出発進行! ちょっと変わった名(難)所めぐり
これは「ここは人類最前線」3作目になります。
ちょっと分かり難い! 意味不明! という方には前作、前々作を参照することをお勧めします。
それでも分からない! という方は、ごめんなさい。
前回のあらすじ
魔王の正体を知って、天の岩戸よろしく引きこもっちゃった勇者様。
他に話題もない平和で呑気な村の中、村民会議で叫ばれました。
引き籠もりの怠惰は許すまじ、誰か立ち直らせて引っ張り出せよ。…と。
その役目を押しつけられたのは、勇者が宿泊している村長宅のリアンカ嬢。
リアンカは方法に悩んで魔王城のまぁちゃん達に相談に行きます。
しかし話は脱線しまくりで全然進みません。
そうこうしているうちに、勇者様は自分でお籠もり解除していましたが…
…というところで、今回のおはなしはじまるよ☆
☆勇者様が村に来てから、27日目☆
もう立ち直ったのか、誰もが気になる勇者様。
ご本人曰く、引き籠もっていたのは他意はないとか。
凄く落ち込んでいたわけでも、悲しかったわけでも、人が信じられなくなったわけでもないと。
一気に許容量オーバーする量の真実を伝えられ、情報量過多で混乱していたのだと。
情報を整理する為、静かな環境で一人考えたかっただけだというのです。
本人談ですが。
ですがその主張を聞いた皆で、微妙な顔をしてしまいます。
いや、それ嘘でしょ。
それだけじゃないでしょ?
だって勇者様、明らかに精彩を欠いた顔ですよ。
ここ数日、日光を浴びてないせいだと仰いますが。
どう見てもそれだけじゃありません。
内心の憂いが如実に表れた、影のある顔つきに自分で気づいていないんでしょーか。
うん。だけど凄いよ勇者様。
流石、王子の肩書き。
普通の顔立ちだったら、暗くなりがちでやつれて見えるところですが。
これが世にも稀な美青年その2の顔だから、凄いことに。
暗い顔→儚げな顔、と脳内で文章表現が変換されてしまいますよ。勝手に。
頭の腐ったお姉様方が、眼福眼福と涎を垂らしておいでです。
…餌食にされない様に、隔離した方が良くないかな。
勇者様が故郷で女性不信になっていった過程の一端が、見えた気がしました。
「そんなわけで」
「いや、だからどんな訳だよ」
「リャン姉様、今度は前振り皆無なの」
此処は魔王城。
沢山相談に乗ってくれた優しい従兄達が、呆れた眼で私を見ます。
そんな目で見られると、照れちゃうよ。
「今日は新しい相談を持ってきました」
「そんなお土産持ってきました、的なノリで言われても」
「お土産もあるよ」
新作の果実酒を献上したら、まぁちゃんの顔が一気に綻びました。
おお、凄い。流石は世にも稀な美青年その1。
見慣れた私でも眩しく感じるくらい、キラキラしています。
そのキラキラは全て、お酒の為のものですが。
「よーし、なんでも相談に乗ってやろう」
「まぁちゃんって、たまにとっても簡単だよね」
「お前の酒が絶品なのが悪いんだ…!」
「リャン姉様のお酒、あに様いつも美味しそうに呑んでるの」
「物欲しそうにしても駄目だぞ、せっちゃん。お酒は成人してからだ!」
そう言いながら、まぁちゃんは私が渡した酒瓶を強く抱きしめています。
酒瓶抱きしめるとか、駄目な大人の姿ですね。
それでも全然見苦しくないのは、やはり外見が良い故でしょう。
顔が良いって本当に得だね、まぁちゃん。
「勇者様がね」
「あ? また勇者か。引き籠もり止めたんじゃなかったか?」
「うん。確かに外に出てくる様にはなったんだけど、どうにもまだ元気がなくって」
「四割方、お前のせいだけどな」
「六割はまぁちゃんだね」
「否定はしない」
むしろ八割くらいはまぁちゃんのせいだと思ってますよー。
私がやったのは、勇者様の気付いていなかった諸々を暴露したことくらいだし。
「それで元気づける必要があるかなーって。私も責任感じちゃって」
「別にリアンカが責任に感じることもないだろーに。それで?」
「励ましもかねて、気分転換に観光案内でもしようかと」
「観光案内ぃ? それって、お前考案のあの斜めにずれた名所巡りか?」
「意外に人気あるんだよ?」
