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5日目 二方真竜1  ~ちびっ子竜たちのおいたち~

2013/7/5 サブタイトルを改めました。



 私達は真っ直ぐ、東を目指して跳んでいきます。

 あの馬鹿竜の行方は、はっきりしました。

 此処から遙か東方に、嘗ての魔王が打ち捨てた別邸があります。

 その廃墟を、5年位前からコツコツ補修し、居住に耐える様に改装していたそうです。

 無断で。

 

 それは住居不法侵入じゃなかろうか…。

 打ち捨てられ、廃墟と化したとはいえ、物件は魔王の元別邸。

 今は放置されていようとも、その所有権も何も、全ては魔王に帰順します。

 ええ、がっちりと魔王の財産ですよ。

 それを無断拝借とは、ふてぇ輩です。

 え? まぁちゃんの剣を勝手に勇者様に渡した、私の言うことじゃない?

 今日の私は、都合の悪いことは、全部無視しますよ!

 いつものことですって? 何を言っているんでしょーか。

 私には分かりません。わからないと言ったら分かりませーん。


 

 私達を乗せたマリエッタちゃん。

 こんなでっかい鳥ですから、その飛ぶ空は静かなものです。

 どっからどうみても、小さな鳥さん達にとっては外敵です。

 マリエッタちゃんが飛んでるだけで、空も地上も動物たちは息を潜めて静まりかえる。

 そんな状況ですからね。

 他に飛ぶものもいない空の中。

 悠々と空を行く空の王者(マリエッタ)の背中にいると、なんかうずうずします。

 そう、なんか…

「この空は俺の物!! …って、感じだよね」

「そう、それ! 正にソレ!」

「くっ…その気持ち、俺にも分からなくは、ない。だが…っ」

 こんな状況で不謹慎だろうと、勇者様は仰いますが。

 うん。大空の覇者とか、支配者みたいな気分が味わえます。




 私達がしば~らく空の道行きを楽しんでいると。 ←そんな場合ではないが悠長すぎる。

 前方に、何やら小さな影。

 …って、遠近法で小さく見えるだけで、アレ実物はやたら大きいんじゃ…。

 空行くマリエッタちゃんを阻む物など何一つ無いはずの空で、遠方を飛ぶ物。

 マリエッタちゃんの視界から、逃れられないだろう距離。

 こんな怪鳥を前にして、平然と気にせずに空を飛べる生命体は限られます。

 

 竜です。

 

 前方に、確かに竜がいました。

 大きさは少々小振り(竜にしては)ですが、間違いありません。

 勇者様が警戒して、その手に握る剣の柄へと手を伸ばしました。

 でも、待ってください。

 もしかしなくても、アレは…


 前方を行く竜は、此方に気付いているのでしょう。

 大きく旋回して、行き先を反転させると…此方へと、接近してきます。

 ああ、やっぱり間違いありません。


 その大きさが少々小さいのは、未だ成長しきっていない故。

 よく見ればそのフォルムも丸みを帯びて、どことなく幼さが残ります。

 ええ、愛玩動物一歩手前の、ギリギリ感残る可愛らしさ。

 加えて、その数。

 似た様な大きさながら、細部の色が異なる竜。

 それが、2頭。

 

 そして私は、その竜が何者なのかを知っていました。


「リャン姉ぇぇぇぇえっ!!」


 大口を開けた竜が、咆吼と紛う大音声で叫びました。

 せっちゃんと同じ、その略し方。

 やはりそれも、出会った当初の幼さに所以するもので。

 当時、幼さ故に回らぬ口は、『リアンカ』と発音することができなかった。

 だからって『リャン』という略し方は原型すらも不確かだけど。

 せっちゃんがそう呼んでいたから、『あの子達』にも移っちゃったんだよね。

 真竜と呼ばれる種族の、あの子らに。


「ロロイ、リリフ!」

 私は子竜達に応える為に、大きく手を振ってその名を呼びました。

 私にとっては何よりも馴染みのある、真竜の子供らに。


 さて、この魔境では時に『使役』と呼ばれる存在がいます。

 その生活の不便さ故だったり、武功故だったり、理由は色々あるけれど。

 要は助け合い精神だと、私は認識しています。

 つまり使役ってなに?

