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4日目 逆さ大瀑布5 ~リアンカのお仕事~

今まで全く出てこなかった、リアンカの職業に関係する話。





 勇者様は果敢に龍へと挑みかかります。

 剣の性能が劇的に向上したお陰か、もう鱗に弾かれることもありません。

 それでもやっぱり剣を使いこなせていないみたいで。

 まぁちゃんは無造作に扱ってたけど、やっぱり魔王の剣だしなあ…。

 勇者様といえど、いきなり使いこなすことは無理みたいでした。

 

 決定打になる様な攻撃はできてないみたいで。

 鱗に傷一つ付けられずにいた先刻までに比べればマシだけど。

 それでも傷が付けられる様になっても、粉砕したりすっぱり綺麗に切り裂くとか。

 そんな内側の軟らかい肉に致命傷を与えられる様な、そんな攻撃はできてない。

 いや、させてもらえないと言うべきでしょう。

 龍は、怒りに我を忘れても、やはり強い生き物なのです。

 自分が致命傷を食らわないよう、勇者様に1㎜も油断しません。

 最初に逆鱗にちょっかいを出してしまったこともあり、勇者様は苦戦中。 

 それでも理性を失った龍と対等な勝負ができる当たり、この勇者様は充分凄いんだけど。


 互いに攻めあぐね、時に防戦に徹し、時に攻勢に出ては防がれる。

 勇者様と龍の実力は、見事に拮抗していました。

 …あの龍に苦戦しているようじゃ、本番のナシェレット戦どうなるんだろー…?


 しばらく戦局は動きそうにないな、と。

 私はそう判断しまして。

 取り敢えず勇者様が決定打を打ち込める様に。

 その補助になる様なお手伝いをするつもりなので。

 私は意図的に勇者様から目を逸らして、自分の荷物を開きました。

 だって、注意を逸らしてないと、そっちに意識取られそうだもん。


 私の荷物を占領していた、半分の容量。

 そこから次々と出てくるのは、いざというときの為に用意していた『用心』。

 携帯用の小瓶に移して持ってきた、薬の数々。

 それから調合の道具、各種それぞれ。

 といっても、本格的な物は流石に気安く持ち運びできないのでないけど。

 でもまあ、これくらいの準備があれば今回はどうにかなりそう。

 元々の、準備していた薬をベースにすれば何とかなるでしょう。



 私は村で、一つお役目を貰っています。


 ええ、村ではある程度の年齢に達したら、働くのが普通ですから。

 例え成人していなくても、充分に必要な能力が備わっていたら働くもんです。

 偶に、能力があっても働かなかったりサボったり、別の天職を探す人もいるけど。

 私は私の興味が赴くまま、趣味の領域を拡張して仕事にしてしまいました。

 いや、だって、必要な知識の類は、たっぷり教えてくれる人がいたんだもん。


 魔王城に。


 魔王城に出入りしていたら、魔族の皆さんが面白がって色々仕込んでくれたし。

 私は、そのこともあって、気付いたら技術が身に付いていて。


 そうして、私のお仕事。

 村の薬師に代々引き継がれている薬草園の管理、及び調合。

 それを中心とした色々な雑事。

 それらを纏めてひっくるめ、私は年老いた『先代』から引き継ぎまして。

 私は2年前、ハテノ村の薬師になった。


 ちなみに果実酒の製造は、完全なる趣味ですが。

 元々は薬酒のついでに作ってた代物で。

 それなりに薬効の出る様に工夫を凝らしたつもりです。

 皆様に評判も良く、色んな人に愛飲してもらってる。

 お陰で人脈という名の私の切り札に、幅が広がったんで助かってる。


 でも今回、龍を相手にお酒じゃ解決しないでしょう。

 そんな龍を買収できるほどの量は、ちょっと持ってきてないし。

 婆や爺に渡した分で、殆ど使い切っちゃったし。

 だからまあ、お酒以外で私にできる解決法です。


 龍のあの鱗、溶かしちゃる…!


 私は何とも不穏なことを考えつつ、サルファの帰りを待ちました。

 この辺りには昔からあの龍が生息していた為、漏れ出た龍の魔力が影響を及ぼしています。

 端的に言うと、龍の魔力で育った貴重な薬草乱獲し放題。

 元々此処で一泊して採取するつもりだったし、充分な量が見つかるはず。

 サルファもマルエル婆に一通り教わってるみたいだし、直ぐに戻るでしょう。

 必要な薬草が届いたら、すぐにも作業に取りかかれる様に。

 私は喉の奥でくつくつと笑いながら、必要な薬瓶を選別していきました。


 そうこうしているうちに、サルファ帰還。

 何があったのかは聞かないけれど、全身疲労感にまみれている。

 更に言えばなんでか服の袖とか背中がボロボロに…。

 あれ、滲んでいるのは血ですか?

 紫の血って、何の血ですか?