「魔族からな」
「だって観光目的で来る人間の人って少ないし」
「さすが人類最前線…人間で来訪するのは荒事目的の無頼者だけとか、殺伐としてんな」
数年前、面白半分で考案した観光案内マップ。
思ったよりも楽しい出来になったので、広場の掲示板に貼りだしてみました。
そうしたら意外に好感触で、一杯反応が返ってきました。主に魔族から。
中には「洒落にならねぇよ!?」という言葉も混じってましたけどね。
「勇者様の一番の望みはまぁちゃん打倒かもしれないけど、何をするにもまずは強さが欲しいでしょうし。強くなりたいって望みは本当かなって思うから」
「おーい、その言葉に何だか不穏なものを感じるのはどうしてだ?」
「観光案内から強さに繋がる話の脈絡無さが不思議なの、リャン姉様」
「ここから繋げるからね、せっちゃん。そう、勇者様は強くなりたい。だったら強くなる為の手助けが一番喜ぶかな、という訳で、修行場巡りも兼ねた観光案内を企画してみました」
「うわー…物騒な道行きの予感しかしねぇ」
「観光なの? 修行なの?」
「両方なのよ」
そんな訳で、今度こそ本題です。
私が相談に来たってこと、この二人は覚えているかな。
「だから、相談なんだけど」
「穏便な内容とはとても思えない前振りを有難う」
「リャン姉様、あに様とせっちゃんに何でも言って?」
頭を抱えるまぁちゃんの隣で、せっちゃんがこてんと首を傾げて…!
あんまり可愛いから、ぎゅむっと抱きしめてみた。
「せっちゃんかわいい!」
「リャン姉様大好きー」
「おーい、そこ。仲良しなのは良いことだけど、話進めろ?」
「うん。観光案内する前に、良い場所知らないかアドバイス欲しくて。私も近隣一帯は裏の穴場まで網羅してるけど、修行とかしたことないし、場所の善し悪しの判断が難しくって」
「その割には、えげつない難所ばかりピックアップしてるよな」
予め用意しておいた、今回の企画書付属の地図。
それを見て、まぁちゃんが顔を引きつらせています。
そんなに酷い場所ばかり選んだつもりはないんですけどー…
「…って、リアンカ!」
あれ? まぁちゃんがいきなり怒り始めたよ。
「お前、なんで竜の谷がピックアップされてんだよ! もう行くなって前に言ったのに、まぁだ出入りしてんのか!? あとこの企画書、見間違いじゃないなら日数またいでないか!? 何日計画なのか、素直に言ってみろ!」
あ。しまった。
企画書、正直に書きすぎた…。
ここは笑って誤魔化そう!
そして拙いことは口を噤んで話すまい!
「ほーんの一週間計画、だよ☆」
敢えて戯けてそう言った、瞬間。
まぁちゃんの顔が、気迫溢れる空々しい笑顔になりました。
一瞬だけ、ざわりと髪が逆立ったのは、私の目の錯覚だよね?
凄まじい殺気が迸っているのは、きっと凄くお腹が空いてるとか、そんな理由だよね?
…違いますよね。わかってます。分からないふりをしているだけです。
怖いです。
冗談抜きに本気で、半端なく怖いです。
誰かの怒りを向けられて、こんなに怖いのは久しぶりです。
十二年前に魔王城の玉座を悪戯で吹っ飛ばした時以来の、身に迫る危険感じる怒り。
アレに良く似ています。
あの時、怒ったのは先代魔王様でしたけど…流石、親子。
まぁちゃんのマジ怒りは、しっかりと親御さんから畏怖を受け継いでいました。
うん。身に染みて実感したくなかった事実です。
「リアンカ…? ふしだらって言葉知ってるかー? 年頃の若い娘さんが、同じく若くて見境無い年頃の野郎と二人きり、何日何処行って何するって?」
「え、笑顔で怒られると本気で怖い…!」
まぁちゃんの顔が、なまじ絶世に整ってる分、言い知れぬ迫力が。
美人が怒ると、とんでもなく怖いよ。
さて、ここからどうやって誤魔化そうかな…。
私は必死にまぁちゃんの怒りを逸らす方法を考えつつ、時間稼ぎに努めました。
未だかつて無いくらい、必死に時間を稼ぎに稼ぎました。
何故かって?
私の予想が正しければ、そろそろ「時間」だから。
ああ、ほら。そうこうしている間にも。
タイムリミットを知らせる、馴染み深い足音が聞こえてきたよ…!
