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その頃、姫と光竜

その頃の攫われたせっちゃん。ついでにナシェレット。

彼等がどうしているかー…ということですが。

概ね、平和っぽい。




 美しいという言葉をどれだけ尽くしても、彼女の美を正確には表現できない。

 綺麗で可愛くて愛らしい。でもそれよりもっと愛おしい。

 魔族の王妹、セトゥーラ姫。


 そんな彼女は、現在。


 何故か蟻を数えるのに夢中。何故。

 私のお持ちしたお茶セットには見向きもせず、壁の穴から入り込んだ蟻の行列に釘付けだ。


 今までの10年、頑張って求めてきたのに、彼女を得ることは一向に敵わず。

 それならばと、強硬手段に出たのは一昨日のこと。

 魔王の不在を知り、つい。

 つい、犯行に及んでしまった。

 我ながら、いつかやると思っていた。彼女を攫って逃避行。

 魔王城側の薬草園にて、花を摘んでいた姫君。

 悲鳴を上げる隙すら与えずに、空からかっさらい、手の中に閉じ込めた。

 連れ込んだのは5年前からコツコツいざという時に備えて準備していた隠れねぐら。


 想像の段階では嘆き悲しみ、城に帰してと叫んでいた姫君は…

 姫君を閉じ込めていた手を開き、覗き込んだ先には。

 悲鳴どころか嫌悪の眼差しすらなく、すぴぃすぴぃと寝息安らか。

 攫ってくる間に、姫君は呑気にもお昼寝の真っ最中。

 その呑気なところも、愛すべき資質の一つではあるのだが。

 思わず取るべき行動を選びかね、硬直したのも良い思い出か。


 目を覚ました彼女は言った。


「ここ、何処ですの?」

「我がねぐらであり、今日からは貴女の…」

「そう言えば、お腹が空きましたのー」

「最後まで聞いて!?」


 此方の話など聞かぬ勢いで、彼女はこんな時でもとても自由だった。

 思わず此方が、手を出しかねるほどに。


 あまりに自由だから、その邪魔をしてはいけない様な気になってくる。

 彼女の行動の全てを阻害することも、邪魔することもできず。

 ついつい、その行いを見守る以外の選択を封じられて。

 じりじりと見守る先、天真爛漫にして清楚な笑み。

 その笑みを見ると、何もできない。

 笑みを翳らせる様な一切を、することができない。

 …この笑みが見られるだけで、どうでも良い気になってくる。

 そんなことでは駄目だろ自分、と、内心でついついツッコミを入れた。


 姫君を攫ったからには。

 例え相手が魔王の姫君であろうと。

 私は『姫を攫った悪い竜』。

 その名目で、邪悪にして強大な、『あの方』が殺しにかかってくる。

 大義名分どころではないな、正統な権利として姫を取り戻しに来るだろう。

 それが分かっていて犯行に及んだ。

 及んだの、だが…

 ………今から怖くて、仕方がない。

 ぞわっと鳥肌が立って、カタカタと指先が震える。

 自業自得という言葉が、重くのしかかる。

 だけど、そうせずにはいられなかった。

 

 『あの方』…魔王陛下が、殺しに来る。

 殺されても悔いの残らないよう、いられれば良いのだが…。

 …無理か。無理だな。

 悔いを残さず、本願を果たすには。

 どうにも姫が無邪気すぎて、何かしたら罪悪感が破裂して胸が弾けそうな。

 そんな、予感がした。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 何が起きたのか、どうして此処にいるのか。

 よくわりませんの。

 でも、目が覚めたら見知らぬ場所。

 初めて見る場所って、胸がドキドキしますのね。


 リャン姉様の畑で、お花を摘んでいましたの。

 そうしたら、空から大きな蜥蜴さんが…

 あれは、真竜ですの?

 姉様と時々遊びに行って、交流のある谷の蜥蜴さん。

 わあ、大きい蜥蜴さんですの!

 …と思っていましたら、空の上。

 思わずきょとんとしてしまいましたの。

 この蜥蜴さんは何がしたいんですの?

 首を傾げても、誰も答えてくれませんの。

 相手をしてくれる方もいませんし。

 退屈なので、寝てしまいましたの。


 蜥蜴さんは目が覚めても側にいましたの。

 なんだかよく分からない場所。でもよく見たら方々に魔王家の家紋が刻まれていましたの。

 そう、壁の装飾のあちこちや、調度品に、見慣れた紋章。

 ああ、此処は魔王家に縁の場所なんですのね。

 それがわかれば、あとはすっかり落ち着いてしまいましたの。

 魔王家に縁の場所であれば、あに様が把握していないはず、ありませんもの。

 だからきっと。

 此処に私が居ることも、この蜥蜴さんも。

 多分、何かしらあに様のお考えに沿うこと…なんですの?

 よくわかりませんの。

 でもあに様は強くて、強くて、すっごい方ですもの。

 待っていればいつだって、その内、お迎えに来てくださるはずですの。

 あに様がお迎えに来てくれなかったことなんて、一度もありませんもの。

 何処にいたって、なにがあったって。

 何時だって最後はあに様のお迎えでお城に帰れたんですもの。


 ちゃんと大人しく待っていたら、あに様や姉様がお迎えに来てくださるかしら?

 2人がお出かけ中で退屈だったこともありましたの。

 だから。

 ここで待っていようと思いましたの。


 視界の端には大きな金ぴかの蜥蜴さんがいますの。

 ずっとずっといて、ずっと私を見ていますの。

 でも、私に何もしてきませんのよ?

 話しかけてもきませんの。

 ずっと放置で、ずっと遠巻き。

 何か私に御用があったのではないんですの?

 私は、首を傾げてしまいましたの。


 ちょっと不思議でしたけれど、放っておいて欲しいのかもしれませんの。

 向こうから何もしてこないのでしたら、放っておいて大丈夫ですのよね?

 御用があれば、きっと話しかけてきますの。

 それがないのなら、きっと御用もないのと同じですの。


 だから私は、蜥蜴さんの存在は忘れてのんびりあに様たちをお待ちしますの。

 ちゃんとお行儀よく待ってますの。

 だから早くお迎えにきて下さいの…。

 あに様もリャン姉様もいない。でも一緒がいいですの。

 1人で待つのは、とっても寂しくて、退屈なんですもの。




ナシェレットはじりじりしつつも、無邪気なせっちゃんにがりがり気をそがれて何もできず。

段々迫り来るまぁちゃんの脅威に怯えている。

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