 それは他種族と助け合い、力を合わせなければ乗り越えられない問題を突破する手段。

 …だったりするけれど、まあ、何というか。

 それ以外にも色々と理由はあるけどね?

 中には何となくで結ぶ場合や、友情の延長戦だったりもするけれど。

 大体の意味としては異なる種族を屈服させ、配下に降す契約または屈服した者を指す。

 それが本来の意味…なんだけど、魔境数千年の歴史で、色々と意味はいい加減になり。

 今ではちょっとしたお気に入り相手へ暇潰し半分で行う、手助けだの何だのも範疇内です。

 本来の意味で使役される者もいますが、近年の魔境は和気藹々感が増していますから。

 ええ、最初は言葉の通り『使役』していたんですよ?

 でも時として、異種族同士が一緒にいる為の口実となる場合がありまして。


 こうしてだらだら語りますが、私も詳しく細かく知ってる訳じゃない。

 そんな『使役』の内情実状を、多く語れはしませんが。

 何が言いたいかと申しますと。


 目の前のチビ竜(それでも馬車より大きい)は、どうしたことか、私の『使役』なんです。

 なんでそうなったのか、詳しい経緯は全く覚えていません。

 でもなんか、かなりまぁちゃんを苦労させるいきさつがあったらしいです。


 当時、私5歳。そしてせっちゃん3歳。そんな頃のこと。

 命知らずにも程ありますが。

 ちょっと遠出感覚で私はせっちゃんを連れたまま、竜の谷に迷い込んだらしい。

 前も言いましたが、竜の谷ってのは竜種の頂点『真竜』の里です。

 そんなところに迷い込んだ、幼児…。

 それだけで、何をやらかすかわかったものではありませんが。

 幸いにも、私とせっちゃんは無事に生還しました。

 ただし、余計なお土産ひっさげて。

 なんということでしょう。あろう事か私達は、真竜の卵を無断で持ち出したのです!

 …全く覚えていないけど、多分綺麗だったから持って帰りたかったとか、そんなとこです。

 丁度1人に1個ずつ、私とせっちゃんは綺麗な卵を抱えて持って帰りました。

 持ち出して無事に帰ったことも凄いですが、真竜の家から盗んで気付かれなかったのも凄い。

 というか、親! 気づけ、親!

 

 何だかんだで私とせっちゃんの子守は、いつもまぁちゃんがしてくれていました。

 この時も、帰りの遅くなった私達も迎えに来たのはまぁちゃんで。

 私達が卵を持ち出した事実に気づいた第一発見者も、まぁちゃんでした。


「………リアンカ、せっちゃん? これはなにかな~?」

「たまご!」 ←私。

「たぁご、なの!」 ←せっちゃん。

「………なんの?」

「おっっっきい、とかげさん?」

「とーげしゃんの?」

「って、真竜じゃねーかぁっ!!」


 まぁちゃん、涙目だったよ。それだけ覚えてるや。


 頭を抱えたまぁちゃんは、直ぐに隠蔽工作と卵の返還に頭を回転させました。

 だけどとっくに日も暮れて、私達は勿論、子供のまぁちゃんも遠出は許されない時間帯。

 まさか捨て置くわけにもいかない卵。

 何かあったら、最強の竜種が暴れ狂う。

 ソレを想像して冷や汗ダラダラのまぁちゃん。


 子供に取れる選択肢って、いつだって少ないよね?

