも行ってこいと。お父様や御祖父様からも有難いお言葉を頂戴して参りました」
そして、叔父のナシェレットさんをボコってこいと。
問い返してみたら、チビ竜は2人揃ってこっくりと頷いた。
「後先考えない馬鹿は、痛い目見せて学習させてやれと。後は軟禁して頭を冷やさせると」
わあ、超力業の力押し! 相変わらず竜種の皆さんは単純明解で物騒だね。
でも現実的に考えて、立派な大人に対して子供2人に何ができるの?
これが人間なら、そう思うところだよ。
でも彼等は竜種の頂点。しかもロロとリリはその王族に相当します。
まだまだ成長途上の幼気な子竜とはいえ、元々の素質として地場が違いますから。
未発達でも、資質の面で見れば2人でごり押しできないことはないと。
多分、真竜の大人達はそう判断したんでしょーね。
切羽詰まって、焦ってたのかも知れないけれど
大人達の思惑なんて、何も分からないけれど。
主を攫われたリリは、可愛らしい幼顔に竜らしく獰猛な笑みをにっこり刻んで。
ぐっと握られた両拳には、多分凄まじい力が込められている。
きっと、私の頭くらいなら、軽々粉砕できるくらいの力が。
「うわあ、リリちゃんすっごい晴れやかに笑うね。せっちゃん攫われて鬱憤溜まってるね?」
「ええ。勿論。相手は叔父とはいえ、ボコボコにしてやらないと気が済みそうにありません」
「…ボコるの上等、望む所って感じね。リリはそれで良いとして、ロロの方は思うところとかないの? そりゃ、竜の谷の存亡がかかってるんだから拒否はしないでしょーけど」
「一応、成竜の試練の一つとして正式に認可して貰った。だから得るところがない訳じゃない」
試練の認可、させたんだ…。
ロロイはちゃっかりしている子です。
さり気なく自分の利益も追求する辺り、すごく。
「成竜? 試練?」
勇者様が首を捻って、じっと竜達に目をやります。
どう見ても、人間の年齢に換算しても。
この場で最も年若く、幼いと言っても過言ではないその姿を。
「失礼かもしれないが…とても成竜とは言い切れない年頃にしか見えないが」
実年齢12歳のおチビ様達です。
竜の成長具合は人間とはちょっと違いますけど。
でもどう考えても、12歳は子供ですよね。
竜は、人間よりもずっとずっと長く生きるんですから。
竜の成長は、個体によってまちまちだそーです。
それが真竜であれば、殊更に。
なんでかっていえば、それにはちゃんと理由もあります。
真竜の子供は、時間の経過と共に自然と成長していく…訳では、ないから。
前にも言ったけれど、真竜は王竜と呼ばれる王族と、8つの氏族で構成されています。
王竜族の君臨する下に、8つの氏族。
そして9つの一族の子供は全て、等しく9つの試練を与えられます。
それぞれに相応しい、適した試練。
それは9つの一族の長が1つずつ、子供の資質を見極めながら与えるもの。
与えられた試練を達成するのに、どれほどの時間がかかっても構わない。
だけど与えられた試練は、必ず達成しなければいけない。
何故なら、そうしないと真竜は大人になれないから。
子竜達は皆、同じ様な卵から同じ様な姿で生まれ、同じように成長します。
ある程度まで、と注釈付で。
そして人間で言うところの5歳前後の姿で、等しくその成長は止まってしまうらしい。
それから以後の成長に関しては、子竜の努力次第という世知辛さ。
お陰で自然と鍛えられる子竜達。
真竜が竜種で一番逞しいのも、この辺りに由来があるのかもしれない。
子竜が1つ、試練を達成する度。
試練を課した一族の長から、与えられる御褒美。
それが、『成長』だそーです。
具体的にどんな仕組みなのかは、私も知らないので意味不明なんだけど。
なんか、長から光る珠を与えられるらしい。
それを一気!と丸飲みすることで、少しずつ成長して。
9つ全てを達成した時、子竜の身体は大人に変貌するそーな。
9つの試練をどれだけ早く完遂できるか。
つまり、どれだけ早く大人になれるか。
それが子竜達の資質、その優秀さを測る基準となります。
どんだけ成長に個体差が出よーと、寿命自体は差がないそーです。
大人に早くなったらその分寿命が縮まるとか、時間がかかったから寿命が延びたとか。
そんなことは 一 切 、ないらしいよ?
子竜達の育っていく仕組みを説明すると、勇者様は興味深げにじっとチビ達を見ます。
「身体の仕組みが、根本から違うんだな…」
「やだ、勇者様ったら! 生き物なんだから、身体構造そのものは余り変わらないよ。多分」
殴れば内蔵に響きますし、骨を折れば痛いと思います。治るの、えらく早いけど。
「その『多分』が、リアンカの本音じゃないのか…?」
「私にとっては竜も魔族もどっちも不思議生物だから、逆に余り気にならないんですよー。まぁちゃんは身内で、魔族はとっても良い関係の築けるお隣さん。だったら真竜も同じ同じ」
「わあ、リアンカちゃんってさらって割り切るね」
「気にしても、気にするだけ無駄だもん。深く考えないのが長く良い関係を作るコツだし」
不思議生物どんとこい! な魔境に住んでるんですから。
この位は、私達は手の村の村人にとっては基本知識みたいなもんです。
そう言ったら、勇者様がうんざりした様な顔で呟いた。
「人外魔境め…」
勇者様、それはただの単なる事実ってやつですよ?