 サルファの左手が、謎の鮮やかさにてらてら光る紫色の液体でぐっしょり濡れていた。


「……………」

「……………」

「……さて、準備準備ー」

「って、ちょっとは気にする素振りくらい見せてくれてもいーじゃん!」


 どんな苦労をしたのかは知らないけれど、拗ねるサルファ。

 ゆっくり話を聞く時間もないし、必要も感じないし。

 私はサルファを放置して、お薬の作成に取りかかる。

 そう、龍の硬い硬い鱗を、どろっと溶かしちゃうお薬の。


「……それ、劇薬?」

 ちょっと引き気味の顔で、サルファが身を引いた。

 顔が引きつってるけど、それよりもサルファは着替えた方が良いと思う。

 あとついでに、手を洗って清めてきた方が良いと思う。

 心なしか、紫の血液っぽいナニかが障気を出してるよーな…

「そーは言われてもさー…近い水場が、アレじゃん?」

 そう言って指差す先には、怪獣大戦争(前哨戦)。

 爛々と目を光らせた龍が、口から閃光を放てばひらりと避ける勇者様。

 勇者様が隙を狙って斬りかかれば、体当たりに切りかえて攻撃しようとする龍。

 一進一退の攻防戦は、見ているだけでがりがりと体力が削られそ…。

「あんなところにむざむざ近寄って、巻き添えとか…無理」

「………」

 何となく、サルファの主張に納得。

 仕方がないので、薬を作る前に簡単な処置をしてあげることにしました。

「えーと、浄化浄化。浄化作用のある薬と、あと消毒と…」

 一応、対処できるだけの備えは万全だし。

 サルファにお遣いを頼んだ手前、ギリも責任もあるし。

 ナニがあったのかは聞かないけど。

 怪我の手当と、謎の血にまみれた手の浄化くらいはしてあげるよ。


「それでその薬、ナーニ?」

「これは龍の鱗を溶かしちゃう薬」

「………やっぱ劇薬?」

「ううん、一応ちゃんとしたお薬。村の薬棚にもストックあるし」

「ちゃんとしたって、何の用途!? どこで使うっての?」

「偶に竜種の人が買いに来るよー」

「…竜種のひと、が? え? 自傷?」

「違うから」


 真竜の人達からもご愛顧頂いている、竜種の鱗を溶かす薬。

 なんの目的で、どんな需要があるのか?

 私だって最初は謎に思ってましたが。

 うん、竜種の人と親しくなって、理由を聞いたら納得した。


 竜種の人達は、まぁちゃんとは違うけど、ちょっと反則だって思うのは共通で。

 あんなに強靱なイキモノが数多く種族として闊歩している現実、怖いね。

 でも強い生き物は強い生き物で、苦労しているらしい。


 どんな苦労かというと、怪我の治療。

 本来治療なんて必要ないくらい、竜種の人は回復力が高い。

 鱗毟っても一日で生えるし、肉を裂いても半日もすれば跡形もない。


 それでなんで治療が必要かって言うと、魔境には特殊な生き物も多いから。

 魔族ほど強力じゃなくても、状態異常を付与する生き物は結構多い。

 それ以外にも、まあ、治療を必要とする特殊攻撃ってのがイロイロあって。


 でも竜種は快復力が…特に、鱗の再生が馬鹿みたいに迅速で。

 専用の治療を施す前に、患部が鱗で覆われちゃうんだよ。

 そうなったら、治療を施しても鱗が弾いちゃうから、手の施しようもない。悪化しまくり。

 だからといって力業で鱗を取っ払っても、傷は広がるし、患者の体力削られるし。

 何より、強引に鱗を取り払うと患部の悪化が凄まじい。


 だから穏便に鱗を取り除き、治療を施す為に開発されたのが『鱗を溶かす薬』

 地上生物最高の硬度を持つ鱗を溶かすのは、一筋縄じゃない。

 だからこそ、専用の薬が必要。

 それも鱗を、鱗だけを悪影響を及ぼさず溶かす薬が。


 他にも色々と試みたことはあるそうだけど。

 一番平和で安全なのが、薬で解かす方法に落ち着いたらしく。

 溶かされた鱗も、患者本人の快復力によって一日もすれば元通り!

 …そしてまた、怪我の継続的な治療の為に溶かされる鱗。

 うん、竜の谷でも、一番消費率の多い薬箱の薬は『鱗を溶かす薬』だそーだよ。


 最初に鱗を溶かす薬を作ったのは、ハテノ村の薬師の方で。

 以来、何百年と経っても需要があるので、ハテノ村定番の名物商品となりまして。

 連綿と代々の薬師に受け継がれながら、切磋琢磨で改良されていき、今に至ります。


 歴代の薬師や、協力者の魔族が悪乗りした結果、凄いことに。

 普通に竜種の方に売り渡す『鱗溶薬(ノーマル)』も効き目バッチリなんだけどね?

 悪乗り先達のお陰で、調合レシピは幾通りにもパターンがありまして。

 洒落で済ませちゃいけないような、実際に使ったら問題のある様な。

 レシピの中にはそんな、日の目を見せちゃいけない酷い薬もありまして。

 

 悪意にまみれたそれを。

 今回は日の目見せてやっちゃおーかなと。


 絶対に作っちゃいけないと、善良な先代に念押しされた時のことを思い出しました。

 自然と頬を緩め、口端が吊り上がって…

 私の顔が、自分でも意識しないままに笑顔になりました。

 全開です。ええ、もう全開。

 

 何故かサルファが、ビクッと肩を揺らして私から目を逸らしました。


 禁じられたことほど、人ってやってみたくなるものだよね?

 私は今まで自重していたそれらの一端を解き放ってやりましょうと。

 都合の良い代議名文もあることだし。

 含み笑いを漏らしつつ。

 私の目には剣呑な光が宿っていたと、後にサルファが言いましたが。

 そんなこと、知ったことじゃありません。知る由もありません。


 私は緊迫する勇者様と龍の戦いの場を前に一人。

 ええ、一人だけ。

 一人だけ嬉々として、薬の調合に取りかかるのでした。





ちなみに薬草園の世話など、日々の細かい作業はリアンカが不在の間、引退したはずの先代が肩代わりしています。

他にも将来を見越して薬師志望の子供が手伝っている設定です。

手堅い職業なので、孤児院の子供とかが率先して手伝っています。

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