そう、それは荒々しい感情を表す様に、足音高く踏みならす。
「陛下っ!!」
りっちゃんの足音です。
まぁちゃんに仕事サボられて激怒しているりっちゃんは、今日も凄まじい。
主君の私室だというのに、ノックも無しにドアを開け放ちました。
「うっ リーヴィル!?」
「陛下!! 今日の仕事は重要な案件が山積みだと言っておいたでしょう!」
「待て、リーヴィル! 今それどころじゃな…」
「それどころ!? それどころって、どういう事ですか!」
「別に良いだろ!?」
「良くありません! 署名捺印だけの簡単な仕事ですら、こんなに後回しにするなんて!」
「署名捺印だけの仕事なら、後回しにしたって問題ないだろ!」
「あるに決まってるでしょうが! 目を通して頂きたい書類が山になって待ってますよ!」
「俺は待ってない!」
「往生際が悪いですね! いい加減に観念して下さい!!」
ぐいぐい、ずいずい。
りっちゃんはまぁちゃんのマジ怒りにも気付かず、一直線にまぁちゃんしか見えていません。
まぁちゃんもまぁちゃんで、突如乱入してきたりっちゃんに毒気を抜かれたんでしょう。
きょとんとした顔から焦った顔へと変わりますが、怒りは顔色から窺えません。
きっとりっちゃんの勢いを見て、それどころでなくなったんでしょう。
心なしか、顔から血の気が引いています。
お陰でりっちゃんも、まぁちゃんのマジ怒りや事情には一切気付きません。正に好都合。
容赦なく詰め寄って、主君(笑)の襟を締め上げる姿はとっても素敵です。
お陰様で、怒りの標的から解放されましたよ。本気で助かりました。
りっちゃんというこれ以上はない足止めを前に、私の笑顔もきっと輝いているでしょう。
後々、顔を合わせた時に面倒になりそうな気はしましたが…
ひとまず、この場で揉め事をしているのも大変ですから。
私は「お仕事頑張ってね♪」という伝言をせっちゃんに託し、一路お家に帰りました。
時とおところ変わって、次の日。
せっちゃん情報によると、まぁちゃんは仕事の溜めすぎで本日一日缶詰だそうです。
これはもう、この隙に実行しろと言う神の啓示に違いありませんよね?
と言うわけで、本日。
真に急ではありますが、勇者様への観光案内を実行することにしました。
「と言うわけで!」
「どんな訳なのか、説明されてないんだけど」
「細かいことは気にせずに!」
「細かいのか!?」
戸惑う勇者様を引き摺って、村のお外へGO!
勇者様も村に来て以来、修行三昧で特に遊興などしていませんでしたし。
ここは私お勧めの名(難)所巡りと行かせて頂きましょう!
「…って、この人誰かな」
「ん? 勇者様、知らない?」
「会ったことのない人だから聞いているとは思わないのか?」
そう言って勇者様の指差す先には、黙々と地図の確認をしている長身のお兄さん。
強面と言うには優しげで、優しいと言うには瞳の鋭すぎる、名状しがたい顔つきの男性。
堅気にも玄人にも見えないという、微妙すぎる彼の名はアーシュスさん。
我等がハテノ村自警団の副団長を務める御方です。
ちなみに自警団の構成員は独身の若い男性が主です。10代~精々30代が殆どです。
主な仕事は害(魔)獣退治に加え、村中の困った人のご用聞きという、超肉体労働ですから。
やっぱり若い労働力の方が、みんなこき使いやすいですからね。
若い男衆は連帯感はあるんですが、油断していると変な方向に走るヤツも多く。
副団長の彼は中々に苦労して纏めているんでしょう。
瞳に宿る渋い哀愁が、更に彼のどっちつかず感を高めています。
「今回は修行場巡りがメインだから。村で一番修行に詳しい人に来て貰いました」
「リアンカも近隣のことはよく知っているが、修行関係のことは自分の方がよく知っているだろうということで、今回の同行を任された。村長にも頼まれたしな」
「村長から、か。やはり、俺が籠もっていたせいで無用の心配を…」
自分が沢山、村人達に心配を掛けていたと知って、勇者様は気に病んでいました。
今も父の名が出て、勇者様は申し訳なさそうな顔をするのですが…
今回の副団長の同行、私の方が心配されてのことなんですけどねー。
「心配は心配でも、勇者殿の思っている方向とは違う」
「え?」
「リアンカは年頃の娘だからな。幾ら相手が「勇者」でも、若い男と二人きりで旅行など以ての外。まかり成らんとの仰せだ。つまり、自分はお目付役的な意味で同行を頼まれた訳だが」
「心配って、そっちの心配なのか!」
「そう、貞操的な方向で」
「俺、信用されてない!?」
「若い娘を持つ父親なんて、誰だってそんなもんだ」
「勇者様も、「私と観光」をマズイと思わなかった時点で相当ですよ。私、まず勇者様に反対されると思ってましたし。やっぱり感覚がちょっと普通の人とずれてませんか?」
「誘っておきながら散々な言い様だな…。でも、確かに言われてみれば…」
あ。勇者様が更に落ち込んだ。
混乱の極致から引き籠もり、社会復帰もまだ始めたばかり。
王族という特殊な身分に生まれついたせいもあってか、それともまだ余裕がないのか。
勇者様の頭は未だ、若干混乱気味みたいです。
多分、今ならチョロく騙せます。
今回も結構強引に問答無用で連れ出したら、簡単に流されましたから。
精神的に弱っている為か、勇者様の心の壁は、色々脆くなっているみたいでした。
………村の肉食系のお姉様達からは、やっぱり隔離しておいた方が正解ですね。
勇者様と純情な村の若い子達の、精神衛生上の為にも…!