さて、ロロイとリリフはただ今、外見12~14歳といったところ。
かなりの急成長です。
先にも言いましたが、子竜の成長は試練を幾つ達成したか否かに左右されます。
「あなた達…竜の谷に戻ってから、いくつ試練こなしたの?」
素朴な疑問ってヤツです。
だって、私の予想以上に、本当に大きくなってるから。
本当はずっと聞いてみたかったことなので、丁度良いので聞いてしまいましょう。
子竜達は、言いました。
「六つ」
「私は五つです。不本意ながら」
リリが、ぶっすぅと頬を膨らませる。
拗ねた様な顔で、横目にロロを睨み付けているけれど。
心底忌々しそうに言うから、ロロも嫌そうな顔だ。
「五つでも充分じゃないのかよ」
「ロロに一つでも劣っているのが我慢できませんので」
「張り合っても仕方ないだろ」
だけど何時も一緒にいるのが半ば義務化してるのに、一つでも差が出るなんて。
この2人のことだから、試練も一緒にこなしていくだろうと思っていたのに。
何しろ、竜の谷でもリリの深刻な方向音痴は知れ渡っているので。
「一回でもリリより多く試練をこなしたんだ? いつも一緒なのに、どうやって?」
「そりゃ、リリの世話に時間取られてはいる。でもそのへんは、やりくりの問題だろ。時間ってのは工夫して捻りだしたら何とかなるし、ソレを使って何をするかは俺の自由だろ」
…暫く見ぬ間に、随分としっかりしたお子様に成長しちゃって。
子供の成長は早いもの。竜なら、しっかりするのも早いけど。
そこに寂しさを感じるのか、誇らしさを感じるのか。
姉貴分としては、笑って頭を撫でるしかないよね。
ちょっと腹いせにぐりぐり力強く撫でてあげたけど、竜の子は全然ダメージを受けていなかった。
それどころか、嬉しそうに笑うなんて。
あまり笑わない子だけに、笑ってくれると可愛い。
…ちぇっ
それにしても、こんな短期間で何時の魔に。
どうやって時間と体力をやりくりしたんでしょーか。
まさか9つの試練を、半分以上達成していようとは。
現役魔王に鍛えられた分、もしかしたらこの子達は能力が高いのかも。
それにしたって早すぎだって言うのに。
ロロが言っていたけれど。
今回の騒動に関する任務、まぁちゃんが噴火するよりも早く事態を収束させること。
つまりはまぁちゃんが何かするより早く、ナシェレットさんをボコボコにして首に鎖を付けてでも里へと引き摺り戻すこと。せっちゃんを保護すること。
そのことを、次の試練として正式に認可させた……と。
上手く運べばロロイは七つめ、リリフは六つ目の試練達成と認められるってコトですよね?
幾ら何でも、12歳でそのペースは速すぎなんじゃないでしょーか…?
何がそうさせるのか、活力の元は何なのか。
そこまでやろうとする危害の元が何なのか知りませんけどね。
でも、頑張りやさんな2人のこと。
早く大人になりたいと思うのなら、本当に早く大人になるんでしょう。
そう悟ってしまったから。
やっぱり私は、寂しくなって。
そんなに頑張らなくても良いのにと、思ってしまいました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「…ロロ。リャン姉さん、分かっていないみたいです」
「リャン姉、鈍いから」
「私達が頑張る理由、直ぐに思い至ってくれてもいいでしょうにね」
「拗ねるな。仕方のない」
「既に大人達の言質は取った」
ニヤッと、口許だけを歪めてロロイが笑う。
だけどその目は、ギラギラと獣の様に抜け目なく光る。
「成竜の儀さえ終わってしまえば、俺達は晴れて自由」
「確かに方々には、大人になるまでは谷にいるべしと言われましたが」
言い淀むリリフの目には、一つの疑念。
幼いなりに難しい顔をして、懸念を込めてロロイをじっと見る。
「大人になってしまいさえすれば、何処に住むも、私達の自由。それは確かです。でも」
「はっきり言えばいい。能力を示してしまった俺達を、大人達が簡単に手放すのか、と」
「特に私は跡継ぎの1人。そう簡単にいくでしょうか」
「そうだな。もしかすれば阻まれるかもな」
「その時はどうします?」
「その時は邪魔者を薙ぎ払ってでも、強行突破すればいい。それだけだ」
「確かにそれだけですね」
ぽんと手を打ち、納得するリリフ。
はっと鼻で笑って、眼差しを鋭く細めるロロイ。
来る未来を想像したのか、ちびっ子竜達は。
それはそれは綺麗に、花の咲く様な笑いを浮かべた。
まるで毒花の様な、物騒で美しい笑みを。
幼い顔を彩る、あまりにも不釣り合いな笑み。
アンバランスなそれは、魔族に由来する魔性を確かに秘めていて……。
どこから拾ってきたのか、誰から受け取ったのか。
どうやら魔王城で培ったらしい、物騒極まりないナニかが、確かにそこにある。
幼少期を魔王のお膝元で育ち、今も多くの影響を受ける子竜達。
悪い影響というのであれば、一言で済んでしまうのだが。
情操教育に悪かったのでしょう。
才能豊かな子供達の、歪み。
初期教育を魔族任せにした時点で、真竜達の未来の失敗は確定。
後々、竜の谷は大いなる混乱と失敗に見舞われてしまう運命にある様だった。
真竜、9つのおうち
王竜一族
地竜氏族 水竜氏族 火竜氏族 風竜氏族
木竜氏族 雷竜氏族 光竜氏族 闇竜氏族
王竜の長は真竜王。各氏族から嫁を貰う風習。
真竜王と光竜氏族の嫁(ナシェレットの姉)がリリフの両親。
ロロイは先代真竜王と水竜の間に生まれた竜の息子。
ロロイとリリフの関係 → 従兄弟。