 迫り来る夕食の時間。近づくお目付係の足音。

 まぁちゃんは決断しました。

 子供らに与えておいて万一が起きた場合の恐怖を思い。

 卵は明日の朝一で竜の谷へ帰すことに決めて。

 その日は、一晩まぁちゃんが卵を匿うことにしたのです。

 誰かに見られたら、そんな恐怖で卵2つを抱えて寝台に潜り込んだまぁちゃん。

 

 --彼は翌朝、生まれたばかりの幼竜2頭と布団の中でご対面する羽目になりました。


 後でばれて、凄い大目玉だったそーです。

 そういや、私も母さんにお尻叩かれたなー…。


 勿論、幼い子竜は直ぐさま谷へ戻されることになりましたが。

 問題が、一つ。

 子竜が私とせっちゃんに、何故か異常に懐いてしまったんです。

 多分、刷り込み。

 まぁちゃんは子竜が生まれているのに気付いた段階で、直ぐさま子竜に毛布を掛けました。

 それは刷り込みを避ける為、子竜達の視界を封じる為でした。

 だけどそんな少年の気遣い、全然気付かない私達。

 まぁちゃんの気遣いを木っ端微塵に破砕する勢いで。

 

「あー! 赤ちゃんだぁ!!」

「ちっちゃいとーげちゃん♪」

「待て! リアンカ、せっちゃん、待て!!……………あっ」


 正に、気遣いを木っ端微塵にする勢い。

 私達はまぁちゃんの止めるのも間に合わぬ素早さで。

 それぞれ、子竜と目を合わせてしまったのです(笑)。


 私とせっちゃんの行いは子供のすることと、寛大なお心で真竜にも許して貰えましたが。

 竜の谷から迎えが来ても、私達から離れようとしない子竜達。

 むしろ引き離そうとしたら必死で抵抗して、暴れる子竜達。

 終いには引き離された途端にきゅうきゅう泣いて、ぐったりする子竜達。

 …あまりの悲壮感に、最後は迎えにきた真竜達が諦めました。


 そして子竜達はある程度大きくなって落ち着くまで。

 …私とせっちゃんから引き離しても、収まる様になるまで。

 私達の側で育てられることになったのです。

 

 本当に、よく命があったものです。

 覚えていないけど、多分まぁちゃんが尽力してくれたんでしょう。覚えていないけど。

 どんな軋轢が生じたのかわかりませんが、まぁちゃんがぐったりしてたことだけ覚えてます。

 それでも円満に納めた辺り、幼いながらにまぁちゃんの優秀さが窺えます。

 何しろまぁちゃんの両親は面白がっちゃって、腹を抱えて笑うだけ。

 苦労満載な面倒ごとは、全部まぁちゃんに押しつけていました。

 

 離れたがらない私やせっちゃん、子竜達の為。

 奔走してくれたことは恩に着ています。

 私達も子竜達も、全く覚えていないけど。

 …ちょっと、まぁちゃんが可哀想になりました。



 まあ、そんな経緯がありまして。

 真竜の子竜は私達の元で数年を過ごしました。

 ここ数年は修行の為だかなんだかで、実家(竜の谷)に帰ってましたが。

 その縁もあり、2頭の子竜は私を姉の様に慕っています。

 ちなみにせっちゃんは何故か同年代の親友扱いです。

 まぁちゃんに至っては、影でパパ呼ばわりしてました。なんで?

 2頭は必要に迫られ、今は竜の谷暮らし。

 でも2頭にとっては、感覚として実家は私達の元らしく。

 谷へ戻ることが決まった時は帰りたくないと駄々をこねたものです。

 生活基盤、完全に魔王城&ハテノ村でしたからね。


 そんな彼等がいよいよ村を離れるとなった時。

 せめてこれだけと言いだしたことがあります。

 

 それが、『使役』としての契約でした。


 私は別に魔法使いでも魔獣使いでも何でもないんですけど。

 家族として、絆の証にと。

 そう、子竜が言うから。

 私はロロイと、せっちゃんはリリフと。

 互いに、自分が拾ってきた卵の子竜と契約を交わしたのです。

 まぁちゃんに無断で。

 

 その後バレて、メチャクチャ叱られました。




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