そうして今日から一週間。
急ではありますが私と、勇者様と、副団長さんの三人で観光案内に行くことになりました。
…と、言いつつも。
私も副団長さんも、内心では分かってたんですけどね。
この道行きが、直ぐに三人じゃなくなるだろうって!
案の定。
私と勇者様が村を出たと聞いて、怒り心頭に発した鬼面のまぁちゃん。
彼が感情の赴くまま魔王城を飛び出し、私達に合流したのは、この翌朝のことでした。
「…って、二人きりじゃないのかよ!」
「別に二人きりとは言ったつもりもないよ?」
「リアンカ、お前、最初からそのつもりで…!?」
まんまと同行してくれることとなったまぁちゃん。
何でも、いま魔王城に帰ると、とっても怖いことになるそうです。
りっちゃんが。
仕事を放棄して飛び出した魔王様は、ほとぼりが冷めるまで帰りたくないとの仰せです。
それって、帰った時にもっと怖いことになるんじゃないかな?
山積みの仕事とか、りっちゃんの笑顔とかが。
それでも、分かっていてまぁちゃんは言うのです。
「心の準備と諸々の覚悟と返り討ちの支度ができるまで、帰りたくない…!」
返り討ちって、りっちゃんを討ち取るつもりですか。
偶にまぁちゃんは後先考えなさすぎて、面白い事態を引き起こします。
主に、私やせっちゃんが絡んだ時限定で。
分かっていてやらかしちゃう私は、りっちゃんに謝った方が良いでしょうか。
…今度、何か菓子折もってりっちゃんを労おうと思います。
りっちゃん、甘いの苦手だって知ってるけど。
「…と、まあ。そんな訳で俺も同行する。考えたくないことは、全部後回しだ!!」
「まぁちゃん、後回しにしても辛くなるだけだよ」
「更に言えばリアンカを男と旅行にやるとか。俺を心労で苦しめる気か」
「まぁちゃんってば、そんな繊細でもない癖にー」
「妹同然に可愛い従妹だからな。…お前が、心配なんだよ」
「まぁちゃん…すごい、真顔だね。真顔で言ったね」
「心労募らせるくらいなら、絶対についていくからな」
そう言って、断固付いていくと宣言するまぁちゃん。
その姿は、私と副団長の予想していた通りのものでした。
互いに言葉にして予想を立てたわけでは無かったけれど。
まぁちゃんの一連の行動が読み通りだったので、既に爆笑ものの勢いです。
私と副団長さんは腹を抱えて笑いたいのに、茶化すこともできず。
真剣な空気を壊すまいと空気を読み、笑いの発作に苦しむことになりました。
さあ、訂正です。
そんなこんなの成り行きで、予定人数に変更が発生しました。
三人で始まった道行きですけど、一人増えましたから。
村娘の私と、魔王様と、勇者様と、村の自警団副団長。
字面で見ると、中々にシュール。
パッと見、絶世の美青年×2と堅気っぽくないのに玄人にも見えないお兄さんと、村娘。
一見したところ何の一行か分からない、微妙な取り合わせ。
そんな四人で、人外魔境の観光(修行)旅行へ繰り出すこととなりました。
うん。私には、中々に素敵な笑いの予感しかしない。
がんばれ、勇者様!
今回はちょっとお話が長めになるので、回数を分けて区切ります。
まだ全部書き切れていないので四苦八苦。
なるべく早くを心がけますが、気長に待って下さい。