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4日目 逆さ大瀑布6 ~虹の逆鱗~



「できた…! ハテノ村秘伝、門外不出の実際に試したらヤバイ薬No.68!!」

「リアンカちゃん所の村、どんだけヤバイ薬のレシピ秘匿してんの?」

 …いっぱい、です。


 元々の準備があったので、薬は直ぐに完成しました。

 うん、3分くらいで。

 サルファが「早っ!?」って驚いていたけど些細な問題だよね?

 さてこの薬、どうやって勇者様にお届けしようかな。


 ………と、一瞬だけ思案したんだけど。

 ふと顔を上げてみると、何故か勇者様と龍が揃って硬直している。

 その顔は、視線はガッチリと私に固定されていて…

 …え。なんで?

 

 何故か私を凝視したまま固まる勇者様達に、私は本気で困惑した。

 私の隣で、サルファが首の後ろをガシガシ掻きながら、「あ~…」と何やら呻いてて。


「なに? なんで私、見られてるの?」

「リアンカちゃんさ、いまの自覚無かったの?」

「え、なんの?」


「…あのさ、薬が完成した瞬間、なんか爆発したじゃん?」

「あれは完成には必要な反応なんだけど。むしろ、爆発して完成よ?」

「かもだけど、でもさ?」


 互いに疑問符ばかりが続く中、理由を知ってそうなサルファは案の定、原因を知っていて。

 私が目立った理由を、サルファはこう言った。


「さすがに赤紫とレモンイエローの噴煙を撒き散らしながら爆発されたら、驚くんじゃね?」


「……………」

 あー…なるほど。

 私にとってはお馴染みの出来事過ぎたので、全然意識してませんでしたが。

 でも、確かに。

 妖しげな煙を噴き上げながらの小規模爆発…

 ………うん、確かに、気になるよね。


 でも、こうも思った。

「これって、チャンスってやつじゃない?」

 私の言葉に、サルファが乾いた笑みを浮かべている。

 この脳天気な男にもこんな顔ができるのかと、さり気なく酷い感想を抱きつつ。

 私はできたばかりのヤバイ薬を硝子瓶に詰めて、サルファに渡した。

「…? え、なに?」

 戸惑うサルファに、笑顔で一言。

「サルファ♪ 勇者様に、パス☆」

「え」

 さあ、行ってこい。


 サルファはとんでもなく悲愴な顔で、手元の薬と勇者様を何度も見比べます。

 どうやら踏ん切りが付かない様子。仕方のないヤツです。

「ちゃんとできたら、マルエル婆にお仕置きを免除して貰える様、取りなしてあげる」

「…!!」

 サルファの目が、劇的に輝きました。

 …どんだけ、サルファはマルエル婆を恐れているんでしょ。

 そんなに怖いなら、黙って脱走とか、悪いこととかしなけりゃ良いのに。


 一念発起、やる気を起こしたサルファでしたが、それでも彼の根性には限界がありました。

 きらっきらの目で改めて滝壺を見て、勇者様を見て、それから龍を見て…

 …視線が彷徨う事に、サルファの顔から生気が抜けていく。

「………うん、滝壺まで近づくなんて、無理」

「諦めるの早っ」

 いきなりサルファが宣言して、驚いて。

 それだけで終わりかと思いきや、そうでもなく。

 サルファは服から帯を抜き取ると、それで輪を作り、硝子瓶を引っかけて…

 勢いを付けて、ぐるんぐるんと回し始めた。

 あ、遠心力? それでどうするつもり………って、


「受け取れ☆勇者のにいさん!」


 ………投げたよ、この男。


 割れたらどうすんだ、と思う間もなく。

 見事な命中精度で、硝子瓶は軽々と勇者様の手元まで跳んでいく。

 反射行動かな? 咄嗟とも言える手つきで、勇者様が薬瓶をはっしと受け取った。

 予想以上にあっさりとお届けできてしまった薬。

 勇者様が見下ろし、覗き込んだ手の中。

 そこにある薬瓶には、私の字でこう書かれているはずです。


『※これは龍の鱗を溶かす薬です。塗って下さい』…と、簡潔すぎる一文が。


 何かを確認する様な眼差しを、勇者様が此方に向けてきます。

 何とはなしに不安そうなそれへ、私はぐっと親指を立てて返しましょう。

 効果の程は、保証しますよ?

 そう、それに、洒落にならないことも保証しちゃいましょう。

 笑顔で親指を立てる私に、勇者様は更に不安そうな…複雑そうな顔を向けてきました。


 …どういう意味?


 此方の不穏な空気を察してか、勇者様は慌てて龍に向き直ると、薬瓶をぎゅっと握ります。

 どうやら使う決心は付けてくれたみたい…かな?


 さて、勇者様はあの薬をどう使うかなー………と、静観していたら。

「!!?」

 って、ちょっとちょっと!

