広人の本当の過去
「それでは部屋に案内します。千夏さん、こちらへ。」
「あ・・・分かりました」
「そんな、敬語でなくてもいいですよ。なんか千夏さんらしくありません」
「それを言うなら勝弘もでしょ!」
心の中に焦りはあったが、今はついて行くしかないので、勝弘のあとに続く。
ふと後ろを振り返ると広人が苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「ここにはこの大広間のほかに12の部屋があって、一部屋ずつ星座が書いてあるんです。」
「へえ、そうなの・・・。すごい部屋なんだね」
「我ながら素晴らしいと思いますよ」
「そうね・・・・・」
「そうだ、千夏さんは星座なんですか?」
「私は獅子座なの。誕生日が8月14日で」
「それでは獅子座の部屋にご案内します」
なんか高級ホテルにいるみたい。プラネタリウム風の。
「ここ、星が映えて綺麗ね。昼間でも真っ暗なの?」
「はい。ここは。」
「ふ~ん・・・。でもこんな凄いものどうやって造ったの?」
「僕は子供のころから星のことを調べるのが好きで。お父さんは超大金持ち。だから頼んだんです。
『誰にも邪魔されることない星が勉強できる場所が欲しい』って。お父さんは心良く受け入れてくれた
・・・・・」
さらに勝弘は続けた。
「だからこの場所を造ってもらった・・・・・」
「広人とはどうやって出会ったの?」
「僕が外に出ようと思ってドアを開けたら広人さんがいたんです。世間では指名手配犯とされていた
らしいですけど、僕は知りませんでした。何せ、隠れ家にずっと住んでいた身ですからね」
「悪い。ちょっと中に入れてくれないか」
そう言った広人は無理やり勝弘を押し切って中に入った。
「ちょっ・・・!何するんですか!!」
「何もしねえよ、後で警察が来ると思う。なんとか言い訳しといてくれ」
そう言って近くにある毛布を被ってしまった。
ジリリリリリリ。ベルが鳴る。
「はい」
目の前には警察と思われる男が二人いた。
「警察の者ですが、ここに河本広人は来ていないでしょうか?」
「ええ、来ていませんけど」
半分本当、半分嘘だった。もしかしたらさっきのやつが河本広人なんじゃないか、と思っていたから。
「そうですか・・・。失礼いたしました」
そう言って警察は去っていった。
「追い払っておきましたけど?」
「ああ、助かった。サンキューな」
「あなた、誰なんです?」
すると河本広人は被っていた毛布を脱いで、こう言った。
「警察も言ってただろ。俺は河本広人で、全国指名手配犯」
「ええっ!なんでウチに入ってきたんですか!!」
「ん~、お前ってなんか世間と関わってなさそうだったからさ。期待して」
「なんなんですか、その理由!!!」
「そういえば、シャワー浴びさせてくれねーか?」
話がかみ合っていないと判断した勝弘はこう言った。
「分かりましたからシャワー浴びてきてください。案内しますから」
「ああ、助かる」
鼻歌を歌いながらシャワーを浴びている広人をあとにして勝弘は考えた。
指名されているということは人を殺している人物なのだろう。こんなことをしていていいのか?
