お互いの不安
次の日私は部屋にあるWIIで遊んだ。
「はあ~・・・一人ってつまんない・・・・・」
思わずため息が漏れた。
ああ・・・・・。でも人質がWIIできるなんて聞いた事無いよ、うん。
つまり私は人質としてはけっこう優遇されてるほうなんだよね・・・・・?
「はあ・・・・・カラオケでもすっか・・・・・」
そう言って私はパネルの『カラオケ』モードにタッチして、曲を選ぼうと思ったとき、
画面に勝弘の顔がアップされた。
「あ・・・・・勝弘?どうしたの?」
「ちょっと大事な話があって、千夏の部屋に行きたいんです。今駄目ですか?」
「えっ、うん・・・・・別にいいけど」
「では、今行きます」
そう言って、モニターはカラオケの選曲画面に戻った。
私はモニターを消し、勝弘が来るのを待った。
何分か経った。
ピーンポーン。鳴って私はドアを開けた。
外には勝弘が立っていた。しかも私服だ。今までは白衣姿しか見た事が無かったので、
ちょっとドキドキした。
「話って・・・・・?」
私が聞くと勝弘は妖しい笑いを浮かべて私の体をドアの側面の壁に押しつけた。
「・・・・・!!」
「千夏、話を聞いてくれる?」
勝弘は笑ったまま自分の顔を千夏の顔に近づけた。
「僕さ・・・・・千夏のことが好きなんだけど」
あまりにも突飛な話に思わず
「へっ?!」
といってしまった。おかしいなぁ、広人に言われたときは驚きなんかしなかったのに。
そう思うと涙が出てきた。
「最初に会ったとき広人さんは千夏とは何の関係もないと言いました。
僕はあのとき、何かを覚えた・・・・・。よろしくという気持ちと後何か。
初めはわからなかった。でもだんだんはっきりしてきたんだ。
その気持ちがなんなのか」
「・・・・・・・?」
内心分かっていたような気がした。
勝弘の続きの言葉が何なのか。でも口に出して欲しくない。
そうでしょ?それが・・・・・『あの』気持ちなんて。
「『恋』だった・・・・・」
言わないで。その先を。
「千夏が好きなんだ・・・・・」
震える声でそうつぶやいた。
「千夏に会う度、笑顔を見るたび、思いが止まらなくなる。いけないことは分かっていた。
なぜか・・・・・そんな気が。千夏にはもう好きな人がいるって」
勝弘も勝弘なりで辛い思いを抱えていた。
「それでも想えば想うほど溢れてくるんだ。千夏への気持ちが。
だからいっそのこと奪ってしまおうかって思った。だから来たんだ」
まさか、まさか勝弘が私のことを好きだったなんて。
でも断らなくてはいけない。想ってくれてるからこそ、きっぱりと。
「でも『ごめん』とかは言うなよ?」
いつの間にか勝弘の口調が敬語でなくなっていた。
「僕が断られるのは知っている。だからせめて少しだけ・・・・・」
そう言って勝弘は私の唇に勝弘の唇を押し付けた。
「・・・・・っ!!」
勝弘を放したかったが離せない。力が強すぎる。
こんなに勝弘の力は強かったのだろうか。
ドアが開けっ放しだ。このままだと広人に見られてしまうかもしれない。
それだけは避けたかった。
しかし、それが現実になってしまった。
ドアに目をやった私は凍りついた。
広人が立って私達のことを憮然と見ていた。
勝弘は目を閉じていて気づいていない。
私だけが知ってしまった。
しかし広人は口を開き何かを言った。
『最悪』
そう言っているのが分かった。
その瞬間心が崩壊していく気がした。ガラガラと音を立てて崩れ去っていく音。
好きな人に最悪と言われるのはこの上なく自分が恥ずかしく思えた。
今までも気まずかったのに、このままでは広人に嫌われてしまった。
もう、嫌だ。
そう思ったら広人は私を一瞥し、去っていった。
広人に酷いことをしてしまった。どうすれば・・・・・?
☆―☆―☆
今まで千夏とずっと気まずかった。
俺が千夏と付き合っていることを強く否定してしまったから。
それは申し分けなく思っている。でも謝ろうとしても、気まずくてできない・・・・・。
な関係なのだ。
でも今日の俺は違う。ちゃんと謝る気でいる。
千夏は獅子座の部屋にいるらしい。
自分の部屋を出て、よし、と頷く。大丈夫だ、と説得もする。
パタ、パタ、パタ。と廊下を歩く。
緊張する。心臓が持たないかもな・・・・・。
獅子座の辺りまで来た。
すると話声が聞こえた。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・」
内容は聞こえなかったが、それが千夏と勝弘の声だとすぐ分かった。
すると話し声が止み、静かになった。
それが気になり、千夏の部屋を覗いてみた。
見たのはありえないものだった。
勝弘と千夏がキスをしていたのだ。
千夏がこっちに気づき、瞳の色が不安に揺れた。
裏切ったのか・・・・・?
俺が好きだといっておいて、実は勝弘のことが好きだったのか?
どうしてなんだ?
口が勝手に動き、『最悪』と言っていた。
千夏の目が見開いた。
聞こえてしまったか?でもそんなことどうでもいい。
こいつは裏切った。それでいい。
俺は足音荒くその場を立ち去った・・・・・。
はい、どーもです。区切りが非常に悪うございますが、どうかお許しを。