 私、説明足りてなかった…!?

 思いも寄らぬ展開になりかけて、私は盛大に慌ててしまった。


 だって勇者様が、鱗を溶かす薬を、剣の刃に塗布しようとしてる…!!


 私は叫んだ。

 もう、本当に思わず。

 考えるよりも先に、勇者様を止めなくちゃと言う感情だけだった。

「塗っちゃだめぇぇぇぇええっ 剣、溶けちゃうからあ!!」

 勇者様の身体が、びくっと竦んだ。


 実際に溶けるかどうか、本当はちょっと分からない。

 だってあの剣、魔王家に代々伝わる魔伝説の宝剣だし。

 でも、万が一ってあるよ。

 試してないから、あの剣がどうかは分からない。

 だけど、他の剣は。

 生物最高硬度の鱗を溶かす、あの薬。

 あの薬を塗布された刀剣類は、悉く塩をふったナメクジみたいに溶けちゃったんだから。

 そんなヤバイ薬を、まぁちゃんの剣に塗られて何かがあったら…。

 いよいよ本格的に、まぁちゃんに会わせる顔がない。

 そしてあの剣は、確実に弁償できない。


 私の説明不足故だけど。

 勇者様が薬を剣に塗布しようとしているのを見て、本気で心臓が止まるかと思った。


 だからすんでの所で勇者様を止められて、ホッとしていたけれど。

 私の叫びが、あんな事態を引き起こすなんて…まあ、正直思っていませんでした。


 何があったのかと言いますと。

 龍が、可哀想なことになりました。


 場面は丁度、勇者様が龍に向かって剣を振りかざしていたところ。

 つまりは龍の、真上。むしろ頭上。

 勇者様は完璧に大瀑布からの脱出法をマスターしたみたいで。

 龍に対して優位なポジションを奪う為、大瀑布を利用していた。

 一度滝の中に姿が隠れるから、龍は勇者様の姿を見失ってしまう。

 その隙をつき、意表を狙って。

 何度も龍の頭上へと跳躍している。

 勇者様は龍の裏を掻いた攻撃をする為にも、大瀑布を利用する。

 今回も、そんな跳躍の最中だった。


 そして私の焦り全開なストップ勧告に、身を竦ませた勇者様。


 その手に力が入らなかったのか、うっかり滑ったのか。

 それは、私には分からなかったけれど。

 私やサルファが見守る先で、勇者様の手からぽろりと抜け落ちていった。

 

 龍の鱗を溶かす薬(洒落にならない)が、硝子の瓶ごと。


 もう一度、ううん、何度でも言います。

 ええ、何度でも繰り返して言いますが。


 勇者様は、龍の頭上におりました。



 龍の顔面が、酷いことに。





「しゃぎゃああぁぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ」


 断末魔かと聞き間違う様な、龍の悲鳴が木霊しました。

 うん、ちょっと耳が痛い。

 でもそんなこと構ってられないくらい、私だって慌てたし、勇者様も慌てたよ。

 勇者様の手から落ちたヤバイ薬が、龍の顔面直撃。

 そのまま薬瓶大破。飛び散るヤバイ液体。

 吹き上がる謎の煙(黄色の斑ピンク)と目に痛い程の嫌なニオイ。

 そして、音を立ててナニかが溶ける。

 もしかして、このまま死ぬんじゃないかと心配になるくらい、苦しんでいる。

 まるで踊り狂うみたいに、龍がのたうち回った。

 

 だけどこの龍は、私達の本当の敵じゃないから。

 ただ足止めを命じられただけの、罪もない生物だから。

 決して、死んで欲しい訳じゃない。



「目ぇー!! 目、洗って早く! 目玉が溶けるよ!!?」

 焦って叫ぶ私の声は、辛うじて龍の耳に届いたのか。

 焦って、慌てて、無様に取り乱しながら。

 龍が目玉を洗う為、逆さ大瀑布に頭を突っ込んだ。

 普通の生き物なら、死んでるところ。

 でもこの滝の主たる虹龍は、決して大瀑布に害されることなどない。

 その安心からか、顔面を襲う激痛からか。

 ええ、不用心なことですが。

 油断したんでしょうかね。

 龍の背中が、隙だらけでした。

 

 そんな龍の背後に迫るは、気を取り直した勇者様……。




 こうしてこの日、勇者様…いえ、私達は、逆さ大瀑布の主「虹龍」を撃破しました。

 あ、命だけは取りませんでしたよ? 





6/28 誤字訂正

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― 新着の感想 ―
[良い点] >門外不出の実際に試したらヤバイ薬No.68 ナンバーデカすぎw 全部でいくつあるんだ? そしてまぁ君に使った眠り薬()はNo.いくつ? アレもシリーズ該当品ですよね?
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