自分も命の危険がある。そう判断した勝弘は料理用包丁を持ってきて大広間で待っていた。
少しすると広人が大広間に姿を現した。
「ただいま・・・うぉっ!」
いきなり包丁を突き出された広人はあわてている。
「ちょっと待ってくれ!誤解すんじゃねー!俺は犯人じゃない!」
「お前が犯人じゃなかったら、誰なんですか!」
「まず、話を聞け!」
広人は包丁を掴んでいる勝弘の手を捕まえ、捻り上げた。
包丁が床にカランと音を立てて落ちた。
「俺は犯人じゃない。・・・兄がやったんだ」
「そんな言い訳・・・」
「これが証拠だ」
そう言い広人が出したものは写真だった。
「これは家族だ。それでこれが兄貴」
「・・・・・・・」
「まだ信じられないってカオしてるな。でも本当なんだ。信じてくれ」
「分かりました。信じます。それで?」
勝弘が話を促した。
「兄貴が家族を殺したんだ」
「どうして?」
「俺の両親達はお互い浮気をしていた・・・・。お互い気づいていなかったんだが、兄貴はそれが
嫌でたまらなかったみたいだ。その気持ちは俺にも分かる。そうだろ?」
「・・・・・そうですね」
「ある日兄貴が壊れて包丁を振り回した。そしてそれは俺の両親達を殺したんだ。
そして家に火をつけた・・・・・」
兄貴は逃げ、俺も脱出した。
「兄貴は最後、俺に言った。『殺してすまなかった。でもあの空気は耐えられなかったんだ。
・・・・・許してくれ』そういい残して去っていった・・・・・」
「・・・・・兄が弟に責任をなすりつけたんですか」
勝弘が蔑んだ表情で言った。
「ご名答。そうだ、兄貴は俺に犯人という重い責任を押し付けた。TVでも兄貴が言っていた。
『やったのは、私の弟なんです・・・・・』ってな。自分だろっての」
「あの・・・河本さんは・・・」
「広人でいいよ」
「広人さんはいいんですか・・・・?その、押し付けられて」
その途端、広人が壁に拳を思いっきり叩きつけた。
「嫌だ!嫌に決まってるだろ!勝手に犯人だと決め付けられてな!悔しいに決まってるさ!」
それだけいい終えると広人はハアハアと息を荒げた。
「・・・・・」
何かできる事はないかと思った。勝手に運命を決められてるなんてそんなの酷すぎる。
人はみんな自由なんだ。その特権を奪っては何も無い。
「あの、僕にできる事はなにかないんですか・・・?」
広人の気分を損ねないよう慎重に言ってみた。もちろん本心だ。
「・・・・・お前に?」
広人は掠れた声で言った。
「はい。僕にです」
「・・・・・ここを俺の隠れ家として提供してほしい。どうだろう?」
それならおやすい御用だ。今まで隠れ家として利用してきたんだ。人のために使えるなど、
ずっとないと思っていた。
「もちろんですとも!どうぞ。部屋をご案内します」
「そうして僕と広人さんの同居みたいなものは始まったんです」
・・・・驚いた。事件の犯人が広人でなかったことにだ。
「事件の犯人は広人だって自身が言っていたけれど・・・・・?」
「千夏さんには話してなかったんですか。あまり千夏さんを心配させたくなかったんだと思いますよ。
きっと」
「いいえ、違うわ。広人と私は『犯人と人質』なのよ。簡単に信用なんてしてくれない。
だからよ」
思うより先に口に出ていた。広人の言葉が頭をよぎったからである。
どうしてもその言葉が頭に引っかかっている。
「・・・・・・そうですかね」
そう言って、勝弘はある部屋の一室で足を止めた。
「ここです。獅子座の部屋。ちなみに僕はいつでも大広間にいて星の研究をしてます。
なにかあったら部屋の中にある無線モニターで連絡してください。それでは」
そう言って勝弘がくるりと背を向ける。
私は思わず口に出してしまった。
「広人の部屋は?」
「水瓶座の部屋です。案内は部屋の中においてある無線モニターの『地図』というところをタッチ
すれば出てきますよ。一度探険してみてくださいね」
そう言って勝弘は歩いていつしか闇に飲まれて見えなくなってしまった。
部屋に入る。
「わあ・・・・・・すんごい綺麗・・・・・!!!」
天井には大きな獅子座が描かれていた。
明かりも調節されていて、家具も白を基調にさせている。
棚の上にタッチパネルみたいなものがあった。
「ははあ、これが『無線モニター』ってやつね」
カラオケでよくみるようなタッチパネル。
タッチしてみると画面が現れた。
『地図』、『連絡』などなどいろんな操作がある。中には『カラオケ』なんてのもある。
・・・・・楽しそう。
それにしても不安感がぬぐえない。
広人はここに来たらキスをしてくれるといっていたが、今のままでは追いつかないだろう。
寂しい気がした。いつも隣にいた広人が今日はいない―――――――――。
ねえ、貴方は私のこと、好きですか?
どうでしたか?ちょっと長めです。






